【4/14更新】音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック「坂本龍一のDNA」

2023/04/14

e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。

"だけじゃない" クラシック 5月のテーマ


坂本龍一のDNA



2023年4月2日。坂本龍一が名前をつけたアーティストコレクティブ「mumyo」の旗揚げ公演に行った帰りの電車で、スマホの画面に訃報が飛び込んできた。ついさっき、ライブ会場でmumyoのメンバーである若き作曲家の梅本佑利氏から「坂本さんに昔の僕みたいって言われた」という話を聞いたばかりだったのに……。

それから1週間、自分でも驚くほど次から次へと悲しみがこみ上げてくる。けれどあの夜、ライブ会場に充満していた「何かが生まれる瞬間の熱気」を思い出すたび、坂本が次の世代へ託したものが、心に空いた穴を埋めてくれるのを感じるのである。

坂本に影響を受けた音楽家は、世界中のあらゆるジャンルに無数にいるだろう。その中から今回は、坂本作品を収録したアルバムや、坂本が参加したアルバムを中心にご紹介したい。



★☆★



『GRID//OFF』
LEO

箏アーティストのLEOは、デビュー当初から「もっとも影響を受けた人」として坂本の名を挙げていた。4thアルバム『In A Landscape』に収録された「1919」も素晴らしかったが、このたびリリースされた6thアルバム『GRID//OFF』には、網守将平編曲による「Andata」が入っている。自作から坂東祐大、吉松隆、スティーヴ・ライヒ、デリック・メイ、ティグラン・ハマシアンまで、箏の可能性を最大限に広げ、縦横無尽に駆けまわるこのアルバムには、彼が今やりたいことのすべてが詰まっている。箏という日本の伝統楽器の継承者であるLEOが、広い世界を見渡し、革新へと一歩を踏み出す背中を押したのは坂本の存在だったに違いない。そんなLEOが、箏をたずさえて日本から世界へと羽ばたいて行く日が待ち遠しい。


『グレン・グールド・ギャザリング』
Alva Noto, Nilo, Christian Fennesz, Francesco Tristano, 坂本龍一


グレン・ グールドの生誕85周年にあたる2017年、坂本がキュレーターを務めたトリビュート・イベント「グレン・グールド・ギャザリング」が開催された。アルヴァ・ノト、クリスチャン・フェネス、フランチェスコ・トリスターノと坂本との貴重なコラボレーションを収めたのが、このアルバム。とくにバッハとグールドを敬愛し、クラシックのピアノとテクノを自在に行き来するトリスターノにとって、坂本の存在は大きなものだっただろう。トリスターノの最新アルバム『オン・アーリー・ミュージック』の末尾には「RSのためのアリア」という曲が収録されているが、「RS」とは言うまでもなく坂本のことである。



★☆★




【もっと聴きたい  坂本龍一のDNA】




『バッハ・リワークス』
ヴィキングル・オラフソン

坂本にとってのバッハと、ヴィキングル・オラフソンにとってのバッハは、同じくインスピレーションの源であり、限りなく自由な音楽なのだろう。バッハ・アルバムの「裏面」としてリリースされた「リワークス」には、坂本によるバッハのBWV974の幽玄なるリワークが収録されている。



『オンド・マルトノ作品集』
大矢素子

映画『レヴェナント: 蘇えりし者』の劇中音楽「Rebirth 2」のレコーディングでオンド・マルトノ演奏を担当した大矢素子のアルバム。本作にはこの曲のほか、もとはオンド・マルトノの音色を想定して書かれたという「パロリブル」(アルバム『未来派野郎』収録)も収められている。


『ピアノ三重奏 坂本龍一曲集』
川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ

私がいちばん好きな坂本のアルバムは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロのトリオ編成による『1996』だが、本作は日本の優れたクラシック演奏家が同じ編成で坂本作品を録音したアルバム。自作自演ではない「作曲家」としての坂本の音楽の本質が浮かび上がってくる。




『Piano Works "For Mr. Lawrence"』
Jeroen van Veen

訃報の後に知ったのだが、イェローン・ファン・フェーンというオランダのピアニスト/作曲家が、Brilliant ClassicsからCD5枚組にもなる坂本作品集を出していた。自分の頭の中に刷り込まれた坂本のピアノとの違いを楽しみながらあれこれ聴くのも面白い。


『A Tribute to Ryuichi Sakamoto - To the Moon and Back』
VA

坂本の70歳を記念したトリビュート・アルバム。サンダーキャット、ヒドゥル・グドナドッティル、コーネリアス、デヴィッド・シルヴィアンなど、あらゆるジャンル、あらゆる地域の音楽家が参加している。それは音楽の世界を広げてくれた坂本に対する、ファンからの恩返しのようにも聞こえる。







“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2023年03月 ◆ 融解する境界線〜ポスト・クラシカルの現在地
2023年02月 ◆ 躍進する日本のピアニスト
2023年01月 ◆ いま聴きたい来日アーティスト 2023
2022年12月 ◆ 世界の混沌と調和、そして音楽
2022年11月 ◆ 夜の音楽
2022年10月 ◆ 日本の作曲家
2022年09月 ◆ アニバーサリー作曲家2022
2022年08月 ◆ 女王陛下の音楽
2022年07月 ◆ レーベルという美学
2022年06月 ◆ 今、聴きたい音楽家 2022
2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽



筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

 | 

 |   |