【7/1更新】 音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック

2021/07/01

4月よりe-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する新連載がスタート!その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。


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24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD

【新番組】「ハイレゾ・クラシック」
■出演:原典子  ■初回放送:2021年4月2日(金) 
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。
■番組HP→

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■❝だけじゃない❞ クラシック 7月のテーマ


ピアソラ生誕100周年



2021年はアルゼンチンのバンドネオン奏者・作曲家、アストル・ピアソラ(1921-1992)の生誕100年のアニヴァーサリー。アルゼンチン・タンゴにジャズやクラシックなどあらゆる要素を融合させ、新たな地平を切り拓いたピアソラだが、1990年代後半にギドン・クレーメルやヨーヨー・マらがその作品を取り上げたことで、クラシック界にも空前のピアソラ・ブームが訪れた。

それからさらに20年以上を経た現在も、ピアソラ作品は多くの音楽家たちによって演奏され、日々新たなケミストリーが生み出されている。なぜこうもピアソラの音楽はクラシックの音楽家を惹きつけるのか? その答えを探るべく、クラシック界におけるピアソラ最前線を追ってみた。


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ピアソラ・ストーリーズ
ルシエンヌ(tp)ほか


まずは1999年生まれのフランスのトランペット奏者、ルシエンヌがアニヴァーサリーに合わせてリリースした新作『ピアソラ・ストーリーズ』から。パリ国立高等音楽院でクラシックとジャズを同時に学び(そのような生徒は同校初だったそうだ)、さまざまなコンクールで優勝、2017年に18歳でワーナー・クラシックスと契約した天才少女のサード・アルバムである。このアルバムにおいてルシエンヌは、オーケストラや弦楽四重奏との共演、ギター(ティボー・ガルシア)とのデュエット、トランペット・ソロと、さまざまな形態でピアソラの多様性に迫っている。クラシックの作曲家を志していたピアソラが師事したヒナステラとナディア・ブーランジェの作品も収録されている。



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DOTS AND LINES
江戸誠一郎(fl)大萩康司(g)


1982年にピアソラがベルギーのリエージュ国際ギターフェスティバルの委嘱により作曲した《タンゴの歴史》は、フルートとギターのための作品としてクラシック界でも人気が高い。ブエノスアイレスの場末で奏でられていた陽気なタンゴを描いた第1楽章「娼窟 1900年」からはじまり、メランコリックな第2楽章「カフェ 1930年」、ピアソラが現れタンゴに革命を起こした第3楽章「ナイトクラブ 1960年」、そしてクラシックの作曲家にも影響を与えたタンゴが現代的に響く第4楽章「現代のコンサート」まで、タンゴの歴史を語る絵巻物のような作品。この江戸誠一郎と大萩康司のアルバムには、吉松隆の《デジタルバード組曲》も収録されており、それにより見えてくる風景もモダンに様変わりする。



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バッハとピアソラ
ニコラ・ジョリチ(アコーディオン)ほか


ピアソラといえばバンドネオンだが、こちらはオーストリア在住のセルビア人アコーディオン奏者によるアルバム。バッハのチェンバロ協奏曲と、ピアソラのバンドネオン協奏曲 《アコンガグア》が収録されている。1979年にブエノスアイレス銀行からの委嘱により、ラジオ放送用に作曲された協奏曲で、アコンガグアとは南米大陸最高峰の山の名前。タンゴとクラシックが混然一体となり、前人未到の高みに到達したピアソラの芸術をたっぷり味わうことができる。



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【もっと聴きたいピアソラ】




タンゴ・プレリュード~ピアソラ・ピアノ作品集~
黒田亜樹(p)

1998年にリリースされた黒田亜樹のソロ・デビュー・アルバム。ピアソラがピアノのために書いた作品をメインに収録。《ピアノのための組曲》はドビュッシーの影響を感じさせるし、《ピアノのための組曲 第2番》の「ワルツ」などはピアソラにこんな繊細な一面があったのかと驚く。


ピアソラ・ハイレゾ・トリビュート
ヴァリアス・アーティスト

高音質のレコーディングに定評のあるマイスターミュージックによる配信限定トリビュート・アルバム。新イタリア合奏団、ラ・クァルティーナ(チェロ・クァルテット)、川田知子(ヴァイオリン)&福田進一(ギター)、冨岡祐子(ソプラノ・サクソフォン)&田中拓也(バリトン・サクソフォン)ら、豪華な面々によるピアソラの代表曲を思う存分楽しむことができる。




Libertango
三浦一馬(バンドネオン)ほか

若手バンドネオン奏者として大活躍中の三浦一馬が、キンテート(五重奏)編成で録音したアルバム。キンテートとはピアソラ自身が生涯にわたって探求したバンド編成で、バンドネオン、ヴァイオリン、ピアノ、エレキ・ギター、コントラバスからなる。精鋭プレイヤーたちによる演奏は、ムンとした熱気をたちのぼらせながらも、スタイリッシュ。


ピアソラ:室内楽作品集
ヴィータ四重奏団

ポーランドのアコーディオン奏者、ミハエル・グロフカが2010年に結成したヴィータ四重奏団のデビュー・アルバム。アコーディオン、ヴァイオリン、ピアノ、コントラバスの4人組で、レパートリーの大半はピアソラだが、ジャズ・スタンダードや自作曲も演奏しているとのこと。グルーヴ感が素晴らしい。




Astor Piazzolla : Cierra tus ojos
ダニエル・ミル(アコーディオン)ほか

フランスのアコーディオンといえばミュゼットだが、そのイメージを革新したアーティスティックなプレイで人気のアコーディオン奏者、ダニエル・ミル。ベースと3本のチェロとの共演で録音したピアソラ・アルバムは、内省的でアンビエントな響きの世界が広がる。


ピアソラ:ブエノスアイレスの四季
レティシア・モレノ(vn)ほか

スペイン出身のヴァイオリニスト、レティシア・モレノがアンドレス・オロスコ=エストラーダ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と録音した《ブエノスアイレスの四季》(レオニード・デシャトニコフ編)。「夏」からはじまり(南半球の1年は夏からはじまる)、「秋」「冬」「春」と四季がめぐっていく。




ブエノスアイレスのマリア
小松亮太(バンドネオン)ほか

2013年6月29日に開催された《ブエノスアイレスのマリア》公演のライヴ・レコーディング。このタンゴ・オペリータ(小オペラ)の初演者であり、ピアソラの元妻でもあるアルゼンチンの国民的歌手、アメリータ・バルタールを招聘しての記念碑的公演の貴重なドキュメントである。

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“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽


筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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