【インタビュー】10周年記念ベスト・アルバムと旧譜5タイトルが一挙にハイレゾ化されたジャズ・シンガー、青木カレンが語る“ジャズへの想い”

2016/09/28
洋楽ヒット曲からジャズ・スタンダードまで。実力派ジャズ・シンガーとして人気を博す青木カレンさんのデビュー10周年の足跡を捉えたベスト・アルバム『The Story of Karen Aoki -10th Anniversary Best-』(書き下ろしのオリジナル新曲「You」、2016年新録音「Devil May Care」を収録)、さらに『KAREN』(2007年)、『SHINING』(2008年)、『KAREN’s SWINGIN’ PARTY』(2008年)、『Twilight Jazz』(2012年)、『TRANQUILITY』(2012年)といったアルバム5作品がハイレゾでリリース決定。e-onkyo musicではこれを記念し、青木カレンさんへのインタビューをお届けします。

インタビュー・文◎原 典子 撮影(取材時)◎山本 昇

『The Story of Karen Aoki 10th Anniversary Best』
/青木カレン


 ときにはクールにダンサブルなグルーヴを乗りこなし、ときにはスモーキーなアルトでスタンダードを歌う。ときにはリラックスして飾らない素顔を見せることも――。さまざまな声と表情で聴く者を魅了するジャズ・シンガー、青木カレンがデビュー10周年を迎えた今年、ベスト・アルバム『The Story of Karen Aoki -10th Anniversary Best-』を発表。あわせて過去にリリースされた5枚のアルバムもハイレゾ化されて登場した。
 ジャズと出会ったのが12年前。それを機にジャズを歌い始め、ファースト・アルバムを発表してから10年。その歩みを振り返りつつ、お話を伺った。

■ 天国の巨人も名を連ねる架空の組織“ジャズ協会”の一員として

―― 10年という月日を、今、振り返ってみていかがですか?

 あっという間でもあり、長い時間でもありました。ただ、ひとつ言えることは、10年前の自分と今の自分を比べると、もう別人かと思うくらい違うということ。全細胞が一度入れ替わったような感覚さえあります。

―― ジャズとの出会いによって生まれ変わったということでしょうか?

 ジャズという音楽との出会いもありますが、やっぱりライヴですよね。ジャズはとにかくライヴが多いジャンルですから、「ハイ、今ここで歌ってください」と突然言われても、すぐに歌えるような身体になっていった感じがします。平常時の自分と、ステージに上がっている自分とが、どんどん一致していくというか。以前はライヴというと、ドレスを着て、メイクをして、しっかり発声練習をしてからステージに立つものというイメージでしたが、今はもう、朝起きてパジャマのままでもステージに立てば歌える人間になったような気がします。もちろん、そんな機会は実際にはないんですけど(笑)。

―― この10年間に出したアルバムは10枚以上。それだけでもすごいのに、アルバムを出すごとに新しいチャレンジをし続けてこられましたね。

 それでもまだ、やりたいことに時間と身体が追いついていない感じがします。私自身がジャズを知ったのが大人になってからだったので、「ジャズってちょっと難しそうだな」と躊躇う方の気持ちがよく分かるんです。そういった方々にジャズの楽しさを伝えたいという想いが強くあって、「こうしたらもっと伝わるかな」というアイディアをつねに考え、試行錯誤しています。ほんとうに、私はジャズに人生を救われたと思っていますから、ジャズの入口に立って、いろいろな人を呼び込みたいですね。

―― これまでのディスコグラフィを振り返ると、デビュー当初は踊れるクラブ・ジャズ、そこからビッグ・バンドや“生音×打ち込みの融合”などあらゆる方向に幅を拡げつつ、2012年の『Twilight Jazz』を境に、よりシンプルでオーガニックなサウンドへとシフト・チェンジしたように思えます。

 そうですね、私の中では『Twilight Jazz』と、それに続く『TRANQUILITY』『Eternal Melody』が三部作のような存在になっています。リスナーの皆さんにリラックスして聴いていただけるアルバムを作りたいと思ったのが始まりですが、そのためにはまず、私自身がリラックスして歌わないといけませんよね。そこで『Twilight Jazz』では、デビュー時からずっと共演していただいているギターの田辺(充邦)さんとふたりでスタジオに入って、難しいことは何も決め込まずに、素の状態で出たものをそのまま録ってみたりもしました。そこで得た新しい感覚というものがあって、これまでとは違う世界が拓けたように感じましたね。リスナーの方々からは「ご飯を食べながら聴いてます」といったリアクションを数多くいただき、「ああ、何かをしながら聴いてもらうって素敵だな」と思いました。そこから着想を得たのが続く2枚のアルバムで、お家やカフェなど皆さんの“生活の場”で聴いていただけたらいいなあと思って作りました。

―― なるほど。クラブで踊るジャズも、カフェで流れているジャズも、青木さんの目指す“ジャズの入口”であることには変わりないですものね。青木さんの歌を聴いていると「ジャズって本当に自由なんだな」「ジャズほど何でもできる音楽って他にないかも」と思えてきます。

 そうおっしゃっていただけると嬉しいです。やっぱり長い年月を超えてきた名曲には重さと普遍性があるので、そういう曲を歌い継いでいきたいという気持ちが半分、それと同時に、新しいことに挑戦して、ジャズというものを前に進めていかなくてはという気持ちが半分あります。天国にいるルイ・アームストロングやマイルス・デイヴィスも、きっと私たちのことを見ていると思うんですよね。もし、霊界の方々も含めて“ジャズ協会”というものがあるとしたら(笑)、私はその一員だと思っているので、ジャズという音楽を未来へつないでいきたいという気持ちがあります。じつは私、年に2回だけ、すごく困ったときは天国にいるサッチモに助けを求めていいっていうルールを作っているんですよ。今年はもう1回使っちゃったから、あと1回しか残ってないんですけど。

―― サッチモは応えてくれましたか?

 はい、ただ「大丈夫だよ」って言ってくれるだけなんですけどね(笑)。

〈ジャズ・シンガーとしての気概を語る青木カレンさん〉

■ 新曲「You」はリスナーへの感謝の気持ちを込めたラヴ・ソング

―― ジャズのスタンダードはもちろん、ロックやポップスのカヴァーでも、あっと驚くようなアレンジが印象的です。今回のベスト・アルバムでも、レディー・ガガの「Poker Face」がサルサ・アレンジだったり。

 あの曲はギターの渥美(幸裕)さんのアレンジ。1曲に3ヵ月ぐらいかけて、素晴らしいアレンジに仕上げてくださいました。他にも、関わってくださるミュージシャンが皆さん凄腕なので、私の想像をはるかに超えたアレンジをご提案いただくこともありますね。

―― ご自身でアレンジのイメージを考えることもありますか?

 もちろんです。基本的には、まず自分でアレンジをイメージして、それをミュージシャンに伝え、セッションしながら実際のアレンジ作業に入っていくという流れですね。私の場合、歌詞からインスピレーションを得ることが多いです。「この歌詞をどう活かそう?」というところから、アレンジのイメージを膨らませていく。たとえばベスト・アルバムの1曲目に入れたスティングの「Englishman In New York」では、“Be yourself no matter what they say(誰が何と言おうと自分らしくあれ)”という歌詞をいちばん伝えたくて、それを強調するアレンジにしました。

―― 歌詞から、というのはシンガーならではの発想ですね。

 アレンジに限らず、「この曲をカヴァーしてみたい」と思うのも歌詞からですし、歌詞によって歌い方も変わってきます。昔、業界の先輩に「ジャズ・シンガーには、自分自身が主人公になるタイプと、ストーリーテラーになるタイプの2種類がある。自分がどちらのタイプか見極めた方がいい」というお話を聞いたことがあるのですが、私はどちらのタイプでもあるような気がします。自分がその歌の世界に入り込んで主人公になりきって歌っているときと、客観的にストーリーテラーとして歌っているときの両方があって、それはやっぱり、歌詞によって違ってきます。

―― なるほど、青木さんの変幻自在の声の秘密が分かったような気がします。クールだったりキュートだったり、熱を帯びていたり、パンチのある声だったり、本当にいろいろな表情になりますものね。

 自分が主人公になっているときは、たとえばキュートな歌い方をしたり、意図せず声が割れたり、そのキャラクターの声みたいになっているのかもしれませんね。逆にストーリーテラーのときはクールな感じの声だったり。

―― ベスト・アルバムの最後に入れられた、青木さんの作曲による新曲「You」も素敵です。

 ありがとうございます。3年ぐらい前になりますが、ライヴを多く詰め込んでいた時期に、耳の調子を悪くしてしまったことがあったんです。「こんな状態でライヴをして、お客さまに申し訳ない」と思いながらステージに上がったのですが、そんなときでも変わらず、あたたかく見守ってくださるお客さまがたくさんいらっしゃって、「ああ、ありがたいな」と思いました。そのときパっと歌詞とメロディが浮かんで、書いたのがこの曲です。男女の間のラヴ・ソングではなく、リスナーの皆さまひとりひとりへの感謝の気持ちを込めたラヴ・ソング。

―― では最後に、今回ハイレゾ化された音源を聴いてみての感想をお聞かせください。

 いやあ、ほんとうに良い音ですねえ。すごく滑らかで、耳へのストレスが小さい感じがします。一つひとつの音は立体的で、とても鮮明に聞こえるのですが、混ざり方がナチュラルというか。くっきりはっきり聞こえすぎても疲れてしまいますから、そのバランスですよね、それがちょうどいいと思います。大のオーディオ好きの父も、きっと喜んでくれることでしょう。



 この秋には、人気TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』3クール目のオープニング・テーマに、青木カレン&ハセガワダイスケが歌う「Great Days」がオン・エアされる。さらに来年には、自身のオリジナル曲によるアルバムも計画されているという。彼女のチャレンジは、今後もまだまだ続きそうだ。

〈『The Story of Karen Aoki -10th Anniversary Best-』のハイレゾをスピーカーで試聴。開口一番「いい音だなぁ」と率直な印象を語ってくれました。「音楽はアートですから、解像度が高ければいいというものではないと思いますが、このハイレゾはナチュラルであたたかく、すごくちょうどいい感じに仕上がっていると感じました」〉

〈今度はポータブルのデジタルオーディオ・プレーヤー、パイオニアXDP-100Rで、同じく最新ベスト・アルバムのハイレゾから〈Poker Face〉をヘッドフォンで試聴していただきました。「すごくいいですね! 音楽情報のキャパシティの違いを感じます。私たちがスタジオで作っていたのはまさにこの音。ぜひハイレゾで聴いてほしいですね」〉

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