ジャズシンガーMAYAが放つニューアルバムはラテン音楽にフォーカスした『LATINA』

2022/09/21

シンガー、ソングライターとして活躍するMAYAさんにとって、ジャズと共に大きな活動の軸となっているのがラテン・ミュージックです。前作『Billie』に次いで届いた新作『LATINA』は、その名のとおり久々のラテン・アルバムとなりました。オルケスタ・デ・ラ・ルスの斎藤タカヤさんをはじめ、本格ラテン・ミュージシャンで固めたメンバーをバックに「ラテンの女」を演じ切ったMAYAさんに、アルバム制作のエピソードや音作り、さらにこの情熱の音楽の魅力などをたっぷりと語っていただきました。レコーディングの様子を綴った写真と共にお楽しみください。

文・取材:山本 昇
写真:田村 仁、田村玲央奈、山本 昇



LATINA
MAYA


〈収録曲〉
1.Fanm Matinik Dou 4:31
優しいマルチニークの女
作詞・作曲:Frants Charles Denis

2.カミアワズ 4:38
作詞・作曲:MAYA

3.稲村ジェーン 5:03
作詞Luis Sartor  作曲:桑田佳祐

4.LATINA 4:03
作詞・作曲:MAYA

5.Tres Palabras 4:44
作詞:Ray Gilbert  作曲:Osvaldo Farres

〈musician&staff〉
Vocal,Chorus:MAYA
Piano, Synthesizer,Chorus,Arrange,Music Direction:斎藤タカヤ(Takaya Saito)
Electric Bass,Contrabass:小泉"P" 克人(Yoshihito"P"Koizumi)
Drums:佐藤由(Yu Sato)
Percussion:櫛田満(Michiru Kushida)

Recording Date:2021.3.9~3.10
Recording Studio:TSUBASA  Studio
Mix&Mastering Studio:目黒倉庫スタジオ

Recording Engineer:水谷勇紀(Yuki Mizutani)
Mix&Mastering Engineer:芹澤薫樹(Shigeki Serizawa)

Photographer:田村仁,田村玲央奈
Designer:村上武彦
A&R:Point A Music
Total Direction : 松尾明(Akira Matsuo)
Produce:MAYA 




感情も剥き出しに自分そのものをぶつけられる音楽


──ジャズシンガー、ビリー・ホリデイに迫った前作『Billie』から一転、今度はラテン・ミュージックにフォーカスした作品となりました。MAYAさんにとってラテンはジャズと並ぶ、もう一つの重要なフィールドですね。

MAYA:私はデビュー以来、ジャズとラテン音楽を大事に、ライブやレコーディングで歌ってきています。例えば2009年にリリースした『マルチニークの女』は、“ジャズの中のラテン”というテーマで作ったアルバムでした。2020年に「AMBIVALENCE」という自分のレーベルを立ち上げ、ドラマー松尾明さんのジャズ・アルバム『and alone』、私の『Billie』をリリースしてきました。そうした流れの中で、今回はこれまで私がずっと軸にしてきたジャンルの一つであるラテン音楽というものを、本格的なラテンのミュージシャンの方たちと一緒に掘り下げてみたいと思ったんです。サウンド面では「AMBIVALENCE」のテーマである“見える音”にこだわって作りました。

──なるほど。参加ミュージシャンも含めて本格的なラテンの編成でのレコーディングは初の試みで、そのキーパーソンとなったのが、オルケスタ・デ・ラ・ルスにも所属するキーボーディストで作/編曲家でもある斎藤タカヤさんですね。

MAYA:そうですね。斎藤タカヤさんとは以前、松尾明さんを介して知り合ったんですが、音楽性など共感するところも多く、いつか共演させていただきたいなと思っていました。

──MAYAさんにとって、ラテンを歌う醍醐味とは何でしょう。

MAYA:私の中でのラテン音楽は、自分を着飾ることなく人間そのものをぶつけられるというイメージなんですね。ジャズはちょっと装った雰囲気があるというか……私の中ではそういうふうに捉えているんです。ラテン音楽は本当に人間的な、沸き上がる情熱みたいなものがリズムに乗ってどんどん躍動する。汗を散らしながら、感情も剥き出しにできる音楽なのかなと思っています。


現代にもフィットするラテン・アルバム『LATINA』


──では、そんなラテンの魅力が詰まっていそうな本作の中身について伺います。制作を始めるにあたり、サウンドプロデューサー/アレンジャーとして貢献された斎藤タカヤさんとはどんなビジョンを共有していたのでしょうか。

MAYA:ラテン音楽の基本的なリズムや歴史的な背景が感じられると同時に、いまの時代にもフィットするようなものにしたいと話していました。昔の音楽としてのラテンをそのままやるのではなく、斎藤タカヤさんを通すことで出てくる世代感や、いまの時代の感覚も踏まえたアレンジをお願いしたかったんです。私のそんなリクエストに、タカヤさんもそうとうノって応えてくれました。一言でラテンと言っても、収録した5曲にはいろんな音楽観が詰まっていて、リズムも曲ごとに、あるいは曲の中でも異なる感じを採り入れてみたり、様々な要素を楽しんでいただけると思います。


本作のレコーディングが行われたTSUBASA STUDIOにて



──確かに、5曲とはいえ非常に密度の濃い内容となっていて、フルアルバムを聴いたような充実感があります。

MAYA:そうなんですよ。そして、もう一つこだわったのが音質です。リスナーの皆さんに、音楽にも音にも、いかにのめり込んで聴いてもらえるかを大事にしたいと思ったんです。そこで、斎藤タカヤさんには一辺倒なアレンジはしないでほしいとお願いしました。今回はピアノ/キーボード、ベース、ドラム、パーカッションという4人の編成ですが、それらが単に出たり引っ込んだりするのではなく、ボーカルとの絡みを緻密に表現できるようなアレンジにしたり、また、ミックスに関してもかなり大胆なエフェクトを部分的に施したりします。オーディオファンの方がどう鳴らすのか。そんな見せ場や面白さもアレンジやミックスで盛り込んでいます。タカヤさんもそういうリクエストは初めてということで(笑)、「オーディオ的に楽しいとはどういうことか」についてもいろいろ話し合って。私自身もあらためてそこを掘り下げて、音場の広がりや歌や楽器の扱いなどについて、細かく要望を伝えて一つひとつ作っていきました。

──音質に関してそこまで意識してくれているのは聴き手としても嬉しいですね。そして、アレンジやミックスの面白さという意味では、例えばオリジナル曲の「カミアワズ」あたりはアプローチの斬新さも感じます。

MAYA:そうですね。「カミアワズ」は、私もこんなに変わるんだと驚きました。ライブでは全く違う感じで歌っていたこの曲が、まさかこういうキャッチーなラテンポップふうのナンバーに変身するとは! すごく気に入っています(笑)。

──この編成でなければ出せないノリもちゃんと出ていますよね。参加メンバーは斎藤タカヤさんが集めてこられた方たちですか。

MAYA:そうです。斎藤タカヤさんと阿吽の呼吸でやってくださる皆さんを揃えていただきました。編成についてのリクエストは、パーカッションは絶対に入れてくださいと。レコーディングでもライブでも、これまでパーカッショニストの方との共演はほとんどなく、実は憧れていた楽器だったので、ぜひとも加えてほしいとお願いしました。

──スタジオでのセッションはいかがでしたか。

MAYA:上手いのはもちろん、すごくハッピーな方たちで(笑)。ちょっとジャズにはないノリを感じました。やはり、ラテン・ミュージシャン独特の世界観があるなぁと思いながら録音に挑みました。

──MAYAさんとしても面白い体験だったのでは?

MAYA:今回は私一人がどちらかというとジャズの人。最初は離れ小島になってしまうのかなと不安もあったんです。しかも、初めてご一緒する方ばかりですし。私、こう見えてけっこう人見知りするタイプなので(笑)、ちゃんと溶け込めるかなと。でも、始めてみれば皆さんとてもピュアで楽しい方。すぐに打ち解けることができました。


「自分の中から込み上げてくる感情やエネルギーを飾り気なく発露できるのが、ラテンの素晴らしさ」
と語るMAYAさん(Vo)


斎藤タカヤさん(Pf)


小泉“P”克人さん(Cb、E.Ba)


佐藤由さん(Drs)


櫛田満さん(Perc)



MAYAが語る収録各曲の聴きどころ


──では、ここからはニューアルバム『LATINA』に収録された曲ごとにお話を伺っていきたいと思います。まずは1曲目「Fanm Matinik Dou ~優しいマルチニークの女~」のカバーは、いかにも本格的なラテンナンバーに仕上がっています。

MAYA:アルバムの中でラテンらしさが最も出ている曲ですね。例えば、コロ・カンタ(Coro-Canta)と呼ばれるコーラスとボーカルの掛け合いもラテンらしい唱法です。ジャズで言うスキャットに近いかもしれませんが、ラテン音楽にもそんな即興的な一面があることを知り、大変勉強になりました。シンガー本人が歌いながら盛り上がる、情熱に駆り立てられていく―――これぞまさしくラテンの真骨頂なのだなと、そういう気持ちよさを感じました。そして、この曲のクレオール語という珍しい言語の歌詞も、今回のレコーディングに当たり、さらに学び直して臨みました。

──そのあたりは、ラテン音楽をやるうえで避けて通れないハードルの一つですね。どう乗り越えていったのですか。

MAYA:スペイン語の曲も含め、リズムに乗る発音というものをあらためて学び、トライしています。例えばクレオール語は、フランス語とスペイン語が混ざったような発音もあってなかなか難しいですね。レコーディングでは、ついスペイン語寄りになってしまっていたりして。でも、その微妙な間違いに周りの人は気付かない(笑)。そこはもう、自分との戦いでしたね。

──人知れず努力を重ねていたのですね。この曲と「稲村ジェーン」、「Tres Palabras」は、2009年のアルバム『マルチニークの女~FANM MATINIK DOU~』でも取り上げています。

MAYA:そうですね。これは余談ですが、『マルチニークの女~FANM MATINIK DOU~』を出したとき、「Fanm Matinik Dou」をYouTubeで公開したら、あるとき急に閲覧数が跳ね上がったので、どうしたのかと不思議に思ったら、カリブ海のマルチニーク島の人たちが観てくれていたんです。島の方たちにとってこの曲は国民的な楽曲で、私のカバーは向こうのメディアでも取り上げてもらえました。そんな思い出深い曲ですから、本格的なラテン音楽のメンバーと録った今回のバージョンでは、歌のほうもよりいっそうちゃんと発音しなければと頑張りました(笑)。

──2曲目はオリジナル曲の「カミアワズ」。ライブでは披露されていたナンバーの初レコーディングとなりました。ライナーノーツによると、コロナ禍の中で出来上がったそうですね。

MAYA:この歌詞は、どこまで行っても平行線という、タイトル通りかみ合わない男女のことを書いています。でも、人間の心理って、やっぱり好きなものは好きだから、かみ合わなくて別れようとも、一度でも好きだと思った人は忘れられないはず。最後は「愛をかます」という言葉で表現しています。

──その言葉のチョイスが面白いと思いました。

MAYA:やっぱりそこに行くかなと。そんな思いでこの曲を作りました。

──そうして録音されたこの曲は、イントロも含めて現代的なテイストも感じさせる仕上がりで、ミックスでさらに作り込まれた印象です。

MAYA:はい、そのとおりです。イントロは私のリクエストで、エフェクトで特殊な加工を施してもらっています。ちょっと時空が歪むようなイメージになっていますよね。このアルバム自体、いろんな意味で前作『Billie』と対比できるものにしようと思ったんです。ほぼ一発録音で、しかもアナログレコーダーで録った『Billie』に対して、今回の『LATINA』は、マルチ録音の面白さを生かした“作り上げる美学”の追求を、デジタルな技術を駆使してやってみました。レコーディング時に音を重ねていく作業も、ミックス時のエフェクトの加工も、エンジニアさんと逐一相談して行っていきました。

──音をダビングして構築することで見えてくる芸術、ですね。

MAYA:はい。ただ、ジャズ作品では考えられないほど、時間はかかりましたけど(笑)。“ラテンならでは”の部分かもしれませんが、例えばパーカッションにしてもたくさんの楽器を使用するわけで、どんどん重ねていって音に厚みを出していくことで世界観も広がっていく。そういう作り込みには想像以上の時間をかけて行いました。最初におっしゃっていただいたように、収録は5曲ですけど、フルアルバムのような時間を費やしています。びっくりするくらい時間がかかっています。「歌入れする時間あるのかな」と思ったくらいで(笑)。


DAW(Protools)に構築されていく楽器と歌



──まずはベーシックを「せーの」で録って、そのあとに必要なものをどんどん足していったわけですね。バンドとしての一体感やグルーヴもしっかり感じられます。さて、次の曲は「稲村ジェーン」。MAYAさんの作品にたびたび登場する桑田佳祐さんの楽曲のカバーですね。

MAYA:私がアルバムでカバーさせていただくことが多い桑田佳祐さんは、すごく尊敬しているアーティストのお一人です。かねてから世界観が好きだった「稲村ジェーン」は『マルチニークの女』でも歌わせていただいていますが、斎藤タカヤさんと組むことでもっと広がりを追求できるんじゃないかと思い、再度取り上げさせていただきました。前回とはガラリと変わって、タカヤさんのクールでおしゃれなアレンジがほどよく効いた1曲になったと思います。若い世代の方にも受け入れてもらえるような雰囲気になっているとも感じています。エフェクトはそれほど奇をてらったものにはせず、ビートやリズムでクールに攻める感じにしたかったんです。

──まさしくそのとおりのアレンジに仕上がっていますね。

MAYA:そうなんですよ。いつか桑田佳祐さんにも聴いていただけたら嬉しいです。

──桑田さんはどんなところに魅力を感じてきたのですか。

MAYA:人間らしいところと言うのでしょうか。ほっとするような要素も持ちながら、天才的なアーティストとも捉えられる二面性をずっと打ち出し続けているのもすごい才能だと思うんです。サザンオールスターズは母の影響で聴き始めたのですが、日本語を外国語っぽく歌うところや、ポップスから歌謡曲、ジャズ、ラテンといったものを自らの音楽として取り込んでいるところは私も影響を受けています。

──なるほど。さて、4曲目はアルバムのタイトルにもなっているオリジナル曲の「LATINA」です。

MAYA:ラテンは色気のある音楽だと思っていまして、そんな魔性性が感じられる曲がほしいと、このアルバムのために書き下ろしたものです。レトロな雰囲気を出したくて、昔のラテン・スタンダードみたいなメロディも感じられるようにしてみました。それでいて、さらにコンテンポラリー・タンゴなどのエッセンスも混ぜて、ラテンの古い雰囲気と新しいテイストをミックスしたような、ちょっと不思議な曲にしたかったんです。アレンジに関しては、私のリクエストで、エレクトロ・タンゴで人気を博したゴタン・プロジェクトのような雰囲気も織り交ぜていますね。

──プレイヤーの皆さんの演奏も素晴らしいですね。

MAYA:ラテンのミュージシャンには、歌うという特徴があって(笑)。ジャズ・ミュージシャンにはまずないことですが、ラテンの人たちは率先して歌ってくれるんです。今回も、斎藤タカヤさんが「じゃあ、ここでコーラスやります」って言ってくださったり。そういうスパイスが音楽の世界観を膨らませ、すごくいい色を添えてくれました。

──そして最後は「Tres palabras」。こちらも『マルチニークの女』で取り上げられています。

MAYA:「Tres palabras」はラテンといえど、ジャズの人たちもけっこう取り上げている曲なんですね。この曲で、私はあえて斎藤タカヤさんのピアノだけで歌いたいと思いました。先ほどお話ししましたように、他の曲はマルチトラックで録り重ねていくことをテーマにしていましたが、「Tres palabras」は一発録りで、しかも即興的。ブースの窓から互いに顔を見合わせて、「どう行くか」も全く打ち合わせずに、テンポだけ決めて「せーの」で録りました。ラテンの世界、ジャズの世界で培ったフレーズがポンポン飛び交う中、ときに寄り添ってみたり。すごくスリリングでしたが、二つのジャンルの即興性みたいなものが上手く表現できたという気がしています。



音楽の世界観を最もよく表現するハイレゾ


──そして、今回のプロダクトには二人のエンジニアが携わっています。まず、レコーディングを担当された水谷勇紀さんはシンプルな録音に徹したとおっしゃっていましたが、録り音もいいですね。

MAYA:すごく素晴らしいですね。余計なことはせず、スパッと録ってくださったという印象で、潔さを感じました。本当に気持ちのいい録り方をしてくれて、プレイバックした音も素晴らしかった。さすがですね。

──ボーカルマイクのTELEFUNKEN U47は値段が付けられないほどのビンテージモデルとか。こちらはいかがでしたか。

MAYA:すごく温もり感があり、自分の声に包まれるのを感じながら歌うことができました。あえてクールな感じで歌ったとしても、歌としての温もりは感じながら歌いたいわけで、そういう感情を乗せやすいマイクだったと思います。

──音質的なこだわりも納得のいくものになったと?

MAYA:TSUBASA STUDIOでの録音を無事に終えたところで、メンバーもいる中で録ったものを聴かせてもらったんですが、せっかくだからと、水谷勇紀さんが基のハイレゾとその他のCDレベルなど別のフォーマットとの聴き比べをさせてくれたんです。そのときにはっきりとよく分かったんですが、やっぱりハイレゾの素晴らしさは圧倒的で、もう皆さんがこれで聴いてくれるといいのにと思ってしまいました。一言で言うと次元の違う音。ボーカルのニュアンスもそうですが、例えばパーカッションを叩く際に指が皮をはじくときに生じる空気の揺れのような音まで聞こえるような、そんな繊細な音が次々に立ち現れる気持ちよさはすごい。メンバー全員、1曲目からのけぞるくらいよく分かりました。今回、作り上げたアルバムの世界観を最もよく表しているのがハイレゾであることは間違いありません。


「今回はドラムも含めてノーマルなマイキングにしています。ラテンは打楽器が多くなるので、マイクはなるべく最小限の本数としました。録り方としては、アウトボードはあまり使用せず、コンソールに立ち上げたものをスッピンで録るという、
シンプルかつベーシックな録音となっています」(水谷勇紀さん)


MAYAさんのボーカルマイクはTELEFUNKEN U47。当スタジオ秘蔵のビンテージ品




ピアノはNEUMANN U67。「ピアノもシンプルに、2本のビンテージマイクU67による
ステレオで狙っています」と水谷さん


コントラバスにはNEUMANN 47FET




ベーシックに徹したというドラムのマイキングは次のとおり。
トップ:AKG C451B、スネア:SHURE SM57(トップ/ボトム)、キック:audio-technica ATM25、
タム:SENNHEISER MD421MK2、ハイハット:AKG C451B




パーカッションで使用したマイクはSENNHEISER MD421MK2とAKG C460B。「コンガは、421と460を2本並べ、計4本で録っています。ダイナミック型(421)だと、アタックの太さは出るんですが、皮のサラサラした感じも欲しかったので、コンデンサーの460も併用してみました」(水谷さん)




ティンバレスは裏から421、上からは460を立てている



──そして、ミックスとマスタリングを担当されたのが芹澤薫樹さんです。ミックスにはMAYAさんも立ち会われたのですか。

MAYA:はい。私と斎藤タカヤさんもご一緒させていただきました。芹澤さんはジャズ・ベーシストでもある方なので、とにかく話が早いんですよね。「こういう音にしたい」という一言で、すぐにそういう音にしてくれます。芹澤さんはまた、ジャズを含む私のこれまでの作品の流れもキャッチしていながら、今回はラテン音楽をテーマに本格的なラテンのミュージシャンと作ったアルバムだということをちゃんと理解してくれて、「じゃあ、こうじゃない?」という提案もしてくださいました。ミュージシャンでもある方と音作りができると、これほど素早く行えるのかと感動しました。マスタリングの最終OKを出せたのも、これまででいちばん早かったと思います。


本作のミックスとマスタリングが行われた目黒倉庫スタジオ


ベーシストでもあるエンジニア、芹澤薫樹さん(中央)と



──ところで、ジャズとラテン。シンガーとしてモードの切り替えはどう行われているのでしょう。

MAYA:そうですね。私は常日頃から、そういうモードの切り替えを楽しめるタイプなんですよ。例えば、いまの気分はこうだから、こういうファッションでこういう食事を摂り、こういうことをやる。それが「いまの私」。ステージに上がっているときも、「いまの自分」というものに正直でありたい。ラテンのモードなら「ラテンの女」を演じる私に切り替えるのが、わりと昔から自然にできているような気がします。前作の『Billie』では、日常生活から徹底してジャズ一色の自分になるよう心掛けていました。

──そのうち、完全なラテン編成でのライブも観られるのでしょうか。

MAYA:それも考えています。そういう方たちの中に身を置くことで、私自身にも新しい発見があると思います。レコーディングだけでなく、生のステージでやることで、どう変化するのか。私も知りたいところですので、来年にでもできたらいいですね。いろんなことに挑戦したい気持ちは常にありますから。

──ありがとうございます。では最後に、e-onkyo musicのリスナーへメッセージをいただけますか。

MAYA:このアルバム『LATINA』では、最新のデジタル録音だからこそ表現できるサウンドを追求しつつ、ラテンの熱気を失うことなく私なりのイメージを描いています。エネルギーやパッションに溢れ、色気もあるラテン音楽こそ、ストレスでいっぱいのいまの日常に必要なんじゃないかと、私自身が感じています。本当に繊細な部分まで見えるように分かるこのハイレゾをたくさんの音楽ファンの皆様に楽しんでいただき、ストレスで弱った心を調律していただけましたら幸せです。ぜひ聴いてください!


TSUBASA STUDIOのコントロール・ルーム


「このTSUBASA STUDIOは1980年代の半ばにオープンしたスタジオです。それ以前はデッドなスタジオが多かったのですが、このスタジオはライブな設計となっていて、ナチュラルないい音が録れます」(水谷さん)


コントロール・ルームのアウトボード。ボーカルとベースのHAはMillennia HV-37。
そしてボーカルにはTUBE-TECH CL1B、ベースにはUniversal Audio Teletronix LA-2Aといった
真空管コンプを通している。NEVE 33609(コンプ)はピアノで使用


サウンドの中核を成すコンソールはSSL SL4000E(16ch)


使用していたモニタースピーカーは同軸 3WAYアクティブのKSD C88-Reference(左)


パッチベイに挿してあったノイズ対策用製品はThe Chord CompanyのGroundARAY


電源ボックスにはKRIPTON「HR(ハイ・レゾリューション)シリーズ」のフラグシップモデルPB-HR2000を使用。
ここにもThe Chord Company のPowerARAYを挿すなど、ノイズ対策も徹底している


金井製作所のレゾネーターKaNaDeをMac Proのインシュレーターとして使用。
こうした高音質化へ向けた様々な対策は、これまでのMAYAさんの作品にオーディオ・プロデューサーとして携わっている
オーディオ評論家、林正儀さんのアドバイスによる




MAYA 関連作品




MAYA プロフィール



JAZZ&LATIN VOCALIST MAYA
 
ジャズを基本にジャンル、スタイルにとらわれず9ヶ国語で歌い分けるオリジナリティ溢れる世界観で、現在までベスト盤含め 19作品のCDをリリース。「ゴールドディスク」「ジャズディスク大賞・ヴォーカル賞(国内部門)」「アルバム・オブ・ザ・イヤー 」「ジャズオーディオ・ディスク大賞」など数々の賞を受賞。
 
2020年自身の音楽レーベルAMBIVALENCEを発足。第一弾作品はMAYAプロデュースによる日本を代表するジャズドラマー松尾明「and alone」をリリース。第二弾作品は伝説的ジャズシンガー、ビリー・ホリデーをテーマにしたセルフプロデュース作品「Billie」をリリース。「ジャズ・オーディオディスク大賞ヴォーカル部門金賞」、「ジャケット賞」受賞。レーベル両作品ともに真空管やヴィンテージ機材を駆使したアナログテープ録音による高音質作品として話題を呼んでいる。

続いて、2022年9月にラテンアルバム『LATINA』をリリース。日本を代表するラテングループ、〝オルケスタ・デ・ラ・ルス〟メンバーはじめ本格ラテンミュージシャンとの共演による意欲作。オリジナル楽曲2曲含む待望の高音質ラテン作品をリリース。ジャズ・オーディオシーンで常に話題を呼び続ける注目のシンガー。

■MAYA Official Site
https://www.mayajazz.com/


 

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