マイ・ベスト・ハイレゾ2022発表!

2022/12/30

年末恒例企画「マイ・ベスト・ハイレゾ 2022」発表!
音楽/オーディオ業界の方々に、今年一番聴いた、特に良かったハイレゾ作品を3作品ずつ選んでいただきました。
作品選びの参考にぜひご覧ください!

※敬称略、五十音順にて掲載 
※本企画には一部2022年発売でない作品を含みます 


【INDEX】







市川 誠(CDジャーナル編集部)

『Wagner: Das Rheingold[Remastered 2022]』
Wiener Philharmoniker, Sir Georg Solti


永遠の名盤がオリジナル・マスターテープからのリマスターでハイレゾ化。2022年にリリースされたこの「ラインの黄金」と「ワルキューレ」に続き、2023年には「ジークフリート」(3月)、「神々の黄昏」(5月)が登場。およそ半年かけて新たな『ニーベルングの指環』の全貌があきらかになる。半世紀以上前の録音が、圧倒的な音質で蘇る。e-onkyoで配信されているのはflacとMQA(どちらも192kHz/24bit)だが、SACDもあり。



『MOTOMAMI』
ROSALÍA



音楽の多様性と可能性をあらためて示してくれた2022年を象徴する一作。収録されている、ピアノの弾き語りによる美しいメロディの楽曲には日本語のタイトルが付けられていて、その名も「HENTAI」。YouTubeに無数に投稿されているライヴ映像を見ると、何万人もの観客が「ヘンターイ」と合唱しています。ハイレゾは息遣いも椅子の軋む音も聞こえる生々しさ。



『ゴールドラッシュ (50th Anniversary Remastered)』
矢沢永吉


矢沢永吉の34枚のオリジナル・アルバムをはじめとする、全45タイトル638曲が最新リマスター音源で一気に配信 / サブスク解禁されたのは2022年のニュースのひとつでした。聴き慣れたレコード / カセット / CDとは一味違う音源は、新調したシャツを着るようで、楽しくもあり、ちょっとよそよそしくもあり。着古したシャツとあわせて、末永く付き合うことになりそうです。永ちゃんは、私の心の宝です。



市川 誠 (いちかわ まこと)
CDジャーナル編集部
弊誌ウェブの人気連載「e-onkyo musicではじめるハイカラハイレゾ生活」が始まったのは2013年10月。2023年でめでたく10周年を迎えます。レコード / CDで聴き倒したと思っていたアルバムをハイレゾで聴いて、衝撃を受けてから10年前。その衝撃はまだ醒めていません。



印南敦史

『Midnight Rocker』
Horace Andy



レゲエ・シンガーのホレス・アンディが、50周年のアニヴァーサリー・イヤーに発表した最新作。過去楽曲のリメイクと新曲で構成されており、プロデュースはUKレゲエ/ダブ・シーンの最重要人物であるエイドリアン・シャーウッドが担当。どの曲にもはっきりと、レジェンドの名にふさわしいアンディの力量が反映されています。なかでも突出しているのは、マッシヴ・アタックの名曲“Safe From Harm”のカヴァー。同グループの全作品にフィーチャーされてきた彼にしか表現できない、画期的な楽曲だといえます。

『Steve Reich: Runner / Music for Ensemble and Orchestra』
Los Angeles Philharmonic & Susanna Mälkki


僕にとってライヒはとても重要な存在で、彼の作品にはどれも共感できるのですが、2016年の『Runner』と2018年の『Music for Ensemble and Orchestra』の世界初録音作品である本作にも、当然ながらずいぶんお世話になりました。とくに、管楽器、打楽器、ピアノ、弦楽器からなる大編成のアンサンブルのために書かれたという前者は圧巻。フィンランドの女性指揮者であるスザンナ・マルッキとロサンジェルス・フィルハーモニックが、見事な表現力を見せつけてくれています。


『Karol Szymanowski: Piano Works』
Krystian Zimerman




2022年はシマノフスキの生誕140周年。そんなタイミングでリリースされたツィメルマンによるピアノ協奏曲全集は、広島県福山市のふくやま芸術文化ホールでレコーディングされたもの。録音状態も非常によく、全神経を集中させて音と向き合っていることが手にとるようにわかるような素晴らしい仕上がりです。緊張感も心地よく、じっくり聴き込むにも、仕事中に流しておくにも最適。文章を書く際に集中を要求される僕にとっても、ありがたい作品だったのでした。


印南敦史 (いんなみ あつし)
作家、書評家。
1962年東京生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。その後、一般誌を経て、現在は書評家・音楽ライター・作家として活動中。書評家としては「ライフハッカー・ジャパン」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「マイナビニュース」などに寄稿。著書に『遅読家のための読書術 情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)など。最新刊は『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)



生形三郎

『Unlimited Love』
Red Hot Chili Peppers


本年、LP盤リリースとともにかなりの頻度でリファレンス音源として使用した作品。アナログ録音で収録されたという本作は、現代的な忠実さを持った歌声や楽器の音像を実現しながらもその存在感が盤石。ボーカル、エレクトリック・ギター、エレクトリック・ベース、ドラムとシンプルなバンド編成のそれぞれの楽器は、自然な音色感と分離感で描かれる様が快い。そして、復帰したジョン・フルシアンテの普遍的な魅力あふれる音楽性やギターのサウンドが素晴らしい。



『Paradise Again』
Swedish House Mafia


スウェーデンのハウスミュージック・ユニットの作品。この手の音楽としては、実に質の高い音質が実現されており稀有な存在。これらのジャンルをテストする際のリファレンス曲として活用させていただいた。シンセサイザーを主体とした打ち込み音源ならではの音の分離の良さに加えて、ヴォーカルをはじめとするひとつひとつのサウンドが丁寧にレイヤーされている。超低域で細かい音価を奏でてうねるエレクトリック・ベースや、20Hz~からの超低域を含むキックドラムのパルスは、ウーファーを機嫌よくドライブするのにうってつけ。



『Lasse Thoresen: Lyden av Arktis (The Sound of the Arctic)』
Arktisk Filharmoni, Christian Kluxen


2Lレーベルは、Auro-3Dなど高音質なサラウンドコンテンツを含むリリース形態も魅力的だが、現代音楽を含め、自国及び北欧圏の音楽や演奏家作品を積極的にリリースする姿勢が素敵だ。そんな中でも極めてストイックな内容の本作は、再生が非常に困難な上、音楽の解釈についても聴き手を選ぶ作品となっている。無指向性マイクの周りを取り囲むように演奏家が配置されており、空間再生能力が高いシステムでは実に立体的でリアリスティックな演奏空間が現出する。とりわけ、終曲「 VII. Kollaps (Collaps) 」の、静寂から押し寄せる長い長いクレッシェンドが圧巻。



生形三郎(うぶかたさぶろう)
音楽家/録音エンジニア/オーディオ評論家。東京都世田谷区出身。
東京藝術大学大学院修了。洗足学園音楽大学音楽・音響デザインコース講師。在学中より国内外の作曲賞を受賞するほか、協同作品が文化庁メディア芸術祭審査委員推薦作品に選定される。録音制作、専門誌への執筆やアワード選考委員、TV/ラジオ媒体等への出演など、音楽と音に関して多方面から取り組む。著作に『クラシック演奏家のためのデジタル録音入門』(音楽之友社)がある。



小原由夫

『THE REST OF YOUR LIFE』
情家みえ




リリースは昨年だが、日本プロ音楽賞の今年度の最優秀作品賞受賞も納得の高音質。その受賞を機に改めて試聴すると、声のナチュラルなりヴァーブ感にピアノの瑞々しい質感が重なり、その少し後ろにベースが配置されたレイアウトの自然さに感動した。シンプルな編成の録音の見本のような作品と言えそう。

『Animals (2018 Remix) 』
Pink Floyd




1977年発売から半世紀近くを経てリマスタリング/リミックスされたピンクフロイド通算10作目。2018年には作業完了していたものの、今日までお蔵入りしていたのは謎。改装工事中の英バタシー発電所に再び豚の気球を飛ばしてジャケットを作成。。シンセの立体的な響きと咽び泣くギター、頭上高く定位する犬や豚、羊の声。まさしくスペクタキュラーな音絵巻。


『Another Time - The Hilversum Concert』
Bill Evans, Eddie Gomez, Jack DeJohnette


スイス/モントルー・ジャズ・フェスティバルの出演から2日後にオランダ・ヒルフェルスムで行なわれたコンサートの様子を捉えた作品。ドラムのディジョネットとの貴重な3枚目、最後の共演作となる。バラード曲での繊細なブラシ演奏、アップテンポな曲でのパワフルなドラミングは圧巻。こういう音の良い、貴重な発掘音源は本当に嬉しい。


小原由夫(おばら よしお)
測定器メーカーのエンジニア、オーディオビジュアル専門誌の編集者を経て、オーディオおよびオーディオビジュアル分野の評論家として1992年に独立。ユーザー本位の目線を大事にしつつ、切れ味の鋭い評論で人気が高い。現在は神奈川県の横須賀で悠然と海を臨む「開国シアター」にて、アナログオーディオ、ハイレゾ(ネットワーク)オーディオ、ヘッドホンオーディオ、200インチ投写と三次元立体音響対応のオーディオビジュアル、自作オーディオなど、さまざまなオーディオ分野を実践している。
主な執筆誌に、ステレオサウンド、HiVi(以上、ステレオサウンド)、オーディオアクセサリー、Analog(以上、音元出版)、単行本として「ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事」(DU BOOKS)




國枝志郎

『2 Years / 2 Years in Silence』
Kazufumi Kodama & Undefined


ダブ・トランペッター、こだま和文さんの、まとまった作品としてはじつに22年ぶりのアルバム。日本のダブ・シーンにおける重要アーティストのひとつで、ダブ・ユニット、Undefinedとのコラボレーションで、4曲のオリジナルと、そのダブ・ヴァージョンを加えた全8曲という構成は、トータルタイム30分台と短いものだが、その内容は10時間のドラマにも引けを取らない。とくにベルリンのベーシック・チャンネルにも匹敵する黒いダブ・サウンドの後半の奥深さは近年聴いた電子音響の中でももっとも深いと言い切れる。重く沈み込むその音響にはしかし、ジャケット写真にも見てとれる明日への希望とかろみが間違いなく存在するのだ。

『FOREVERANDEVERNOMORE』
Brian Eno

アンビエント・マスター、ブライアン・イーノの22作目にあたるソロ・アルバムが全編ヴォーカル入りの作品になるということはかなり以前から喧伝されていたのだが……まあ『Before and After Science』のような威勢のいい作品になるわけはないし、ではジョン・ケイルとの『Wrong Way Up』のような前衛的なものにもならないだろうとは思っていたけれど……このアルバムはいきなりとても悲しいムードだ。この混乱の時代にあっては、つねに楽観的だったイーノもこうならざるを得ないのだろう。渋みを増したイーノのヴォーカルは、彼のヴォーカリストとしての力量をあらためて見直させてくれるほどの素晴らしさだ。


『Music for Animals』
Nils Frahm


新世代のアンビエント/ポスト・クラシカル・コンポーザーとして、そしてピアニストとしても人気の高いニルス・フラームの新作からは、彼のトレードマークであるピアノの音がいっさい聴こえてこないことにまず驚くが、さらに収録曲が10曲でトータルタイム3時間以上というのにも度肝を抜かれたものである。ほかの多くのアーティストがそうであるように、フラームもまたコロナ禍においてその作風を大きく変化させざるを得なかった。人間がその活動範囲を狭められた日々に、彼の音楽は人間に向けてではなく、自分が飼っている動物たちに向けて作られた美しい3時間のヴァーチャル・トリップ。


國枝志郎(くにえだ しろう)
1961年、茨城県生まれ。雑誌や単行本の編集者を経て現在はクラシックとジャズのレコーディング・プロデュースと執筆、演奏活動を主な生業とする。ポップ・ミュージック界では1980年代から数多くの執筆活動を行なってきたが、会社員という立場上本名を使うことができないことが多く、そのほとんどが本名ではなくペンネームでのもの。國枝志郎はその数多いペンネームのうち、現在まで生き残った数少ない名前のひとつである。演奏活動としては低音金管楽器(トロンボーン、ユーフォニアム、テノールチューバ)、フルート、リコーダー、キーボードなど。ご用命お待ちしています(笑)。





株式会社コルグ(永木道子・大石耕史・山口創司)

『ODDTAXI ORIGINAL SOUNDTRACK
SUMMIT(PUNPEE×VaVa×OMSB)


昨年4月から深夜枠でテレビ放送され、今年は映画も公開されたアニメ「ODDTAXI」のサウンドトラックです。映画公開前に配信で一気見したのですが、オープニングテーマを繰り返し聞くうち、曲のリズム、歌とラップが小気味よく、切ないようなやるせないような歌詞とメロディーの虜に。ではハイレゾでも聴いてみよう、とヘッドフォンで聴くと、テレビでは分からなかった様々な音が頭の中の空間に散りばめられた、素敵なミキシングに感銘を受けました。AudioGateに取り込むと、いわゆる海苔波形になっていないことがよくわかります。「こんなところにこんな音が!」と音の宝探しも楽しめます。ぜひ配信でアニメを見て劇伴も楽しんでください。(永木)

『artless』
WONK


エクスペリメンタル・ソウルバンドを標榜する「WONK」の2年ぶり5thアルバム。メンバーの音楽性が幅広く、過去には実験的な作品も多かったが、本作は至ってシンプル。アレンジも音数が最小限に抑えられており、楽曲そのものの美しさが際立っている。レコーディングは、オーディオ誌でも取り上げられることが多い「STUDIO Dede」で行われたそう。音にこだわるミュージシャンから大きな支持を集めているスタジオだが、本作は音数の少なさと相まって、1つ1つの音に存在感と深みがあり、更に音と音の"間"にリアルな空間を感じることができる。聞き込むほどに、実は今回も実験的作品であったことに気づかされる1枚。(大石)


『Kingdom Weather (feat. Yuma Abe)』
SPENCER CULLUM, Yuma Abe


今年は、ジャケットのアートワークに至るまで本当に60’s~70’sにリリースされたかのような、新世代のリヴァイバルフォーク、サイケ•アシッドロック、ソウルなどをよく聞きました。SSW&ペダル・スティール奏者のスペンサー・カラムもそんなアーティストの1人。本作はこれまた、現代のHOSONO HOUSEかと思うほどの大傑作『Fantasia』を昨年発表したnever young beach(ネバヤン)の安部勇磨をフィーチャーしたシングル。名盤のハイレゾリマスタリングとはまた違う、最初からビンテージな空気感のキャプチャー解像度が高く、これっていったい何年リリースの作品???と時空の歪む浮遊感を楽しめます。(山口)


永木道子(ながき みちこ)
株式会社コルグ
コルグでは主に製品のソフトウェアを開発。1ビットオーディオ研究会の幹事も務めています。ハードウェアDAWだったSoundLinkに始まり、DシリーズMTR、1ビットのMRシリーズと続く録音機、DS-DACシリーズ、Nu Iなどのオーディオ製品 を開発して来ました。より良いハイレゾ作品を録音できる機材、より心地よい音で聴ける機材を世に送り出し、文字通り、音に楽しくどっぷり浸れる環境を提供できれば嬉しい、と思っています。



大石耕史(おおいし こうじ)
株式会社コルグ
2002年、株式会社コルグ入社。シンセサイザーの開発を経て、2004年より1ビットオーディオの研究開発を行い、その成果物としてMRシリーズやAudioGate、PrimeSeat等をリリース。2017年より技術開発担当執行役員。ハイレゾ対応インターネット動画配信システム「Live Extreme」をはじめ、同社の新規技術や新機軸商品の開発を手掛ける。



山口創司(やまぐち そうし)
株式会社コルグ
株式会社コルグ 技術開発部所属。ハイレゾフォーマットまで対応した配信技術「Live Extreme」の事業開拓担当。他にも技術開発部で開発された新規性の高い音楽プロダクトの企画担当。ローファイからハイファイ、楽器からオーディオ、コンシューマーからプロシューマーまで幅広い音楽製品と音楽好き





齊藤(株式会社アユート)

『Harmony』
swing,sing 



個人的に2022年最も聴いた、またオーディオ機器の試聴の際にも聴いた楽曲です。『swing,sing』プロジェクトの第一弾テーマソングで、本格的なスウィング。細かい音色まで埋もれず聴こえる秀逸な録音、難しいテンポでもきっちり歌い上げる全員がシンガーとしても強力な豪華声優陣。これまでありそうで無かった新感覚を味わえました。この楽曲含め、swing,singで出ている曲はハイレゾで聴くと、より多くの魅力が発見できると思います。

『大橋彩香 Acoustic Mini Album "Étoile"』
大橋彩香


アコースティックならではのしっとりとした雰囲気のミニアルバム。音数も少なく、ボーカル・楽器共に全体が見えやすいので、LRの分離とS/Nが良い機器で聴くほどにライブのような雰囲気が味わえます。ハイレゾの持ち味が活かしやすくわかりやすい楽曲が多いです。特にオススメは「バカだなぁ (Acoustic Ver.)」「Étoile」。


『CHAINSAW BLOOD』
Vaundy



全てがカッコいい。以上。…というわけにはいかないので簡単にご紹介するとTVアニメ『チェンソーマン』のEDテーマの内の1曲。あくまでも個人的には毎回この曲を流して欲しいと思ったくらい、圧倒的楽曲&歌唱センス。ベースラインの主張が強く、暗い雰囲気が漂いますが、歌詞と歌い方とのマッチングが凄すぎます。以前からVaundyの楽曲は全てハイレゾでダウンロードして聴き続けていますが、今年最もインパクトを受けた楽曲の内の一つです。是非ハイレゾで、低域の解像度が高い機器で聴いてみて欲しいです。


齊藤 (さいとう)
株式会社アユート
Astell&KernやULTRASONE、Chord Electronicsなど多数のオーディオブランドを取り扱う流通・代理店アユートのオーディオ部門責任者。
「アユートの営業S」というアカウントの中の人。ゲームミュージックと特撮が特に好き。e-onkyo musicヘビーユーザー。





島 健悟(ダイナミックオーディオ5555 4F)

『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』
松任谷由実


私にとっても色々な場面で顔を出すユーミンサウンド。今回のアルバムはファンのリクエストによるものですが、1曲に絞るのは非常に困難を極めます。あえて自分ならという観点で「DESTINY」を選ばせてもらいました。音楽に景色が見えるんですよね。79年の悲しいほどお天気に収録されている曲ですが、この2022MIXのハイレゾがまた新たな感動を運んでくれます。ミュージシャンやエンジニアのこだわりが凝縮されまた新たな命が宿ったようです。

『Flying Clouds』
日野元彦カルテット+2



以前代表の平野暁臣氏をお迎えしてイベント開催したこともあるDays of Delightから発売されたアルバム。それもなんと名録音で知られ一斉風靡したスリーブラインドマイスに残されていた秘蔵音源。ライブ録音で汗まで見えそうなぐらいの生々しさ。躍動感のある演奏とこれでもかというぐらいのリアリティのある録音。聞くのではなく聞けと言わんばかりの名演奏がここにはあります。


『センチメンタル通り』
はちみつぱい



オーディオ評論家和田博巳氏が在籍していたことでも知られるはちみつぱいの不屈の名作がDSDでよみがえりました。それもDSD11.2MHzと高ビットレート。このアルバムはベルウッド・レコードから10枚のアルバムがデータ化されたうちの一枚となっております。アナログテープのマスターもしくはコピーマスターから直接DSD化しているだけあり純度が非常に高く1973年の録音とは思えないぐらいです。PCMの良さもありますが、DSDならではの音の抜け感が非常に良く当時の録音技術の高さ、そして演奏を感じ取ることができるアルバムです。


島健悟  (しま けんご)
ダイナミックオーディオ5555 4F
データ再生の魅力を伝えるためにオーディオ専門店として色々とチャレンジしております。
ハイレゾにはまだまだ知らない世界が隠されております。
それを引き出すことによりもっとアーティストの真意が解るのではないかと思っております。
是非その魅力をお店でご体験ください。





祐成秀信(e-onkyo music)

『Blue Road』
鈴木勲カルテット+2


何といっても2022年のマイベストの一つは、あの「スリー・ブラインド・マイス」に残された未発表ライブ音源のハイレゾ配信だろう。日野元彦、そして鈴木勲という同レーベルを代表する2アーティストの秘蔵マスターテープを、元TBMプロデューサー藤井武氏監修のもと、エンジニアの神成芳彦氏によるミックス、しかも、その音源が現行の日本のジャズをハイペースでリリースするDays of Delightから発売されるという、なんとも漢のロマンに満ち溢れたリリース。もちろん長尺&スピリチュアルな内容は最高の一言。大塚広子氏によるインタヴューも是非お楽しみください。日本のジャズで言うと、沖野修也率いるKyoto Jazz Sextetが、レジェンド、森山威男をフィーチャーしたアルバム『SUCCESSION』もマイベストのひとつ。

『鈴木祥子私的讃美歌集1.』
鈴木祥子


e-onkyo music的には、今年は対面でのインタヴューを少しずつ再開できたことは、とても嬉しかった出来事のひとつ。やはり聴こえてくるサウンドの奥にあるストーリーや音作りの意図など、普段ではなかなか聞くことができないお話を聞くことができると、いちリスナーとしても作品に対する愛情が格段に増します。この鈴木祥子による作品は、楽曲、サウンド、録音の際のエピソードなど、様々な面で今年のマイベストのひとつ。音に対する並々ならぬ探求心から生まれた極上のポップス!理想のビートを得るためにエンジニアさんってそんな事を考えていたんですか?という大変興味深いお話も。詳しくは是非インタヴューをご一読ください。


『Radio Music Society[Deluxe Edition]』
Esperanza Spalding


今や、新たにリリースされる作品の多くがハイレゾ配信で聴くことが可能だが、中には、まだハイレゾで配信されていないものも数多く存在する。そんな中、今年遂にハイレゾ音源として登場したのが長年愛聴してきたこの作品。演奏、楽曲、サウンド全てにおいてこの10年でマイベストのひとつ。ジャズとメインストリームの懸け橋になったという意味でも非常に稀有な存在であり、メロディメーカーとしての類まれなる才能も存分に表現された名作。「あの作品をハイレゾで聴いてみたい!」という心のウォントリストはまだずらりとラインナップされているので、来年もどんどんハイレゾ化される事を期待しています。他にも、長年の愛聴盤で今年初めてハイレゾ配信された作品は、マイルス・デイヴィス『"Four" & More (2022 Remaster)』、ニック・ドレイク『Five Leaves Left』、トニー・アレン『Secret Agent (2022 Remaster)』、高田渡『ごあいさつ』など多数。


祐成秀信(すけなり ひでのぶ)
e-onkyo music(Xandrie Japan株式会社)
e-onkyo musicのマネジメント担当。Music Bird 124ch「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」にアシスタントとしても出演中。





高橋敦

『NOT TiGHT』
DOMi & JD BECK

オーディオ云々ではなく純粋に音楽としての、そして新鮮さという意味でのインパクトが大きかった作品としてはこちら。デスクトップやベッドルームのディスプレイの中で音楽を生み出すことの方が当然になっているであろう今の世代から、これほど突出した演奏力、それがあってこその表現を叩きつけられたことは、実に気持ちのよい意外さでした。JD Beckさんのドラムスの凄まじさには、名前に引っ張られているところもあるでしょうが、ジェフ・ベックさんの名盤「Blow by Blow」におけるリチャード・ベイリーさんのそれを想起させられたり。そういえばリチャード・ベイリーさんも当時18歳とかだったんですよね。化け物どもめ!

『Zoot Allures』
Frank Zappa


ザッパ作品群のハイレゾ配信が一気に進んだもの今年の嬉しいトピック。このアルバムの表題曲「Zoot Allures」は、僕がザッパさんの音楽にしっかりと触れた最初の曲。LUNA SEAの、いや当時はLUNA SEAのではなかったタイミングかも、SUGIZOさんがご自身のラジオ番組で紹介してくれた、この曲の美しさは本当に衝撃的でした。ギターの音を少しでも伸ばすとすぐ倍音に裏返ってフィードバックするようなピーキーなセッティングでそのフィードバックを操る、この研ぎ澄まされた演奏!ハイレゾで改めて聴いてまた感動です。


『BADモード』
宇多田ヒカル


いつの時代にも変わらず宇多田ヒカルの音楽であり続けながらその時代ごとに変わり続ける宇多田ヒカルの音楽でもある。そんな宇多田さん楽曲を僕は何かしら、定点観測的な意味合いも含めて、オーディオ製品チェックのリファレンス楽曲プレイリストに入れ続けてきました。その歴代の中でもこの曲は、楽曲のこの部分でオーディオのこの要素をチェックするというようなピンポイント狙いではなく、楽曲全体でオーディオ全体をチェックできる総合リファレンス曲として過去最高に大活躍。もちろん例えば、現代的にクリアな録音でビンテージ的な質感や空気感を作り出している、その質感や空気感に注目すれば細部チェックにも大活躍です。


高橋敦(たかはし あつし)
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に仕事を趣味に生かして日々活動中。





竹田泰教(e-onkyo music)


『ムター・プレイズ・ジョン・ウィリアムズ』
アンネ=ゾフィー・ムター, ボストン交響楽団, ジョン・ウィリアムズ


本作を聴いて「惑星ソラリス」を思い出した。SF小説を原作とした72年のソ連版、そして02年のアメリカ版の2作の映画のことである。昔、ジョージ・クルーニー主演のアメリカ版を観た私はいたく感動し、いっぽうで続けて観たソ連版を「難解だな」と思ったのである。
本作「ヴァイオリン協奏曲第2番」には、アメリカ映画音楽に登場するようなフレーズや演奏はほとんど登場しない。ほとんど、ということは少しは登場する。ロンド形式の第2楽章はスペクタクル的だし、第4楽章は物悲しく感動的だ。しかしここで断片的に登場する「アメリカ的なもの」は、相対化されて聴こえる。本編終了後の映画音楽集はソラリスの海が映し出す甘美な幻のようですらある。ソ連版「惑星ソラリス」は難解だが、人間の本質に迫る傑作だ。本作も同じような魅力を持っている。彼の純音楽作品をもっと聴きたいと思わされた。

『Isabela』
Oded Tzur, Nitai Hershkovits, Petros Klampanis, Johnathan Blake


オデッド・ツールは、イスラエル出身のサックス奏者。ジョン・コルトレーンの影響でインド古典音楽にのめり込み、サックス奏者のままインドに赴きバーンスリー(インド発祥の木管楽器)奏者に師事した、という常識破りな経歴の持ち主。これだけ聞くと小難しそうな現代ジャズを想像するが、ペンタトニックを多用したメロディは多くの日本人にとって馴染み深いものなのではないかと思う。ジョナサン・ブレイク(ドラム)、ニタイ・ハーシュコヴィッツ(ピアノ)とのセッションは一聴すると淡々としていてメロウだが、だんだんと演奏の渦が大きくなっていき、気が付くと聴いているこちらの体温も上がっている。個人的に今年いちばん聴いたハイレゾ音源。圧縮音源で聴くとすこし平坦に聞こえてしまうので、演奏の熱を立体的に楽しめるハイレゾでぜひ聴いていただきたい。温かみのある前作『Here Be Dragons』もおすすめです。


『Cocoon for the Golden Future』
Fear, and Loathing in Las Vegas



「VUCA(ブーカ)」という言葉がある。「社会やビジネスにとって未来の不確実性が高くなる状況」を意味する謎のビジネス用語だが、経営学者の楠木建氏が「状況が変化するのは普通。日本では何十年も”今こそ激動期”と言われ続けてきた」と一蹴されていて、胸のすく思いがした。
ポスト・ハードコアバンド、Fear, and Loathing in Las Vegasは不確実性の塊のような音楽を演奏する。普段からこんな音楽を聴いている若者たちは「VUCA」と言って慌てることはないのだろう。ラウドロックを中心に据えながら多様なジャンルを取り入れているが、各要素が融合せずに曲の中で共存しているところが面白い。“クロスオーバーが進んだ結果、どれも似通っている”というクロスオーバーのジレンマともいうべき状況に対するアンチテーゼのようにも思える。分断し拡散している状況がデフォであればこそ統合された瞬間の快感も大きい。


竹田泰教(たけだ やすのり)
e-onkyo music(Xandrie Japan株式会社)






田中啓文(Stereo Sound ONLINE)

『ALIVE (LycoReco Version)』
ClariS


その人気の高さから、放送終了後にはリコリコ難民なる言葉も生まれたアニメ「リコリス・リコイル」の主題歌がコレ。「魔法少女まどか☆マギカ」の主題歌で大ブレイクした女性2名のVo.ユニットClariSを採用したところからも、本作品のバディ物王道アニメで勝負するという製作陣の気概が感じられる。『ALIVE』はその思いに十分に応える楽曲で、多分ファンならCDを購入していると思うが、せっかくならばClariSの美しい歌声をハイレゾという高音質で聴いてみてはどうだろうか?最近ではAndroid系スマホならそのままハイレゾが聴けるモデルも販売されているし、iPhoneなどでもポタアンなどを利用すればハイレゾが容易に聴けるようになっている。ハイレゾ未経験のアニメファン、まずはこの1曲から始めてみていかがだろうか?

『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』
Ado


正直に言うと、漫画ONE PIECEもチョッパーが出てくる15巻程度で挫折をしてしまったので、映画『ONE PIECE FILM RED』ももちろん観ていないし(すみません)、歌姫ウタも知らない。しかし、YouTubeやTVで流れるAdoの歌声には、我らオーディオファンにとっても抗うことができない魅力がある。ご存じAdoはユーチューバーの歌い手として「うっせぇわ」でメジャーデビュー。しかし主戦場はインターネットなので、大人は良く知らないが、子供たちは皆知っているという、今のネット時代を象徴する歌手だ。そんなAdoの歌声は、溢れるエネルギーと共に「七色の声」という表現がしっくりくる。今の若い子たちには古臭い表現かもしれないが、おじさんにはそうとしか表現できない。若干20歳のユーチューバー出身の歌い手が高らかに歌い上げる。まさに『新時代』がここに!


『By the Way』
Red Hot Chili Peppers


4月と10月と、1年に2枚のアルバムをリリースするほど今年の Red Hot Chili Peppers は充実していた。なので普通に考えると、ここで紹介するのはそのどちらかのアルバムという事になるのだが、今回はあえて2002年に発売された『By the Way』を聴いてほしい。今のバンドの充実は、やはり2019年に復帰したジョン・フルシアンテの影響が大きいと思う。ジョンは80年代に活躍した派手なギターを弾くタイプのギタリストではなく、楽曲に合わせたセンスの良いギターを弾くギタリスト。ギターのプレイはもちろんだが、その優れたセンスはヴィンテージ系エフェクターなどを用いた音作りにも現れている。これまで何100回と聴いたアルバムも、ハイレゾでじっくり聴くと楽曲における 音の素晴らしさはもちろん、演奏の細かなニュアンス、ダイナミズムなど様々なことに気づく。『Can't Stop』のイントロをハイレゾ音源で聴き直した。あまりのカッコよさに身体が震えた!!


田中啓文 (たなか ひろふみ)
Stereo Sound ONLINE(株式会社ステレオサウンド)
オーディオ雑誌編集部のインターネット部門を支える1児のパパ。良く聴く音楽はハードロック/ヘヴィメタル、アニソン、たまにクラシック。エレキギターの音色が好物で、アンプで歪ませたエレキギターの音を、いかにして歪ませないアンプ+スピーカー(イヤホンも)でピュアに聴くかという、矛盾した命題に挑み続けている





筑井真奈(PHILEWEB)

『M八七』
米津玄師


米津玄師といえばシン・ウルトラマンの『M八七』かチェンソーマンの『KICK BACK』のどちらにしようか迷いましたが、ハイレゾ的な聴きどころと言う意味でこちらを選択。特撮にはあまり思い入れのない私ですが、映画終了後にこの曲が流れた瞬間に、文字通り全身に鳥肌が立ちました。ハイレゾで聴けば、映画館の余韻の中では聴き逃してしまう微妙なニュアンスが伝わってきて、ウルトラマンの愛と哀しみ、そして孤独に寄りそう米津の表現力にすっかり脱帽。『POP SONG』では楽器の位置関係などもよく見えてきて、米津の“遊び心”にも引き込まれてしまいます。

『Feel Like Making LIVE!』
Bob James


オーディオ機器のリファレンスとして今年よく聴いたな!と思うのがこちらボブ・ジェームズの「Feel Like Making LIVE!」(ちょっと“ヤラシい”もタイトルも良いセンス)。ハイレゾはもちろん、サラウンドやLPなどさまざまなフォーマットで発売になったのでいろんな環境でそれはそれはよく聴きました。エレピとアコースティックピアノを曲によって使い分けているので、その違いがどう表現されるのかはまさにオーディオ的な楽しみ。抑えるべきとこでしっかり聴かせてくれるベース、ボブ・ジェームズの多彩なテクと味わいどころ満載です。


『Everlasting Night』
麻枝 准, やなぎなぎ


生まれて初めてガチャゲーなるものに手を出してしまった『ヘブン・バーンズ・レッド』。あの麻枝准がシナリオ担当ということでめちゃくちゃ期待して始めたのですが、さすがの“だーまえ節”にひたすら泣かされっぱなし。「泣き」を盛り上げるために曲は間違いなく大切なもので、ゲームをいい音でプレイするための機材にもすっかりこだわってしまったり…。ゲームもやっぱりいい音で聴くと感動は深まるのです! どれもこれもお気に入りの曲ですが、戦闘中の気分を盛り上げてくれる「Everlasting Night」を一押し!


筑井真奈 (ちくい まな)
音元出版
PHILE WEBのオーディオ担当。5月にはドイツ・ミュンヘンハイエンドの取材に行ってきました。世界のオーディオ市場の熱気を浴びて、日本もまだまだ頑張らねばと思いを新たにしました。2023年のテーマは「オーディオの再定義」。情報流通の速度はどんどん速くなる昨今ですが、じっくり腰を落ち着けて向き合うオーディオの魅力と深さをもっと伝えていければと思います。





寺井翔太(エソテリック株式会社)

『Black Radio 2[Deluxe]』
Robert Glasper Experiment

「I Stand Alone (feat. Common, Patrick Stump)」
Robert Glasperは2010年ごろからはまり、それ以降来日公演があるときはほぼすべて聴きに行っているぐらい大好きなミュージシャンです。私が推すこの「I Stand Alone」は深くて重いビートにCommonのラップが絡むことでよりビートが強調される曲ですが、そこにRobert Glasperのピアノが混ざることで、楽曲の美しさが表現されていると感じます。ハイレゾでは特にこの「深くて重いビート」がしっかりと、そしてずっしりと表現されていて、より心に響きました。個人的には歌詞も好きで、なにか自分が挑戦する時に必ず聞き、サビの「I Stand Alone」の部分にモチベーションを上げてもらっています。ハイレゾだから表現できるこのビートの「重さ」と言葉の「重さ」に着目していただきたいです。

『Strange Beautiful Music』
Joe Satriani


「Starry Night」
2002年に発売されたアルバムで、私が高校生の時に購入し、CDをそれこそ何度も何度も聞きました。今回ハイレゾ版で聞き直しましたが、Joe Satrianiが奏でる、ギターの繊細なピッキングがより伝わり鳥肌が立ちました。技巧派ギタリストで知られるJoe Satrianiですが、この曲はメローな曲で奏でる繊細なギターがたまらないんです。ハイレゾだからこそ伝わる、その彼の繊細なギタープレイは必聴です。


『SPIRITS』
THE SQUARE


「風の少年」
私が大学に入学後、ジャズ研(ビッグバンド)に入り、色々ジャズを勉強しているたときに、ドラマーの友人から教わったアルバムです。フュージョンというジャンルをそこまで聞いてこなかったのですが、この「風の少年」はすんなり心に入ってきて、幾度となく聞いてきた曲です。ハイレゾ版は、この曲が持つ疾走感、アタック感をしっかり表現しており、当時聴いていたより没入してしまいました。各楽器のバランスがとてもよく表現されており、バンドのアンサンブルを耳だけでなく「体で楽しむ」ことができます。


寺井翔太 (てらい しょうた)
エソテリック株式会社
2010年ティアック株式会社入社後、TASCAM製品の録音機器のファームウェア開発に所属。2015年にマーケティング本部に異動し、広報、SNS等のマーケティングに携わる。2019年にエソテリック株式会社に転籍。ウェブ、SNS、コンテンツ制作等、国内外のデジタルマーケティングに従事。





長妻雅一(ラックスマン株式会社)

『Bach & Handel』
Sabine Devieilhe, Pygmalion, Raphaël Pichon

サビーヌ・ドゥヴィエルの歌の上手さが冴え渡る作品。声の響かせ方をここまで表現できる録音も素晴らしい。

『Chopin: Nocturnes, Op. 9: No. 2 in E Flat Major. Andante』
Alice Sara Ott


珍しく単曲でのリリース。装飾譜の扱い方は解釈を超えてアレンジの領域ですが、可笑しくならないところがセンスの良さでしょう。和音の広がりが良く表現されている録音。楽しい気分になれます。


『ムター・プレイズ・ジョン・ウィリアムズ』
アンネ=ゾフィー・ムター, ボストン交響楽団, ジョン・ウィリアムズ


現存する方がムターのために作曲、そして指揮、その演奏者との初演ですからそれだけでも価値のあるアルバムです。曲、演奏、録音どれも燻銀。Hi-Fiっぽくならないところが自然で良いです。


長妻雅一 (ながつま まさかず)
ラックスマン株式会社
開発部の部長兼担当取締役として、すべてのラックスマン製品の音質を監修している。最近は仕事とプライベートともに、デジタル音源に関してはもっぱらディスクからファイル再生に移行済み。現在は2025年に迎える創業100周年に向けて、記念モデルの企画を検討する毎日。




中野拓一(ティアック株式会社)

『Before I Rise』
麻枝准, やなぎなぎ


「最上の、切なさを。」
2022年2月に"泣きゲー"で知られるKeyの麻枝准氏が15年ぶりに放った完全新作スマホゲーム『ヘブンバーンズレッド』の主題歌。人類の運命を背負った少女たちの物語が数多存在する中で、この曲に出会っていなければプレイしていなかったかもしれない程に作品を語った名曲。原作者である麻枝准氏の絶望の中に希望を見出す作詞と儚さをまとったやなぎなぎ氏の歌声が、曲の出だしから聴く者を作品世界に誘う。Aメロではゆっくりと重低音が響く中に綺麗なピアノの旋律が続くが、突然サビではスピード感を増して転調していく様はハイレゾでじっくりと聴いてほしいポイント。

『夏の雪』
krage

「特別な妃が誘う、圧倒的中華幻想譚―」
2022年10月にアニメ化された白川紺子氏のライト文芸『後宮の烏』のエンディングテーマ曲。作詞にも参加されたkrage氏自身も中国系の血筋を持ち、中華の雰囲気が漂うファンタジー作品にマッチした情緒を感じる深みのある歌声を響かせる。個人的には、デビュー間もないルーキーが集うライブ「Invitation to TRIAL GATE」にて、次代を担う若き歌い手たちがそれぞれ個性あふれるパフォーマンスの凄さを体感する中で、彼女の歌声が会場を圧倒していた事が今でも忘れられない。彼女が持つ歌声の深みを是非ハイレゾで。


『祝福』
YOASOBI


「その魔女は、ガンダムを駆る。」
2022年10月放送開始の新たなガンダムシリーズ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』オープニングテーマ曲。『コードギアス』シリーズをはじめ、数多くのヒット作品を生み出した大河内一楼氏が脚本を担当することで放送前から注目を集めただけあり、新たなファン層が"ガンプラ"を購入している為か、年末も『水星の魔女』関連は品薄状態継続。公式WEBで公開されている曲の原作小説「ゆりかごの星」を読んでから曲を聴くとYOASOBIのお二人が持つ作品への理解度の高さに脱帽します。歌詞が多くて早口に聞こえる英語版「The Blessing」もハイレゾでじっくりと。


中野拓一(なかの たくいち)
ティアック株式会社
ティアック株式会社、営業部所属。今年も『SPY×FAMILY』や『チェンソーマン』等、ジャンプアニメを中心に名曲ぞろいでした。『鎌倉殿の十三人』『石子と羽男』等の国内名作ドラマも生まれましたが、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』『シスターズ』等の海外ドラマも話題となりました。来年も作品と相乗効果を生む楽曲をハイレゾで楽しみたいと思います。(イラスト:Hatomugi ASMR)





西野正和 

『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』
松任谷由実


様々なアーティストの世にあふれるベスト盤の音質に閉口していた昨今、全く新しい手法で作り上げられたのが本作。時間とお金と人の力を圧倒的に注ぎ込み、大物アーティストのベスト盤たるや、こうでなければいけないという新指標になったのでは。まさかユーミンの全作がマルチトラックまで遡って現存するとは想像していませんでした。この手法のこの極上サウンドで、過去のユーミン・アルバムも聴いてみたいところ。個人的には『NO SIDE』にルイス・ジョンソン氏の強烈ベースが録音されているので、それがバリバリ鳴るリミックス盤に期待しています。

『かつしかトリオ』
かつしかトリオ



「連載を読んで購入した、かつしかトリオの『Red Express』、音も演奏も最高でした!」 と、お客様よりご感想をいただきました。まさか、聴きまくったフュージョン全盛期のあのサウンドに、2022年になって再び新作として出会えるなんて誰が想像したでしょうか。アルバム・タイトルやアーティスト名を見ても全く謎の本作。その正体とは・・・。連載100回記念となったインタビューでは、あの禁断の質問を投げかけています。インタビュー現場が凍りつき、一瞬 「やらかしたか?!」 と思いましたが、結果的に他では聞けないファン全員が知りたかった回答を引き出せたと自負しております。


『Spirit of “Days of Delight” vol.2』
Various Artists



一般的なコンピ盤の概念を超える、熱いサウンドのジャズ・アルバム。オーディオ好きに大サービスとなる、鳴らして嬉しい曲の宝庫です。ドラムのキラキラしたシンバルから、太鼓の革を感じるアタック音、ウッドベースの部屋中が共鳴してビリビリと響くような重低音、ピアノの大きさそのものが部屋に出現するかのような実在感などなど、大いに楽しめます。JAZZ的に美味しいサウンドが目白押し、Days of Delightレーベルから今後も目が離せません!


西野正和 (にしの まさかず)
株式会社レクスト
2013年より続く 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 が100回を超え、本年も数多くの高音質なハイレゾ音源と出会うことができました。長く連載していると、CD時代の音作りから脱却できていない作品と、ハイレゾの大きな器に音楽の記憶を封じ込めることに成功している作品と、その二極化が顕著に進んでいるのが音として見えるようです。今年の太鼓判ハイレゾ音源から3作選ぶとすると、なかなか甲乙つけがたし。悩みに悩んで厳選したのがこの3作!





長谷川教通

『ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲』
内田光子



現役最高のピアニストのひとり。その内田光子がベートーヴェンのディアベッリ変奏曲を録音。以前からコンサートでも採り上げ、磨いてきた成果を全力で注ぎ込んだアルバム。まず冒頭のテーマからして、並のピアニストじゃこうは弾けない。絶妙なイントネーションでいっきに内田の世界に引き込まれてしまう。各変奏曲の性格を把握した解釈に「ウーン!」と唸らせられる。タッチのコントロールは完璧だし、作曲技法の粋を凝らした和音の妙を、内田はみごとに表現する。録音が良いので、とくに中音域の凄さ。力強く緻密で、さらに繊細さが加わる和音を、ぜひ聴き取ってほしい。名演であると同時に、オーディオの真価が問われる音源でもある。

『The Messenger[Extended Version]』
エレーヌ・グリモー



ウクライナの現代作曲家シルベストロフとモーツァルトが響き合う。幻想曲K.397からプログラムをスタートさせ、次いで弾き振りのピアノ協奏曲第20番、幻想曲K.475……続けてシルベストロフの音楽へ。モーツァルトの短調に込められた“声”が、まるで木霊のようにシルベストロフの音楽に伝わっていく。シルベストロフの旋律って、なんて美しいんだろうか。アルバムタイトルにもなっている「The Messenger」は、シルベストロフの作品中もっとも演奏される機会が多いが、一度聴いたら忘れられないほど美しくて、魔法のような旋律だ。録音は2020年で、ウクライナ侵攻とは直接のつながりはないとはいえ、やっぱり複雑な思いは拭えない。


『ショスタコーヴィチ:交響曲第10番』
トゥガン・ソフィエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団


ロシア連邦の北オセチア出身のトゥガン・ソヒエフ。2008年からトゥールーズ・キャピトル管の音楽監督をつとめてきたが、ロシアのウクライナ侵攻により、自身の立場を表明するよう市当局から求められ、彼は自ら音楽監督を辞任し、同時にボリショイ劇場の音楽監督も辞任した。自分はこれまでも戦争を支持したことはないし、愛するロシア音楽と文化、尊敬しているドイツやフランスの音楽と文化、政治状況によってどちらかを選べという状況には納得できない。ソフィエフは音楽家としての矜持を示したのだ。彼がこのオケを振って録音したショスタコーヴィチが、その証だ。弦合奏の美しさ、管楽器の切れ味。音楽的な純度の高さが圧巻!


長谷川教通(はせがわ のりみち)
様々なジャンルの雑誌&書籍の編集に携わると同時に、音楽雑誌、オーディオビジュアル雑誌への執筆を続ける。その一方でスピーカーやアンプを自作することで、オーディオの再生や表現力を追求している。「自分で作らなきゃ、音の良さも演奏の良さも分からない」とばかり、現在の試聴スピーカーは2ch用のメインからサラウンド&イマーシブオーディオ用のスピーカーまですべて自作で揃えている。現在15歳になった北海道犬と暮らしている。チェロが大好きで、愛器は1949年製のGiovanni Battsita Gaibbisso。いい顔してる。





原典子

『藤倉大:ピアノ協奏曲第3番「インパルス」 / ラヴェル:ピアノ協奏曲ほか』
小菅 優


小菅優と藤倉大、ゲームやドラマの話もする仲だというふたりの交友から生まれたピアノ協奏曲「インパルス」。協奏曲というとソリスト VS オーケストラというイメージがあるかもしれないが、この作品ではピアノとオーケストラが互いの音に反応し合い、一体となってもつれ合いながら展開していく。とはいえ、鮮やかに駆け巡るピアノのヴィルトゥオジティは理屈なしに快感。DSDでも配信されているので、低音の迫力まで存分に味わってほしい。

『Paysage』
内藤晃



今年はコロナ禍による渡航制限も解除され、海外オーケストラの来日公演も多数聴くことができた。それだけに、家ではシンフォニックなサウンドよりもインティメイトな雰囲気の音楽に耳を傾けることが多かったように思う。そんなとき、自然と手が伸びたのがこの一枚。ピアニストの内藤晃が自身で運営するレーベルからのセルフ・プロデュース・アルバムとのことだが、音質も選曲も演奏も、とにかく心地よい。プーランク、フォーレ、セヴラック、モンポウといった作曲家たちが部屋にあるピアノをさっと弾いてくれたかのようで、リラックスした演奏でありながら、作品の本質を伝えてくれる。


『A Tribute to Ryuichi Sakamoto - To the Moon and Back』
坂本龍一


「最後になるかもしれない」と言われて配信されたピアノ・ソロ・コンサートを、恥ずかしながら聴くことができなかった。最近の「集大成」モードに、まだ私は正面から向き合うことができないでいるのだ。けれど、このトリビュート・アルバムを聴いて、坂本龍一という存在は、もはやそういう次元で捉えるものではないのだとわかった。サンダーキャット、ヒドゥル・グドナドッティル、デヴィッド・シルヴィアン、コーネリアス……坂本の楽曲をリモデル(再生成/再構築)しているのは、ジャンルも個性もまったく違うアーティストたち。「作曲家が後世に影響を与える」というのは、表面的なスタイルだけでなく、こういうことなのだと教えられた。


原典子 (はら のりこ)
音楽まわりの編集者・ライター。2021年4月よりクラシック音楽を軸としたWebマガジン『FREUDE』運営。
上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽メディアでのアーティスト・インタビューやレビュー記事執筆、ラジオパーソナリティ、公演プログラムやチラシのディレクション、企業オウンドメディアの編集などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。e-onkyo musicにて『だけじゃないクラシック』連載中。




土方久明

『Come Away With Me[Remastered]』
Norah Jones


2002年のリリース以後、約3,000万枚のセールスとグラミー賞む8部門を全て受賞した本タイトルは、いまだに多くのオーディオメーカーやオーディオファンから愛されている。そして2022年の今年になって、なんと名エンジニア、テッド・ジェンセンによるリマスターで再発された。元音源の雰囲気を残しつつも1つ1つの音のディテールが明瞭に、そして最も印象的なのは空間の高さ方向の表現力が増して音像も立体的になったこと。これぞオーディオファイルが求めていたリマスターの形だと僕は思う。大変オススメのタイトルである。

『LOVE ALL SERVE ALL』
藤井 風


実は筆者、中学1年生から今に至るまで国内外のポップチャートをチェックしてきた一人だ。そして、いまSNSで最も話題になっている曲の指標であるヴァイラルチャートを聴いていると、現在のJ-Popアーティストの優れた音楽性に感心することが増えた。そして藤井 風の存在感は圧倒的だと思う。驚異の新人アーティストとも称される彼の楽曲がハイレゾで聴けるなんて本当に良い時代になったものだ。本タイトルの帯域バランス/質感は比較的ナチュラルな中高域とレンジが広く力感の強い低域で構成されている。現在J-Popとして録音品質も良く、オーディオ機器のレビューに利用することも多い。


『The Legacy』
Rihwa


今年聞いた日本人ポップアーティストの中でも、特にダークホース的な魅力を持ったタイトル。『映画プラダを着た悪魔」の主題歌を歌う英国・スコットランドのシンガーソングライター、ケイト・ヴィクトリア・タンストール(以後:KTと表記)が全面的にプロデュースしている。RihwaのとKTは大の友人であり、だからこそ、ただのプロデュースではなく、念入りに音作りがされている。現在のカントリーポップシーンを象徴するようなサウンドと、KTから直接指導されたRihwaの歌い回しにより、本作からは本場のカントリーミュージックの音楽的魅力が漂っている。そしてハイレゾ音源はその魅力を余すことなく伝えてくれる。


土方久明(ひじかた ひさあき)
"ハイレゾ再生を始めとするをデジタルオーディオ界の第一人者。
テクノロジスト集団・チームラボのコンピューター/ネットワークエンジニアを経て、ハイエンドオーディオ、ポータブルオーディオ、カーオーディオの評論家として幅広く活躍中。元々一人のオーディオマニアだけあり、購入者の視点で製品や音源をレビューする事を信条とする。別冊ステレオサウンド 「ハイレゾの教科書 」  監修。




牧野良幸

『ヨハネス・ブラームス:交響曲第1番、悲劇的序曲』
ヘルベルト・ブロムシュテット, ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団


クラシックではなんといってもショルティの『ニーベルングの指環』2022年リマスター(2022年末の時点では『ラインの黄金』と『ワルキューレ』のみ)を選ぶところだが、それは「こちらハイレゾ商會」で取り上げたので、ここでは別のタイトルを選びたい。現役最高齢の指揮者ブロムシュテット。これまでカラヤンやバーンスタインのようなスター指揮者ではなかったと思うのだが、PENTATONEから配信されたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とのブラームスを聴いて、ブロムシュテットの演奏を愛好するようになった。高音質レーベルのPENTATONEだけれども、なぜかこの録音はフィジカルではCDしかリリースしていないのでハイレゾは貴重だと思う。ブロムシュテットとライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団はDGからもシューベルトの交響曲が配信され、2022年は大いに注目された。

『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』
松任谷由実



邦楽ではユーミンを選びたい。ユーミンのベスト盤は慣れてしまった感があったのに、この50周年記念ベスト盤を聴いてやっぱりユーミンはすごいなと思った。なんといっても曲が良く、連続で再生していても飽きない。全51曲は大河ドラマのように壮大だった。音も良くなっている。松任谷正隆氏とGOH HOTODA氏による最新ミックスは注目で、それを一曲ごとに確かめるのも楽しかった。あと歳をとったせいだろうか、歌詞の内容も今回のベスト盤が一番心に沁みた。作詞に関してもユーミンの良さを知ったベスト盤。あらためてユーミンの才能を感じた。


『The Very Best Of The Beach Boys: Sounds Of Summer[Expanded Edition Super Deluxe]』
The Beach Boys


ここのところ毎年ビートルズか、ビートルズのメンバーのハイレゾを年末ベストに取り上げている。今年も『リボルバー』2022年新ステレオミックスをあげたいが、これも「こちらハイレゾ商會」に書いたので、ここではビーチ・ボーイズのベスト盤をあげたい。全80曲。ビーチ・ボーイズは結構好きだけれども、全キャリア(特に70年代以降)は聴いていない僕にはバッチリの内容だった。音源も新しいミックスがほとんどというところがいい。ハイレゾが一般化した今日、ロック / ポップスのハイレゾは、ただハイレゾ化されても注目されないと思う。個人的には新ミックスかリマスタリングとコミのハイレゾ化が聴いてみたくなる。その点でも満足度を高めた。ただ一つ「Please Let Me Wonder」が収録されていないのが残念だったが。


牧野良幸(まきの よしゆき)
1958年愛知県岡崎市生まれ。関西大学社会学部卒業。卒業後、版画家、イラストレーターとして活動を始める。音楽やオーディオへの愛着も深く、『CDジャーナル』(シーディージャーナル)にイラスト・エッセイ『僕の音盤青春記』を、WEBでも音楽や映画のイラスト・エッセイを連載中。2022年に『オーディオ小僧のアナログ放浪記』(シーディージャーナル)を出版した。ツイッターは@makinoyoshiyuki





山之内 正

『Mozart: Sonatas for Fortepiano and Violin Vol. 1』
庄司紗矢香, ジャンルカ・カシオーリ


庄司紗矢香とカシオーリはベートーヴェンで呼吸の合った演奏を披露したが、今回はそれを上回る密度の高さと同時に不思議な緊張感が漂う演奏を展開。ガット弦とバロックボウを使いながらアプローチは現代的で100パーセント庄司紗矢香流。背筋がゾクゾクするような弱音の質感、フォルテピアノとの対話の面白さなど、聴きどころは枚挙にいとまがない。教会の残響を活かしつつガット弦の鋭い立ち上がりをありのままにとらえた優秀録音だ。

『Mozart Momentum - 1786』
Leif Ove Andsnes, Mahler Chamber Orchestra


1786年、30歳を迎えたモーツァルトは《フィガロの結婚》を完成させた。それだけでも奇跡的なことだが、創作意欲が後退する気配はまったくなく、他にも充実した作品群を残している。アンスネスが弾き振りで演奏した2つのピアノ協奏曲(第23番、第24番)からもこの年のモーツァルトが到達した表現力の高みを強く実感できる。すべてのフレーズをていねいに弾き分けるアンスネスの感性の豊かさが忠実に聴き取れる鮮度の高い録音だ。

『Bach, JS: Goldberg Variations, BWV 988』
Fazil Say


卓越したピアニストとしての余裕のあるテクニックはもちろんだが、それ以上に作曲家としての視点も感じさせる説得力豊かなゴルトベルク変奏曲である。即興演奏を聴いているような高揚感と躍動感があり、録音を聴いているだけで演奏風景が目に浮かぶような距離の近さも格別。舞曲の要素をここまで聴き手に意識させる演奏は珍しい。トルコのイズミルで2022年に録音。


山之内 正(やまのうち ただし)
専門誌とウェブ媒体を中心にオーディオ機器とディスクのレビューを執筆。趣味のコントラバス演奏は40年以上に及ぶが、楽器を手に取る時間を確保することが目下の課題。





山本 昇

『Revolver[Super Deluxe]』
The Beatles


『サージェント・ペパーズ〜』から始まった、“リミックス”が売りのリイシュー・プロジェクト。2022年には再評価の気運高まる『リボルバー』が登場した。4トラックレコーダーで録音されたアルバムで、各トラックには複数の音源がまとめられているが、最新の音声分離技術“デミックス”を駆使することでバランスの変更が可能となった。ニューミックスはしごくまっとうなステレオ音像。遅ればせながらやって来た、ステレオ時代のスタンダードもハイレゾで味わいたい。新たな発見に満ちたアウトテイクがたっぷり詰まった「スーパー・デラックス」がやっぱりお薦め。詳細はムック「56年目に聴き直す『リボルバー』深掘りガイド」をぜひ。

『センチメンタル通り』
はちみつぱい


はっぴいえんど、あがた森魚、高田渡……「ベルウッド・レコード」の50周年記念プロジェクトでは同レーベル珠玉の10タイトルがハイレゾ化された。はっぴいえんども素晴らしいが、個人的には、はちみつぱいのこの名盤を推したい。それも、「アナログテープをそのままDSDに落とし込んだ」ということで、今回のハイレゾリイシューの本命はやはりDSD 11.2MHz。このフォーマットの特徴もよく表れ、70年代の空気をダイレクトに運んでくれるようだ(詳細はこちらの記事をぜひ)。YMOなどでもお馴染みアルファ・レコードの16トラックMRTでレコーディングされたというこの作品。エンジニアは梅津達男氏。そりゃ、音がいいわけだ。


『Under The Spell of the Blues』
Kota Sawaguchi Trio


映画『アメリカン・エピック』など、ルーツ音楽について考えさせられる機会も多かった2022年。当サイトお馴染みの「UNAMAS」レーベルからユニークな作品が届いた。「いわゆる〈ジャズ〉の世界にも、ブルースやR&Bのシーンにも、どちらに向けてもアンチテーゼとなるようなものを作ってみたかった」とリーダーが語る本作は、隣接する音楽の光を当ててジャズの本質をあぶり出すような興味深い試みとなった。ジョン・リー・フッカーから斉藤由貴まで、俎上に載せる素材は多種多様。息の合ったブルース感覚から立ち上るうねりと歪みが心地良い。録音は、エンジニアのミック氏お気に入りのSTUDIO TANTA(詳細はこちらの記事をぜひ)。


山本 昇 (やまもと のぼる)
音楽誌、オーディオ誌などの編集を経てフリーランスの編集者・ライターに。編集を担当した書籍に『ああ詞心、その綴り方』(鈴木博文著)、『THE DIG presents ハイレゾ音源ガイド』、『Ciao! ムーンライダーズ・ブック』、『50年目に聴き直す「ホワイト・アルバム」深掘り鑑賞ガイド』、『50年目に聴き直す「アビイ・ロード」深掘り鑑賞ガイド』、『51年目に聴き直す「レット・イット・ビー」深掘り鑑賞ガイド』など。ピーター・バラカン氏のWebマガジン「A Taste of Music」のほか、「e-onkyo music」のインタビューコーナーでも一部、編集・執筆を担当している。





 

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