e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。
"だけじゃない" クラシック 2月のテーマ
躍進する日本のピアニスト
ここ数年、日本国内のピアノ界隈の熱気がすごい。若く優秀なピアニストが数多く登場し、国際的なコンクールで次々と受賞しているうえ、SNSやYouTubeなどでの発信に長けているピアニストも多く、これまでクラシックを聴かなかった人々にまでファン層が拡大しているのだ。2021年のショパン・コンクールには反田恭平、小林愛実、角野隼斗、牛田智大をはじめ人気ピアニストがこぞって出場し、ドラマティックな展開に日本中が釘付けになった(そして今年の元旦には反田と小林の結婚まで発表された!)。そこで今月は、今まさに活躍のフィールドを広げている日本のピアニストについて、アルバムを聴きながらご紹介していきたい。
“だけじゃない”クラシック「躍進する日本のピアニスト」
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『アイデンティティ~フランク、武満徹、ラヴェル、ドビュッシー:ピアノ作品集』
三浦謙司(p)
2019年のロン=ティボー国際音楽コンクールで優勝し、一躍注目を集めた三浦謙司。ほかにも多くのコンクールで受賞を重ねているが、彼の紡ぎ出す音楽は決してコンクールに最適化されたテクニックだけのものでないことは、このデビュー・アルバムを一聴してすぐにお分かりいただけるだろう。『アイデンティティ』と題された一枚は、憂いを帯びたフランクのオルガン作品《前奏曲、フーガと変奏曲》からはじまり、武満、ラヴェル、ドビュッシー、そして最後にバンジャマン・ゴダールの《マズルカ第2番》で閉じられる。13歳で単身渡英、ロンドンとベルリンで音楽を学ぶも、一度音楽から離れて自身を見つめ直す期間を経て、ふたたびピアノと向き合った経験を持つ三浦。まだ20代とは思えない、深い思索と魂の成熟が伝わってくる。
なお、このアルバムの録音会場となったフランスのサン=フランブール礼拝堂は、戦後に自動車修理工場として使用されていたのを、1973年にジョルジュ・シフラが買い取り、若い芸術家のためのホールとして改修した場所とのこと。三浦が演奏しているピアノも、シフラが所有していたヤマハ製である。
『ブラームス:新しい道 - ピアノ・ソナタ第3番』
三原未紗子(p)
2019年の第26回ヨハネス・ブラームス国際コンクールピアノ部門にて優勝を飾った三原未紗子のデビュー・アルバム。ベルリン芸術大学、ザルツブルグ・モーツァルテウム音楽大学大学院で学び、2018年に帰国。ブラームスとの出会いは、師であるジャック・ルヴィエの「君の音はブラームスが似合うと思う」という言葉だったという。収録曲のメインとなるピアノ・ソナタ第3番は、20歳のブラームスがヨゼフ・ヨアヒムとシューマンというふたりの音楽家に出会った年に作曲された。『新しい道』というアルバム・タイトルは、この出会いに感動したシューマンが評論誌にブラームスについての記事を書いたときにつけたタイトルからきている。ドラマティックにはじまる第1楽章から、三原のスケールの大きな音楽に一気に惹き込まれる。クララも愛した第2楽章は、若き恋人たちの瑞々しい歌が聞こえてくるよう。5つの楽章それぞれの情景や感情を真摯に、そして大胆に描き出す演奏に、これからもっといろいろな作品を聴いてみたいと思わせる。
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【もっと聴きたい!躍進する日本のピアニスト】
『ラヴェル、リスト、J.S.バッハ:ピアノ作品集』
務川慧悟(p)
2019年のロン=ティボー国際音楽コンクールで第2位受賞をはじめ国際コンクールで数々の受賞を重ね、最近では反田恭平とのデュオでも話題を呼んでいる務川慧悟。パリ国立高等音楽院ではピアノだけでなくフォルテピアノも学び、フランス音楽、とくにラヴェルを十八番とする彼が2019年に録音したアルバム。透明感あふれる《クープランの墓》が印象的だ。
『ザ・デビュー』
實川風(p)
2015年のロン=ティボー国際音楽コンクールで第3位(1位なし)を受賞した實川風が、同年に録音したデビュー・アルバム。シューマン、チャイコフスキー、ショパン、ヌーブルジェによるロン=ティボー国際音楽コンクール委嘱作品、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番《ワルトシュタイン》など幅広いレパートリーを収録。王道に見えて、随所に独特の感性やアプローチが感じられるのが實川の魅力。
『イリュージョンズ』
阪田知樹(p)
2021年のエリザベート王妃国際音楽コンクールピアノ部門にて第4位入賞、2016年のフランツ・リスト国際ピアノコンクールで第1位に輝いた阪田知樹によるセルフプロデュース・アルバム。「“10 本の指×ピアノ1 台”で交響曲、協奏曲、歌曲、オペラなど様々な編成の“幻影(Illusion)”を聴き手に投影する」というコンセプトのもと、驚異的なヴィルトゥオジティで見たことのない景色を見せてくれる。
『バッハ・ピアノ・トランスクリプションズ』
福間洸太朗(p)
20歳でクリーヴランド国際コンクール日本人初の優勝およびショパン賞を受賞してから20年。これまでに発表したアルバムも20枚近くを数える福間洸太朗。考え抜かれたコンセプチュアルなプログラムでも高い評価を受ける彼だが、コロナ禍の不安のなか、自然と心が向かったのがバッハの音楽だったという。歴史に名を遺す大ピアニストたちによる「バッハの音楽に忠実な編曲」で編み上げた一枚。
『フロイデ』
金子三勇士(p)
日本人の父とハンガリー人の母との間に生まれ、6歳で単身ハンガリーに渡り、研鑽を積んできた金子三勇士。2022年にリリースされた本作には、リストが編曲したベートーヴェンの交響曲第9番から第4楽章を金子自身がアレンジしたスペシャル・ピアノ版「フロイデ」を収録。第九の歌詞にある「フロイデ」の意味は歓喜。閉塞感に満ちた世界に向けた、金子の力強いメッセージである。

『ショパン:夜想曲&小品集』
川口成彦(p)
ショパン・コンクールを主催するポーランド国立フリデリク・ショパン研究所が2018年に創設した第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位を受賞した川口成彦。このコンクールでも演奏された1842年製のプレイエルを使って録音されたショパン・アルバム。冒頭と最後に収められた歌曲「春」は、それぞれショパン自身による編曲版と、リストによる編曲版。
“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー
2023年01月 ◆ いま聴きたい来日アーティスト 2023
2022年12月 ◆ 世界の混沌と調和、そして音楽
2022年11月 ◆ 夜の音楽
2022年10月 ◆ 日本の作曲家
2022年09月 ◆ アニバーサリー作曲家2022
2022年08月 ◆ 女王陛下の音楽
2022年07月 ◆ レーベルという美学
2022年06月 ◆ 今、聴きたい音楽家 2022
2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽
筆者プロフィール
原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。
2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。