【11/10更新】音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック「夜の音楽」

2022/11/10

MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」連動企画!e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。

"だけじゃない" クラシック 11月のテーマ


夜の音楽



秋の夜長、静まりかえった時間。いつもより少しだけ明かりや音量を落として、ゆったりと過ごすひとときに、あなたはどんな音楽を聴きたいですか?

「夜」をテーマにしたクラシック作品は数多くあるが、近年はとくに安眠やストレス緩和のため、「夜に聴く音楽」というコンセプトのアルバムが次々とリリースされている。それらは必ずしも、ただ穏やかで耳ざわりの良い音楽を集めたBGM的なアルバムだけではない。多くのアーティストにとって創作の時間である夜は、イマジネーションに満ちた刺激的なひとときでもある。

 


★☆★



『Night Passages』
Martin Fröst, Sebastien Dube, Roland Pöntinen

「クラリネットの魔術師」と呼ばれ、アルバムをリリースするごとにクラリネットという楽器の概念を拡大させてきたマルティン・フレストの最新作。パーセル、ラモー、スカルラッティ、バッハから、祖国スウェーデンの作曲家ヒューゴ・アルヴェーン、トラディショナル、チック・コリアまでフレストらしいボーダーレスな選曲だが、《主よ、人の望みの喜びよ》(J.S.バッハ)や《束の間の音楽》(パーセル)など有名曲も入っており、より幅広い層にも受け入れられそうだ。クラリネット、ベース、ピアノのトリオ編成ゆえ、《イット・ネヴァー・エンタード・イン・マイ・マインド》(リチャード・ロジャース)、《アルマンドのルンバ》(チック・コリア)などではジャジーなムードいっぱい。インティメイトな音楽が、濃密な夜に溶け出す。



『夜の祈り - Nachtgebet』
青木洋也, 浅井美紀


キリスト教徒にとって、夜は祈りの時間でもある。一日の出来事を振り返り、神と対話することで明日への活力を養う。『夜の祈り』と題されたこのアルバムは、カウンターテナーとパイプオルガンによる録音。青木洋也はバッハ・コレギウム・ジャパンをはじめ多くの古楽アンサンブルでソリストを務める宗教音楽のスペシャリスト。浅井美紀が演奏しているのは水戸芸術館のパイプオルガンで、2011年の東日本大震災で被災したのち、修復作業を経てよみがえった2012年にこのアルバムが録音された。メンデルスゾーン、ラインベルガー、ヴォルフの宗教的な作品が収録されており、ピアノ伴奏とはまったく違う趣が新鮮。大聖堂のような空間を感じさせる録音も印象的だった。




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【もっと聴きたい!夜の音楽】




『Nightscapes』
Magdalena Hoffmann

安らかな眠りを誘う音色としてハープほど似合う楽器もないだろう。スイス出身の新星、マグダレーナ・ホフマンのドイツ・グラモフォンからのデビュー・アルバムは、ブリテンの《ハープのための組曲》や、フィールド、ショパン、クララ・シューマンによる夜想曲、レスピーギ、ピツェッティ、ハーシュの小品などを収録。



『夜の肖像』
北村朋幹

冒頭にクルターグの《花、人…》、最後にバルトークの《戸外にて》を置き、その間にベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番と第14番の《幻想曲風ソナタ》、シューマンの《夜曲》を入れたアルバム。ピリオド楽器の演奏からジョン・ケージまで、独創的な活動を展開する北村朋幹のピアノが夜の思索へと誘う。



『アイネ・ノイエ・ナハトムジーク/20~21世紀のヴァイオリンとピアノのための作品集』
エレーナ・デニーソヴァ(vn)アレクセイ・コルニエンコ(p)


ジャン・フランチェスコ・マリピエロの《夕暮れの歌》からはじまり、ジョン・ケージの《夜想曲》、モーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》からインスパイアされたオスカー・ヨッケルの《聞こえる限りの暗黒、見える限りの無音》などを収録。夜の闇の恐ろしさ、不気味さを感じさせる作品も。




『夜と夢~管弦楽伴奏版歌曲集』
ロランス・エキルベイ指揮インスラ・オーケストラ/ヴィーブケ・レームクール(Ms)スタニスラス・ドゥ・バルビラック(T)アクサンチュス(cho)


ユニークなアルバムの数々を発表している指揮者、ロランス・エキルベイが手兵のアンサンブル、インスラ・オーケストラを率いてシューベルトの歌曲を収録したアルバム。同時代から現代の作曲家たちが、シューベルトの歌曲を管弦楽伴奏版に編曲したものが収められており、新たな魅力を感じることできる。



『Silent Dreams』
ハリエット・クリーフ(vc)
マグダ・アマラ(p)


1991年、オランダ生まれ。2019年にアルテミス・カルテットに加入。2019年にドイツ・グラモフォンからデビューしたチェリスト、ハリエット・クリーフの2ndアルバム。シューベルト、シューマン、ブラームス、ショーソン、グリンカ、ラフマニノフなどを収録。深いチェロの音色が夜の静寂をひきたててくれる。



『マーラー:交響曲第7番《夜の歌》』
キリル・ペトレンコ指揮バイエルン国立管弦楽団



バイエルン国立歌劇場の自主レーベル、BSOrecの第1弾。2013年から2020年にバイエルン国立管弦楽団の音楽総監督を務めたキリル・ペトレンコの指揮による2018年5月のライヴ録音。この交響曲は、第2楽章と第4楽章が「夜曲」(Nachtmusik)と名づけられていることから、《夜の歌》とも呼ばれる。


 




24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」

■出演:原典子
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。番組HPはこちら



“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年10月 ◆ 日本の作曲家
2022年09月 ◆ アニバーサリー作曲家2022
2022年08月 ◆ 女王陛下の音楽
2022年07月 ◆ レーベルという美学
2022年06月 ◆ 今、聴きたい音楽家 2022
2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽



筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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