連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第30回

2016/01/06
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
<第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~
<第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~
<第22回>『19 -Road to AMAZING WORLD-』 EXILE ~1dBを奥行再現に割いたマスタリングの成果~
<第23回>『マブイウタ』 宮良牧子 ~音楽の神様が微笑んだ、ミックスマスターそのものを聴く~
<第24回>『Nothin' but the Bass』櫻井哲夫 ~低音好き必聴!最小楽器編成が生む究極のリアル・ハイレゾ~
<第25回>『はじめてのやのあきこ』矢野顕子 ~名匠・吉野金次氏によるピアノ弾き語り一発録りをハイレゾで聴く!~
<第26回>『リスト/反田恭平』、『We Get Requests』ほか、一挙5タイトル ~イイ音のハイレゾ音源が、今月は大漁ですよ!~
<第27回>『岩崎宏美、全53シングル ハイレゾ化』 ~ビクターの本気が、音となって届いたハイレゾ音源!~
<第28回>『A Twist Of Rit/Lee Ritenour』 ~これを超えるハイレゾがあったら教えてほしい、超高音質音源!~
<第29回>『ジム・ホール・イン・ベルリン』、『Return To Chicago』ほか、一挙5タイトル ~多ジャンルから太鼓判続出の豊作月なんです!~
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『Munity』、『JIMBO DE JIMBO 80's』 神保彰
~喜びと楽しさに満ちたLA生まれのハイレゾ・サウンド!~


■ 2016年、更にハイレゾ音源を聴きまくります!

あけましておめでとうございます。今年も本連載では配信スペックにとらわれず、実際に聴いてみての判断を最優先し、心を揺さぶるような感動が得られたハイレゾ音源を皆様にどんどんご紹介していきます。そして、昨年好評だったハイレゾ試聴イベントを、数多く開催してみたいですね~。応援、どうぞよろしくお願いいたします!

■ 今年も神保さんの海外レコーディング作品は素晴らしかった!

2013年の連載スタートから記念すべき第30回は、なんと3度目の登場となる神保彰さん。もはや年始の風物詩とも言える新録音2作品同時発表は、今年もやっぱり抜群に高音質なのでした!もちろん2作品とも太鼓判ハイレゾ音源です。

『Munity』 (96kHz/24bit)
/神保彰


『JIMBO DE JIMBO 80's』 (96kHz/24bit)
/神保彰


ミュージックバードで放送しております私の番組『いい音って何だろう?』に、神保さんがゲスト出演してくれました。既に番組収録は終え、放送は2月の予定です。その際に新作ハイレゾ音源のお話をバッチリ取材しておきましたよ!


番組内では、新作『Munity』でCDとハイレゾ音源の比較試聴を、神保さんとともに行いました。神保さん作品の特長は、ハイレゾ音源だけでなく、CD盤の音質もゴキゲンだというところ。オーディオ好きでなければ、CD盤のサウンドで大いに満足できるでしょう。実は、ここが神保さんハイレゾ音源を聴くポイントなんです。

ロサンゼルスで行われたこの2作品のレコーディングとマスタリングは、実働9日間で完成させるという、かなり尋常ではないスピード。名プレーヤーの演奏力が素晴らしいだけでなく、そのチームワークたるや驚きでしかありません。最短で完成形が得られるレコーディングだけでなく、オーディオ好きとして注目したいのはその後のミックスダウンやマスタリングの作業。録音作業は2作品とも共通のエンジニアが行いますが、ミックスは日程短縮から2作品で別のエンジニアが同時進行で作業します。

仕上がった2作品のミックスダウンマスターはマスタリング作業へ。マスタリングエンジニアは、LADY GAGAご用達のジーン・グリマルディ氏です。作業日程の短さを考えると、マスタリングはCD用とハイレゾ用で共通と考えて間違いないでしょう。実際にCDとハイレゾを比較試聴しても、同じマスタリングと判断できるサウンドでした。完成したマスタリング・データを、44.1kHz/16bitと96kHz/24bitに書き出しているのだと思われます。

CD規格とハイレゾ規格でマスタリング作業を分けないとなると、高い次元での音質完成度が必要です。それを見事に仕上げているのは、さすがLAクオリティ!ジーン・グリマルディ氏のマスタリングは、今年も素晴らしいサウンドでした。

ただし、昨年までの神保さんサウンドと変化が見られたのが、今年の2作品の特長でしょう。より低重心のサウンドになっており、神保さんのドラムと名手エイブラハム・ラボリエル氏のベースが昨年よりも更に魅力的に感じました。このあたりを神保さんに尋ねると、ご本人も今回の2作品は低重心傾向のサウンドに仕上がったと感じているとのこと。この新サウンド傾向の鍵を握っているのは、やはりマスタリングのジーン・グリマルディ氏だそうです。「音質は、すべてジーン氏にお任せです。ヘタに口出しするより、素晴らしいサウンドに仕上がりますから(笑)。」とのことでした。

■ CD盤とハイレゾ音源の決定的な違い

CD盤とハイレゾ音源を入念に比較試聴すると、前述のようにどちらもご機嫌なサウンドであることに間違いありません。しかし、ハイレゾのほうが、明らかに高音質です。CDとハイレゾでは同じマスタリングですから、同じ傾向のサウンド。ただし、96kHz/24bitは器の大きさが光ります。

まず一番に感じるのは、ドラムサウンドの輝きでしょう。シンバル系の倍音は、余韻も含めた美しさがハイレゾでは大いに感じられます。特にアタックの瞬間、真鍮がギラッとする感じは、CD規格では伝わりにくいニュアンスです。そして、ドラムの鳴りっぷりというか、スティックがヘッドに当る瞬間のズバッと感というか、生々しいサウンドはハイレゾの独壇場でしょう。神保さんご自身は、「ハイレゾでは、ハーモニーの細部まで感じられる」とハイレゾの魅力を感じていたようです。

■ セルフ・カバー盤の魅力

オリジナル盤とカバー盤の2枚同時発売が恒例の神保作品ですが、私はこのところオリジナル盤押しでした。カバー盤はドラム、ベース、ピアノのトリオ編成なのに対し、オリジナル盤はドラム、ベース、ピアノ、ギターにゲストミュージシャンが加わるということに魅力を感じていたためです。

今年は、オリジナル盤はもちろん、カバー盤も素晴らしい!カバー盤はカシオペア時代の神保曲のセルフ・カバーで、そのアプローチがご機嫌なんです。一般的な自己カバーアルバムとなると、リスナー側の思い出とイメージが異なることもあるのですが、神保さんのアレンジ変更はリズムからのアプローチ。歴史的名曲「ミッドマンハッタン」は、パルチドアルトというサンバの一種で蘇りました。リズムアレンジが変わることで、メロディーやキメのフレーズの譜割りが変更されています。これが神保さんご本人の作曲だけに、仕上がりが絶妙です。

そして興味深い動画PVが発表されました。これは神保さんから聞いたのですが、いわゆる動画撮影用に音楽に合わせて当て振り演奏したものではなく、実際のOKテイクをガチ撮影したものだそうです。ということは、音源に記録されているフレーズがどのように演奏されているのか、そのものが見られるという貴重な映像。

ぜひ見てほしいのは、神保さんの力まないドラミング。「なぜあんな軽いタッチで芯のある音が鳴るのですか?」と質問したところ、「ヤマハのドラムセットだから(笑)」と上手くジョークでかわされてしまいました。おそらく仙人の域というか、究極のドラミングとは無駄な力無しで叩くことではと想像しているのですが、皆さんはどのように感じますでしょうか。

そして、神保作品に共通して流れる優しいサウンドの秘密は、演奏する人によるものだと実感できるレコーディング風景です。攻撃的性格の人からは、やっぱり楽器からもあの穏やかな音は出ないですもの。ベースのエイブラハム・ラボリエル氏の楽しそうに弾いている姿は必見です。

レコーディングの緊張感や楽しさそのものが記録されている動画をぜひ!


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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。音楽専門衛星デジタルラジオ“ミュージックバード”にて『西野正和のいい音って何だろう?』が放送中。

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