連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第54回

2018/01/15
『22 South Bound』『23 West Bound』神保彰
~ 最新ロサンゼルス録音ハイレゾを聴くなら、これだ! ~


イベントの模様を動画でお楽しみください

この連載から誕生した超高音質なハイレゾ・コンピレーション作品『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』は、もうお楽しみいただけましたでしょうか?


『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』V.A.


昨年末のハイレゾ・イベントで実際に鳴らしてみて、「こんなに試聴テストに最適なハイレゾ音源は、他に無い!」と確信した次第です。比較試聴したときのお客様の反応の良さは、他のハイレゾ音源よりも群を抜いて良かったという結果に、私自身も驚きました。

その時のイベント動画を公開します。4曲目「ブロンブルー」の解説シーンです。個人的な記録用に定点カメラで録画したものですので、私の顔が映っていないなど、構図が適当なのはお許しを。トークだけは、きちんと収録できていたので、どんな内容だったのか雰囲気は感じていただけるのではないでしょうか? こんな感じの気楽なイベントですので、次回はぜひ遊びに来てください。



文章で書くとマスタリングの違いは難しく感じますが、イベントで実際の音で聞けば誰もが納得。4曲目「ブロンブルー」は音楽の躍動感が別格で、イベントで鳴らした曲の中でも特に印象に残った一曲でした。「ブロンブルー」再生のコツは、アンプの音量を他の音源よりも少しだけ大きくするだけ。アンプの音量ツマミを少し回すだけで、この快感が得られるのです。それを知らず通常ボリューム位置で聴き続けたら、「ブロンブルー」の真の魅力を知らずに通り過ぎてしまうかもしれません。あ、でも次の曲が始まる前には、音量を元に戻してくださいね。そういった面倒な手間も含めて、『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』試聴テストの魅力なんです。


今年のロサンゼルス作品も、また別格のサウンド!

もはや私の年始恒例行事となった、世界のドラマー神保彰さんのハイレゾ新譜試聴。他の太鼓判ハイレゾ音源候補と並べてチェックしてみたのですが、やはり圧倒したのは神保さんの新譜2作品でした。



今回の『22』と『23』。ジャケットデザインは、ストライプ柄の背景に帽子を持った神保さんと、なんとなく共通っぽい雰囲気。果たして何が違うのでしょうか? 結論から言えば、全く異なるルートから登山したのに、到達すれば同じ山の頂上だった。そんな印象を私は持ちました。

『22 South Bound』は、ラテン系の曲調。演奏は、神保彰(Drums)、エイブラハム・ラボリエル(Bass)、オトマロ・ルイーズ(Piano・Keyboard)という不動のメンバーに、ゲストのリチャード・エリオット(Tenor & Soprano Saxophone)。録音とミックスがタリー・シャーウッド、マスタリングがレディーガガも手掛けるロスのファーストコールのジーン・グリマルディという、例年通りのエンジニアです。

『23 West Bound』は、全く別メンバーによる都会的フュージョンサウンド。演奏は、神保彰(Drums)、ジミー・ハスリップ(Bass)、ラッセル・フェランテ(Piano・Keyboard)という新トリオに、ゲストにティム・ボウマン(Guitar)が2曲参加。録音とミックスとマスタリングのエンジニアは、トム・マッカーリー。

2作品ともロサンゼルス制作ながら、ミュージシャンも違えばエンジニアも異なり、録音スタジオも違う。共通なのは、神保さんの作曲とドラムのみ。それなのに先ほど登山に例えた通り、2作品とも非常に似ているサウンドに仕上がっています。音の専門家である私が聴いても、正確に2作品を判別できるかどうか微妙なほど、同じ手触りの音色、しかも高いレベルで。

これはある意味、大成功を意味しているのではないでしょうか。つまり、神保さんが思い描いた通りの音楽世界が実現している。演奏や録音場所が異なっても、同じゴールに到達している。これって凄いことです!

私が神保さんファンだからといって、太鼓判ハイレゾ選定に手抜きはありません。きちんと他の候補とも比較試聴した結果の圧勝でした。超一流ミュージシャンが奏でる一音一音の美しさ、サウンドステージの広さ、立体的な音像などなど。ロサンゼルスの空気がそうさせるのでしょうか? 残念ながら日本制作のハイレゾ音源が、ここまでのレベルに到達できていないと、今回の太鼓判ハイレゾ選定では感じてしまいました。

いや、2作品はミュージシャンだけでなくエンジニアまで異なるのですから、もはやこれはロサンゼルス制作だけが理由ではなく、神保さんマジックなのかもしれないとさえ思います。本連載の最多登場となる神保彰さん、今回も期待以上の仕上がりに、ファンの私としては大満足です!

問題は、『22』と『23』のどちらが好みかと問われたら? 『23』で初めて聴いたジミー・ハスリップさんのベースは、流れるようなサウンドで神保さんのドラムと相性抜群という印象でした。私の住む葉山で聴くなら海を連想させる『22』、東京出張中に聴くなら『23』。う~ん、悩ましい。

毎年2作品をリリースし続ける神保さん。現代で、これほど作品を量産できるアーティストは稀有な存在です。もしかすると、何かしらの世界記録が視野に入ってくるくらいの、圧倒的な創作活動に脱帽です。

神保さんといえば神業ドラミングですが、私はその楽曲も素晴らしいと感じています。喜怒哀楽の感情表現の中で、怒りと悲しみの度合いが限りなく低い楽曲たち。喜びと楽しみの音楽が、とっても心地よいのが神保作品の真骨頂なんです。神保さんのお人柄ですかね?

お正月からヘビロテ中のこの2作品、音楽的にも音質的にも多いにオススメできる太鼓判ハイレゾ音源です!




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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。

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