【8/10更新】音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック「配信スタート! Hyperion Recordsを聴く」

2023/08/10

e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。

"だけじゃない" クラシック 8月のテーマ


配信スタート! Hyperion Recordsを聴く



7月末、クラシック音楽ファンの間で話題となっていたのが、Hyperion Records(ハイペリオン・レコーズ)のストリーミング配信開始のニュース。1980年に設立されたイギリスのインディペンデント・レーベルだが、今年3月からユニバーサル ミュージック グループの傘下に入ったことで、ストリーミング解禁となったようだ。それと同じタイミングで、e-onkyo musicでも100点を超えるアルバムが配信開始された。今回はその中から、ハイペリオンらしい名盤をご紹介していきたい。



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『ラヴ・ソングズ』
アンジェラ・ヒューイット(p)

ハイペリオンには、ずっとこのレーベルに録音し続けているベテラン・アーティストが多い。ピアニストのアンジェラ・ヒューイットもそのひとり。幅広いレパートリーのなかでも、とりわけバッハの録音が高く評価されているが、本作は初となるコンセプト・アルバム。シューマン、シューベルト、R.シュトラウス、フォーレ、ガーシュウィンなどさまざまな作曲家が書いたラヴ・ソングのピアノ・トランスクリプション集で、マーラーの《アダージェット》(交響曲第5番より)と、シュテルツェルのアリア《あなたが私とともにいるのなら》(歌劇『ディオメデス』より)は、ヒューイット自身の編曲による。長らくこの企画を構想していたものの多忙で実現できなかったところを、コロナ禍によって空白の時間ができて取り組むことができたとのこと。彼女らしい品格のある演奏のなかに、抑えきれない感情がたぎる。


『グァダーニのためのアリア集~最初の近代カストラート』
イェスティン・デイヴィス(カウンターテナー)ジョナサン・コーエン指揮アルカンジェロ


古楽の録音も多いハイペリオン。昨今のカウンターテナー・ブームのなかでもひときわ注目を集めるイギリスのイェスティン・デイヴィスも、ハイペリオンに数多くの録音がある。本作は18世紀イタリアのカストラート、ガエターノ・グァダーニのために書かれたアリア集。グァダーニは、グルックの『オルフェオとエウリディーチェ』の初演でオルフェオを演じたことで知られるが、デイヴィスのこまやかな情感を描き出す知的な歌唱に、在りし日のカストラートの姿が浮かび上がってくるようだ。共演のジョナサン・コーエン指揮アルカンジェロも、ハイペリオンを代表するピリオド楽器アンサンブル。このコンビによるバッハのカンタータ集の録音も必聴。



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【もっと聴きたい  Hyperion Records】




『イギリスの無伴奏チェロ作品集』
スティーヴン・イッサーリス(vc)


イギリスが誇る名チェリスト、スティーヴン・イッサーリスもハイペリオンに数々のアルバムがあるが、本作はベンジャミン・ブリテンの《無伴奏チェロ組曲》第3番とフランク・メリックの《18世紀の様式による組曲》を軸に、近現代イギリスの作曲家の作品を収録。



『メンデルスゾーン:ヴァイオリン・ソナタ集』
アリーナ・イブラギモヴァ(vn)セドリック・ティベルギアン(p)

大人気のヴァイオリニスト、アリーナ・イブラギモヴァを育てたのもハイペリオンだ。2012年にリリースされたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲集も好評だったが、このソナタ集では長年コンビを組んでいるセドリック・ティベルギアンとともに瑞々しい歌を聴かせてくれる。


『音楽? ~ハープシコードのための現代作品とエレクトロ・アクースティック作品』
マハン・エスファハニ(ハープシコード)

スティーヴ・ライヒをチェンバロで弾いて話題を呼んだ鬼才マハン・エスファハニの本領発揮の一枚。武満徹、ヘンリー・カウエル、カイヤ・サーリアホ、そしてエスファハニと同郷イラン出身のアナヒタ・アッバシが彼のために書いた作品などを、ハープシコードとエレクトロニクスで収録。


『プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番、第7番&第8番 ~戦争ソナタ集』
スティーヴン・オズボーン(p)

スコットランド出身、1991年のクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝し、ハイペリオンの看板ピアニストとして確固たる地位を築いてきたスティーヴン・オズボーンの、同レーベルでの30枚目となるアルバム。


『マショー:恵みの泉』
オルランド・コンソート



ハイペリオンは合唱のカタログも充実している。1988年にイギリス国立古楽センターで結成された男声ヴォーカル・カルテット、オルランド・コンソートによるマショー・プロジェクトの第10弾。



『ヴォーン・ウィリアムズ、マクミラン、タヴァナー:合唱作品集』
ジェームズ・オドンネル指揮ウェストミンスター寺院聖歌隊

ウェストミンスター寺院聖歌隊によるレイフ・ヴォーン・ウィリアムズ、ジェームズ・マクミラン、ジョン・タヴァナーの合唱作品集。マクミランの世界初録音作品を2曲収録。ヴォーン・ウィリアムズの《味わい見よ》は、エリザベス2世の戴冠式のために委嘱された作品。






“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

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2023年04月 ◆ 坂本龍一のDNA
2023年03月 ◆ 融解する境界線〜ポスト・クラシカルの現在地
2023年02月 ◆ 躍進する日本のピアニスト
2023年01月 ◆ いま聴きたい来日アーティスト 2023
2022年12月 ◆ 世界の混沌と調和、そして音楽
2022年11月 ◆ 夜の音楽
2022年10月 ◆ 日本の作曲家
2022年09月 ◆ アニバーサリー作曲家2022
2022年08月 ◆ 女王陛下の音楽
2022年07月 ◆ レーベルという美学
2022年06月 ◆ 今、聴きたい音楽家 2022
2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽



筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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