【10/7更新】音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック「日本の作曲家」

2022/10/07

MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」連動企画!e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。

"だけじゃない" クラシック 10月のテーマ


日本の作曲家



以前、日本人の若手作曲家からこんな話を聞いたことがある。「作品が初演されても、誰もがアクセスできる形でアーカイヴされることは滅多にない」と。たしかに日本に西洋音楽が定着していった明治時代以降、日本にも多くの作曲家が誕生し、優れた作品を遺してきた。だが、録音され、誰もがアクセスできるアルバムという形で聴ける作品はまだ多くはない。それでも近年少しずつ増えてきた録音を中心に、日本の作曲家たちの作品を振り返ってみたいと思う。



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『松村禎三交響作品集』
オーケストラ・ニッポニカ, 渡邉康雄, 野平一郎

2002年に設立されたオーケストラ・ニッポニカは、日本の作曲家による交響作品の演奏に力を注いできた団体。このアルバムは2021年7月に行なわれた『松村禎三 交響作品展』のライヴ録音で、演奏会は第21回佐治敬三賞を受賞している。松村禎三は1929年、京都生まれ。池内友次郎と伊福部昭に作曲を師事し、1955年に《序奏と協奏的アレグロ》で毎日音楽コンクール作曲部門 第1位を受賞し、作曲家としての活動を本格化させた。
ここに収録されているピアノ協奏曲第1番(1973)、ゲッセマネの夜に(2002/2005)、交響曲第1番(1965)は作曲年代が離れており、それぞれの時代における松村の作風に触れることができる。私がとくに深く印象に残ったのは、静謐さのなかに情念がほとばしる《ゲッセマネの夜に》。「誰がキリストか分かるように接吻をしろ」と命じられた弟子のユダがイエスに近づいて接吻をし、イエスを裏切る瞬間を描いたジョットの絵画『ユダの接吻』と向き合いながら、松村は作曲していたという。



『矢代秋雄:ピアノ協奏曲/交響曲[日本作曲家選輯]』
岡田博美(p)湯浅卓雄指揮アルスター管弦楽団


日本の作曲家の録音といったら、NAXOSの[日本作曲家選輯]シリーズが筆頭に挙げられるだろう。知られざる作曲家や作品にも光を当て、新しい録音で鮮やかに聴かせてくれるシリーズは、多くの名曲との出会いや発見をもたらしてくれた。今回ご紹介するのは、フランスでメシアンに学んだ作曲家、矢代秋雄の作品集。矢代は1929年生まれだが、この年に生まれた作曲家には先述の松村禎三、間宮芳生、黛敏郎、湯浅譲二がいる。なんと錚々たる顔ぶれ! 
矢代は1951年にフランス政府給費留学生として パリ音楽院に留学し、トニー・オーバンやメシアンから作曲法や管弦楽法を学んだ。このアルバムには、1956年に帰国したのちの代表作である交響曲(1958)とピアノ協奏曲(1964-67)が収録されている。いずれも密度の濃い音楽のなかに、ヨーロッパで吸収した20世紀のエッセンスが美しくきらめいている。




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【もっと聴きたい!日本の作曲家】




『月の沙漠 - 日本のうた』
波多野睦美, 西山まりえ

唱歌から日本歌曲、歌謡曲まで、波多野睦美らしい幅広い選曲による「日本のうた」アルバム。服部良一《蘇州夜曲》、佐々木すぐる《月の沙漠》、岡野貞一《朧月夜》、山田耕筰《からたちの花》、近衛秀麿  《ちんちん千鳥》など、日本人の心に刻まれているメロディを、西山まりえのバロックハープとともに届ける。日本語の発音と自然な発声が美しい。



『伊福部昭「協奏四題」熱狂ライヴ』
井上道義, 東京交響楽団

『ゴジラ』の音楽で有名な伊福部昭による4つの協奏曲、オーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》、《ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲》、二十絃箏と管絃楽のための《交響的エグログ》、ピアノとオーケストラのための《リトミカ・オスティナータ》を収めた2016年のライヴ録音。北海道十勝・音更町で少年期から青年期を過ごした伊福部の音楽には、この地で聴いた村の開拓民の歌う民謡やアイヌの歌が根底に流れている。



『三善晃:交響的変容/芥川也寸志:エローラ交響曲 (NHK交響楽団/岩城宏之) (1958)』
NHK交響楽団, 岩城宏之


《交響的変容》は三善晃が25歳のときに発表された作品で、これまでほとんど演奏されたことがなかったという。《エローラ交響曲》はインドのエローラ石窟寺院を訪れた芥川也寸志が、男女の営みが刻み込まれたレリーフが果てしなく広がる空間を見て圧倒され、感銘を受けて作曲された作品。1958年録音。




『波の盆 武満徹 映像音楽集』
尾高忠明, NHK交響楽団


《ノヴェンバー・ステップス》をはじめとする現代音楽で高く評価された武満徹だが、作品目録の多くの部分を占めるのが映像のための音楽である。 『ホゼー・トレス』『黒い雨』『他人の顔』からの音楽をまとめた《弦楽オーケストラのための「3つの映画音楽」》などが収録され、ときに心を打つ美しいメロディも登場する、武満のもうひとつの顔を見ることができる。



『オーケストラのための「呼吸する大地」 木下牧子管弦楽作品集』
大井剛史, 岡田奏, 東京交響楽団


女性作曲家に光が当てられるようになるずっと前、私が合唱をやっていた中学生のときから、木下牧子は刺激的な作品を次々と発表していた。本盤は2019年に行なわれた自身5回目となる作品展『木下牧子作品展5~オーケストラの時』のライヴ録音。オーケストラ作品が書けないスランプに陥ったこともあるという木下が、長い時間をかけて改訂した作品が収録されている。



『アクエリアス』
藤倉 大



「アーカイヴがない」という作曲家の対極をいくのが藤倉大。自分の作品が演奏されたコンサートの録音だけでなく、演奏者のもとにマイクを持って訪れ、その場で録音するなど、あらゆるシーンで集めた音源をみずからの手でミックスし、アルバムに仕上げていく。2022年で6回目を迎えた、藤倉がキュレーションを務める「ボンクリ・フェス」に合わせてリリースされた本盤にも、そんなDIY精神あふれる藤倉と仲間たちのイマジネーションあふれる世界が広がっている。


 




24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」

■出演:原典子
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。番組HPはこちら



“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年09月 ◆ アニバーサリー作曲家2022
2022年08月 ◆ 女王陛下の音楽
2022年07月 ◆ レーベルという美学
2022年06月 ◆ 今、聴きたい音楽家 2022
2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽



筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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