鈴木大介が8弦ギターで挑む新境地!『浪漫の薫り』リリース記念インタビュー

2023/08/23

8弦ギターで紡ぐシューベルト、ショパン、メンデルスゾーン──ロマン派作曲家たちの夢のまほろば


2018年以降、世界で活躍する才能あるアーティストの作品を次々と配信解禁。
DSDレコーディングをポリシーとし、高品位な録音を世に送り出し続けているアールアンフィニ・レーベルから、待望の新譜がリリースされました。
日本を代表するクラシックギタリスト、鈴木大介の最新アルバムです。

2023年8月23日リリース
『浪漫の薫り』
鈴木大介(ギター)

収録曲:
1. シューベルト: 音楽に寄せて Op. 88, No. 4, D. 547(鈴木大介によるギター編)
2. シューベルト: アヴェ・マリア Op. 52, No. 6, D. 839(N.I. アレクサンドルフ、鈴木大介によるギター編)
3. シューベルト: 子守唄 Op. 98, No. 2, D. 498(N.I. アレクサンドルフによるギター編)
4-11. ショパン: マズルカ第1番~第8番(J.N. ボブロヴィッツによるギター編)
12. メンデルスゾーン: ヴェネツィアの舟唄 - No. 1 ホ短調(ト短調) Op. 19, No. 6(鈴木大介によるギター編)
13. メンデルスゾーン: ヴェネツィアの舟唄 - No. 2 ニ短調(嬰へ短調) Op. 30, No. 6(鈴木大介によるギター編)
14. N. コスト: ジュラの思い出(アンダンテとポロネーズ) Op. 44
15. J.K. メルツ: ハンガリー風幻想曲 Op. 65, No. 1
16. J.K. メルツ: シュルホフの思い出(コンサートマズルカ)
17. J.K. メルツ: 吟遊詩人の歌 Op. 13 - 無言歌

録音:
2022年9月6日&7日 アールアンフィニ・レーベル

鈴木大介は、日本を代表するクラシックギタリスト。
作曲家の武満徹から「今までに聴いたことがないようなギタリスト」と評され、クラシック作品のみならずジャズやタンゴ奏者との共演、現代作品、自作曲作品など多彩なジャンルを演奏し続けています。また、活動はソロ・リサイタルにとどまらず、アンサンブル、コンチェルト、さらに美術作品とのコラボレーションなどでも注目を集めています。

録音も多数あり、アールアンフィニ・レーベルからは2020年に『シューベルトを讃えて』、2021年に『ギターは謳う』をリリース。それぞれハイレゾリスナーから大反響を呼びました。

そんな鈴木大介のこのたびのニュー・アルバムは、自身にとって初となる「8弦ギター」の録音。
今日のクラシック・ギターは6弦が主流で、これまでもすべて6弦ギターで録音を行ってきました。鈴木はなぜこのたび、あえて8弦ギターの録音に挑んだのでしょうか。
ギターの歴史、ロマン派の作品を8弦ギターで奏でる意義、そしてアールアンフィニの録音の魅力。本作についてたっぷりと語っていただきました。

 

鈴木大介 『浪漫の香り』リリース記念インタビュー


「作曲家たちが思い描いたであろう音楽の姿を、現代の人々により伝わりやすく演奏する」


──『浪漫の香り』のリリースおめでとうございます。今回、はじめて8弦ギターでの録音をされたということですが、そもそも8弦ギターとはどのようなものなのでしょうか。また、スタンダードな6弦ギターとはどのような違いがあるのでしょうか。


鈴木大介(以下鈴木):ギターが6本の単弦に落ち着いたのは、19世紀初頭のことです。ギターは扱いやすさや親しみやすさと、市民革命後のブルジョワ層でのクラシック音楽の普及の流れに乗って大ブームとなりました。その中で、19世紀前半には優れたギター奏者(兼作曲家)がたくさん現れました。
しかし1840年代になると、ピアノが庶民の生活圏にまで浸透しきったのと同時に、急速にギターのブームは去ってゆきました。それでも、そのような人気衰退の時代を生きようとした、たくさんの洗練された、音楽的才能に恵まれたギタリストたちがいたのです。そして彼らの多くは、通常のギターの6本の弦の外側に「番外弦」という低音弦を足したギターを用いていました。

実際に僕も、2005年に、とあるコレクターのお宅でその当時のウィーンで使われていた多弦ギターを試奏させてもらいました。このタイプのギターは、現代ではシュランメルン楽団の伴奏ギターとしてその姿をとどめていますが、独奏曲を弾くには非常な労力を伴うのです。演奏不可能ではないか、と思われるパッセージもあるほどです。
ロマン派のギタリストたちは果たしてほんとうに自分たちが憧れた音楽の姿をギターで表現しきれたのだろうか。当時の楽器や、弦の材質や、歌、ピアノ、擦弦楽器のヴィルトゥオーゾたちとガラ・コンサートの形式で開催されることが多かった社交の場としてのコンサートに、彼らは満足していたのだろうか。そんな疑問を抱きました。


──その疑問が、本作の録音の出発点になったわけですね。

鈴木:僕が今回用いた8弦ギターは、19世紀のギタリストたちが使っていた多弦ギターとは構造の違う、現代のモダン・クラシック・ギターに低音弦を2本増やしたものです。しかし、音域的にロマン派当時のウィーンで活躍した多弦ギタリストたちの作品をカヴァーできる上に、当時のギターにはない運動性、機能性、音量の豊さを備えています。
たとえば戦国時代の映画やドラマを撮影する時に、その時代の日本にはサラブレッドはいませんでしたが、現代の俳優さんの身長や、観る人側のイメージに合わせて、また、疾走する美しさを優先してサラブレッドを使うのが普通ですよね。同じように、音楽も、古いものをその当時そのままに再現する試みもあって良いのですが、作曲家たちが思い描いたであろう音楽の姿を、現代の人々により伝わりやすく演奏するという姿勢もあって良いのではないか、と思うのです。そこで、ロマン派のギタリストたちの作曲作品や編曲作品にあわせて、彼らが憧れたシューベルトやメンデルスゾーン作品の私自身による編曲も収録しました。

これは、不遇の時代と闘ったロマン派のギタリストたちの夢が実現したはずの、今とは別の未来、マルチヴァースの音楽ともいえます。

 


2022年9月、8弦ギターでの初録音に挑む



「アールアンフィニ・レーベルの録音は、自分の指先が見えるような鮮やかな解像度がある」


──アールアンフィニ・レーベルでは『シューベルトを讃えて』『ギターは謳う』に続く3作目の録音になりますが、これまでの録音と異なる面はありましたか。


鈴木:3作目ということで、これまでになくリラックスして録音できたことは確かです。しかしながら、アールアンフィニ・レーベルならではのハイレゾリューションな録音の精緻さと表裏一体のシビアさ、そして8弦ギターを持ってから初めてリリースされるアルバムということで、緊張感もありました。
毎回、プロデューサーの武藤敏樹さんのディレクションを録音の現場でトライすることで、思いもしなかったような自分の新しい側面が現れることをとても楽しみにしていて、これまでの3作品共に、キャリアも心境も次のステップというかフェーズに移行できているのでは? と感じています。今回は特に、ショパンやメンデルスゾーンによるピアノが原曲の作品を収録しましたので、ピアニストでもある武藤さんから多くの効果的なサジェスチョンをいただき、心強かったです。

録音は2日間でスムーズに終えることができました。従来の自分の作品よりさらにヴィヴィッドな音楽になっていると思います。自分のコンディションは、1日目は緊張もあって演奏がすべて堅実でしっかりめ、2日目はのびのびと闊達な印象で、2日間とも弾いている作品では、それらがうまくミックスされていると思います。


──アールアンフィニ・レーベルの録音の印象を教えてください。

鈴木:前作『ギターは謳う』をSACDで聴いたら、自分の指先が見えるような鮮やかな解像度で、しかもそれが、自分で言うのも変ですけど、むしろ自分で聴いていて自分であることを意識しなくてすむほどに有機的なサウンドでした。今回のアルバムも、ハイレゾ音源をダウンロードして聴くのを楽しみにしています。

 


「1日目はしっかりめ、2日目はのびのびと」──順調に進んだレコーディング



「浪漫派クラシック・ギターのマルチヴァースへ」


──最後に、リスナーの皆様にメッセージをお願いいたします。


鈴木:8弦ギターの世界は、6弦ギターと並行してさらに追求していくつもりなので、これまでとは何かが違う、新しいギターの響きを体験していただけたら幸せです。

浪漫派クラシック・ギターのマルチヴァースへ、ようこそ!

 


新たなギターの響きを体験できるアルバム

 


 

◾️アールアンフィニ・レーベルおすすめ作品

 

 

■鈴木大介(ギター)『ギターは謳う』

名手・鈴木大介が、50歳の節目を迎えて満を持して放つ、全曲ニューレコーディングによる心震える究極のポピュラー名曲集。武満が鈴木のデビューのきっかけを作ったことはつとに有名だが、没後25年にあたる今年、名器イグナシオ・フレタ・エ・イーホスを用いて「ギターのための12の歌」の再録に臨んだ。その他、長くジャズ・ミュージシャンやシンガーに歌われ続けているスタンダード・ナンバーやシャンソン、生誕100周年を迎えたアルゼンチン・タンゴのアストル・ピアソラのナンバーなど珠玉の名曲全22曲が満載。

 

■鈴木大介(ギター)『シューベルトを讃えて』

異才、鈴木大介が長年あたためてきたシューベルトと、シューベルト由来の名曲を編んだオマージュ・アルバムです。本人曰く「夢幻のニュアンスや色彩と空間の広がりを音楽に息づかせることを最重要なテーマとし続ける“クラシック・ギター”という楽器とその役割の真髄へと、僕を導いてくれそうな気がする」というシューベルトへの万感の想いが、あたたかく慈愛に満ちた旋律、端正で優美な官能、幽き無限の情念をもって奏でられます。

 

■久末航(ピアノ)『ザ・リサイタル』

数々の国際コンクールを制覇してきたヨーロッパ本流のピアニズムが、今ここに開花する。第66回ミュンヘン国際音楽コンクール第3位&委嘱作品特別賞、第7回リヨン国際ピアノコンクール優勝&聴衆賞、2016年度メンデルスゾーン全ドイツ音楽大学コンクール優勝他数々の国際コンクールを制覇してきたドイツ在住の若き俊英Wataru Hisasueのデビュー・アルバムです。アーティスト自身が長年にわたり研究を重ね磨き上げてきた数多あるレパートリーの中から厳選に厳選を重ね、一夜のリサイタルのようにアルバム全体の起承転結をも俯瞰した全13トラックを収録しました。まさにWataru-Ism!を心ゆくまでご堪能下さい。

 

■椿三重奏団『メンデルスゾーン&ブラームス: ピアノ三重奏曲第1番』

2019年に命名されたこのトリオは、結成に至るまでに実に10年以上に渡る共演を積み重ねてきました。高橋多佳子(ピアノ)、礒絵里子(ヴァイオリン)、新倉瞳(チェロ)、それぞれソリストとして充実した活動を続けていますが、その歳月を重ねたがゆえの熟成した3人のアンサンブルは、エモーショナルでダイナミック、そして精緻です。デビュー・アルバムにふさわしい古今絶世の名曲で、まさに満を持してその成果を世に問います。

 

■礒絵里子(ピアノ)『エスプレッシーヴォ』


日本を代表する実力派ヴァイオリニスト、礒絵里子のデビュー20周年記念アルバムです。礒絵里子がこよなく愛し、折に触れて取り上げてきた珠玉のヴァイオリン愛奏曲全18 曲を収録しました。共演の實川風(ピアノ)との浪漫溢れるエスプレッシーヴォ(表情豊か)なアンサンブルは、まさに薫り立つフィネスに満ちた孤高の音世界です。

 

■砂川涼子(ソプラノ)『ベルカント』

名実共に今のオペラ界を牽引するディーヴァ、砂川涼子、待望のデビュー・アルバムです。
砂川が長い間歌い、かつ本人もこよなく愛するオペラ・アリア、歌曲の中から全16曲を厳選。イタリア・オペラの《ラ・ボエーム》のミミ、《トゥーランドット》のリュー、《ジャンニ・スキッキ》のラウレッタ、フランス・オペラの《カルメン》のミカエラ、《ホフマン物語》のアントニア、そして端麗極まるドナウディの歌曲他珠玉の名曲をDSD11.2MHz の超ハイレゾ・レコーディングで収録。
共演は盟友、園田隆一郎。お互いのリスペクトにより醸成された天上の響きを、心ゆくまでお楽しみ下さい。

 

 

日本でただひとり、ソロクラリネッティストとして活躍する、クラリネットの貴公子・赤坂達三の実に6年ぶりのニュー・アルバム、そしてデビュー20周年記念アルバムです。今回の収録曲は演奏者自身が強く望んでいた「アーティストとして最盛期の今しか残せないであろう」と語る超絶技巧曲集。パリ・コンセールバトワール(パリ国立音楽院)の歴代作曲家がパリ音楽院の試験曲として作曲した各曲は、当代一流の名門音楽大学の試験曲というだけあって、最高難度の技巧、高い音楽性が要求される曲ばかりです。サン=サーンスのオーボエソナタは演奏者自身のクラリネットに対する想いから、クラリネット版での世界初録音となりました。アンコールピースとして、オーリックの映画音楽「赤い風車~ワルツ」も収録、フランス・パリに自身の音楽的ルーツを置く赤坂達三ならではの、まさにオマージュ・ア・パリです。

 


■アールアンフィニ・レーベル ハイレゾ・カタログ一覧

 

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