【12/2更新】 音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック

2021/12/02

e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する連載がスタート!その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。


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24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD

【新番組】「ハイレゾ・クラシック」

■出演:原典子  ■初回放送:2021年4月2日(金) 
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。
■番組HP→

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■❝だけじゃない❞ クラシック 12月のテーマ


2021年の耳をひらいてくれたアルバム



2021年もあっという間に師走。国内のコロナ感染拡大は収束し、クラシック界でもようやく来日公演が復活してきたと思った矢先、新たな変異種の登場でふたたび国境は閉じられようとしている。やはり今後しばらくは、アルバムが海の向こうの音楽を知る手だてになりそうだ。というわけで今月のテーマは「2021年の耳をひらいてくれたアルバム」。新たな音楽、新たな価値観との出会いに感謝しながら1年をまとめたい。


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メランコリー・グレース
ジャン・ロンドー(チェンバロ、ヴァージナル)


チェンバロの音はこんなにも生々しく迫ってくるものなのかと、聴くたびに耳が釘付けになるジャン・ロンドー。最新作では「メランコリー」をコンセプトに、チェンバロとヴァージナル(チェンバロと同じアクションを持つが、より小型の楽器)を弾き分けている。収録されているのは、イタリア、オランダ、イギリス、ドイツの作曲家による16~17世紀の作品たち。有名なダウランドの《ラクリメ》(涙のパヴァーヌ/流れよ、わが涙)を出発点に、ヨーロッパ全体に伝播していった「憂鬱の音楽」の豊かな諸相を味わうことができる。



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LET THE SOIL PLAY ITS SIMPLE PART
キャロライン・ショウソーパーカッション


1982年生まれ、ニューヨークを拠点に活動するキャロライン・ショウは今もっとも注目される作曲家。アタッカ四重奏団が録音したアルバム『オレンジ』が第62回グラミー賞を受賞し、その作曲家として名前を知った方も多いだろう。最新作はブルックリンの気鋭パーカッション・カルテット、ソー・パーカッションとの共作だが、ショウ自身のヴォーカルが大きくフィーチャーされているのがポイントだ。聖書からジェイムズ・ジョイス、アメリカン・ルーツ曲、ABBAまで、自由に広がるイメージネーションをパーカッションの多彩なサウンドに乗せて展開する摩訶不思議世界。インディロック的な音の手触りで、「現代音楽」や「クラシック」という枠をはるかに超越した作品なので、ぜひ多くの人に聴いてほしい。



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OZONE 60
小曽根真(p)


クラシック作品をジャズ的に脱構築した演奏には、これまであまり関心を持てないことも多かったが、このアルバムを聴いて「すみませんでした!」と土下座したくなった。日本を代表するジャズ・ピアニストであり、近年はクラシック作品にも取り組んでいる小曽根真の60歳記念ソロ・アルバム。ラヴェルのピアノ協奏曲第2楽章の夢見るような美しさといったら! モーツァルトの遊び心、プロコフィエフ《戦争ソナタ》でのエネルギッシュなリズム……原曲の徹底した読み込みと、作品へのリスペクトに満ちた演奏からは、その作品本来が持つ「生きた輝き」が見えてくるよう。



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【もっと聴きたい 耳をひらいてくれるアルバム】




モーツァルト&コンテンポラリーズ
ヴィキングル・オラフソン(p)


新作が出るのがこれほど楽しみなピアニストもそういない。今回のアルバム・タイトルにある「コンテンポラリーズ」は現代の音楽ではなく、モーツァルトと同時代の音楽という意味で、ガルッピ、C.P.E.バッハ、チマローザ、ハイドンの作品が、モーツァルトの作品と並べられている。


If ~ ナイマン&パーセル
イエスティン・デイヴィス(カウンターテナー)
フレットワーク

カウンターテナーのイエスティン・デイヴィスが、ヴィオール・コンソートのフレットワークと録音したアルバム。マイケル・ナイマンとヘンリー・パーセルという、イギリスを代表するふたりの作曲家が、何百年のときを超えて響き合う。




藤倉大:箏協奏曲
LEO(箏)鈴木優人 指揮 読売日本交響楽団

箏の新たな可能性を追い求めるLEOが藤倉大に委嘱した《箏協奏曲》を収録。以前にLEOが藤倉に委嘱したソロ作品《Ryu》ベースに作曲された協奏曲だが、この音楽を聴いてイメージするのは日本や中国の「龍」ではなく、西洋の「竜(ドラゴン)」。オーケストラという翼を得て、自由に大空を駆けている。


ギターは謳う
鈴木大介(g)

武満徹の《ギターのための12の歌》を中心に、ジャズ・スタンダードやシャンソン、ピアソラ・ナンバーなどを収録したポピュラー名曲集。この《12の歌》の自主録音が武満の耳に入り、デビューのきっかけとなった鈴木にとって3度目の全曲録音。さらりと親しみやすいメロディのなかに、武満らしい美的感覚が光る。




オン・DSCH
イゴール・レヴィット(p)

「マキシマリスト」を自称するピアニストのイゴール・レヴィットの最新録音は、CDにすると3枚組にもなる大作。ショスタコーヴィチの《24の前奏曲とフーガ》と、スコットランドの作曲家ロナルド・スティーヴンソンによる《DSCHによるパッサカリア》(ショスタコーヴィチの名前による音型を使った壮大な変奏曲)がカップリングされている。


ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番~第3番
キアロスクーロ四重奏団

ヴァイオリニストのアリーナ・イブラギモヴァ率いるキアロスクーロ四重奏団のベートーヴェン録音第1弾。いつ聴いてもぱっと鮮やかで生き生きとした演奏が、若きベートーヴェンのほとばしる情熱と才能をまっすぐに伝えてくれる。




ショパン:ピアノ協奏曲第2番、スケルツォ
チョ・ソンジン(p)ジャナンドレア・ノセダ 指揮
ロンドン交響楽団

ショパン・コンクールで湧いた2021年。前回の優勝者であるチョ・ソンジンがピアノ協奏曲の第2番を録音した。コンクールのファイナルでは第1番を選ぶピアニストが圧倒的に多いが、いやいや第2番こそ名曲では? と思わせる深みのある演奏。

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“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽


筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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