【7/12更新】音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック

2022/07/12

MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」連動企画!e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する、その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。

"だけじゃない" クラシック 7月のテーマ


レーベルという美学



どのアルバムを聴こうか迷ったとき、演奏者やプログラムで決めるのではなく、レーベルで選ぶのもひとつの手だ。これだけ多種多様な音楽がネットを介して広く流通している今も、レーベルごとに共通するカラーやアイデンティティは存在する。そこで今月は、世界の個性豊かなインディペンデント・レーベルのアルバムをご紹介していきたい。



★☆★



『母親たちが戦ってきたことのすべて』
エヴァ・ホルム・フースネス指揮 室内合唱団アウルム


ノルウェーの「2L」は、オーディオファンの間ではカリスマ的な人気を誇るレーベル。音質に並々ならぬこだわりを貫き、グラミー賞でも「最優秀サラウンド音響アルバム」や「最優秀エンジニアアルバム」といった賞を受賞し、高く評価されている。「ジャンルという軛からの解放」をモットーにしており、クラシックの枠におさまらない現代的なコンセプトのアルバムを多数リリースしているのも特徴的だ。

今年リリースされた『母親たちが戦ってきたことのすべて』というアルバムも2Lらしい一枚。指揮者のエヴァ・ホルム・フースネスが、ノーベル平和賞を受賞したパキスタンの女性マララ・ユフスザイに寄せた詩に作曲した《マララ》をはじめ、ノルウェーで活動する作曲家たちの7つの作品が収録されている。いずれも女性の生き方や、母親たちの日常を描いたクリティカルな視点を持つ作品だが、2Lが得意とする教会録音による高クオリティの合唱音楽としても純粋に味わうことができる。

 


『別れ~別れの歌』
キャロリン・サンプソン(S)
クリスティアン・ベザイデンホウト(fp)


スウェーデンの「BIS」は、1973年にロベルト・フォン・バールによって創立されたレーベル。シベリウスの作品をすべて録音することに心血を注いできたが、それというのも、フォン・バールの曾祖父であるカール・フレドリク・ワセニウスという人物はシベリウスを支援した音楽評論家で、彼が使っていたペンネームが「BIS」だったという縁がある。世界的なレーベルに成長してからも、知名度に関わらず優れた音楽家を発掘し、世に紹介してきた。BISによって世界に知られるようになった団体には、鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンも含まれる。
ここにご紹介するアルバムは、人気フォルテピアノ奏者クリスティアン・ベザイデンホウトの、BISレーベル初登場となる一枚。キャロリン・サンプソンと18世紀のドイツ、オーストリアで活躍した作曲家の歌曲を録音した。モーツァルトやハイドンだけでなく、彼らと同時代を生きたアウグスト・ベルンハルト・ヴァレンティン・ヘルビング、フリードリヒ・ゴットロープ・フライシャー、ミヒャエル・クリスティアン・ヴォルフの作品も収録されている。「別れの歌」に、フォルテピアノのひそやかな、どこか鄙びた音色がぴたりと寄り添う。



★☆★




【もっと聴きたい! 世界の個性派レーベル】




『おとぎ話』
クリスチャン・グローヴレン(p)

「2L」レーベルのピアノ・ソロ・アルバム。ノルウェーのピアニスト、クリスチャン・グローヴレンが「おとぎ話」をテーマに、ゲイル・トヴェイト、クリスチャン・シンディング、アルフ・フールム、エドヴァルド・グリーグといった自国の作曲家の作品を収録。透徹した音色と詩情豊かな演奏に、北欧の幻想的な風景が眼前に広がる。


『国境なきピアノ曲』
ジャン・チャクムル(p)

「BIS」レーベルからリリースされたジャン・チャクムルの新譜。1997年トルコ生まれ、2018年の浜松国際ピアノ・コンクールの優勝者であるチャクムルが、バルトーク、ミトロプーロス、エネスコ、そしてトルコ最大の作曲家アフメド・アドナン・サイグンの作品を収録。「Without Borders(原題)」というアルバム・タイトルにふさわしい、東西の邂逅を感じる。




『モンテヴェルディ:メモリーズ』
カタリーナ・ボイムル指揮カペラ・デ・ラ・トーレ
(ルネサンス管楽器アンサンブル)ほか


「deutsche harmonia mundi(ドイツ・ハルモニア・ムンディ)」はドイツの古楽レーベル。フランスの「harmonia mundi」とは同じく1958年の創立ながら別会社で、創業者同士が友人だったので互いにディストリビューションし合っていたとのこと。本作はルネサンス管楽器アンサンブル、カペラ・デ・ラ・トーレがモンテヴェルディの作曲技法を解き明かす一枚。


『パウル・ヴラニツキー:交響曲集』
ベルリン古楽アカデミー
(ピリオド楽器オーケストラ)


ベルリン古楽アカデミーのdeutsche harmonia mundiでの初レコーディング。パウル(パヴェル)・ヴラニツキーはモーツァルトと同時代を生きた作曲家で(モーツァルトの死後、未亡人コンスタンツェが亡き夫の作品を出版するための手助けをしたことでも知られる)、10の歌劇、44の交響曲、その他数多くの作品を遺した。生前はウィーンでもっとも重要な作曲家とされていたヴラニツキーの革新性を生き生きと伝える録音。

 




『ビーバー:ヴァイオリン・ソナタ集』
リナ・トゥール・ボネ
(バロックvn、ヴィオラ・ダモーレ)

ムジカ・アルケミカ

「Glossa」はスペインの古楽レーベル。フランス・ブリュッヘン&18世紀オーケストラや、エルヴェ・ニケ&コンセール・スピリテュエルなど、世界の古楽界をリードするアルバムをリリースしてきた。本作はスペインのバロック・ヴァイオリニスト、リナ・トゥール・ボネと彼女のアンサンブル、ムジカ・アルケミカのGlossa移籍第1弾アルバム。まるでロックスターのようにエキサイティングな演奏だ。


『ヴィヴァルディ:フルート協奏曲集』
カルロ・イパタ(fl&指揮)
アウセル・ムジチ



Glossaからリリースされたバロック・フルートの名手、カルロ・イパタのアルバム。自身で創設した古楽アンサンブル、アウセル・ムジチとともにヴィヴァルディのフルート協奏曲集を録音した。手稿譜なども参照しながら、印刷譜の多くの問題を解決し、レコーディングに臨んだとのこと。

 




『Three Or One~バッハ編曲集』
フレッド・トーマス(p)
アイシャ・オラズバエヴァ(vn)
ルーシー・レイルトン(vc)

個性派レーベルといって誰もがいちばんに思い浮かぶのが「ECM」だろう。もとはジャズ専門のレーベルだったが、1984年、アルヴォ・ペルトの作品集『タブラ・ラサ』をリリースし、クラシックを扱う「ECM New Series」をスタートする。本作はピアニストのフレッド・トーマスが、現代音楽を演奏していた友人たちと、自身の編曲でバッハを演奏したアルバム。


『ヤナーチェク:《草陰の小径にて》
弦楽合奏版、スーク:瞑想曲、ヴォルザーク:夜想曲』

カメラータ・チューリッヒ、
イゴール・カルスコ(コンサートマスター)

ヤナーチェクの15曲からなるピアノ曲集《草陰の小径にて》を弦楽オーケストラに編曲したアルバム。スークの《コラール「聖ヴァーツラフ」の主題による瞑想曲》と、ドヴォルザークの《夜想曲》を併録。さらにフランスの女性作家マイア・ブラミが《草陰の小径にて》の新しい編曲に付随する詩を書き、作家自身の朗読で収録されている。






24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD「ハイレゾ・クラシック」

■出演:原典子
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。番組HPはこちら



“だけじゃない”クラシック◆バックナンバー

2022年06月 ◆ 今、聴きたい音楽家 2022
2022年05月 ◆ 女性作曲家
2022年04月 ◆ ダンス
2022年03月 ◆ 春の訪れを感じながら
2022年02月 ◆ 未知なる作曲家との出会い
2022年01月 ◆ 2022年を迎えるプレイリスト
2021年12月 ◆ 2021年の耳をひらいてくれたアルバム
2021年11月 ◆ ストラヴィンスキー没後50周年
2021年10月 ◆ もの思う秋に聴きたい音楽
2021年09月 ◆ ファイナル直前!ショパン・コンクール
2021年08月 ◆ ヴィオラの眼差し
2021年07月 ◆ ピアソラ生誕100周年
2021年06月 ◆ あなたの「推し」を見つけよう
2021年05月 ◆ フランスの響きに憧れて
2021年04月 ◆ プレイリスト時代の音楽



筆者プロフィール








原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。

 

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