『ザ・ウルティメイト DXD384KHz』発売記念 麻倉怜士×武藤敏樹(アールアンフィニ代表)―アールアンフィニのあゆみ

2022/09/21

8月にリリースされ大好評を博したアールアンフィニ初のコンピレーションアルバム『ザ・ウルティメイト DSD11.2MHz』のリニアPCM版『ザ・ウルティメイト DXD384KHz』が配信開始となった。DSDレコーディングをポリシーとしているレーベルのリニアPCMフォーマットのコンピレーション・アルバムである。レーベル代表の武藤敏樹氏が語る通り、DSDもリニアPCMもそれぞれの魅力がある。ぜひ本項と前回の対談記事を読んでいただき本作の濃密な魅力を味わっていただきたい。
今回は対談の中で武藤氏にレーベルの沿革や制作方針について語っていただいたパートを掲載する。麻倉怜士氏との和やかな対談の中から見えてくるアールアンフィニの本質が読者に伝われば幸いである。
また本日9/21には、お手頃な価格で幅広いフォーマットで楽しめる『ザ・ウルティメイト・アールアンフィニ』がリリースとなった。こちらもぜひチェックしていただきたい。

文・写真:竹田泰教(e-onkyo music)
写真:ナクソスジャパン

 


01. 新倉瞳[チェロ]  /  ファジル・サイ: 11月の夜想曲 - V. 青い夜想曲

02. 河野智美[ギター]  /  ロドリーゴ: アランフェス協奏曲 - I. Allegro con spirito

03. 砂川涼子[ソプラノ]  /  プッチーニ: 歌劇「トゥーランドット」 - 第3幕 氷のような姫君の心も

04. 横山幸雄[ピアノ]  /  ラフマニノフ: ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op. 18 - I. Moderato

05. 椿三重奏団  /  メンデルスゾーン: ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op. 49 - I. Molto allegro ed agitato

06. 鈴木大介[ギター]  /  ガイ・ウッド:マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ(鈴木大介編)

07. 三浦文彰[ヴァイオリン]  /  プロコフィエフ: ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 Op. 80 - II. Allegro brusco

08. デュオ・パッシオーネ  /  M.D.プホール: ブエノスアイレス組曲 - 第1曲 ポンペイア

09. 塚越慎子[マリンバ]  /  三宅一徳:チェイン

10. 赤坂達三[クラリネット]  /  ガロワ=モンブラン: クラリネットのためのコンチェルトシュトゥック

11. 古川展生[チェロ]  /  J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV 1007 - I. Prelude

12. 伊藤順一[ピアノ]  /  ショパン: 舟歌 嬰ヘ長調 Op. 60

▲クリックすると全曲解説ページにジャンプすることができます



 

もともとはジャズをやりかったんです

 

麻倉怜士(以下、麻倉):実は武藤さんとはすごく親しくて、先日もラジオ番組でピアニストの時代からのお話を伺いました。本日は改めてアールアンフィニがどういうレーベルなのか教えていただきたいと思います。

 

武藤敏樹(以下、武藤):はい、私はソニーミュージックで長くクラシックの制作をやっておりまして…

 

麻倉:もともとクラシックピアニストとしてずっと研鑽されてきたのに、ソニーミュージックに入ったら、「ジャズをやりたい」と言い出して。

 

武藤:そうなんです(笑)。

 

麻倉:会社からは「何を言ってるんだ、お前はクラシックの専門家なんだからクラシックをやれ!」と言われたと伺いました(笑)。

 

武藤:麻倉さんの言う通りで、もともとはジャズをやりかったんです。芸大在学中もジャズ・ピアノばかり弾いていて、不良学生でした。入社時の配属希望の際も「絶対にジャズをやらせて欲しい」と言ったのですが、全然願いが叶わず(笑)。クラシックの部門に配属され、かなり長くクラシックの制作に携わり、その後ソニー・ミュージックダイレクトという会社に異動になりました。実は今でもオフの時にはジャズばかり聴いているんですよ。

 

麻倉:その頃に家に来ていただいたことがありましたが、普通のレーベルの担当とは仕事の仕方が少し違っているようでした。

 

武藤:ソニー・ミュージックダイレクトは、直販、通販、市販など多くの販路を網羅している会社で、レコード会社の中にもう一つワンストップのレコード会社があるようなイメージです。B2BもやるしB2Cもやるという面白い会社で、多岐に渡るビジネスをやっていました。その頃に麻倉さんとは、特販と呼ばれるOEMの仕事でご一緒させていただきました。

 

麻倉:当時は色々なことをやっていたのですね。

 

武藤:色々なことをやって、それはそれですごく楽しかったのですが、色々なアーティストとの方と「この曲はどうだろう」「ああやったらどうか」と丁々発止の打ち合わせをしたり、ジャケットの制作もカメラマンやデザイナーと一緒に色々打ち合わせて…とか、そういったダイナミックな現場から遠ざかっていたので、私の中ではやはり現場をやりたいなあという思いが強くありました。それでソニー・ミュージックダイレクトの中で、社内のインフラを利用させていただき、レーベルを立ち上げさせていただいたというのがアールアンフィニの出自です。




 


レーベル名の「
ART INFINI(アールアンフィニ)」はフランス語で「永遠の芸術」の意味。

 



 

特徴の一つは、アーティストの発掘力。演奏のクオリティが高い。もう一つの特徴は、音の良さ 

 

麻倉:アールアンフィニは基本的に日本人アーティストのクラシック作品に絞って制作されていますが、どのような制作方針なのでしょうか?

 

武藤:自分が一番身近に感じられるアーティストは、自分が日本人ですから、どうしても日本人のアーティストということになります。コンサートやリサイタルを聴いて、私が共感する方にお願いをするようにしています。あとはアーティストの先生やマネージャーさんからご紹介いただくことも多いです。「なかなかの才能なので武藤さんちょっと聴いてみてください」と言われて、一緒に聴きに行って、素晴らしいと思った方をレコーディングさせていただくことが多いです。またソニーミュージック時代からご縁があったアーティストの方をそのままアールアンフィニで継続して制作させていただいているというケースも多いです。

 

麻倉:アールアンフィニの特徴の一つは、アーティストの発掘力だと思います。演奏のクオリティが高い。もう一つの特徴は、音の良さ。こだわりが伝わってきます。

 

武藤:アールアンフィニはDSDレコーディングにこだわっていて、レーベルのスタート当初からDSDレコーディングなんです。ソニーミュージック時代、ちょうどDSDの立ち上げの時期に、DSDを活性化させるための委員会があって、制作部門や宣伝部門や営業部門のスタッフと一緒に、私もクラシック部門のプロデューサーということでメンバーだったのですが、その時に、DSDの音の素晴らしさ、精緻なソノリティや、優れた音場再現性に惹かれるようになりました。そういう経緯でレーベル立ち上げの時からDSDでやってきて現在に至っています。ただ、もちろんDSDもPCMもそれぞれの魅力がありますし、私自身PCMの音も大好きです。

 

麻倉:マスターはDSDで作って、配信はリニアPCMで、ということもやっていますよね?

 

武藤:はい、リニアPCMでも配信しています。今回のコンピレーション・アルバムではDSD版を出した後にリニアPCM版を発売します。実は「配信」ということで言うと、最初はフィジカル志向が強くて、頑固に配信をやらなかったんです。パッケージにもこだわって、ジャケットも豪華に銀箔やエンボスをあしらったり、「こんなに贅沢によくやるねえ」って言われたんですけど(笑)。

 

一同:(笑)。

 

武藤:とは言いつつ、昨今は特にサブスクリプションが活況化してきていますので。若い方は特に、配信やサブスクを利用されることが多いですよね。あとは海外のお客様です。私がレコーディングした日本人アーティストさんは海外と日本を両方ベースにされている方が結構いらっしゃるんですが、フィジカルだとなかなか海外の流通が難しくて、CDが手に入らなくて悲しい思いをしているというような声も聞こえてきたりして。そういうこともあったので、総合的に判断して今はすべての音源を配信しています。





 

レーベルポリシーとe-onkyoのお客様のフィロソフィーがピタッと合っている 

 

麻倉:e-onkyoはダウンロードサイトなので、形態としてはどちらかと言うとパッケージを買うのに近い。サブスクとか色々な形態をやってらっしゃる中で、e-onkyoにかける期待というのもあるのでしょうか?

 

武藤:そうですね。e-onkyoさんの場合は特に高音質な音に敏感なお客様が多いので、そこに対して私のレーベルポリシーとe-onkyoさんのお客様のフィロソフィーがピタッと合っている感じがするんです。ですので、レーベルの中でのe-onkyoさんの位置づけというのは非常に高いものがあります。今回のDSD11.2MHzとDXD384KHzのコンピレーションは、現実的に今入手し得るフォーマットの中で最上位ではないかと思いますが、どちらもぜひe-onkyoさんのお客様に聴いていただければ幸いです。

 



 

麻倉怜士(あさくら れいじ)

 

津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表。 日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。 『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。 1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。

 

武藤敏樹(むとう としき)

 

アールアンフィニ・レーベル代表、音楽プロデューサー、レコーディング・エンジニア

4歳からピアノをはじめ、第31回全日本学生音楽コンクールピアノ部門中学校の部全国第一位。東京藝術大学附属高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部ピアノ科卒業。㈱CBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社後、多数のクラシック・アーティストのCDアルバムをプロデュース。

プロデュースしたCDで「日本レコード大賞・企画賞」、「国際F.リスト賞レコードグランプリ最優秀賞」「文化庁芸術祭優秀賞」を受賞。アールアンフィニ・レーベルにおける横山幸雄の全てのCDにおいて、レコード芸術誌「特選」、他多数のアーティストのCDにおいて「特選」、並びに音楽専門誌において優秀録音賞を多数輩出している。2000年にリリースしたコンピレーション・アルバム「イマージュ」は、170万枚の大ベストセラーを記録した。30年の歴史を誇るドイツのクラシック音楽情報誌「KlassikHeute」において、「福間洸太朗/FranceRomance2019Naxos)」のCD録音評で10点満点を獲得。

現在、ソニー・ミュージックソリューションズとミューズエンターテインメントのパートナーシップによるクラシック専門レーベル「アールアンフィニ」を主宰。株式会社ミューズエンターテインメント代表取締役。葉山で1日1組のイタリアン・レストラン「ラサーラ葉山」オーナー、自家農園での手作り野菜が人気を博している。
公式HPlasalahayama.jp

 

 

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