『ハイレゾクラシック the First Selection(eilex HD Remaster version)』試聴会イベントレポート

2017/03/22
1月19日に配信がスタートし、e-onkyo musicで1位を獲得した「ハイレゾクラシック the First Selection(eilex HD Remaster version)」。明確な理念に裏付けされたリマスターが大反響を呼び、192kHz/32bit、192kHz/24bitともに、発売後2ヶ月経った現在も継続してランクイン中です。

その人気に応える形で、同アルバムの試聴イベントが、3月11日に東京・秋葉原のオーディオショップ「ダイナミックオーディオ5555(SPRING FESTIVAL 2017内)」で開催されました。音源の試聴のみならず、アイレックス株式会社の朝日英治社長、技術担当の堀部公史氏、ナクソス・ジャパン株式会社の長門裕幸氏が、リマスターの技術的なポイントからこのアルバムの魅力までを語り尽くした2時間。その充実したイベントの一部を、レポートとしてお届けします。

『ハイレゾクラシック the First Selection (eilex HD Remaster version)

192kHz/32bit 及び 192kHz/24bit アルバム/1620円


※96kHz/24bitのオリジナルバージョンはこちら




熱心なオーディオ・ファンの方々を前に行われた2時間の試聴イベント。
まずは長門氏(ナクソス・ジャパン)の挨拶から。


●「eilex HD Remaster」の画期的な特性とは…?(1)より自然に近い倍音の生成

「ハイレゾクラシック the First Selection(eilex HD Remaster version)」は、クラシックの名曲を10トラック収めたハイレゾ・コンピレーション「ハイレゾクラシック the First Selection」(96kHz/24bit)のアップコンバート版。そのアップコンバートの際に用いられたのが、アイレックス株式会社の独自技術「eilex HD Remaster」です。

同社の朝日社長が、この「eilex HD Remaster」を用いて作られた音源を、他のさまざまな音源と比較しつつ、技術の特性をわかりやすく語ります。

まず最初に、朝日社長が解説したのは、「自然界の音の波形」。
「96kHz/24bitの波形を見ると、きれいななで肩のグラデーションを描いて音が減衰していく様子がわかります。野外の音でも、人の声でも、音楽でも、自然界の音であれば、この減衰の形は同じです。だから、アップコンバート音源についても、同じようなグラデーションが作られるのが理想ということになります」

スクリーンを用いて解説する朝日社長。


(客席から聞こえた「どうやって作るんだろう?」という声に応えて)
「元の音源に「ないはずの音」をどうやって再現するのか、当然ながら、疑問に思われますよね。
簡単に言ってしまえば、可聴派帯域の基音に、きれいな倍音を付け足していって、なで肩のグラデーションを作るということになります。そのノウハウこそが、アップコンバート技術における勝負どころ。アイレックス社のアメリカの8人の技術担当が、アルゴリズムを組み、理論を構築して、この「eilex HD Remaster」を作り上げるに至りました」

続いて、アップコンバート音源の精度の検証に関する解説に移ります。

「私たちの技術によってアップコンバートした音源が、「自然界の音」にいかに近いか。その証明をしてみましょう。
まず、96kHz/24bitのオリジナル音源を、あえて48kHz/24bitにダウンサンプリング。オリジナル音源にあった上の帯域は、当然ながらカットされてしまいます。
それを、「eilex HD Remaster」で再度96kHz/24bitにアップコンバート(図1)。同じスペックの元音源と比較すると(図2)、かなり似通った形で復元できていることがおわかりいただけるでしょうか。それどころか、リマスターの方が倍音成分の情報が充実しています。
これこそが、マイクでさえも取りこぼしてしまうことがある「レコーディング時には存在していたはずの本来の音」。たとえば20kHzまでしか集音できない性能のマイクであれば切れてしまう部分ですが、それを、上まですーっと自然に伸ばしてやる。これが「eilex HD Remaster」の技術なのです。」

図1 ダウンサンプリングによって失われてしまった帯域(赤の囲み)を再構築。


図2 オリジナル音源(左)とアップコンバート音源(右)との比較。


●「eilex HD Remaster」の画期的な特性とは…?(2)技術者の細やかなさじ加減と、施術の際のコミュニケーション

さて、この技術の実際の作業工程はというと…?

「堀部さんが手作業で1曲1曲施しています。そのノウハウは秘密ですが、パラメーターの設定には、料理の塩コショウのようなさじ加減が必要で、非常に高いスキルを要します」 そんな朝日社長の説明に、
「会得するまで、ずいぶん素振りで練習をしましたね。実際の作業でも、1曲につき3回は通し聴きします」と、堀部氏が言葉を添えます。

「実は、僕は当初、アップサンプリング技術に関して否定派でした。ところが、井筒香奈江の音源(堀部氏のプロデュース作)を「eilex HD Remaster」で96kHz/24bitから192kHz/32bitにアップコンバートしてもらう機会があり、聴いてビックリ。アップサンプリングに対するイメージが一変してしまいました」

◆『リンデンバウムより』~Tr.1 氷の世界(井筒香奈江)



「どれほど優れた録音環境であっても、集音、アナログからデジタルへの変換、ミキシング、といった制作の過程で、色々なロスが発生してしまうことは、技術者としてよく知っています。「本来マイクの周りにあふれていたが、失われてしまった音」をよみがえらせる技術である、というところに、「eilex HD Remaster」の意義を感じました。決して、元のミキシングを否定するような技術ではありません」

実際の施術には、技術者とレーベルとの双方のコミュニケーションが不可欠…と、ナクソス・ジャパンの長門氏が話を引き継ぎます。

「たとえば、「ハイレゾクラシック the First Selection」のTr.1「四季より春」の制作を手掛けたのは、グラミー賞の受賞歴を持つ有名プロデューサー、スティーブン・エプスタイン氏。いわば彼の作品に手を入れることになるので、どういう趣旨・基準で施術するか、ということをしっかり決めておかなければならない。その意味でも、今回は、双方の意見交換の上で進めることができる安心感がありました。
このアルバムはコンピレーションなので、演奏者や録音環境がすべてのトラックで異なります。それぞれの音源の本来の特性をなるべく残してほしい、というのがナクソス・ジャパンからの希望でした」

◆『ハイレゾクラシック the First Selection』~Tr.1ヴィヴァルディ: 四季より春(チョーリャン・リン他)



この希望に応えるため、堀部氏は、まず、いくつかのナクソスレーベルのクラシック音源で試作を行い、イメージのすり合わせを行ったそうです。

「ホルストの「ジュピター」(オーケストラ曲)、ドビュッシーの「月の光」(ピアノ曲)を使って、基準値を決めました。低音がゴーンと低く鳴りすぎたり、高音が過剰にキラキラしたりすることのない、適度な距離を置いた音作りを心がけました」

施術の際のさまざまなポイントを語る堀部氏。


●「eilex HD Remaster」の画期的な特性とは…?(3)ビット

アップコンバートというと、「倍音作り」の技術ばかりが注目されがちですが、実は、「eilex HD Remaster」の隠れた優良ポイントは、「ビット」の処理技術にあるそうです。

「私たちは、「Dynamic Bit-Allocation」という技術でもって、ビットのサンプル点を全部打ち直しています。たとえばCD音源の場合、どうしても波形が階段状にガタガタしてしまうわけですが、この技術を用いることによって、微妙なニュアンスまでも反映した波形を作ることができます。
実は、単純にアップサンプリングしただけでは、ビットの波形はガタガタのままなんです。自動でつるんとした波形に仕上げたり、ディザ(ノイズデータ)を機械的に入れる方法を用いている技術者もいますが、私たちは、アルゴリズムの検証データをもとに、「正しいビット」をあぶり出し、それを反映させる独自技術を持っています。そのため、より、オリジナルに近い波形を再現できるのです」と、朝日社長。
これに対して堀部氏が、「実は、僕が「eilex HD Remaster」に技術担当として携わろう、と思った決定的な理由は「ビット」だったんですよ」と答えます。

「サンプルレートを変える技術はよくありますが、ビットレートを変えるという技術は画期的で驚きました。元ビットの間にビットを打つのではなく、元ビット自体も修正して、精度を高めていく。こんな技術は他にありません。ぜひ、リスナーの皆様も、ビットの部分を聴き分けていただきたいですね」

●「ハイレゾクラシック the First Selection(eilex HD Remaster version)」より~「幻想交響曲」

イベントの終盤には、同アルバムのTr.3に収録された「「幻想交響曲」より第2楽章」の試聴も行われました。96kHz/24bit(オリジナル)、192kHz/24bit(eilex HD Remaster)、192kHz/32bit(eilex HD Remaster)の3種類を聴き比べます。

「ハープは、ハイレゾを聴き比べる上でも非常にわかりやすい楽器ですね。この曲の冒頭で聴かれる、左右に配置された2台のハープがアルペジオを受け渡す様子が、奏者の手元のアクションやステージ上の空気感を伝えてくれます。各ファイルスペックを比較すると、この空気感の再現性の違いを楽しめると思います。」

という長門氏の解説が裏付けられるような、3種類の音源。

最後の質疑応答でも、オーディオ・ファンの方々から数々の質問が上がり、「eilex HD Remaster」のアップコンバート技術や、「ハイレゾクラシック the First Selection (eilex HD Remaster version)」への興味や好奇心が窺える充実した2時間でした。

スクリーンを用いて解説する朝日社長。


「ハイレゾクラシック」は、オリジナル/eilex HD Remaster versionともに、 大好評配信中です。



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