【新連載】 音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック

2021/04/01

4月よりe-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する新連載がスタート!その名も❝だけじゃない❞クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品❝だけじゃない❞クラシック音楽を是非お楽しみください。

 

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24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD

【新番組】「ハイレゾ・クラシック」
■出演:原典子  ■初回放送:2021年4月2日(金) 
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。
■番組HP→

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■❝だけじゃない❞ クラシック 4月のテーマ


「プレイリスト時代の音楽」



ひと昔前まで、クラシックのアルバムは『ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》・第7番』といったように、収録曲名がそのままタイトルになっているものが多かった。しかし近年はポップスやロックのアルバムのようなタイトルがつけられているアルバムが増えてきたように思う。


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ラビリンス~迷宮
カティア・ブニアティシヴィリ(p)


たとえばピアニストのカティア・ブニアティシヴィリの『ラビリンス~迷宮』は、モリコーネからはじまり、サティ、ショパン、リゲティ、バッハ、ヴィラ=ロボス、クープラン、ペルト、リスト、そしてケージの《4分33秒》まで、時代もスタイルも異なる作曲家たちの作品が一枚のアルバムに収められている。とはいっても決してバラバラな印象にはならず、まるで静寂そのものを奏でているかのようなブニアティシヴィリのピアニズムによって、全体がひとつの色にまとめられている。その夢幻的なサウンドは、ポスト・クラシカル的なアプローチとも言えるかもしれない。

このようなコンセプト・アルバムは、あるひとつのテーマやイメージのもとにさまざまな作品を集める選曲眼、キュレーションのセンスが肝。演奏だけでなく、志向やセンスといった面からもアーティストの個性を伝えることできるのが魅力だろう。さらに、アルバム一枚のトータルなイメージを打ち出すことができる一方で、曲ごとの独立性も保たれているため、音楽配信サービスなどではシングル扱いで1曲ずつリリースすることも可能。まさに「今」という時代に合ったスタイルなのである。



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LA PESTE(ペスト)』/ル・バロクダ


「今」といえば、古楽アンサンブル、ル・バロクダによる『LA PESTE(ペスト)』なるアルバムもタイムリーだ。ペストの影響を受けた作曲家兼ヴァイオリニストたちの作品を集めたコンセプト・アルバム。シュメルツァー(1623-1680)、カステッロ(1590-1631)、フォンタナ(1589-1630)、パンドルフィ(1624-1670)、サロモネ・ロッシ(1570-1630)、ファリーナ(1600-1639)ら17世紀の作曲家たちの作品が並び、ちょうどバロック音楽の時代と重なる。とくに1630年前後に没した作曲家が多いが、ちょうど北イタリアでペストが大流行年であった。ル・バロクダがこのアルバムを企画した2019年9月の時点で、コロナウイルスが猛威を振るう現状は想像だにしていなかっただろうが、疫病に支配された時代にも音楽はかくも美しく鳴っていのだたと思うと感慨深い。



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ソングス・オブ・コンフォート・アンド・ホープ
ヨーヨー・マ(vc)、キャサリン・ストット(p)


今回のコロナ禍においては、これまで世界を飛び回って多忙だったアーティストが自身とじっくり向き合い、そこから生まれたアルバムも多数リリースされた。なかでも素晴らしかったのが、ヨーヨー・マ(チェロ)とキャサリン・ストット(ピアノ)による『ソングス・オブ・コンフォート・アンド・ホープ』。不安に苛まれる人々に安らぎと希望を届けるべく、トラディショナルやクラシックの有名曲などが選ばれているが、ただ耳なじみの良い音楽を集めたイージー・リスニング集ではない。

冒頭の《アメイジング・グレイス》では吹き荒ぶ嵐とマストの軋む音が響きわたるが、これは作詞者のジョン・ニュートンが船乗りとして黒人奴隷貿易に従事していたとき、乗っていた船が海難事故に遭い、一命をとりとめたことをきっかけに回心した出来事に由来している。そのほかにも、黒人たちの過酷な暮らしを歌った《オール・マン・リヴァー》、ネイティヴ・アメリカンの悲劇にまつわる《シェナンドー》、ブロッホの《ユダヤの歌》、ラテンアメリカ諸国の歌を通じた社会変革運動「ヌエバ・カンシオン」の先駆者として知られるビオレータ・パラの《人生よありがとう》など、過酷な時代を生き抜いた人々の魂の歌が、この一枚には収められている。

今後もコンセプト・アルバムというスタイルはクラシック界で多くなっていくだろう。アーティストの意外な一面を知ったり、これまで知らなかった曲と出会ったり、音楽の楽しみ方の新たな扉を開けてくれるに違いない。



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【もっと聴きたいコンセプト・アルバム】




エコーズ
シグナム・サクソフォン四重奏団 ほか

2006年にケルンで結成されたサクソフォン・カルテットのドイツ・グラモフォン・デビュー盤。ダウランド、マックス・リヒター、フィリップ・グラス、フォーレ、ユップ・ベヴィン、ヒンデミット、ヴァスクスらの作品を収録。ポスト・クラシカル作品の響きが心地いい。


ライフ
イゴール・レヴィット(p)

イゴール・レヴィットが、親しい友人の死によって感じた喪失感と悲しみ、絶望と慰めを表現したアルバム。ブゾーニの《J.S.バッハによる幻想曲》からはじまり、ジェフスキの《人間》、リスト(ブゾーニ編)の30分を超える大作《アド・ノス、アド・サルタレウム・ウンダムによる幻想曲とフーガ》、そして最後はビル・エヴァンスまで、幅広く、深い選曲。




彷徨いながら不思議に思う
ジェームズ・ニュービー(Br)、ヨーゼフ・ミドルトン(p)

イギリス出身、リートとオペラの世界で活躍するバリトン歌手、ジェームズ・ニュービー。ブリテン《彷徨いながら不思議に思う》、シューベルト《さすらい人》、ベートーヴェン《遥かなる恋人に》、マーラー《原光》などを収録。リートにおける「さすらい」の表現、中世ヨーロッパから続く「さすらい人の歌」という概念を肌で感じることができる。


TAKE TWO ヴァイオリニストとふたりで
パトリツィア・コパチンスカヤ(vn)ほか

パトリツィア・コパチンスカヤが2015年、Alphaレーベルに最初に録音したアルバム。自身が共演してきたさまざまな楽器の敏腕奏者たちとの二重奏ばかりを集めた小品集で、エレクトロニクスやターンテーブルからバロックまで、彼女らしくぶっ飛んだ選曲。娘アリスへのプレゼントとして作られたそうで、ヴァイオリンと遊んでいるような一枚。




グッド・ナイト!
ベルトラン・シャマユ(p)

みずからも不眠症に悩むベルトラン・シャマユが、子守歌をテーマに編んだアルバム。ヤナーチェク《草かげの小径》より「おやすみ!」、リャプノフ《6つのやさしい小品》より「人形の子守歌」、ヴィラ=ロボス《赤ちゃんの一族》より「ぼろ切れの人形」、ラッヘンマン《ゆりかごの音楽》など、こだわりの選曲。教会で録音された残響の長いサウンドが眠りを誘う。


サークル・ライン
ラウテン・カンパニー

1984年の設立以来、ユニークな活動を展開してきたラウテン・カンパニーが、ルネサンス時代のギョーム・デュファイと、フィリップ・グラスを中心としたミニマル・ミュージックの作品を組み合わせたアルバム。ガンバ、リュートなどの古楽器だけでなく、サックスやパーカションなども参加している。




大地の音楽~金や銀、地下の宝物の物語
カペラ・デ・ラ・トーレ ほか

ピリオド楽器管楽アンサンブル、カペラ・デ・ラ・トーレが、2015年からスタートした四大元素をテーマにした四部作アルバムの完結編。『大地の音楽(Earth Music)』として6つの章からなり、さまざまな作曲家によるルネサンスとバロックの音楽が収録されている。ファンタジーを読むような壮大な物語を感じる。

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筆者プロフィール



原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。



 

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