ミキサーズラボが画期的な配信フォーマット「ラッカーマスターサウンド」を発表。第一弾タイトルは中森明菜のライブアルバム『Listen to Me 』

2021/07/28

スタジオ関係者以外はほとんど耳にすることのない「ラッカー盤」を切ってレコードプレーヤーで再生し、デジタルファイルに変換するという手法も斬新な「ラッカーマスターサウンド」。第一弾タイトルとして中森明菜『Listen to Me −1991.7.27−28 幕張メッセLive 』のリリースが決まった注目の配信フォーマットについて、ミキサーズラボのカッティングルームを訪ね、マスタリングエンジニアで同社副会長の菊地功さん、カッティングエンジニアの北村勝敏さんのお二人にお話を伺いました。

文・取材・写真◎山本 昇


 レコーディング〜ミキシング、マスタリング、さらにアナログ盤のカッティングといった分野で、高いスキルと確かな技術力で音楽制作に幅広く貢献してきたミキサーズラボ(MIXER’S LAB)。そんな国内有数のエンジニアチームから、新しい2mixマスターの在り方に関する大変興味深いニュースが届いた。その名も「ラッカーマスターサウンド」(Lacquer Master Sound)は、アナログレコード製作の上流で必ず使用されるラッカー盤を用いてデジタルファイル化するというもの。その音を耳にする機会は少ないが、言うまでもなく、ラッカー盤にはアナログ領域の最上流にあるメディアとして、まさに極上のサウンドが記録されている。これを再生し、出力されたアナログ信号をそのままデジタイズするという発想が新しい。「その手があったか!」と膝を打つ向きもあろう。「デジタルファイルにアナログのテイストを自然に加えることができたら」、「CDスペックのマスターをより有効な方法でハイレゾ化できないか」−−−こうしたテーマに対する一つの回答として要注目の配信フォーマット「ラッカーマスターサウンド」を取材した。


広々としたミキサーズラボのカッティングルーム。メインのモニタースピーカーはGENELEC 1234A


■「ラッカーマスターサウンド」誕生の経緯

ーまずは「ラッカーマスターサウンド」誕生のきっかけや背景からお話しいただけますか。

菊地 どうしてこのようなことを考えたのか、それには大きく分けて二つの理由があります。昨今のアナログレコード復活の波が押し寄せる中、この部屋でラッカー盤をカットする作業に立ち会う多くの皆さんが「アナログの音」を体験し、驚きの声を上げられます。僕らはそれを「まぁ、アナログだからね」と、聞き流していたわけです。そんなあるとき、さる若いアーティストが語った、「ラッカー盤って、すごくいい感じの音になりますね」という言葉に、僕らの気持ちが動かされるものを感じました。

 確かに、ラッカー盤はレコードとは聴いた印象が異なります。まず、ラッカー盤は飛び抜けてS/Nが良く、位相その他もいい。レコードになると、リサージュ波形がゆらゆらと揺れてしまうことがありますが、それもありません。ならば、「これを再生してデジタル化してみたらどうだろう」と考え、試してみようということになりました。そこから1年くらい温めて、ようやくスタートを切ることになったのが「ラッカーマスターサウンド」です。

ーなるほど。では、もう一つの理由とは?

菊地 ラッカー盤を使うこの手法には、新しいマスターとしての意義があると思ったんです。特に、元のマスターがデジタルの場合、先ほどご紹介した若いアーティストもそう感じたように、ラッカー盤にすると全然違うアナログの音になります。これをいちばん適正なレベルでカットしてフラットトランスファーできれば、新しいマスターができるのではないかと。フラットコピーであれ、さらにマスタリングしたものであれ、いずれにしても新たな展開が生まれるんじゃないかと考えたんです。

ーいわゆるCDスペックの音源のハイレゾ化にも資するものがあるそうですね。

菊地 今回の中森明菜『Listen to Me−1991.7.27−28 幕張メッセLive』もそうなのですが、マスターがCDスペックのものも、ラッカー盤にカットすると、40kHzくらいまで帯域が伸びるんです。元は20kHzで切れているのに、スーッと伸びてくる。「96kHzで録ったの?」って思うくらいの波形になるんです。これも「ラッカーマスターサウンド」をやりたいと思った理由の一つでした。ミックスを変えたわけでもないのに、非常に深みのある音に生まれ変わる。ワンステップ上がった感じの音が出てきたんですね。そんなことから、長年アナログ盤のカッティングを担当してきた北村に持ちかけてみたら、一も二もなく「ああ、いいですね!」ということで。

北村 経験上、例えば16bit/44.1kHzの音源をカッティングしてラッカー盤を再生すると、自然の倍音がすごく増えるんです。それを余すことなくハイレゾのスペックでデジタイズして届けることができたら、レコードとはまた違った形でアナログの良さを聴いていただけるんじゃないかと思いました。僕からすれば、レコードを聴いていただくのがいちばんではありますが、デジタルファイルであれば外で聴くこともできますし、いわゆるアナログのニーズも広がるでしょう。デジタル音源で音楽を楽しむ方たちにも、レコードの良さを知っていただけるきっかけにもなるのではと期待しています。






重厚な雰囲気のカッティングマシンはNEUMANN VMS80。主に本体とアンプ(写真上の右)、コンソール(写真下)で構成され、ターンテーブルを搭載した巨大な筐体はカッティングレース(Cutting Lathe)と呼ばれる。ちなみに、発売時は2chテープレコーダーを加えた4点セットだったらしい


■CDスペックの音源に「倍音」や「奥行き感」を与えるラッカー盤の謎

ー我々が普段聴いているレコード盤に比べ、ラッカー盤は聴感上、何が違うのでしょうか。

北村 ラッカー盤から複製を重ねて作られたレコードには、どうしてもノイズが混入してしまいます。対してラッカー盤には、いわゆるサブソニックノイズもほとんど生じません。また、けっこう見過ごされがちなのが「偏芯」です。プレスの出来上がったレコードは、少なからずの偏芯−−−つまり中心にズレがあり、それが音質に与える影響もけっこう大きいんですよ。偏芯がひどいと、ピッチが揺れてしまうんです。ラッカー盤には基本的にそれが起きません。そうした特徴が音のクリアさにも繋がっています。

ー普段からアナログカッティングの作業をされている北村さんには、カッティングされたラッカー盤の音とは、どんなふうに聞こえていますか。

北村 非常に抽象的な言い方になりますが、耳に痛くないというか、とにかく心地いい音なんです。その良さを理論的な言葉で表すのは難しいのですが、先ほど菊地がご紹介した若いアーティストの方がおっしゃった「アナログの音になる」ということに尽きるのではないでしょうか。例えばデジタルファイルからのトランスファーの場合、DAWから送出されるデジタル信号は、DAコンバーターでアナログに変換され、それがアンプやコンソールを通ってカッティングされます。そのラッカー盤がカートリッジで再生され、昇圧トランスなどを経て出力されるのですが、ここまではすべてアナログです。


慣れた手つきでマシンを操る北村勝敏さん。カッティングを手掛けた作品は8,000タイトルを優に超えるというベテランエンジニアだ

ーそうすると、使用するカートリッジなどの選定も大事なポイントになりそうですね。

北村 はい。選定は、ミキサーズラボの首脳陣がこの部屋に集まり、いろいろ聴き比べて行いました。


菊地 5種類くらい聴き比べましたね。

北村 その中で特に高評価だったのが、ORTOFONのSPU Classic GE MK Ⅱ(MCカートリッジ)とST-90(昇圧トランス)でした。第一弾タイトルの『Listen to Me』も、この組み合わせで再生しています。

菊地 このカートリッジはオールマイティに聴かせるという印象がありました。ジャンルによる偏りが少なく、ジャズもポップスもよく再生します。おそらくクラシックも大丈夫だろうと思います。

北村 再生するカートリッジについては、今後はジャンルに合わせてさらに最適なものを選ぶことはあるかもしれません。


カートリッジ(MC型)はORTOFON SPU Classic GE MK Ⅱ。第一弾タイトル『Listen to Me』は、これとST-90(昇圧トランス)との組み合わせで再生している


フォノイコライザーはセパレート型のPHASEMATION EA-550(下)をLRで使用。このアナログアウトがHapi(ADコンバーター)を通って取り組み用のPyramix(DAW)に送られる

ーでは、ラッカー盤サウンドをAD変換して取り込むシステムは?

菊地 録るDAWもやはり何種類か聴き比べたのですが、いちばん良かったのがMARGING TECHNOLOGIESのPyramixと同社のインターフェースHapiの組み合わせでした。いろいろ聴き比べたところ、いちばん音が優しかったんですよ。一方、デジタルファイルをカッティングマシンに送り出す際のDAWはPro ToolsもしくはSADiEを使用しています。

ーデジタイズするほうのDAWがPyramixということは、DSDに変換することも可能ですね。

菊地 はい。今回の『Listen to Me』は多くの方に聴いていただくため24bit/96kHz(PCM)というフォーマットですが、今後、ご要望によってはDSD 11.2MHzとかPCMも384kHzという非常に高いスペックでファイル化することも可能です。これはもうアーカイブとして申し分なく、どんな形態にも対応できます。192kHz(PCM)と5.6MHz(DSD)あたりもハイスペックな感じはもちろんあるのですが、384kHzと11.2MHzは世界がガラッと変わりますからね。ビックリするくらい音の質が変化します。

ーこのような大アナログ装置の情報を引き出すには、それくらいスペックの高い器であってもいいのでしょうね。その他に音質的な部分でのメリットはどんなものがありますか。

北村 ラッカー盤はフラットネス(平面度)が非常に優れていますから、反りや偏芯に起因するサブソニックノイズが抑えられますし、ジリジリ、パチパチといったスクラッチノイズもほとんどない状態で再生できます。また、万が一、ラッカー盤にゴミなどが乗ってしまうことによって発生するノイズは、AD変換後にDAW上で消すことが可能です。

ーラッカー盤の材質による特性とは?

北村 アルミニウムの円盤にニトロセルロースを主体としたラッカー剤を塗布したラッカー盤は柔らかいものですから、レコードに比べると耐久性は良くありませんが、レコード針で数回程度再生する分には問題ありません。ただ、カットされたラッカー盤は、溝が元に戻ろうとする性質があるんです。専門用語で「スプリングバック」と呼ばれる作用ですね。ですから、カッティングしたあとはあまり間を空けずに再生したほうが音はいいんです。「ラッカーマスターサウンド」では、カッティングが終わるとすぐに再生してAD変換するようにしています。

菊地 時間が経つと、徐々にノイズが増えたり、高域の伸びが失われてしまったりするんですよ。

北村 「ラッカーマスターサウンド」ではまた、テストカットでレベルを決めたあとは出来上がったラッカー盤の1回目の再生でAD変換しています。




ラッカー盤に音溝を刻むカッターヘッド。白いカッター針はサファイア製だが、使用できるのは10時間程度。ダイアモンド製に比べて柔らかい音になるそう。針の後ろに見えるパイプ(写真上)で削りカスを吸い取っていく

ー先ほどご紹介いただいた、カッティングによって生成される「自然な倍音」の件なのですが、この現象はどのような仕組みで起こるのでしょうか。

北村 まだ突き詰めてはいないのですが、倍音が発生する要素として考えられるのは、専用のコンソールとアンプ、そしてカッターヘッドのあたりです。おそらく、それらがトータルに作用して自然な倍音として表れているのではないかと思います。

菊地 10kHzのテストトーンをカッティングしてデジタイズしたものをスペクトラムアナライザで見ると、倍音がきれいに伸びているのが分かります。これは僕の想像ですけど、カッティングの作業ではシャカシャカと、かなり広域の成分を含んだ音が出ているんですね。そこに何らかの作用が働いてあの倍音が生成されているのではないかと。さらに、レコードプレーヤーで再生するときも同じようにシャカシャカとした音が鳴っていますよね。そうしたものが付加されて、倍音のきれいな並びに繋がっているんじゃないかという気もします。

北村 こうした現象について、元の音にはない倍音が生成されることは、元の音とイコールではないわけで、正しくは高調波歪と呼ぶべきかと思います。いわゆるハーモニクスディストーションの状態をオーディオ的に良くないと捉える場合がある一方、偶数次の倍音や高調波歪みが起きると、音が厚く柔らかくなって、むしろ世間で言う「いい音」になる場合もあり、これも昔から指摘されていることでした。高調波歪みが悪く出るのは良くないけれど、心地よく聴ける方向であれば、それは「あり」なのかなと私は思っています。かねてから良くないとされる3倍音も乗ってはいますが、2倍・4倍もきれいに出ていますので、そのあたりが原音に近づいたいい方向に向かっているんだろうと思います。

菊地 僕らもこれまで、高調波歪みには気を付けて作業をしてきましたが、そうした経験からすると、やはりきれいな倍音成分と高調波歪みは違うものなんじゃないかと感じます。そんなことも頭の片隅にありながらの試みが、いいほうに出てくれたというのが今回の「ラッカーマスターサウンド」です。アナログとデジタルにはそれぞれに特徴があり、その中でまた一つ違った切り口のマスターがあってもいいんじゃないか。レコードという優れたメディアの最上級のラッカー盤でデジタイズすると、こんなにいいものができたというところをぜひ聴いていただきたいですね。

ーなるほど。天然由来というか、自然の恵みのような倍音の生成はアナログカッティングマシンからの素敵な贈り物のようですね。そして、「ラッカーマスターサウンド」を聴いて印象的だったのは、やはり自然な奥行きが感じられたことです。こうした音場の変化はどう捉えていらっしゃいますか。


北村 なぜ奥行き感が出るのかも、まだ解析はできていないんですよ。事実、元のデジタルファイルと聴き比べると確かにそう感じられるのは我々も確認しているのですけれど。

ー聴感上、いい方向に変化するのは音楽ファンとしてはありがたいことですね。では、「ラッカーマスターサウンド」の開発過程で特に苦労したことや音質の改善に寄与したポイントは?

菊地 いちばん苦労したのは、カッティングと取り込みのレベルをどこに着地させるかということで、ここは最も注意深く行いました。そして、音質の向上という意味では、ラッカー盤のどの部分を使うかも重要です。レコードがそうであるように、ラッカー盤も外周のほうが音がいいわけで、「ラッカーマスターサウンド」では、14インチのラッカー盤の頭から切っています。収録時間も稼げるし、状態のいい部分を多く使うことができますからね。


「ラッカーマスターサウンド」で使用する14インチのラッカー盤は、左の12インチに比べ、かなり大きな印象だ


レコードプレーヤーは名機PIONEER PL-70L II。筆者が愛用しているPL-50L IIより一回り大きく、14インチのラッカー盤を乗せてもフタを閉められる

ー北村さんとしても、カッティングレベルの調整は毎回気を遣われる部分なのでしょうね。

北村 そうですね。ただ、このNEUMANN VMS80は非常に優秀なカッティングマシンですので、かなり助かっているんですよ。以前はこの一つ前のモデルVMS70を別の職場で使っていたのですが、その頃は根を詰めて仕事をすると胃が痛くなるようなことがしょっちゅうありました(笑)。VMS80は音が優秀で、なおかつエンジニアに優しいマシンだと思います。

ーこのマシンはいつ頃に製造されたものですか。

菊地 1979年の後期から1980年代の前半に造られています。全部で80台くらい製造され、このマシンのシリアルが79なんです。これ以降は、DMM(ダイレクトメタルマスタリング)の仕様に変更されましたので、その意味でも最後期のマシンと言えるでしょう。たぶん、これがVMS70だったらこのプロジェクトも難しかったかもしれませんね(笑)。

ーそれにしても、アナログの豊かなサウンドをデジタルで楽しむための手法が、ラッカー盤という意外なアイテムから発見されたのは面白いですね。

菊地 4年ほど前のことですが、このカッティングマシンを導入してテスト稼働をしていたときに、ちょうど山下達郎さんのプロジェクトをご一緒していたので、達郎さんのアルバムを実際にラッカー盤にカットして聴いていただいたんです。そうしたら大変納得されて「ちゃんとアナログのいい感じの音になってる」と。こういうことには率直にものを言われる達郎さんが、「これはいいね!」と喜んでくださったのが印象的でした。そのときにはまだ、これを再生してマスターにするという発想はなかったんですけどね(笑)。


ラッカー盤の魅力を楽しく語ってくれた菊地功さん(右)と北村勝敏さん。「今までの音とはひと味違う“ラッカーマスターサウンド”を楽しんでみてください」(菊地さん)

■第一弾は中森明菜『Listen to Me −1991.7.27−28 幕張メッセLive』

ーさて、そうして編み出された「ラッカーマスターサウンド」のトップバッターに抜擢されたのは、菊地さんがデビュー当時からレコーディングを手掛けた中森明菜さんのライブアルバム『Listen to Me −1991.7.27−28 幕張メッセLive 』です。このステージから、ちょうど30年後の同じ日にリリースされるというのも感慨深いものがあるのでは?

菊地 そうですね。僕が中森明菜さんの作品にレコーディングエンジニアとして関わったのは、シングルで言うとデビュー曲の「スローモーション」(1982年)から「北ウイング」(1984年)までですが、温めていた「ラッカーマスターサウンド」のスタートとタイミング良くこの作品をリリースできることは良かったと思います。この作品では、特に低音の質感と奥行き感をぜひ聴いていただきたいですね。会場の広さも感じられるような仕上がりとなっていますので。

ー話は逸れますが、デビュー同時の明菜さんの印象は?


菊地 六本木にあった当時のワーナースタジオで「スローモーション」のミックスをしていると、コンソールの前に彼女がやって来て、ミックスダウンの作業を見てました。それが楽しいらしく、僕の隣でずっと見学してましたね。

 ちなみに、『Listen to Me −1991.7.27−28 幕張メッセLive 』のマスターは3/4(シブサン)。「弁当箱」の通称でも知られるU-MATICテープで残されていたという。スペックは16bit/44.1kHzというCDレベルに留まるが、DATと同様に、主に1980〜90年代に多くのマスターで使用された定番メディアだ。こうしたマスターを少しでもハイレゾのレベルで楽しむために、様々な取り組みが行われているのは、e-onkyo musicのユーザーならご存知だろう。その意味でも、『Listen to Me』は、「ラッカーマスターサウンド」の特徴を生かすには格好のタイトルとも言えるのだ。
 なお、「ラッカーマスターサウンド」のメリットはデジタル音源だけでなく、アナログテープをマスターとする音源でも有効とのこと。アナログテープから直接AD変換するよりも、ラッカー盤を経てデジタイズするほうが、結果的に元のマスターの音に近い印象なのだという。そして、この新しい配信フォーマットを正しく楽しむために、菊地さんは次のように注意を促す。

菊地 カッティングレベルに関しては、元のマスターの音を大事に、北村がこれまでの経験を生かして、いちばんいい状態で切っています。そして、ラッカー盤の音を取り込むときも、基本はフルビットを限界にセットしています。細かい部分は音源によって多少は変わりますが、CDよりも4〜4.5dBくらい低いので、そこはユーザーさんのほうで、レベルを2~3ノッチくらい上げていただければちょうどいいかと思います。

ー「ラッカーマスターサウンド」の今後の展開についてはいかがでしょうか。

菊地 次は角田健一さんのビッグバンドで行く予定になってます。これも、やっぱりデジタルじゃないアナログのいい感じの音になっているんですよ。そのほか、CDスペックのデジタルでしかマスターが残っていないけれど、皆さんがよりいい音で聴きたいと思われるタイトルを「ラッカーマスターサウンド」で甦らせることができるといいですね。

ーでは最後に、e-onkyo musicリスナーへのメッセージをお願いします。

北村 音楽は元々、アナログの波形です。「ラッカーマスターサウンド」で、ぜひ素晴らしいアナログの世界を楽しんでいただきたいと思います。

菊地 やっぱりアナログでしか出せない音があるんです。「ラッカーマスターサウンド」はその音を楽しむための十分なスペックを持っています。モニターレベルに気を付けて、適正なレベルで聴いていただけたら嬉しいですね。今までの音とは間違いなく違いますので、どうぞ体感ください。



 「ラッカーマスターサウンド」の特設サイトには、ミキサーズラボがレコーディングを手掛けた人気シリーズの一つである角田健一ビッグバンドの音源がサンプルとして用意され、同じ曲をCDスペックと比較できるようになっているので、興味を持った読者はぜひ試してみてほしい。音像が横一線に並ぶ感じのCDに対し、「ラッカーマスターサウンド」版のほうはスピーカーの前後左右に、いい感じに分散しているのが心地よく、活き活きとしたサウンドに音楽が俄然楽しくなってくる。それは今回の『Listen to Me』の印象も同様で、凄味を感じさせるボーカルはもちろん、切れのあるバックの演奏も文字通り高い臨場感を持って楽しめる。音楽に奥行きや高域の伸びを与えてくれるラッカー盤のすごさに改めて驚かされた。なお、今回のリイシューでは、彼女のMCが本来の場所にノーカットで収録されるという。

 状態の良いカッティングマシンとその素晴らしさを熟知した技術者の熱意、そしてラッカー盤からマスターを作るという柔軟な発想から生まれた「ラッカーマスターサウンド」は今年、最も注目すべき配信フォーマットであることは間違いない。




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