「大切なのは空間の匂いやな」ギタリスト有山じゅんじ&山岸潤史 スペシャルインタビュー

2014/09/24
日本を代表するギタリスト有山じゅんじ、山岸潤史によるアコースティック・ギター・デュオ「有山岸」がセカンド・アルバム『チョットちゃいます“Bitter Sweet Soul”』を発表した。
今回は、関西時代からの盟友であるヴォーカリスト上田正樹をフィーチャーしてのスウィート・ソウル・ショウ。縦横無尽に織りなす2人のギターと、ますます円熟味を増すヴォーカルからは、3人のルーツでもあるアメリカン・ミュージックへの深い愛情が感じられる。
カバーでも決して古き良き音楽にとどまらず、未来へのパワーを放ち続けるその秘密はどこにあるのだろう。2人のギタリストにお話を伺った。

『~チョットちゃいます~Bitter Sweet Soul』
/有山岸 featuring 上田正樹



――今回は上田正樹さんがヴォーカリストとして参加されていますね。有山さんとはサウス・トゥ・サウスで、また山岸さんともウエストロード・ブルース・バンドにいた頃から切磋琢磨された間柄だと思います。

山岸潤史(以下、山岸): セカンド・アルバムはR&Bのカバーでいこうという話になった時に、キー坊(上田正樹さんの愛称)が普段やってない曲をやりたかった。今まで歌ってたのは、オーティス・レディングみたいなサザン・ソウル系が多いやろ。だけど今回はノーザン系というかな、フィリーまではいかないスウィートな感じのやりそうでやらない曲を選びました。

――でも、いわゆるカバーとは全く違う雰囲気に仕上がっていますね。

山岸:今までのスウィートソウルとは違うカラーが出たと思う。

有山じゅんじ(以下、有山):ジョニー・ギター・ワトスンの「Hook Me Up」とテディ・ペンタ-グラスの「LOVE T.K.O.」にはアルバム・タイトルになった「チョットちゃいます」らしさが出てます。

山岸:ソウル・ファンの大好きな曲をストレートに、しかも日本語でやったら面白いんじゃないかと。そこにキー坊が昔から持ってたエネルギーが円熟してバッチリはまったわけで、すごくいい感じに仕上がったと思う。

有山:しかも演奏はギター2本やからな。そこに意味があると思う。スタイルは違うけど、キー坊とはサウス・トゥ・サウスからずっと一緒にやってるから、好きな曲もわかるしね。

――そういう意味でも「ドック・オブ・ザ・ベイ」のアレンジは新鮮でした。本当に3人にしかできない演奏だと感じます。

山岸:あれ、エエやろ。アレンジをいろいろ考えて、オレが途中でsus4(サスフォー)のコードを使うところは、ヘンリー・バトラーがやっているのをそのままヒントにしました。この曲の有山のギター・ソロはすごく好きやな。

有山:何度もやってきた曲ではあるけど、やっぱりこの3人の安心感というかな。「せえの」で同時に録音してるから、キー坊の歌が聞こえてきたら引っ張ってってくれるところもあるし。

――アラン・トゥーサンが書いた「Brickyard Blues」もユニークですね。

山岸:ニューオーリンズにいつもその曲をかけてるコーヒー屋があって。キー坊が歌ったら面白いかなとインスピレーションがわいたんだけど、曲が持つパターンから逃れられない。だからオレなりのグルーヴをいろいろ考えたの。

有山:ちょっと押さえて歌う感じやけど、やっぱりあれくらい歌ってくれると、僕らも演奏してて気持ちエエな。だから僕らの匂いも出てるやろし。

――唯一、2人だけで録音しているのが、有山さんが歌うファッツ・ウォーラーの「I’m Gonna Sit Right Down The Letter」。

山岸:ポール・マッカートニーが『キッセズ・オン・ザ・ボトム』の1曲目でやってるでしょう。あれも大好きやったけど、これはビートルズに勝ったぞ(笑)

有山:やりたかったことやしね。2人のカラーがよく出てると思う。

山岸:だから1曲目にしようと思った。ライヴのイメージやな。オープニングで2人で演奏してからキー坊が出てきて歌うみたいな。

――このアルバムはハイレゾ録音でも配信されることになっています。雰囲気がリアルに伝わるという意味では本作にぴったりですね。録音でこだわったところはどこですか。

山岸:ミックスについては、いろいろ言うたよ。

有山:数え切れないほど、ニューオーリンズとメールのやりとりしたな。

山岸:ギター2本と歌だけやから、お互いがどこにいるのか、その空間が大事なんやね。たとえばキー坊のオリジナル曲「River Side Blues」のヴォーカルのリバーブとギターのリバーブの間のスペースの作り方とかね。それを理解していないスタッフだと、面白くもなんともない音になってしまうわけ。

有山:大切なのは空間の匂いやな。録音も山岸と2人並んで座って、キー坊だけヴォーカル・ブースにいて「せえの」で演奏しているから、お互いの音が聞こえるんです。

山岸:たとえば小さいクラブをイメージした時、ステージに3人並んだら、だいたい10時10分くらいの位置でしょう。そういう定位って難しいわけよ。

有山:だから次は“モノ”で録音しようかって話してます。

――あえてモノで録音したり、アナログ盤をリリースしたりするアーティストが増えている印象があります。

山岸:これはアール・キングに聞いた話やけど、プロフェッサ・ロングヘアの「ビッグ・チーフ」は23テイクも録ってるらしい。フェスはストリートのグルーヴで弾いてるから、スモーキー・ジョンスンみたいなドラマーでも、初めて聞いたらどこがアタマなのかわからないのよ。それで仕方ないから、隣に立って肩叩いてタイミングを教えたって言う。そんなの今ならプロ・ツールズ使えば一発やろ(笑)

有山:昔の曲を聞くと、全部、剥き出しになってる感じがする。そんな感じもできたらおもろいな。

山岸:ブルースとかソウルって人間丸見えの音楽。だから好きなのよ。今そういうブルースマンは減ったけど、この前フジロックで共演したシル・ジョンスンはそのうちの数少ない一人やな。キー坊も言ってたけど、シルは有山に似てると思う。たとえばラグタイム・ギターをきっちり弾く人は他にもいるけど、リアリティは全然違うもん。有山は何をカバーしてもワン&オンリ-や。特別天然記念物!

――そういう意味では、有山さんと山岸さんで歌う「Hook Me Up」での言葉選びや世界観も有山さんならではだと思います。

有山:いや僕は不器用やしね。キー坊みたいにシャウトして歌うこともできないタイプやから、ヘンな歌を作るのに命をかけよう、誰も歌ってないような歌を歌おうと思って(笑)。いろいろな意見はあると思うけど、このアルバムは自分でもエエ音楽やなと感じます。とにかく聞いてもらうのが一番やろな。

――有山さんだけでなく山岸さんも上田さんも、どんな曲を演奏しても、“ちょっと違う”ワン&オンリーの個性を表現できる日本で数少ないアーティストだと思います。ライヴも楽しみです。ありがとうございました。

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