【6/8更新】音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック

2022/06/08

MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」連動企画!e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。

"だけじゃない" クラシック 6月のテーマ


今、聴きたい音楽家 2022



コロナ禍による外国人の入国制限も緩和され、いよいよ来日公演が再開されつつある日本の音楽界。まだ完全に元通りではないものの、日々のスケジュールに来日音楽家の公演が普通に入るようになってきた。そこで考えるのは、「今、誰を聴きたいか」。世界の楽壇で注目を集める若手を中心に、もし来日したら逃さず聴きたいと思う音楽家のアルバムをご紹介したい。


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『シベリウス:交響曲全集、交響詩《タピオラ》、3つのフラグメント』
クラウス・マケラ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団


今もっとも熱い視線を集めている若手指揮者といえば、まずクラウス・マケラの名が挙がるだろう。1996年、フィンランド生まれの26歳。この年齢にしてすでにオスロ・フィルの首席指揮者およびアーティスティック・アドバイザーを務め、2022/23年シーズンにはパリ管の音楽監督に就任。スウェーデン放送響の首席客演指揮者、トゥルク音楽祭の芸術監督も務める。一体この若者のどこに、世界の一流オーケストラを虜にしてしまう魅力と才能があるのか、世界中のクラシック音楽ファンが固唾を飲んで見守っているところだ。
そこにリリースされたのが、デッカからのデビュー・アルバムとなるオスロ・フィルとのシベリウスの交響曲全集。コロナ禍の最中の2021年春、奏者同士のディスタンスをとりながら、無観客コンサートのようなスタイルで録音されたという。コンサート活動が止まっていたこの時期、オスロ・フィルの奏者たちはこのシベリウスだけに集中して取り組んだ。一方のマケラは古今のあらゆるオーケストラの録音を聴き、シベリウスがそれぞれの交響曲を録音していた時期に何を考えていたのかを深く考察したうえで、オスロ・フィルとの録音に向き合った。そうした両者による濃密な時間が、隅々に至るまでみずみずしいシベリウスに映し出されている。
なお、マケラは2022年6〜7月に来日し、2018年5月の初共演以来となる東京都交響楽団を指揮する予定。



『サン=サーンス:ピアノ協奏曲第1番&第2番 他』
アレクサンドル・カントロフ(p)
ジャン=ジャック・カントロフ指揮タピオラ・シンフォニエッタ


2019年のチャイコフスキー国際コンクールにおいて、フランスのピアニストとしてはじめて優勝を果たしたアレクサンドル・カントロフ。父はヴァイオリニスト・指揮者のジャン=ジャック・カントロフ。しかしアレクサンドルの才能は、こうしたエリート的なプロフィールには到底収まりきらない。昨年11月、筆者は日本での初リサイタルを聴いてそう感じた。そのとき聴いたのはブラームスとリストのプログラムだったが、ブラームスでの限りない優しさと哲学的思索、そしてリストの壮絶な超絶技巧まで、ダイナミクスの幅がとてつもなく大きい。
このアルバムはサン=サーンスのピアノとオーケストラのための作品の第2集。第1集の『サン=サーンス:ピアノ協奏曲第3番〜第5番』はディアパゾン・ドール賞と年間最優秀ショク賞2019を受賞している。ここでもサン=サーンスならではの華麗なテクニックとともに、聴き手を巨大な渦の中に巻き込むような“うねり“を感じさせるスケールの大きな演奏を聴かせてくれる。1997年生まれ、これからの進化と深化がますます楽しみな大器だ。



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【こちらも注目! 今、聴きたい音楽家 2022】




『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番、交響曲第7番』
ラハフ・シャニ(指揮、p)ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団


1989年、イスラエル生まれのラハフ・シャニはピアノ、コントラバス、指揮をこなすマルチプレイヤー。2016年6月、指揮者およびソロ・ピアニストとしてロッテルダム・フィルにデビューしたシャニは、瞬く間に同楽団史上最年少で首席指揮者に就任。ワーナーからの録音第1弾となるこのアルバムでも、ピアノと指揮の両方でその手腕を見せている。

『ラプソディ』
マーティン・ジェームズ・バートレット(p)ジョシュア・ワイラースタイン指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団


1996年生まれの、マーティン・ジェームズ・バートレットはイギリス期待のピアニスト。アルバム前半に収録されたラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》では卓越したテクニックを披露し、後半のガーシュウィン《ラプソディー・イン・ブルー》でも華麗にニューヨークの摩天楼を描き出す。





『ニールセン&シベリウス:ヴァイオリン協奏曲』
ユーハン・ダーレネ(vn)ヨーン・ストルゴーズ指揮ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団

2000年にスウェーデンで生まれたユーハン・ダーレネは、同国のBISレーベルの社主、ロベルト・フォン・バールが大推薦するヴァイオリニスト。2019年のカール・ニールセン国際音楽コンクールで優勝している。このアルバムでは、いずれも十八番のニールセン&シベリウスの協奏曲で本領を発揮。


『パリのバー~フランセ、タンスマン、ライタ』
ノトス・カルテット




2007年にベルリンで結成されたピアノ四重奏団、ノトス・カルテットの新譜のテーマは1920年代のパリ。この時代のパリに住んでいた3人の作曲家、ジャン・フランセ、アレクサンドル・タンスマン、ラースロー・ライタの作品を収録しているが、ハンガリーの作曲家ライタのピアノ四重奏曲は世界初録音となる。




『モーツァルト✖️3(ダ・ポンテ&オペラ・セリアからのアリア集)』
エルザ・ドライジグ(S)ルイ・ラングレー指揮バーゼル室内管弦楽団


1991年、フランス生まれのソプラノ、エルザ・ドライジグの3枚目となるソロ・アルバム。《フィガロの結婚》《ドン・ジョヴァンニ》《コジ・ファン・トゥッテ》にそれぞれ登場する3人の女性が歌うアリアを、ひとりで歌い、演じ分けている。その表現力の幅広さに、ヨーロッパの歌劇場での人気ぶりがうかがえる。


『イタリアン大通り』
バンジャマン・ベルネーム(T)フロリアン・センペイ(Br)フレデリック・シャスラン指揮ボローニャ・テアトロ・コムナーレ管弦楽団


フランスのテノール、バンジャマン・ベルネームが、ドニゼッティ、ヴェルディ、プッチーニをはじめとするイタリア人作曲家のアリアを、すべてフランス語で歌ったアルバム。19世紀から20世紀にかけて、ヨーロッパのオペラの中心地だったパリに惹かれたイタリア人作曲家たちの試みを知ることができる。





24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」

■出演:原典子
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。番組HPはこちら



“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽



筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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