【新連載】生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」 第0時限目

2018/10/19
音元出版が発行するオーディオ雑誌「NET AUDIO」誌との連動企画【生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」】がスタート!本企画は、オーディオアクティヴィスト(音楽家/録音エンジニア)、そして評論家としての肩書を持ち、オーディオファンのみならず、録音愛好家や音楽ファンからも支持を得る、生形三郎氏を講師にお迎えし“クラシック音楽の頻出ワード”を1から分かりやすく解説。そして関連する音源を合わせてご紹介することで、クラシック音楽の魅力をより深く知っていただこう、という連載企画です。

「NET AUDIO」誌Vol.32より掲載される、生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」とあわせてお楽しみください。

 

講座一覧


第0時限目
1時限目その1「中世~ルネサンス」
1時限目その2「バロック期」
1時限目その3「古典派」
1時限目その4「ロマン派」
1時限目その5「近代」
1時限目その6「現代」
2時限目「ピアノ」
2時限目「ピアノ」 その2

 


◆第0時限目「クラシックこそオーディオ最大の試金石である」

 e-onkyo musicを利用される皆さんは、勿論オーディオ好きの方が多いかと思います。その中で、ともするとクラシックに興味を持ってはいるものの、なかなかとっつきにくくて敬遠されているという方も多いのでは、と拝察します。しかしながら、オーディオ趣味にとって、再生が困難なソースが多く実に「鳴らし甲斐がある」クラシック音楽を聴かない、楽しめない、というのもとても残念なことです。

 クラシックがとっつきにくい理由として、私は、大きく2つの要因があるのでは、と考えます。第一に、そもそも音楽の聴き方が異なるということ。クラシックとポップスなどでは、音楽の作られ方が違うからです。一般的なポップスの曲で、例えば、Aメロ、Bメロ、サビ、という構成があったとします。そしてそれらの間には、必然的な音楽的関連はなく、歌詞というひと続きのくさびで関係性が構築されてひとつの作品となっている場合がほとんどです。しかし、クラシックの場合、根本的にはそうではありません。クラシックでは、ラフにいってしまえば、最小単位のモティーフ(動機という)があり、それを発展させて構築していくことで作品を形作るという美学的な制作側面があります。よって、メロディの良さが重視されるポップスと異なり、ハーモニー(和声)や調性、リズムはもちろんのこと、楽章間にまたがってのそれらの連関なども踏まえて発展・展開させて作曲していくことが重視されるのです。従って、単にメロディだけを追った聞き方をしていると、何の面白味も感じられない=退屈、ということが容易に起きてしまいます。クラシックは、ある種の頭脳ゲーム的な要素も含まれるのです。

 そして第二に、演奏によって楽曲の感じられ方が180度変わってしまうという性質があります。クラシックは、楽譜をもとに演奏者それぞれの解釈で演奏を行ないます。それも、録音物として演奏が残っていない時代の作品が多数ですので、演奏のやり方によっては、全く別の曲に聞こえてしまうくらいの差が出るわけです。それが肌に合うか合わないかで大きく感じ方が変わってしまい、ある程度の数の演奏ヴァリエーションを聞いた上でようやくその曲の真意が理解・共感できる、ということも大いにありうります。

 それらのとっつきにくさを取り払い、クラシック攻略の突破口を見つけていこうというのがこの企画です。なかなかに困難な命題ですが、毎回切り口となるテーマを定めて、膨大な数のクラシックの配信楽曲数を誇るe-onkyo musicのライブラリーから作品や演奏を紹介しつつ解説していく予定です。さらに、筆者が執筆しているNet Audio誌(音元出版刊)というオーディオ雑誌との連動企画として立ち上がりました。このウェブサイトの連載では、おもに音楽的な側面から、そしてNet Audio誌の連載では、オーディオ的な側面からクラシックの攻略にアプローチして連動するつもりですので、誌面も併せてお楽しみ頂ければ幸いです。



【オンキヨー両国オフィス内試聴室に突撃!】

 なお、初回は連載0回目の企画紹介編ということで、国内ハイレゾ配信サイトの先駆け的存在e-onkyo musicの本拠がある(編集部注:2018年9月当時)オンキヨー両国オフィスに突撃してきました。そこに設けられた試聴室にて、クラシックのニューリリース音源(2018年9月取材時)6タイトルを試聴してきました。この部屋は、様々な試聴テストやオンキヨー&パイオニア製品開発のリファレンス環境としても用いられているそうです。



 機材構成は、まずスピーカーにB&W Nautilus 801。B&Wといえばアビーロードスタジオをはじめとする、さまざまなメジャースタジオのリファレンススピーカーブランドとしても有名です。旧モデルであるMatrix801は、カラヤンが愛用したことでも知られる、まさに近代クラシック録音のリファレンス的存在。そして、そのB&Wを駆動するのはアメリカンハイエンド、PASSのパワーアンプとマークレビンソンのプリアンプ。両者ともに、素直な音色感を持ちつつも、極めて充足度の高い端正な鳴りが楽しめるアンプと言えます。そしてプレーヤーは、パイオニアのフラッグシップ・ネットワークプレーヤー「N-70AE」。こちらは、モニター的でストレートなフラットサウンドを持ちつつも、音が硬くならない、パイオニアならではのウェルバランスな魅力が光るハイコストパフォーマンス機です。部屋内は残響が適切に抑えられ、音そのものの響きが大変に聞き取り易い環境。これらのシステムからは、リファレンスたる端正な音色の中に、芳醇な味わいを秘めたサウンドが奏でられていました。


【試聴したタイトルとその感想】


『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)』
/マット・ハイモヴィッツ

 流れるような気品に満ちたアーティキュレーションで紡がれるマット・ハイモヴィッツのバッハ無伴奏チェロ組曲。A’=415Hzで調弦された1710 年製のチェロ(マテオ・ゴフリラー)からは、独特の軽やかさと木質的な粘りを伴ったサウンドが引き出された。



『浄められた夜~ハイドン&シェーンベルク』
/アリサ・ワイラースタイン,トロンハイム・ソロイスツ

 女性的な滑らかさを湛えたチェロサウンドが楽しめるのは、女流チェリスト、アリサ・ワイラースタインによるハイドンとシェーンベルク。蕩けるように融和する、その上質な弦楽のハーモニーは、まさに天上的な心地よさを味わわせた。



『ドビュッシー:前奏曲集第1巻、サティ:グノシェンヌ&ジムノペディ』
/ファジル・サイ

 ファジル・サイ来日記念タイトル。たっぷりと捉えられた残響を纏うピアノの音像は、ディティールと全景の描写が絶妙だ。巧みなタッチの強弱によって刻々と変化するピアノの音色が、楽曲が呼び起こすイマジネーションを増大させ、その世界に引き込まれた。



『ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱》』
/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団, レナード・バーンスタイン

 1979年のライヴ・レコーディング。饒舌かつスウィートなウィーンフィル・トーンが、ライヴならではの臨場感と共に味わえる名演だ。弱音で細やかに響き渡る、色彩豊かな木管楽器の音色も実に心地よかった。勿論、ラスト第4楽章の着実なテンポ感での情感溢れる合唱も聴き応え十二分。



『Mozart: Late Symphonies』
/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ヘルベルト・フォン・カラヤン

 主に1975年~77年にカラヤンがベルリンフィルと録音したモーツァルトの後期交響曲が収められたタイトル。一糸乱れぬ高い統制で描かれるカラヤンサウンドが聴きどころ。モーツァルトならではの流麗な楽曲を、ストイックかつ筋肉質な演奏と滑らかなサウンドで楽しめた。



『ムソルグスキー:展覧会の絵&はげ山の一夜』
/Paavo Jarvi, NHK Symphony Orchestra, Tokyo

 パーヴォ・ヤルヴィ&N響のレコーディングプロジェクト第二弾。ダイナミックかつ情景的なムゾルグスキーの世界観を堪能できる。ヤルヴィ率いるN響の繊細かつ丁寧な筆致が、上質で見通しの良い高精細サウンドで描かれる様が快感だった。




生形三郎 プロフィール

オーディオ・アクティヴィスト

音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家。昭和音楽大学作曲学科首席卒業。東京藝術大学大学院修了。音楽家の視点を活かした録音制作やオーディオ評論活動を行なう。「オーディオ=録音⇔再生」に関して、多角的な創造・普及活動に取り組む。各種オーディオアワード及びコンテスト審査員を務めるほか、スピーカー設計にも積極的に取り組む。

オフィシャルサイト


◆季刊・Net Audio vol.32 Winter 2018年10月19日全国一斉発売



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