4月よりe-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する新連載がスタート!その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。
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24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD
【新番組】「ハイレゾ・クラシック」
■出演:原典子 ■初回放送:2021年4月2日(金)
■放送時間:(金)14:00~16:00 再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。
■番組HP→
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■❝だけじゃない❞ クラシック 5月のテーマ
「フランスの響きに憧れて」
ファッションに食に音楽に……なぜこうもフランスという国の文化は人々の心を惹きつけてやまないのだろう。クラシックにおいても、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルをはじめとするフランス近代の音楽は、独特の響きと色彩で我々を魅了し続けている。今回は、そんなフランス音楽の注目新譜を中心にご紹介していきたい。
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『ドビュッシー - ラモー』
/ヴィキングル・オラフソン(p)
アイスランド出身のピアニスト、ヴィキングル・オラフソンはフィリップ・グラスの作品集でドイツ・グラモフォンからデビューして以来、現代的な作品へのアプローチと鮮やかなテクニックでピアノ・ファンを驚愕させている存在。2019年12月の来日公演では、ラモーとドビュッシー、そしてムソルグスキーの《展覧会の絵》を並べたプログラムを組み、「曲間に拍手をしないで」というアナウンスのあとに、全体をひとつの「作品」として聴かせてみせた。
その少し前に録音された当アルバムも、ラモーとドビュッシーの作品が交互に並んでいる。かつてドビュッシーはラモーのオペラを観て、「あまりの斬新さに、ラモーが我々と同時代の作曲家に感じられる」という言葉を残しているが、かたやバロック、かたや近代のフランスの作曲家ふたりの時空を超えた邂逅を、オラフソンは見事に描き出している。
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『パリ』
/ヒラリー・ハーン(vn)
ミッコ・フランク指揮、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
押しも押されぬ人気ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンの新譜は『パリ』。冒頭に収められたショーソンの《詩曲》は、献呈されたイザイによって初演されたが、ハーンの師であるヤッシャ・ブロツキーはイザイの最後の弟子。そのような意味で、彼女はこの作品に自身のルーツを感じているとのこと。息の長いフレージングによる歌に、1年間のサバティカルを経たハーンの成熟ぶりが伝わってくる。
一方で、1923年にパリで初演されたプロコフィエフの協奏曲第1番は、ハーンがこれまででもっとも多く演奏してきた十八番とのことで、切れ味抜群の爽快な演奏。アーティスト・イン・レジデンスを務めたこともあるミッコ・フランク指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団と息のぴったり合った演奏を繰り広げている。
そして最後に収められたフィンランドの作曲家ラウタヴァーラの《2つのセレナード》は、ハーンとミッコ・フランクが委嘱した作品。だが完成前に作曲家は亡くなり、死後に発見されたスケッチをもとに、カレヴィ・アホがオーケストレーションを完成させたもの。2019年2月にパリで初演された。
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『フォーレ: ピアノ四重奏曲第1番、第2番』
/フォーレ四重奏団
フォーレ四重奏団は、ドイツ・カールスルーエ音楽大学卒の4人が1995年に結成したピアノ四重奏団。2006年にドイツ・グラモフォンと契約を結び、モーツァルト、ブラームス、メンデルスゾーン、そして抜群のセンスが光るカヴァー集『ポップ・ソングス』などをリリースし、高く評価されてきた。
カルテット名の由来となっているフォーレの作品は、なぜかメジャー・レーベルには録音がなかっただけに、今回のピアノ四重奏曲第1番、第2番は待望のアルバム。どこかつかみどころがないと感じてしまう方も多いであろうフォーレの室内楽だが、彼らの演奏はくっきりと「歌」を浮かび上がらせ、密度の濃い響きを存分に味わうことができる。《夢のあとで》をはじめとした歌曲の編曲も絶美。
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【もっと聴きたいフランス音楽】
『エリフレクションズコーズ』/ヴィキングル・オラフソン(p)
ハニャ・ラニ、ヘルギ・ヨンソン、ヒューガー、クラーク、
バルモレイ
上記でご紹介した『ドビュッシー - ラモー』のB面とも言うべきリワーク集。ポスト・クラシカル周辺のアーティストが多数参加し、コンテンポラリーなサウンドのなかでラモーとドビュッシーが混然一体となって響き合う。
『フランス・月世界マーチ』
/高橋ドレミ(p)實川風(p)
サティの《風変わりな美女》やドビュッシーの《小組曲》などを、日本の若手実力派によるピアノ・デュオが目の覚めるような鮮やかさで弾きこなす。ピアノ2台とは思えない多層的な響きと、ユーモアも感じさせる痛快なアルバム。
『フランス6人組』
/フランツィスカ・ハインツェン(S)
ベンジャミン・ミード(p)
20世紀前半のフランスで活躍した作曲家たちの集団「フランス6人組(オーリック、デュレ、オネゲル、ミヨー、プーランク、タイユフェール)」の作品が揃って収録されているアルバムは意外と貴重かも。
“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽
筆者プロフィール
原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。
2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。