HOME ニュース 連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第40回 2016/10/03 日本の宝、あの名盤『FLAPPER』がハイレゾで聴ける日 ~ 祝・ソニーミュージック カタログ配信スタート! その2 ~ ● ハイレゾらしさって何だろう? 「ハイレゾらしさが感じられるよう、リマスタリングしました。」 最近よく耳にする、マスタリングエンジニアさんのこの決まり文句。私はちょっぴり違和感を感じているんです。 私たちリスナー側が聴きたいのは、決して“ハイレゾらしい音”では無い。あくまで、“大好きな音楽がもっとイイ音で” が、根底に流れている大原則です。やはりハイレゾ音源には、ガツンと心に響くサウンドを期待しているんです。 でも、エンジニアさんの気持ちもわかります。実は、音楽を単にハイレゾ化しただけでは、なかなかCD盤と音質の違いが出せないもの。やはり音源を製品として納品するためには、「ほら、CD盤よりこんなに音が良くなっていますよ」と結果を残さねばならないのがプロの仕事ですから。そこで、“ハイレゾらしいマスタリング” という、なんとも不思議なサウンドが登場しつつあります。 具体的には、ちょっぴり高域が強めで、音圧を少し抑え気味にし、広めの音像で音を作る。ハイレゾの広い器と高域特性の良さを、マスタリングで表現したかった結果でしょう。これって、本当にリスナー側が求めている音? これからハイレゾ化を担当するエンジニアの皆さん、ここは腕の見せどころですし、正念場です。これから先、その作品が5年後、10年後に再度ハイレゾ化リマスタリングが行われる可能性は低く、今回のこのハイレゾ仕様が、未来への音楽の記憶になると思われるのです。未来の人たちにに、その“ハイレゾ風マスタリング” を届けたいのですか? 音楽制作で陥りやすいミスは、人間の思惑を音楽に加えてしまうところ。ぜひ、音楽が元来持っている輝きを引き出し、本当の意味でのハイレゾ化を実現してほしい。そう願っていますし、エンジニアさんのパワーを信じています! ● 名盤『FLAPPER』の魅力 70年代の日本の名盤特集で必ずリストアップされる、『FLAPPER/吉田美奈子』。私の『FLAPPER』体験は、1976年のリアルタイムではなく、初CD化された頃の1989年だったと思います。 『FLAPPER』は聴いたことがなくても、吉田美奈子さんの歌声は耳にしたことがあるのでは? 例えば、山下達郎さんの「SPARKLE」や「FUNKY FLUSHIN’」の女性コーラス。そう、あの美しい声が吉田美奈子さんですよ! 私も「タツローのコーラスって誰?」から吉田美奈子さんに入門したクチです。初めて聴いた美奈子さんが『FLAPPER』だったのは、今考えると運が良かったかも。例えば、いきなり『IN MOTION』だったら、ちょっと私には刺激的すぎたでしょうから。 『FLAPPER』と言えば、「夢で逢えたら」が人気曲です。未来へ歌い続けられるであろう、大瀧詠一さん作の名曲。もちろん私も大好き。でも私のイチオシは、私は1曲目「愛は彼方」と3曲目「朝は君に」です。 「愛は彼方」は、達郎さんのコーラスが超かっこイイ! ギターカッティングも、これこそ真のキレッキレ。でも、「愛は彼方」はオーディオ泣かせの1曲だったりします。ボーカルの静かなトーンで始まるのですが、途中からガーーーン!とファンク曲調へと変貌します。ここが、まぁポップスでは考えられないくらいのダイナミクス。冒頭の歌声で音量を合わせると、ガーーーン!のところで慌ててアンプに飛びつき、ボリュームを下げることになりますよ。私もイベントなどで、未だにやってしまう失敗です。 「朝は君に」は、佐藤博さんのエレピが泣いています。そして、村上ポンタ秀一さんの、これぞ日本語グルーヴの16ビートというドラム。そこに美奈子さんの美声が乗っかるのですから、完璧としか言いようがありません。 美奈子さんは、世界的に見ても数少ない、“光と影”、“陰と陽” の両方を表現することのできるボーカリストだと思います。どちらかというと、私は美奈子さんの“光” の声が好みなので、この『FLAPPER』はそのバランスが最も良いアルバムなんです。もう40年前に制作された作品とは思えない、まさに日本の金字塔名盤と言えるでしょう。 ● ハイレゾ『FLAPPER』は、100点満点の仕上がり! 『FLAPPER』(96kHz/24bit)/吉田美奈子 e-onkyoで取り扱い開始される前から、ハイレゾ版『FLAPPER』を他サイトで購入して聴いていました。これがもう凄いのなんの。どうしてもハイレゾ『FLAPPER』のレビューを書きたかったので、「早くソニー作品をe-onkyoでも」とリクエストし続けていたほどです。そういえば、私が担当していたラジオ番組でも、ハイレゾ版「愛は彼方」を積極的にご紹介しましたっけ。 ハイレゾ版『FLAPPER』のポイントは、レコーディングエンジニアの名匠・吉田保氏がマスタリングを担当しているところ。音圧は低めで、ダイナミクスが広い。先ほどご紹介した1曲目「愛は彼方」の、毎回ビックリする冒頭の音量差もそのまま。しかし、そんなウンチクはどうでも良いのです。私たちが聴きたかった『FLAPPER』が、ここに実現しているのですから。 『FLAPPER』に望んだハイレゾらしさとは、やはり1976年への窓。それも曇りガラス越しではなく、開け放った1976年への窓です。そこから見える景色は、若かりし頃の美奈子さんであり、達郎さん、細野さん、ポンタさんなど、血気盛んなミュージシャンの熱演。決して、リマスタリングしたエンジニアさんの顔が見たいのでも、最新機材の性能が見たいのでもありません。ハイレゾ版『FLAPPER』は、そのリスナー側の気持ちがニクいほどわかってらっしゃる。 レコード盤で、そしてCD盤で聴いてきた『FLAPPER』そのままで、さらにベールが何枚も無くなった感じ。1976年への窓が全開になった感じ。誰が聴いても「ハイレゾってイイなぁ」と思える感じ。そんなハイレゾらしさが、このハイレゾ版『FLAPPER』では実現していますよ! 人間の音楽を生み出す力には、まだまだ限界など無いと実感した作品です。美奈子ワールド未体験の皆様、この太鼓判ハイレゾ音源『FLAPPER』から、ぜひ! 当連載に関するご意見、これを取り上げて欲しい!などご要望は、こちらにお寄せください。※“問い合わせの種類”から“その他”を選んで送信お願いします。 【バックナンバー】 <第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~ <第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~ <第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~ <第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~ <第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~ <第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~ <第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~ スペシャル・インタビュー前編 <第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~ スペシャル・インタビュー後編 <第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~ <第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~ <第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~ <第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~ <第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~ <第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~ <第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~ <第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~ <第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~ <第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~ <第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~ <第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~ <第22回>『19 -Road to AMAZING WORLD-』 EXILE ~1dBを奥行再現に割いたマスタリングの成果~ <第23回>『マブイウタ』 宮良牧子 ~音楽の神様が微笑んだ、ミックスマスターそのものを聴く~ <第24回>『Nothin' but the Bass』櫻井哲夫 ~低音好き必聴!最小楽器編成が生む究極のリアル・ハイレゾ~ <第25回>『はじめてのやのあきこ』矢野顕子 ~名匠・吉野金次氏によるピアノ弾き語り一発録りをハイレゾで聴く!~ <第26回>『リスト/反田恭平』、『We Get Requests』ほか、一挙5タイトル ~イイ音のハイレゾ音源が、今月は大漁ですよ!~ <第27回>『岩崎宏美、全53シングル ハイレゾ化』 ~ビクターの本気が、音となって届いたハイレゾ音源!~ <第28回>『A Twist Of Rit/Lee Ritenour』 ~これを超えるハイレゾがあったら教えてほしい、超高音質音源!~ <第29回>『ジム・ホール・イン・ベルリン』、『Return To Chicago』ほか、一挙5タイトル ~多ジャンルから太鼓判続出の豊作月なんです!~ <第30回>『Munity』、『JIMBO DE JIMBO 80's』 神保彰 ~喜びと楽しさに満ちたLA生まれのハイレゾ・サウンド!~ <第31回>『SPARK』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~ハイレゾで記録されるべき、3人の超人が奏でるメロディー~ <第32回>『究極のオーディオチェックCD2016~ハイレゾバージョン~』 Stereo ~付録CD用音源と侮れない、本物のハイレゾ!~ <第33回>『パンドラの小箱』ほか、岩崎宏美アルバム全22作品ハイレゾ化(前編) ~史上初?! アナログマスターテープ vs ハイレゾをネット動画で比較試聴!~ <第34回>『パンドラの小箱』ほか、岩崎宏美アルバム全22作品ハイレゾ化(後編) ~アナログマスターテープの良いところ、ハイレゾの良いところ~ <第35回>『エラ・フィッツジェラルドに捧ぐ』 ジェーン・モンハイト ~オーディオ好き御用達の歌姫は、やっぱりハイレゾでも凄かった!~ <第36回>『Queen』ハイレゾ×5作品 ~ 超高音質CD盤をはるかに超えるサウンド!~ <第37回> CASIOPEAハイレゾ × 一挙18作品 (前編) ~ ハイレゾ界を変える?超高音質音源襲来!~ <第38回> CASIOPEAハイレゾ × 一挙18作品 (後編) ~ ハイレゾ界を変える?超高音質音源襲来!~ <第39回> Earth, Wind & Fireのハイレゾはグルーヴの宝箱 ~ 祝・ソニーミュージック カタログ配信スタート!~ 筆者プロフィール: 西野 正和(にしの まさかず) 3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。 ツイート