e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する連載がスタート!その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。
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24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD
【新番組】「ハイレゾ・クラシック」
■出演:原典子 ■初回放送:2021年4月2日(金)
■放送時間:(金)14:00~16:00 再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。
■番組HP→
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■❝だけじゃない❞ クラシック 10月のテーマ
もの思う秋に聴きたい音楽
コンサートを聴きに行く、友人と美味しいものを食べる、お洒落して出かける服を買う……こうした行動がことごとく制約されたコロナ禍の1年半。自分にとってなにがいちばんの贅沢だったかを振り返ると、ひとり静かに音楽を聴く時間だったように思う。SNSに渦巻く不安や喧噪から離れ、お気に入りのアルバムに耳を傾けながら自身の内面と向き合う時間。10月は、そんな秋の夜長にぴったりの音楽をセレクトしてみた。
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『エグザイルス』
/マックス・リヒター
まずはマックス・リヒターによるオーケストラ・アルバムを。彼の音楽は誰にとっても聴きやすく、すっと心に入ってくるが、じつは戦争や難民といった社会問題を題材に書かれた作品も多い。本作に収録された《エグザイルス(亡命者たち)》は、ネザーランド・ダンス・シアターが2017年に初演したバレエ《サンギュリエール・オディセ》のために書かれた音楽だが、このバレエは2011年の「アラブの春」と呼ばれた民主化運動による内戦が引き起こした「欧州難民危機」を題材にした作品とのこと。
何度も繰り返されるモティーフは、「亡命、歩行、移動といった概念」を表現しているとリヒターは語る。それはまた、未来への希望と不安を抱えながら歩みを続ける我々の人生のサウンドトラックでもある。
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『Echoes Of Life エコーズ・オヴ・ライフ』
/アリス=紗良・オット(p)
人生の旅といえば、アリス=紗良・オットの新作のテーマでもある。ショパンの《24の前奏曲 作品28》に、フランチェスコ・トリスターノ、リゲティ、ニーノ・ロータ、チリー・ゴンザレスなど7つの現代作品を織り込んだコンセプト・アルバム。それぞれの現代作品には「インファント・レベリオン(子ども時代の反抗期)」「ノー・ロードマップ・トゥ・アダルトフッド(大人への第一歩)」といった副題がつけられており、これまでのアリスの人生におけるさまざまな場面を映し出すストーリー仕立てのパーソナルな作品にもなっている。
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『The Visionaries of Piano Music~ウィリアム・バード&ジョン・ブル:作品集』
/キット・アームストロング(p)
アメリカのピアニスト、キット・アームストロングのドイツ・グラモフォン・デビューとなるアルバムも、清らかな美しさと哀愁をたたえた瞑想的な作品である。ウィリアム・バードとジョン・ブルは、イングランドのエリザベス1世やその後継者ジェームズ1世の時代に活躍した作曲家。チェンバロに近いヴァージナルのために書かれた作品集だが、幼い頃からこれらの作品に触れてきたというアームストロングは、モダンピアノで400年前の人々の精神を現代によみがえらせている。
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【もっと聴きたい もの思う秋にぴったりのアルバム】
『バッハ:ディアローグ(対話)』
/ドロテー・オベルリンガー(リコーダー、編曲)
エディン・カラマーゾフ(リュート、編曲)
リコーダーとリュートという新鮮な組み合わせによるバッハは、ひそやかな会話が聞こえてくるよう。リコーダーは、ドイツ・ハルモニアムンディから素晴らしいアルバムの数々をリリースしているドロテー・オベルリンガー。リュートは、スティングと共演したダウランド・アルバム『ラビリンス』でも知られるエディン・カラマーゾフ。
『ソリチュード~パーセル歌曲集』/波多野睦美(Ms)ほか
波多野睦美自身のレーベル「ソネット」からの第1弾として2010年にリリースされたアルバム。イングランドの作曲家であり、自身も優れた歌い手であったヘンリー・パーセルの歌曲集は、《音楽が愛の食べ物なら》《ばらよりも甘い》などタイトルを眺めているだけでもうっとりする。
『チェロとギターのためのソナタ集』
/イザベル・ゲーヴァイラー(vc)アルヤス・チヴィルン(g)
近ごろ筆者が気に入っているのが、チェロとギターのデュオ。この組み合わせのために書かれた作品は少ないが、チェロの豊潤な響きと、ギターの軽やかな響きのバランスがなんともたまらない。シューベルトの《アルペジオーネ・ソナタ》も、ピアノよりギター伴奏の方がしみじみとした味わいがあるように感じられる。
“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽
筆者プロフィール
原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。
2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。