【8/1更新】 音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック

2021/08/01

e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する連載がスタート!その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。


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24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD

【新番組】「ハイレゾ・クラシック」
■出演:原典子  ■初回放送:2021年4月2日(金) 
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。
■番組HP→

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■❝だけじゃない❞ クラシック 8月のテーマ


ヴィオラの眼差し



8月の酷暑をやり過ごすには、どんな音楽を聴くのがいいだろう? と考えを巡らせていたとき、ふとヴィオラの深い音色が頭に浮かんだ。ヴァイオリンのように華々しく歌い上げるのではなく、人間の声にもたとえられる落ち着いたトーンで語りかけるヴィオラ。20世紀以降のレパートリーが多いということもあり、その現代的でひんやりとした肌触りは夏にぴったりではなかろうか。


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ヴィオラスペー10周年記念アルバム
今井信子川本嘉子菅沼準二川崎雅夫店村眞積須田祥子柳瀬省太(va)ほか


ヴィオラにフォーカスした世界にも類を見ない音楽祭として、1992年に今井信子の提唱によってスタートしたヴィオラスペース。「ヴィオラの礼賛」「優れたヴィオラ作品の紹介と新作発表」「若手の育成」を3本の柱に毎年意欲的なプログラムに挑戦し、今年で29回目を数えた。
このアルバムは、2002年のヴィオラスペース10周年にあたり、BISレーベルが録音したもの。委嘱作品である細川俊夫の《ヴィオラと弦楽のための「旅VI」》、林光の《ヴィオラ・ソナタ「プロセス」ヴィオラとピアノのために》という2作品をはじめ、ペンデレツキ、リゲティ、シュニトケらの作品を、日本を代表するヴィオラ奏者たちの演奏でたっぷりと味わうことができる。



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Hindemith: Bratsche!
アントワン・タメスティ(va)マルクス・ハドゥラ(p)
パーヴォ・ヤルヴィ指揮、hr交響楽団


ヴィオラスペースの共同芸術監督も務める世界屈指のヴィオラ奏者、アントワン・タメスティによるヒンデミットの作品集がこちら。アルバム・タイトルの「Bratsche」とはドイツ語でヴィオラのことである。
ヴィオラ奏者としても活躍したヒンデミットは、ヴィオラのための作品を多く残しているが、タメスティはこのアルバムで無伴奏、ピアノとのデュオ、オーケストラとの協奏曲という3つの異なる編成の作品を選び、その魅力を伝えている。調性の枠を超えた音楽を書いたヒンデミットだが、《白鳥を焼く男》に取り入れられた民謡など、随所にちりばめられた美しい旋律ではタメスティの歌が郷愁を誘う。



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孤独の歌―ヴィオラ・ソロの音楽
戸川ひより(va)


マスク姿のジャケットそのままに、コロナ禍の今だからこそ生まれたアルバム。戸川ひよりは、日本とオーストラリアをルーツにもち、ドイツで育ったヴィオラ奏者。2014年のヨハネス・ブラームス国際コンクールで第2位を受賞した実力の持ち主である。
戸川はアルバム制作にあたり、細川俊夫、ヨハンナ・ドーデラー、ホセ・セレブリエール、ティグラン・マンスリアン、大島ミチル、カレヴィ・アホ、ジョン・パウエル、クリスティーナ・スピネイ、リーアン・サミュエル、ゲイブリエル・プロコフィエフ、フェデリコ・ガルデッラら世界各国の作曲家たちにヴィオラのための無伴奏作品を委嘱した。それぞれの作曲家が、別々の場所で「孤独のとき」を過ごしながら綴った作品たちが、このアルバムに集められ、バッハの無伴奏チェロ組曲を曲間に挟みながら戸川によって奏でられると、不思議と孤独が安らぎへと色を変えていく。



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【もっと聴きたいヴィオラ】




レーガー: 無伴奏ヴィオラ組曲第1番~第3番、ヴィオラ・ソナタ今井信子(va)ロナルド・ブラウティハム(p)

レーガー最晩年の1915年に書かれた無伴奏ヴィオラ組曲は、高く評価されたオルガン作品と同様、バッハの様式を再現した擬古典的作品。ストイックな無伴奏から一転、甘やかなヴィオラ・ソナタでは、フォルテピアノの名手でもあるロナルド・ブラウティハムのピアノとの共演という点でも注目だ。


J.S.バッハ:無伴奏ヴィオラ組曲
キム・カシュカシャン(va)

ECM New Seriesの顔とも言うべきキム・カシュカシャンが、満を持してヴィオラで挑んだバッハの無伴奏チェロ組曲。チェロの深遠な音色とはまた違う軽やかさがありつつ、どこか影を帯びた音色は、まさに「ヴィオラの眼差し」という感じ。




ウォルトン:ヴィオラ協奏曲、ブルッフ:コル・ニドライ&ロマンツェ、ペルト:フラトレス』/ニルス・メンケマイヤー(va)マルクス・ポシュナー指揮 バンベルク交響楽団

ウォルトンのヴィオラ協奏曲は、当時最高のヴィオラ奏者だったライオネル・ターティスのために作曲されたが、ターティスが気に入らず、初演の独奏をヒンデミットが務めたという作品。今ではヴィオラの重要レパートリーとなったこの曲を、現代ヴィオラ界の俊英ニルス・メンケマイヤーが奏でる。


Progetto Gibson - A legendary Stradivari Viola
レヒ・アントニオ・ウジンスキ(va)アンドレイ・ドラガン(p)

世界に12 挺しか現存しないというストラディヴァリウス製作のヴィオラによる録音。演奏するのはチューリヒを拠点に活動する弦楽四重奏団、ストラディヴァリ・カルテットのヴィオラ奏者であるレヒ・アントニオ・ウジンスキ。




Permutations‐順列 ~エリーシャ・ネルソン ヴィオラ・リサイタル』/エリーシャ・ネルソン(va)ジェームズ・ホウスモン(p)

現代アメリカの作曲家による5つのヴィオラのための作品を収録(カプースチンはアメリカ人ではないがジャズの要素が含まれるのでアメリカ音楽に入るとのこと)。現代作品といっても、5曲がまったく違う表情を見せる。

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“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽


筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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