第156回直木賞&2017年本屋大賞を史上初のダブル受賞!
恩田陸による話題作『蜜蜂と遠雷』より、物語に登場する19曲を収録したコンピレーションアルバムがリリースされました。
『蜜蜂と遠雷 音楽集』/Various Artists
192kHz/24bit(eilex HD Remaster)2980円(税込)
全19曲(アルバム2枚組相当)
当作『蜜蜂と遠雷』の舞台は、現代のピアノコンクール。
天才児からサラリーマンまで、個性的なピアニストたちが、第1次予選から第3次予選、そしてファイナルへ挑むさまを描いた白熱のストーリーは、文芸ファンから音楽ファンまで幅広い読者を魅きつけ、発行部数50万部に達する大ベストセラーとなりました。
当アルバムに収録しているのは、彼らのコンクールでの演奏曲。予選のピアノ・ソロ曲から、ファイナルのピアノ協奏曲まで、19曲を厳選してお届けします。
●『蜜蜂と遠雷 音楽集』ハイレゾ版とは
そんな『蜜蜂と遠雷 音楽集』のハイレゾ版は、CDクオリティでマスタリングされた素材を、アイレックス株式会社の独自開発技術「Eilex HD Remaster」を用いてアップコンバートした192kHz/24bit版。
この「Eilex HD Remaster」は、今年1月リリースの『ハイレゾクラシック the First Selection(eilex HD Remaster version) 』でも用いられている技術。このアルバムは、オーディオ・ファンや専門家の間で大反響を呼び、e-onkyo musicでランキング1位を獲得するに至りました。
機械的なアップサンプリングでも、過剰なハイファイ感の付加でもなく、あくまでも「自然な倍音の補完」にこだわったこの技術。自然界の音の波形をモデルに、「レコーディング時には存在していたが、マイクが取りこぼして失ってしまった本来の音」を、独自の方法で、再度、構築していきます。
※技術についての詳細はこちら
『ハイレゾクラシック the First Selection(eilex HD Remaster version)』試聴会イベントレポート
●『蜜蜂と遠雷 音楽集』ハイレゾ版のポイント~ 1.ピアノ曲をどう聴かせるか?
「Eilex HD Remaster」が、クラシック音楽レーベル・ナクソスとタッグを組むのは『ハイレゾクラシック~』に次いで今回が2度目。しかし、技術担当の堀部公史氏によれば、「同じ技術を用いてはいますが、前回とはまったく異なる、新たな視点を求められる仕事となりました」とのこと。
『ハイレゾクラシック~』は、ナクソスのアルバムから、「四季」「新世界より」「千人の交響曲」など、クラシックのさまざまな有名曲をピックアップしたコンピレーション。収録曲は室内楽曲、オーケストラ曲、合唱曲などバラエティに富み、演奏者はもちろん、録音環境もそれぞれバラバラ。しかし、その不統一感は欠点ではなく、むしろそれらの聴感上の「違い」を聴き分けるという愉しみを提案するハイレゾ・アルバムでした。
『蜜蜂と遠雷 音楽集』は、ナクソスのカタログから楽曲をピックアップしたコンピレーションであることは同じ。演奏者や録音環境が曲ごとに異なることも同じ。しかし、曲はすべて、ピアノのソロ曲、もしくはピアノとオーケストラによって演奏されるピアノ協奏曲。同じ楽器と編成の曲を続けて聴いているのに、曲ごとに、極端に聴き心地が変わってしまうことは避けなければなりません。
「今回は、ナクソス・ジャパンの社内エンジニアが手掛けたCD用のマスタリングをもとにアップコンバートを行いましたが、そのマスタリングの質が素晴らしく、それに助けられました面も大きいですね」(堀部氏)
特にトラック5「ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第26番「告別」」は、一工夫が必要な音源だったとのこと。
「このトラックは、他のトラックとは音場感が大きく異なりました。残響の位相が異質で、少々よじれるような音になっているのですが、それを、マスタリングの段階で巧みにフォローしてくれている。ところが、これを他のトラックと同じ基準でアップコンバートしてしまうと、せっかくうまく処理されていた残響成分が強調されてしまう。だから、少し「薄め」のアップコンバート作業が必要であると考えました。通常、同一のアルバム内で基準を変えることはないのですが、このトラックに関しては、そうした注意深い調整が不可欠でした。逆にいうと、そういう個別の対応が可能なのが、「Eilex HD Remaster」だということになります」(堀部氏)
●『蜜蜂と遠雷 音楽集』ハイレゾ版のポイント~ 2. ナクソスの録音環境と小説の世界観の奇跡の一致
こうした「聴き心地の統一」は、1冊の小説の世界を表現するという、このコンピレーション・アルバムのコンセプトにおいても重要なものでした。
音源それぞれの生来の特性を引き出すことをモットーとする「Eilex HD Remaster」と、ばらばらの特性の音源を集めてひとつの世界観を作り出さねばならないコンピレーション。
一見すると、水と油のように相容れない両者のコンセプト。
しかし、その両者の間に「奇跡的な一致が起きた」と、堀部氏も、ナクソス・ジャパンの長門氏も口を揃えます。その奇跡の秘密は、ナクソス・レーベルの録音の特徴にあるのだとか。
「そもそもナクソスは、有名曲から無名曲まで、古今東西のありとあらゆる作品をカタログ的に収録しようというコンセプトのレーベルです。音楽の全体像を捉えやすくするためか、レコーディングのマナーも、近年流行の録音方法に対し比較的遠めのセッティングに統一されています。」(長門氏)
「マイクを楽器の中に突っ込むような録音も、すぐ目の前で楽器が鳴っているような迫力があり、魅力的です。しかしナクソスの録音は、対象から適度に離れ、ホール全体の空気を録るような客観性があります。……そう、まるで、コンクール会場の審査員席から演奏を聴いているかのような録音なのです」(堀部氏)
それぞれの登場キャラクターの演奏スタイルや、それを耳にしたひとびとの心の動きが、緻密に描かれた『蜜蜂と遠雷』。このアルバムを聴くと、自分が、会場の席に座って、彼らの演奏を見守っているような感覚を体験できるのです。ひとつの会場で開催されているコンクールの実況録音をイメージさせる音の仕上がりでなければ、この感覚は味わうことができません。
「ちなみに、自分のオススメは、「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 Op. 30」。これは痺れましたね。ハイレゾ・リマスター版だと、左手がピアノ線を打楽器のように叩いて、ゴーーーンという響きわたる感じがいっそうはっきりと出てきます。ピアノそのものの立像感、骨太さ、音の粒子が飛び散るイメージ、そうしたものをたっぷり味わっていただきたいですね」(堀部氏)
また、空気感が鮮明になることによって質が向上するのは、音そのものばかりではありません。DISCに相当する後半の6曲はいずれもピアノ協奏曲。ピアニストと指揮者、緊張感に満ちた阿吽の呼吸が感じ取れるのも、このハイレゾ版ならでは。
著者の恩田陸氏は、このコンクールのモデルとなった「浜松国際ピアノコンクール」を全部で4度、足かけ12年間にわたって取材し、この小説を書いたそうです。取材といっても、バックステージを観察するようなことはほとんどなく、会場の座席に身を沈め、ずっと、ピアニストたちの演奏を聴き続けていたとのこと。(出典)
そんな作者のまなざしをも含めての追体験ができるかもしれません。
単なるコンセプトCDのアップコンバートではなく、ハイレゾの新たな可能性を切り拓き、新しいリスナーに訴えかけるような野心に満ちた『蜜蜂と遠雷 音楽集』。CDリリースの5月26日に先立ち、5月19日から配信スタートです。