尺八が吹き鳴らす怪獣の咆哮!伊福部昭『SF交響ファンタジー』驚愕の和楽器ヴァージョン、配信開始

2019/08/02
日本一有名なあの怪獣の咆哮を、総勢30人が「和楽器」で奏でる……!?2014年にレコーディングされた驚愕のライヴを、特殊技術「eilex HD Remaster」でアップコンバート。西洋楽器とは趣の異なる個性的な音色や絶妙な間合いを堪能できるアルバムが配信開始されました。

『和楽器 vs SF交響ファンタジー - 「日本音楽集団」創立55周年記念コンピレーション[eilex HD Remaster]』
日本音楽集団


PRO MUSICA NIPPONIAレーベル

日本音楽集団
稲田康(指揮)Tr1-3/苫米地英一(指揮)Tr4

Tr1 伊福部昭: SF交響ファンタジー(邦楽器版/秋岸寛久編)
Tr2-3 伊福部昭: 日本狂詩曲(日本音楽集団版/和田薫編)
Tr4 伊福部昭: 交響譚詩(日本音楽集団版/秋岸寛久編)
Tr5-9 長澤勝俊: 子どものための組曲


  • 「ヤバイ。この音源、絶対ハイレゾで聴いてほしい

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  • 「私たちの団体の音源を世界に配信したい」
  •  日本音楽集団の担当者から、配信流通元のナクソス・ジャパンに相談があったのが、2019年ゴールデンウィーク前のこと。
  • 日本音楽集団といえば、創立55周年を誇る音楽団体。日本人作曲家のオリジナル作品から西洋のクラシック音楽まで、さまざまな楽曲を和楽器で奏でる楽団として知られています。
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    • 日本音楽集団
      (2010年11月17日 第201回定期演奏会
      長澤勝俊「子どものための組曲」ライブ演奏)

  •  きっと貴重なアーカイブとして、純邦楽や、和楽器を用いた現代作品に興味のある方々に愛聴していただけるだろう。
     そう思いつつ、送られてきた定期演奏会の「SF交響ファンタジー」のサンプル音源を再生して5秒後……
    「…………!???」
     驚愕のあまり言葉を失うナクソスのスタッフ。
    空気をビーンと振動させる三味線や琴、蒸気を噴き上げるように咆哮する尺八、「カーン」「ドガーン」「ドコドコドコドコ」と後方から雷鳴のように響く打楽器……。

    ヤバイ。
    この音源、絶対ハイレゾで聴いてほしい。
    ただアーカイブにして「知っている人に聴いてもらう」だけじゃもったいない。

    低くうなるチェロ、打鍵のコントロールで空気を震わせるチェンバロ、誰がどの位置にいるかイメージできるフルオーケストラ……
    こうしたサウンドにゾクゾクする人なら、この音源、転げ回るくらいに面白がってもらえるはず。

     しかし、残念ながらハイレゾ音源はお持ちでない……とのこと。
    でも、この音源、どうしてもハイレゾファンに届けたい。膨大なアーカイブの全部は難しくても、せめて名演を集めたコンピレーション1作だけでも。

    そこで相談したのが、ナクソス発のヒット作『ハイレゾクラシック the First Selection (eilex HD Remaster version)』や『蜜蜂と遠雷 音楽集』のリマスターをお願いした堀部公史氏。

    「eilex HD Remaster」は、アイレックス社の独自開発技術を使用した高音質化エンジニアリング。「自然な倍音の補完」にこだわり、「レコーディング時には存在していたが、マイクが取りこぼして失ってしまった本来の音」を、独自の方法で驚くほど自然に再構築することができます。

    珍しい和楽器の音源ということで、快くお引き受けくださった堀部氏。作業後、「自信作です」と一報が入りました。

    アコースティックな楽器は、アップサンプルすると空気感が蘇りますね。オーディオマニアにもウケると思います

    試聴した日本音楽集団・作曲家の福嶋頼秀氏も、

    「空間の広がり感がまったく違って、非常に生き生きと聞こえますね。その違いに驚きました。よりナチュラルというか、余裕がある感じです」

    とコメント。リマスター制作者もレーベル側も大満足の、ハイレゾ・リマスター・コンピレーションが完成しました。

 

  • 邦楽器版「SF交響ファンタジー」~楽器構成


 いわば「和楽器のオーケストラ」のようなスタイルで、古今東西のさまざまな作品を演奏する日本音楽集団。
 いったいどんな楽器が用いられているかというと……。

「オーソドックスな編成は、「管楽器(篠笛、尺八)」「有棹弦楽器(三味線、琵琶)」「箏(二十絃、十七絃)」「打楽器」です。しかし「SF交響ファンタジー」はもっと厚い音が必要なため、さらに「笙(しょう)」「篳篥(ひちりき)」「胡弓(こきゅう)」などの音にインパクトがある楽器を追加しています。人数も多く、30名編成です」(福嶋氏)


その30名の編成は、以下の通り。

<管楽器> 10名
笙 1名
篳篥 1名
篠笛 2名
尺八 6名

<有棹弦楽器> 6名
三味線 3名
琵琶 2名
胡弓 1名

<箏> 10名
二十絃 6名
十七絃 4名 

<打楽器> 4名
打楽器 4名


伊福部昭オーケストラ作品(日本音楽集団バージョン)での演奏の様子



ここで、和楽器の知識がまったくないナクソスのスタッフから、3つほど素朴な質問。

──「二十絃」「十七絃」ってなんですか?

「箏(琴)の種類です。本来、箏(琴)は十三絃(13本の弦)です。これに対して、近現代の作品に対応するために誕生したのが、20本の弦をもつ二十絃です。その後の改良により、弦はさらに増えて21本になりましたが、今も変わらず二十絃と呼びます。
十七絃は、『春の海』で有名な宮城道雄が発明した楽器です。これは箏よりも音が低く、西洋の弦楽器でいうチェロのような役割を果たします」(福嶋氏)


二十絃



──打楽器ってどんなものがあるんですか?

「おもなものとして、まずは太鼓群ですね。

締太鼓(しめだいこ・最高音)
桶胴太鼓(おけどうだいこ・高音/低音)
大太鼓(最低音)

を、セットドラムのように組み合わせて使用することも時々あります。他にも皆さんおなじみの銅鑼(どら)や、妙鉢(みょうはち)というシンバルのような楽器、鼓や、木魚におりんといった仏具を楽器にしてしまうこともあります」(福嶋氏)



大太鼓


──尺八の人数が多いですね!

「尺八は印象的な音色の楽器ですが、これほど大編成だと音がマスクされやすいので、たくさんの人数を動員しています。この効果は「SF交響ファンタジー」のクライマックスの部分にもよく現れていると思いますよ」(福嶋氏)































  • 尺八


邦楽器版「SF交響ファンタジー」~聴きどころピックアップ


さて、そんな邦楽器版「SF交響ファンタジー」。
日本を代表する作曲家、伊福部昭が、それまでに手がけた「ゴジラ」「宇宙大戦争」といった数々のSF映画音楽をメドレーのようにつないで演奏会用に仕上げた作品です。原曲はフルオーケストラの作品(「SF交響ファンタジー第1番」)です。

聴きどころを7つ、ピックアップしてみました。




① 0:00:40~
嵐の後の砂煙のように冒頭おなじみのテーマの余韻が消える中、ゆっくりと静かに、しかし決然と立ち上がる二十絃の緊張感!映画『ゴジラ』シリーズでもおなじみの部分です。

② 0:00:57~
徐々に音量とテンポを上げながらかの有名な変拍子のテーマに到達するMAXエモーショナルな展開!

③ 0:01:45~
原曲のオーケストラには存在しないアタックの速いサウンドが生み出す独特のダイナミズム!篠笛、尺八、笙、三味線、琵琶、二十絃、十七絃、桶胴太鼓が総動員された迫力のあるシーンです。

④ 0:02:35~
アタック感を弱めた二十絃のストロークが醸し出す不穏さ + 恐怖を煽るかのように下降する胡弓のポルタメント(半音階の間を切れ目なく移動する奏法)!

「ここの半音で下がる部分はとても難しいんです。和楽器は楽器の構造上、半音進行は不得手で、ここでは糸を押して音程を上下させる「押し手」という奏法を連続して使っています。ここがちゃんと西洋音階における半音のように聴こえるのがプロの証、と自負しています」(福嶋氏)

⑤ 0:04:52~
舞台の奥から、美しい夜曲のメロディーを奏でる尺八と胡弓のユニゾンに注目! 上昇系ポルタメントと琵琶・二十絃・十七絃のトレモロが幻惑的なムードを演出します。

⑥ 0:06:24~
再び現れる冒頭のテーマ。持続する大太鼓によって呪術的なムードが加わる中、篠笛、尺八、篳篥、胡弓の叫びと、グリッサンド(高音から低音まで多くの弦を一気に上下させる)で雪崩打つ二十絃が阿鼻叫喚のカタストロフを演出します!

「ここは「非常に強い」という意の音楽記号、フォルティッシッシモ(fff)が指定されています。尺八の場合は「むら息」という奏法を使って、一斉に「ぶぉー」という音を出します。この音によって暴力的な印象が強められているかと思います」(福嶋氏)

⑦ 0:07:54~最後まで
伊福部作品の真骨頂とも言える反復されるビートが鼓動を打ち続けながらクライマックスへ!全ての楽器、30人が折り重なりながらリズムの表情を変えていくさまをお聴きください!





















ライブ録音会場の第一生命ホール


「伊福部昭の作品(Tr1~4)は、実は日本の古典音楽そのものというより、大陸的なサウンドの音楽です。本来、和楽器でこれを再現するのは非常に難しいのですが、さまざまな創意工夫でもって近づけようとしているさまを楽しんでいただけると思います。
これに対して、長澤勝俊の『子どものための組曲』(Tr5~9)は、より和楽器の本来の特性に近い、どちらかというと室内楽的な響きの作品です。伊福部作品とのコントラストが味わえると思います」(福嶋氏)

『和楽器 vs SF交響ファンタジー - 「日本音楽集団」創立55周年記念コンピレーション[eilex HD Remaster]』は、2019年8月2日より192kHz/24bitで配信開始。ハイレゾファンの皆様の好奇心にお応えし、ハイレゾで聴ける新たな「音」を提案する企画コンピレーションです。

 

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