HOME ニュース 連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第31回 2016/02/05 ------------------------------------------------------------------------------------------ 【バックナンバー】 <第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~ <第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~ <第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~ <第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~ <第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~ <第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~ <第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~ スペシャル・インタビュー前編 <第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~ スペシャル・インタビュー後編 <第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~ <第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~ <第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~ <第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~ <第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~ <第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~ <第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~ <第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~ <第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~ <第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~ <第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~ <第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~ <第22回>『19 -Road to AMAZING WORLD-』 EXILE ~1dBを奥行再現に割いたマスタリングの成果~ <第23回>『マブイウタ』 宮良牧子 ~音楽の神様が微笑んだ、ミックスマスターそのものを聴く~ <第24回>『Nothin' but the Bass』櫻井哲夫 ~低音好き必聴!最小楽器編成が生む究極のリアル・ハイレゾ~ <第25回>『はじめてのやのあきこ』矢野顕子 ~名匠・吉野金次氏によるピアノ弾き語り一発録りをハイレゾで聴く!~ <第26回>『リスト/反田恭平』、『We Get Requests』ほか、一挙5タイトル ~イイ音のハイレゾ音源が、今月は大漁ですよ!~ <第27回>『岩崎宏美、全53シングル ハイレゾ化』 ~ビクターの本気が、音となって届いたハイレゾ音源!~ <第28回>『A Twist Of Rit/Lee Ritenour』 ~これを超えるハイレゾがあったら教えてほしい、超高音質音源!~ <第29回>『ジム・ホール・イン・ベルリン』、『Return To Chicago』ほか、一挙5タイトル ~多ジャンルから太鼓判続出の豊作月なんです!~ <第30回>『Munity』、『JIMBO DE JIMBO 80's』 神保彰 ~喜びと楽しさに満ちたLA生まれのハイレゾ・サウンド!~ ------------------------------------------------------------------------------------------ 『SPARK』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~ハイレゾで記録されるべき、3人の超人が奏でるメロディー~ ■ 上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトは音のアスリート集団 2015年末、ベーシストのアンソニー・ジャクソン氏よりご招待いただき、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトのブルーノート公演を見にいってきました。アンソニー氏との出会いは2007年ですから、もう9年近いお付き合いになります。アンソニー氏が使用する楽器ケーブルおよび電源ケーブルは、私の会社で開発したものです。一般的にはエンドース契約が必要なところですが、アンソニー氏よりケーブルの音質を高く評価していただいたことから、音の友情のみで関係が続いております。 さて、その上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトのブルーノート公演、いやはや凄かった~。もの凄いスピードなんです。楽曲の速さではなく、処理能力の速さがケタ違いというのでしょうか。例えるなら、もう上原ひろみさんというCPUがとんでもない高性能で音楽を処理していき、その超高速と同等にカッ飛ばす世界的巨匠のお二人。客席から、そんなことを感じて圧倒されっぱなしでした。 ライブ終了後、アンソニーさんに新しいケーブルを渡すのが、このところの私の年末恒例行事となっています。アンソニーさんは、このトリオ・プロジェクトで世界中を旅しながら、未だに音楽家としての成長を目指しています。それに負けじと、私達ケーブル開発チームも一年の切磋琢磨を経て、その現在のアンソニーさん相応しい最新のケーブルを年末のブルーノート公演で提供する。そんな夢のような、音楽にとって理想的な関係が続いているのは、私の幸せであり宝なんです。 そんなブルーノート公演での楽屋エピソードを少々。ライブ終了後、上原さんとドラムのサイモン・フィリップスさんが、良い意味での白熱した議論を交わしていました。「サイモン、あそこのリズムは、タカタタカタンタンでしょ!」と、英語でしたがこんな感じです。その光景は、海外の著名ミュージシャンが日本の女性アーティストに名前貸しでサポートしているのではなく、正に対等、いやそれ以上かもしれません。見る人によってはバンマスに呼び出しをくらったバンドマンのように感じるかも。それほど真摯な姿勢であり、ライブ後にも火花を散らす真剣勝負があるということです。 そうそう、このトリオ・プロジェクト、リハーサルが凄いのでも有名です。ライブ前のリハというと、会場の音チェックを含め、ミュージシャンのウォーミングアップという感じが一般的です。ところがこのトリオ・プロジェクト、特訓に近いトレーニング級のリハーサルを行っているそうです。噂によれば、一週間公演であろうと毎日がトレーニング級リハとのこと。そのアスリート魂、いやはや脱帽です。 そんな楽屋で、アンソニーさんと親しい方より素敵なエピソードをお聞きしました。「この人は、プライベートでも音楽の話しかしないんですよー。あとは夜空。星の話ばっかり(笑)。」なんともアンソニーさんらしい!だからこそ、あの大地のようなベースサウンドが奏でられるのです。ますますアンソニーさんが大好きになりましたよ。 ■ 海外武者修行で進化したトリオ・プロジェクト 2015年ブルーノート公演で、私の見た回は全て新曲。新作からのパフォーマンスのみで客席を圧倒していました。その自信作がついにハイレゾでも聴ける日が! 『Spark』 (96kHz/24bit)/Hiromi ハイレゾ購入特典として、アルバム・クレジットのpdfデータが添付されてきます。ぜひ“Anthony Jackson plays~Cables by Reqst”の文字を探してみてくださいね。日本のケーブルで、こういうところにメーカー名がクレジットされるのは、なかなか名誉なことですので、個人的にも嬉しくって! 『ヴォイス』(2011年)、『MOVE』(2012年)、『ALIVE』(2014年)に続く、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトの4作目となる『SPARK』ですが、個人的に「きっとトリオ・プロジェクトは『ALIVE』までの三部作で完結なんだろうな~」と勝手に想像していました。それほど上原ひろみさんは才能あるミュージシャンですし、おそらくファンもスタッフも次の新たな展開を期待したのだと思います。それでも上原さんは「まだトリオ・プロジェクトでもやり残したことがあるのだ。成長は可能なのだ。」と、海外武者修行を敢行しました。その中には、2015年夏の日本でのフジロック出演が記憶に新しいところです。 そして『ALIVE』で頂点に達したかと思われたトリオ・プロジェクトが、圧倒的な進化を遂げ『SPARK』を完成させたのです。2015年末のブルーノートで私が目撃したのは、『ALIVE』の倍以上は高速処理で音楽を奏でていくトリオ・プロジェクトの姿でした。 その音楽は、まるでCPUの性能を試すがごとく、音楽処理能力に強烈な負荷をかける複雑なリズムの数々。もはや鼻歌で真似ることもできませんし、手拍子はおろか体で一緒にリズムをとることもできません。それでも会場は熱狂の渦でした。このトリオ・プロジェクトが存続しているうちに、ぜひ一度生演奏を見ることをお薦めしたいところですが、そうするとただでさえ入手困難なチケットが更に競争率がアップしてしまいます。教えたいけど教えたくない・・・そんなトリオ・プロジェクトです。 そんなミュージシャン負荷テストのようなヘビーに情報が詰まった音楽ですから、夜にお酒でも飲みながらのんびり聴く、読書のBGMで流すといった用途には全く不向きだと思います。どちらかというと、聴く側も真剣勝負。「スピーカーで、そしてイヤホン/ヘッドホンで鳴らし切るんだ!」という強い聴くためのエネルギーが必要でしょう。 ■ 『SPARK』のCD盤vsハイレゾ さて、そんな『SPARK』のハイレゾは、どんなサウンドなのか。事前に関係者用サンプルCD-Rで『SPARK』の予習ができておりましたので、ハイレゾ版『SPARK』の入手を待ち、その音質のみに絞って比較試聴してみました。なおハイレゾ版『SPARK』が聴けたのは結果的に市販CD盤が発売されたあとでしたので、CDはCD-Rサンプルではなく製品版CDの『SPARK』を聴くようにしました。 お恥ずかしいことに、ハイレゾ版とCD版をシャッフルして聴いてみたところ、どちらがハイレゾかを間違えてしまいました。普段はこんなことは無いのですが・・・。ハイレゾ版『SPARK』は、間違いなく太鼓判が押せる超高音質音源です。ハイレゾ版が良くないというより、CD版『SPARK』の音がとんでもなく良いというのが、言い訳でなく正直なところ。 ハイレゾレビューを連載する者としてのプライドもありますので、入念に『SPARK』のハイレゾとCDの比較を行いました。聴く限り、ハイレゾもCDもマスタリング作業は共通だと思います。クレジットによるとDSD録音ということですので、マスタリングが完了したマスターを、何らかの手法でCD規格の44.1kHz/16bitとハイレゾの96kHz/24bitに仕上げたのでしょう。音量感は同じですので、比較試聴の際にアンプ側での音量調整は不要です。音量感には表れない、『SPARK』のハイレゾとCDのサウンドの違いは何か?そこに絞って、シビアに比較試聴してみました。 一般的に、ハイレゾのほうがより音楽を記録する器が大きいので、音色に余裕が出るものです。例えばベースやキックドラムの低域の伸びや、シンバルの高域の輝きがハイレゾの得意とするところ。しかし、『SPARK』のCDはそのあたりの音質の仕上げ具合が絶妙であり、CD規格という今となっては小さな器に、美しく音楽が盛り付けられているという印象。音の詰め込み過ぎ感は皆無ですし、逆にCD規格内に音がまとまっていることから、音楽の濃さのように感じる魅力があるくらいです。私がCD版『SPARK』の音をハイレゾ版とシャッフルしたときに間違えてしまったのは、このポイントが原因でした。 ではCDで満足が得られハイレゾ版『SPARK』が不要なのかというと、そうではありません。聴き続けているとフッと心が軽くなるのは、間違いなくハイレゾ版『SPARK』なのです。では心が軽くなる要因は何なのか?そこにハイレゾ版『SPARK』攻略のカギがありました。 例えば上原さんのピアノの音色。ハイレゾ版『SPARK』では限りなく余韻が伸びていくように感じます。CD版『SPARK』では、ある一定の部屋にピアノが設置されているかのように、ピタリと余韻がストップする瞬間があることに気付きました。これはサイモン氏のドラムにも同じことが言え、ズドーン!と叩かれた音の空気を震わせる波が、ハイレゾではより鮮明に感じ取れました。(ちなみにサイモン氏のドラムは独特の音色がありますが、これはレコーディングで加工されたものではなく、生演奏のドラムからこのサイモン・サウンドでドラムが鳴っているのです。) さて、チェックポイントに気付けば、もう大丈夫。『SPARK』のハイレゾ版とCD版をシャッフルして再度聴いてみたところ、こんどは間違いなく言い当てることに成功しました。ふぅ~一安心。 アンソニー氏のケーブルに関わる者として、コントラバス・ギターの音質に関して言えば、 『SPARK』が4作のザ・トリオ・プロジェクト作品の中でナンバーワンだと断言します。前作『ALIVE』より、アンソニー氏の楽器が新型に変わっています。ソリッドボディー型から楽器本体内部に空洞を持つホロウボディー型の白い新コントラバス・ギターで弾いているのが、前作『ALIVE』と今回の新作『SPARK』です。ゴーンという感じの『ヴォイス』と『MOVE』に対し、ブォ~ンという低音の『ALIVE』と『SPARK』。新作『SPARK』では楽器自体の鳴りっぷりが向上していますし、冒頭のように日本から提供する楽器ケーブルも切磋琢磨で進化しています。何より、アンソニー氏自身が、完全に新型コントラバス・ギターの全てを、『SPARK』では掌握しているかのように私は感じました。 上原ひろみザ・トリオ・プロジェクトの凄みをより感じられるのは、間違いなくハイレゾ版『SPARK』。唯一無二のこの音楽を、記憶として未来へ届けるためにも、より大きな記録するための器が必要だと考えます。ハイレゾ版『SPARK』が、CD発売日よりそう長く待つことなく入手できるこの時代に、素直に感謝したいと思います。アンソニー氏への楽器ケーブル提供という微力ですが、この名盤に関われたことは、私の音楽人として何よりの名誉です。そんな関係性を抜きにしても、ハイレゾ版『SPARK』を皆様に太鼓判ハイレゾ音源としてご紹介させていただきます。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 当連載に関するご意見、これを取り上げて欲しい!などご要望は、こちらにお寄せください。※“問い合わせの種類”から“その他”を選んで送信お願いします。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 筆者プロフィール: 西野 正和(にしの まさかず) 3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。音楽専門衛星デジタルラジオ“ミュージックバード”にて『西野正和のいい音って何だろう?』が放送中。 ツイート