【12/9更新】“だけじゃない”クラシック「世界の混沌と調和、そして音楽」

2022/12/09

MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」連動企画!e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。

"だけじゃない" クラシック 12月のテーマ


世界の混沌と調和、そして音楽



皆さんにとって2022年はどのような1年だったでしょうか? 長引くコロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ侵攻、国内でも元首相の銃撃など、社会を揺るがす出来事が相次ぎ、世界全体へと波紋が大きく広がっていった1年だったように思う。歴史の教科書には必ず「2022年」という年が刻まれることだろう。

そんな激動のなかでも、いや、激動のなかだからこそ、音楽家は音楽を紡ぎ、世に送り出してきた。遠い昔に作曲されたクラシック音楽であっても、演奏する者はそこに「今」の世界へのメッセージを乗せることができる。今月は、そんな混沌の世界に向けた音楽をお届けしていきたい。




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『メッセンジャー』
エレーヌ・グリモー(p)カメラータ・ザルツブルク


ウクライナ侵攻後のロシアで、ピアニストのアレクセイ・リュビモフの演奏会の最中に警察官が乗り込んできた。そのときリュビモフが弾いていたのは、盟友であるウクライナの作曲家、ヴァレンティン・シルヴェストロフの曲だった。かねてからシルヴェストロフの演奏に情熱を傾けてきたエレーヌ・グリモーが、このアルバムを録音したのは2020年だが、今聴くと特別な意味をもって響いてくる。モーツァルトとシルヴェストロフの作品を組み合わせて構成されたアルバムの最後に置かれているのは、シルヴェストロフの《使者(The Messenger)》。遠い追憶のなかにモーツァルト調べが聞こえてくるようなこの曲に、破壊されたウクライナの街の風景が重なった。



『Eden / エデン』
ジョイス・ディドナート(Ms)マクシム・エメリャニチェフ指揮イル・ポモ・ドーロ



ジョイス・ディドナートが、大きな話題を読んだコンセプト・アルバム『戦争と平和の中で』の続編としてリリースしたのが『Eden / エデン』。今作のテーマは「自然の」とのことで、アイヴズ《答えのない質問》からはじまり、レイチェル・ポートマンがディドナートのために書いた《世界で一番はじめの朝》、コープランド《自然よ、優しい母親よ》、カヴァッリ《影をなす草木よ》、ヘンデル《バラ色の足取りで暁が》、マーラー《私はこの世から失われてしまった》など幅広い選曲。ただ自然を描いた曲が選ばれているわけではなく、大いなる自然の威厳と力、謎を探求し、そのなかに生きる人間が自然と再接続する道を問いかけるような一枚となっている。




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【もっと聴きたい!混沌の世界に向けた音楽】




『『ジョン・ケージ:As It Is』
アレクセイ・リュビモフ(p、プリペアド・ピアノ)ナターリア・プシェニチニコーヴァ(vo)


先述のピアニスト、アレクセイ・リュビモフが美学と哲学において大きな影響を受けたというジョン・ケージの作品を収録したアルバム。キャシー・バーベリアンのために書かれた作品を歌っているのは、声楽家、フルート奏者、ダンサーなど多彩な顔を持つナターリア・プシェニチニコーヴァ。



『INTO NATURE 自然の中へ〜ヴィヴァルディ『四季』(全曲)と母なる大地の様々な音色たち』
エンリコ・オノフリ(vn)イマジナリウム・アンサンブル

記念碑的名盤であるイル・ジャルディーノ・アルモニコの《四季》で、26歳にしてソリストを務めたエンリコ・オノフリ。指揮者としても円熟への道を歩む彼が、もっとも信頼するイマジナリウム・アンサンブルとともにふたたび《四季》に光を当てた録音。どこまでも鮮烈!



『LYS』
マリ・サムエルセン(vn)ほか


ジェンダー平等の意識の高まりは、クラシックの世界にも大きな影響をもたらした。女性作曲家の作品を集めたアルバムが数多くリリースされたが、これもその一枚。ヒルデガルト・フォン・ビンゲン からヒドゥル・グドナドッティル まで、古今の13人の女性作曲家の作品が収録されている。




『キャロライン・ショウ:エヴァーグリーン』
アタッカ四重奏団、キャロライン・ショウ(vo)


アルバム『オレンジ』でグラミー賞を受賞した、女性作曲家キャロライン・ショウとアタッカ四重奏団のコンビによる新作。12世紀フランスのトルヴェールの詩による作品、カナダ西海岸沖のスウィック(ガリアーノ島)の常緑樹林にある木への捧げた作品など、独自の世界を展開している。



『ホエアー・イズ・ホーム』
アベル・セラオコー(vc、vo、per)ヨーヨー・マ(vc)ほか


「ルーツ」も今の世界を読み解くキーワードのひとつだろう。クラシック音楽界にもさまざまなルーツを持つアーティストが登場しているが、南アフリカのチェロ奏者、アベル・セラオコーもそのひとり。バロック、自身のオリジナル、南アフリカの賛美歌が収録されたデビューアルバムでは、ヴォーカルやパーカッションも披露している。



『コロンビ-ナ~メディナ=シドニア公の音楽』
ファミ・アルカイ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)アカデミア・デル・ピアチェーレ



スペインのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ファミ・アルカイの新作は、セビリア大聖堂に付属するコロンブス図書館に5世紀にわたって所蔵されている『コロンビーナ歌集』からの音楽。スペインのルネッサンスの音楽遺産を生き生きと現代に蘇らせた。


 




24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」

■出演:原典子
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。番組HPはこちら

※当番組は12月末の放送をもって終了となりますが、e-onkyo music連載 “だけじゃない”クラシックは来月以降も継続致します。引続き宜しくお願い致します。



“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年11月 ◆ 夜の音楽
2022年10月 ◆ 日本の作曲家
2022年09月 ◆ アニバーサリー作曲家2022
2022年08月 ◆ 女王陛下の音楽
2022年07月 ◆ レーベルという美学
2022年06月 ◆ 今、聴きたい音楽家 2022
2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽



筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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