「高品位なDSDレコーディング」をポリシーとし、チェリスト・新倉瞳、ギタリスト・河野智美、ピアニスト・横山幸雄などの魅力的なアーティストの音源を配信するアールアンフィニ・レーベル。
8月にリリースした初のコンピレーション『ザ・ウルティメイト DSD11.2MHz』もハイレゾリスナーから注目を集め、e-onkyo musicアルバムランキングで1位を獲得しました。
そのアールアンフィニ・レーベルから、9月21日、待望のニューアルバム『ザ・スーパーチェリスツ』がリリースされました。
なんと日本が誇る実力派チェリスト総勢10名が結集し、ピアソラの「リベルタンゴ」、J.S.バッハの「G線上のアリア」、サン・サーンスの「白鳥」などの名曲を奏でる前代未聞のアルバムです。
『ザ・スーパーチェリスツ』
スーパーチェリスツ
江口心一, 大宮理人, 奥泉貴圭, 小林幸太郎, 佐山裕樹,
中条誠一, 西方正輝, 古川展生, 森山涼介, 山本大
スーパーチェリスツは、2018年ヴァイオリニストの高嶋ちさ子の呼びかけにより結成されたチェリストのみによるグループ。
それぞれのメンバーが、ソロ・リサイタルや室内楽、オーケストラなど様々なジャンルで活躍しているが、その確かな技巧、深い音楽性、さらにエンターテイメント性溢れるパフォーマンスは高い評価を得ている。
人数は固定せずにコンサートによってフレキシブルに対応しているが、概ね8名~10名で演奏することが多い。メンバーの小林幸太郎は
演奏と共に、多くの楽曲の編曲も手がけ、スーパーチェリスツのオリジナリティを高めている。結成以来、高嶋ちさ子のコンサートツアーを中心に日本全国で公演を行っている。
当アルバムのレコーディング参加メンバーは、江口心一、大宮理人、奥泉貴圭、小林幸太郎、佐山裕樹、中条誠一、西方正輝、古川展生、森山涼介、山本大の10名からなる。(2022年8月現在)
収録曲
ピアソラ: リベルタンゴ(小林幸太郎編)
J.S.バッハ: G線上のアリア(小林幸太郎編)
ロッシーニ: ウィリアム・テル序曲(W. トーマス=ミフネ編)
サン=サーンス: 白鳥(小林幸太郎編)
モンティ: チャルダーシュ(小林幸太郎編)
アンダーソン: 舞踏会の美女(小林幸太郎編)
ロドリゲス: ラ・クンパルシータ(小林幸太郎編)
ビゼー: 「カルメン」組曲第1番 - 前奏曲(小林幸太郎編)
ビゼー: カルメン幻想曲(W. トーマス=ミフネ編)
古川展生: エレジー(小林幸太郎編)
西方正輝: 2年ぶりの春
カタロニア民謡: 鳥の歌(P. カザルス/小林幸太郎編)
※各曲につき8~10名のチェリストが参加
◆◇◆
チェロといえば、低弦の豊穣な響きを存分に堪能できる、ハイレゾファンのなかでも人気の高い楽器。その楽器が10台集まると、果たしてどんな響きが生まれるのか……!?
レーベル代表も自ら「驚くほど素晴らしい音」と自信を見せる本作。オーディオ評論家の山之内正氏からも、「高度なアンサンブルの醍醐味」「一体感があるのに細部も鮮明」と絶賛の評が寄せられました。
ALBUM REVIEW:山之内正
同じ楽器を組み合わせる合奏は2人がベスト、多くても4人ぐらいまでがいい。と、勝手に思い込んでいた。音域と音色が重なるのでそれ以上増えると細部が聴こえにくくなってしまう。表現の幅はそれだけ狭くなるし、響きも単調になりがちだ。
ところが、「スーパーチェリスツ」を聴いて、それが思い込みにすぎないことに気付かされた。
最大10名のチェリストによる合奏と聞き、分厚い低音が渦を巻くような情景を想像してしまったのだが、実際はまったくそうではなかった。繊細なソロから躍動感あふれるダイナミックな合奏まで実に表情が豊かで変化に富み、高度なアンサンブルの醍醐味を存分に味わうことができたのだ。
スーパーチェリスツは古川展生が率いるチェロだけのアンサンブルで、メンバーはあえて固定せず、8〜10名のチェリストが参加する。ソロで活躍するチェリストたちがあえて合奏に取り組むというこの贅沢なプロジェクトは、ヴァイオリニスト高嶋ちさ子の呼びかけがきっかけで結成。ステージでのエンタテインメント性豊かな演奏には定評があり、今回、「ザ・スーパーチェリスツ」と題して、アールアンフィニ・レーベルが待望のデビューアルバムを録音することになった。
アルバムにはおなじみの作品が並んでいる。チェロだけの演奏とは思えないほど音色のパレットが大きく、ピアソラの「リベルタンゴ」からカタロニア民謡「鳥の歌」まで、一気に聴かせる。全12曲のなかの9曲はメンバーの一人である小林幸太郎が編曲を手がけており、楽器の特性を熟知したアレンジのうまさは特筆すべきものがある。独奏楽器としてはもちろんのこと、伴奏でも重要な役割を演じるチェロならではの多様なキャラクターを余さず引き出す優れた編曲だ。
ウィリアム・テル序曲やカルメン幻想曲など管弦楽やオペラの名曲を聴いていると、チェロだからこそ、ここまで豊かな音楽表現に踏み込むことができるという事実に思いが至る。高音はヴィオラやヴァイオリンの音域まで伸びているし、最低音のC(ド)の音はコントラバスの2番めに低い弦とほぼ同じ音域なので、ここぞというときには重低音もカバーできる。この音域の広さは弦楽器のなかでも抜きん出ていて、多彩な表現の源泉になっているのだ。音域ごとにこれほど性格が変わる楽器は珍しいと思う。
「チャルダーシュ」のような快速テンポの曲では旋律がキビキビと素早く動き、カルメン組曲ではオーケストラを連想させるほどスケールの大きな音楽が空間を満たす。西方正輝「2年ぶりの春」や「ラ・クンパルシータ」だけでなく、サン=サーンスやアンダーソンの曲でもクラシック音楽の枠にとらわれない伸び伸びとした歌いっぷりに強く引き込まれた。
たくさんの要素が詰まった「スーパーチェリスツ」の魅力を引き出すうえで、録音が果たす役割の大きさにもぜひ注目していただきたい。中規模のコンサートホールでのセッション録音という恵まれた環境のなか、ステージ全体をとらえるメインマイクと残響を取り込むアンビエンスマイクを配置。さらに10人の各奏者に1本ずつオンマイクを配置して、それぞれのチェリストの音を鮮明にとらえる工夫も凝らしているという。
このスポット的なオンマイクが果たす役割が大きいことは録音を聴けばすぐにわかる。今回のアンサンブルはソロと伴奏が固定しておらず、同じ旋律を順番に複数の奏者が弾くフレーズがたくさん出てくるのだが、そんなときに一人ひとりの音色や歌い方の違いが鮮明に伝わり、楽器の特長まで聴き分けることができるのだ。「エレジー」や「G線上のアリア」では繊細な表情に心を打たれるが、弱音でのここまで微妙な表現はメインマイクだけではとらえ切れないのではないか。
全体と細部のバランスの良さはアールアンフィニ・レーベルの録音に共通する美点の一つである。今回もDSD11.2MHzという最先端の方式で収録しており、一体感があるのに細部も鮮明という理想的なバランスで仕上げている。低音、内声、旋律すべて鮮明に聴こえる解像感の高さは格別だが、演奏の勢いや高揚感といったエモーショナルな要素を強く実感できることにもぜひ注目してほしい。
録音セッションはほとんど録り直しがいらないほどスムーズに進んだそうだが、それは全員の耳と身体に音楽が浸透していることを意味する。今回のプログラムはステージで何度も演奏を重ねたレパートリーのなかから選んでいるとはいえ、技巧面での要求が高い曲が多く、演奏はけっして容易ではない。とはいえ並外れた集中力を要求される独奏での豊富な経験が物を言い、どんなパッセージも難度の高さを微塵も感じさせない。ソリストだけで結成したアンサンブルならではの強みである。(山之内正)
◆◇◆
配信はDSD11.2MHz、DXD384KHzほか。アールアンフィニのこだわりのDSDレコーディングとゴージャスなチェロ・アンサンブルが織りなす驚異の音世界をぜひご堪能ください。
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プロフィール
山之内 正(やまのうち ただし)
神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。
◆Phile Web連載:山之内正のデジタルオーディオ最前線
https://www.phileweb.com/magazine/digital-audio/