小原由夫 SOUNDS GOOD〜良質名盤〜「TOTO」特集

2022/10/10

e-onkyo musicにて新たにスタートする新コーナー「小原由夫 SOUNDS GOOD~良質名盤~」。このコーナーは、洋楽からジャズ、クラシックそして歌謡曲とジャンルを問わず日々音楽の探求を続けるオーディオ評論家の小原由夫氏が、毎回テーマに沿った良質な名盤を深掘りしてご紹介するオーディオファンのための探求型連載コーナーです。

記念すべき第1回となる今回は「TOTO」特集。10月10日の「TOTOの日」に合わせて「TOTOをハイレゾで聴く醍醐味とは」というテーマでTOTOを深堀りします!

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 TOTOをハイレゾで聴く醍醐味とはなんだろう。それは、リズム隊が繰り出す超安定のグルーヴと、鉄壁のアンサンブルが聴かせるリフや小技の数々が、ハイレゾによる情報量の多さと広大なダイナミックレンジによって一層鮮明に浮き彫りとなることだ。
 数々のスタジオワークで慣らした腕達者な6人のミュージシャンが集まったTOTOは、ハードロックの王道を行く爽快なリズム、キャッチーなメロディーで人気を博したわけだが、その頂点はなんといっても1982年リリースの「TOTO IV〜聖なる剣」だ。同年のグラミー賞を6部門制覇し、現在までに全世界で1600万枚以上を売り上げている。
 TOTOは、創設メンバーの一人で、リーダーであったドラムのジェフ・ポーカロが亡くなるまでの8作目「Kingdom of Desire」と、それ以降現在までの2つの時代に分けることができる。前期に比べると、後期はアルバム・リリースのスパンが長くなり、レコード会社も数回渡り歩いた。
 ジェフの逝去後は、代役としてツアーに参加したサイモン・フィリップスがそのまま正式メンバーとして加入。メインヴォーカルは、創立メンバーのボビー・キンボールが脱退後はなかなか固定できなかったが、3代目のジョセフ・ウィリアムスが途中脱退もあったものの、近年定着。創立時からのギタリスト、スティーブ・ルカサーと共に現在のラインナップを支えている。
 TOTOの音楽を産業ロックと揶揄する向きもあるが、それはヒット曲の多さと、AORから プログレッシブ・ロック、ジャズやフュージョンといった様々な音楽的要素をミクスチャーした彼らならではの音楽性にオリジナリティを見出だせない一部のマスコミの嫌味に過ぎない。それほどまでに彼らの音楽は唯一無二といってよいのである。
  

小原由夫




〜良質名盤〜「TOTO」を深堀り!

 



『Toto』
TOTO


 邦題「宇宙の騎士」は、おそらくジャケットのイメージからだろう。“TOTO”だけではデビュー作としてインパクトが弱い。しかし、アルバムの中身はたいそう充実しており、ハードロックにAOR的香味をまぶした音楽を腕達者な面々がタイトに繰り広げるという印象だ。「ジョージー・ポージー」のタメの効いたグルーヴは天下一品。「ホールド・ザ・ライン」のギターソロは、ハイレゾという器によって一段とクリアーなディストーションになっているのも印象的だ。




『Hydra』
TOTO


 初めて聴いたのが中学生時分の友人宅。本作冒頭2曲のイメージと1stアルバムとの音楽性の違いに当初戸惑ったが、当時関心を持ち始めたばかりの“プログレッシブロック”の隠し味をそこはかとなく感じ、むしろ後にフェイバリットアルバムとなった。タイトル曲「ハイドラ」はメンバー全員による共作で、プログレ的な重厚さとヘヴィさがいい、スケールの大きいドラマチックな楽曲だ。それと対になる「99」のメロウなイメージと合わせ、冒頭2曲がアルバム内で特異なイメージを作り上げている。「オール・アス・ボーイズ」や「ホワイト・シスター」といった王道的ハードロックにおけるリズムキープの確かさも、ハイレゾで一層際立つ。




『Turn Back』
TOTO


  ストレートなハードロック、アメリカンロックを推し進めた3枚目。スピード感が横溢したリズムで、ひたすらヘヴィなビートが特徴的だ。いわばバンドサウンドを大事にしたアルバムという感じだ。「イングリッシュ・アイズ」や「グッドバイ・エリノア」といった、キンボールのハイノートが存分に活かされたナンバーが秀逸。「グッドバイ〜」のエネルギッシュかつ高速なシャッフルは聴きどころのひとつで、ハイレゾならではの恩恵もそこに感じ取れる。セールス面ではあまりふるわなかったようだが、熱心なTOTOファンからの評価が高いアルバムでもある。




『Toto IV』
TOTO


 言わずと知れた大名盤。音楽的な完成度はもちろんだが、グラミー賞6冠のうち「ベスト・エンジニアード・レコーディング賞」を獲得したことから、サウンド・クォリティ面での高い評価にも着目したい。本作には4人のレコーディング/ミキシングエンジニアが携わっているが、特に注目したいのはアル・シュミットとグレッグ・ラダニーの2人。アルはモノラル時代から活躍してきたレジェンド。グレッグはイーグルス等も手掛けたロックを得意とする録音家である。「ロザーナ」のハーフタイムシャッフルは、ジェフ・ポーカロの真骨頂が堪能できるナンバー。改めてハイレゾで聴いてビートの正確さに舌を巻いた次第。「アフリカ」は改めて言うまでもない名曲だ。




『Isolation』
TOTO


 ボビー・キンボールが抜け、代わりに新ヴォーカリスト/ファーギ・フレデリクセンを迎え、ジェフの弟マイクがベーシストとして正式加入した5作目。過去の4枚と比べて音のエッジがより鋭くなっている印象で、ハイレゾによってそれが一段とシャープになった印象だ。ファーギの声質とそうしたサウンド傾向が程よくマッチしている点も見逃せない。注目は1曲目「カルメン」で、シンフォニックなシンセサイザーとディストーションを効かせたエレキギター、そしてファーギのハイノートがダイナミックに絡み合う。




『Fahrenheit』
TOTO


 現ラインナップのヴォーカリスト、ジョセフ・ウィリアムスが正式加入した6作目。彼が積極的に曲作りに参加したバラードは完成度が高く、また一方ではデヴィッド・サンボーン、マイルス・デイヴィス、マイケル・マクドナルドなどゲストの参加も彩りを添えている。本作の音のよさはハイレゾで聴くと実によくわかる。楽器の粒立ちや質感のよさはもちろん、高域の抜け、低域の締まり等、オーディオ的醍醐味がひじょうに多いアルバムなのだ。とりわけ5曲目「アイル・ビ・オーバー・ユー」のアレンジの美しさが光る。




『The Seventh One』
TOTO



 3代目ヴォーカリストのジョセフがいよいよバンドに馴染んできたと実感する7枚目(しかし発表後に残念ながら脱退)。また、スティーブ・ポーカロも発表前にバンドを辞している。他方「パメラ」や「ストップ・ラヴィング・ユー」、「ホーム・オブ・ザ・ブレイブ」といったAOR風の名曲も多く、ジェフ・ポーカロ作曲「ムシャンガ」は、ヘヴィなリズムがいかにもジェフならでは。録音にはアース・ウィンド&ファイヤーやリンダ・ロンシュタット等の優秀録音盤で知られる名手ジョージ・マッセンバーグが参画しており、その成果が音からも感じ取れる。シャープでソリッドなリズムが特徴的で、すっくと立つベースラインの伸びやかさとジョセフの声とが絶妙にマッチしている。




『Kingdom Of Desire』
TOTO



 4人体制となったTOTOにして、ジェフの遺作となったアルバム(発売前に他界)。ルカサーがリードヴォーカルを取り、より骨太なロックというムード。録音にグレッグ・ラダニーを再び呼び寄せた、ミキシングエンジニアにローリング・ストーンズやブルース・スプリングスティーンとの仕事で知られるボブ・クリアマウンテンを起用。より強靭な音の骨格を意識しているかのよう。重厚なビートと分厚いアンサンブルは、ボブの手腕によるところだろう。とりわけ「ジプシー・トレイン」のブルージーなギターと重々しいスネアの響きは、王道的ハードロックは言えまいか。全編に貫かれたのダイナミックな疾走感は、44.1kHz/24ビットというフォーマットとも無縁ではないだろう。




『Toto XX: 1977-1997』
TOTO


  デビュー20周年(XXは20年の意味)で企画された未発表曲アルバム。他者に提供した曲や既発曲のライブ音源も含まれる。こう書くと落穂拾い的内容と思うかもしれないが、さにあらず。プロデュースはペイチとルカサー。録音エンジニアは複数名が参画している。音のよさという点では、ワイルドなビートがゴキゲンな2曲目「テイル・オブ・ア・マン」 と、3曲目「ラスト・ナイト」が出色。前者はトム・ノックス、後者はジョージ・マッセンバーグがそれぞれミキシングしている。いずれもドラムの音がクリアーに録れており、リズムのタイトさが光るナンバーだ。





『Tambu』
TOTO


 ジェフ・ポーカロが亡くなってTOTOはどうなってしまうのかと危惧したが、まさかツアーを助太刀したサイモン・フィリップスが正式に加入するとは! というのも、手数が多くてツイン・バスドラの彼のスタイルは、ジェフのそれとはずいぶん異なるから。しかしながら不安は杞憂に終わり、サイモンはTOTOに新しい化学反応を齎らした。ビートのボトムエンドが一層逞しくなり、超安定の重厚さが加わったのである。また、メイン・ヴォーカルはルカサーが受け持ち、正規メンバーが4名というグループ史の中で最小単位となった点も興味深い。よりハードに変容した演奏がハイレゾ化によってグッと迫り出してくる感じが興味深い。インストナンバーの「デイブス・ゴーン・スキーイング」でのサイモンのトレードマークであるツインバスドラはTOTOとして実に新鮮。




『Mindfields』
TOTO



 記念すべきグループ10作目は、初代ヴォーカリストのキンボールが復帰。声量やハイノートにやや衰えは感じられるものの、初期の頃のタイトな雰囲気が戻った作風が嬉しい。その一端は、スティーブ・ポーカロのレコーディング参加にもあったとみてよさそう。ハードロック臭は薄く、洗練されたAOR風味付け のアルバムといえる。ホーンが多用され、コーラスも爽やかというのがその所以だが、一方ではキンボールとサイモン・フィリップスの初の組合せという点も興味のひとつ。あのファルセットが手数の多いリズムとどう絡むのかという点で、ハイレゾがもたらす立体感と奥行き表現の深さが奏功した印象。




『Old Is New』
TOTO



 デビュー40周年盤のボックスセットから未発表曲をまとめたアルバムが単独リリースされたもの。録音時期はバラバラではあるものの、どの曲もなぜお蔵入りしていたのかというほど完成度が高い。全10曲中5曲が新曲で、残りの5曲は81年から84年の未完音源にメンバーが手を加えて録音し直したもの。中でも白眉は、ジェフが叩く未発表曲「スパニッシュ・シー」だ。なんてことのないビートだが、その安定感はやはり揺るぎない。また、「デビルズ・タワー」のスピード感に溢れたギターのリフと、シンフォニックなキーボードのアンサンブルは、ルカサー/ペイジならではのTOTOらしいナンバーだ。




『With A Little Help From My Friends (Live)』
TOTO


 2020年11月21日に米LAで行なわれた一夜限りの配信ライブ。最新ラインナップは、スティーブ・ルカサー、デヴィッド・ペイチ、ジョセフ・ウィリアムスという3名で、他はサ ポートメンバーに委ねている。後にほぼ同じメンバーでツアーも挙行している。スタジオからの配信ということもあり、拍手の様子からも観衆はごく限られた人数とわかるが、ライブならではの臨場感と演奏の一体感、プレゼンス感豊かな空気感が、ハイレゾならではの中継演奏と納得させるクォリティだ。収録曲は往年の人気曲でほぼ占められているが、オリジナル演奏とはまた少し違った趣きのアレンジが新鮮。ラストのアルバムタイトル曲は、言わずと知れたビートルズナンバーだが、これまた雰囲気がだいぶ異なっている。




 

小原由夫 SOUNDS GOOD〜良質名盤〜◆バックナンバー

第6回 ◆ 「2xHD」特集
第5回 ◆ 「パドル・ホイール」特集
第4回 ◆ 「凄い低音」特集
第3回 ◆ 「ショスタコーヴィチとプログレッシブロックの邂逅」特集
第2回 ◆ 「ビル・エヴァンス」特集




プロフィール





小原由夫(おばらよしお)

測定器メーカーのエンジニア、オーディオビジュアル専門誌の編集者を経て、オーディオおよびオーディオビジュアル分野の評論家として1992年に独立。ユーザー本位の目線を大事にしつつ、切れ味の鋭い評論で人気が高い。現在は神奈川県の横須賀で悠然と海を臨む「開国シアター」にて、アナログオーディオ、ハイレゾ(ネットワーク)オーディオ、ヘッドホンオーディオ、200インチ投写と三次元立体音響対応のオーディオビジュアル、自作オーディオなど、さまざまなオーディオ分野を実践している。
主な執筆誌に、ステレオサウンド、HiVi(以上、ステレオサウンド)、オーディオアクセサリー、Analog(以上、音元出版)、単行本として「ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事」(DU BOOKS)

 

 



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