連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第98回

2022/06/03

『sinfonia』 溝口肇

~この立体的な音像を、オーディオ製品開発のリファレンス音源に!~

■ オーディオの未来は明るい!

私がオーディオ業界で仕事を始めたのは1998年。現在のオーディオ界を見回すと、私たちが思い描いていた未来とは随分と異なったパラレルワールドにやってきてしまったようです。業界最大手クラスのブランド名が消えていくとは、当時の活気からは予想もしていなかった出来事。毎年のように機器の新製品が発売され、誌面のオーディオ賞レースが賑わい、それが販売店の売上に直結していく。こんなオーディオ方程式も、今後は成り立たなくなっていくのでしょうか? 企業広告が減れば、オーディオ専門誌の存続も危ぶまれる状況です。

しかし、明るいニュースに意識的に目を向ければ、オーディオ界にも良いニュースがたくさんあります。海外オーディオ市場が身近になったのも、そのひとつ。私の会社で開発しているオーディオ・アクセサリー製品たちが、海外のオーディオ好きから高く評価される。いわゆる製品の輸出です。1998年のデビュー当時は、製品の輸出なんて考えてもいませんでした。私の会社では輸出の割合はまだまだ微々たるものですが、輸出に成功して大きく成功したオーディオ企業がたくさん存在していると業界のウワサを耳にします。インターネットで、海外との情報の距離が格段に近くなった福音と言えるでしょう。

そして手前味噌ながら、私の会社では1998年の創業から25周年イヤーに向け、画期的なオーディオ・アクセサリー製品たちの開発に次々と成功しております。当時では想像もしていなかったサウンドが聴けるのですから、そういった意味では予想を超えるオーディオの未来がやってきました。

オーディオのイベントも変わりました。椅子を並べて一緒にスピーカーから流れる音楽を大音量で聴く。このような形態のオーディオ・イベントを私は得意としてきましたが、もう何年もご無沙汰しています。時代も変わりましたし、今ならマスク着用で試聴することになるのでしょうか? 大人数でマスク着用となると、吸音による音質変化も無視できません。

新たなオーディオ・イベントの形を模索して初めてみたのが、インターネットを使ったライブ配信イベント。最初はまともな機材も無くひどい音質と画質でのスタートで、初回はお叱りのコメントもいただきました。今では比較試聴が行えるレベルの音質でお届けできるようになり、楽しい配信イベントを隔週で開催できております。何よりの成果は、隔週で音の発表ができるようになったこと。毎回驚いてほしいという欲求が生まれたことから、製品開発に大きく拍車がかかる結果となりました。

破壊と創造による大きな地殻変動を経て、オーディオ界は変わろうとしています。ニュースは明暗の影側に着目しがちですが、新しい芽吹きは必ず存在します。私はオーディオ界変革の渦中にいるからこそ、“オーディオの未来は明るい!” と叫ばずにはおれません。


■ 大人の本気を感じた、溝口肇氏の新譜!

私は、これからのオーディオ界の発展には、新しいリファレンス音源が必須だと考えています。過去の名盤たちを掘り下げて聴いていくのもオーディオの醍醐味。しかし、オーディオが音楽のタイムマシンとするならば、旅に出るのは過去だけではなく、未来の音の世界にも行けるはずです。

そんな未来の高音質音源候補を探していたのですが、やっと出会えました。これからのオーディオのリファレンス音源と成り得る最有力候補ではないでしょうか。

 

本作はCD、ハイレゾ、そしてレコードの3規格で発売された新譜です。溝口氏いわく 「CDともLPレコードも当たり前ですが音が違います」 とのことで、「メディアによりそれぞれ良いところはある」 としながら、中でもハイレゾ音源を 「個人的にはこれが最終的な美しい音と思います」 と高く評価されているようです。ハイレゾ音源レビューを執筆する私としては、このお言葉は心強い。

溝口氏のチェロとオーケストラ・アンサンブル金沢の共演。石川県立音楽堂でのホール録音。エンジニアは名匠 鈴木浩二氏を起用。ドラム:大阪昌彦氏、ピアノ:松本圭司氏、フリューゲルホーン:市原ひかり氏、指揮:永峰大輔氏。このクレジットだけでも、本作の凄みが想像できます。

実際に聴くと、その音の手触りは想像以上。やはり大勢の人数がせーので奏でた音楽には大いなる魅力があります。合奏というワードを久しぶりに大盛りで味わえる音の洪水です。

音楽が広がっていくホール空間を、そのまま音の記憶として保存されているような印象。そこには記録した人の技術が多く集約されているはずですが、小手先の意思が全く感じられない。いわゆる、ちょっと高域を上げてハイレゾっぽくしようとか、コンプレッサーで迫力を加えてみようといった、そういう後付の意思を我々リスナー側は感じたくないものです。ただただ、音楽と触れ合える瞬間という音の手触りは、最新のデジタル録音である本作ながら、不思議と1970年代の音楽制作と同じ匂いを感じることができました。

とはいえ古臭い音というわけではありません。全ての楽器が奏でる音の隅々まで見渡せる超解像度は現代録音の賜物。それでいて刺々しさはなく、やわらかな音楽。録音やマスタリングだけでなく、演奏やホール、いやその先の個々の楽器たち、演奏者の鍛錬、そして作曲されたスコアまでが、この暖かいサウンドの源なのでしょう。

早速、本作をオーディオ製品開発のリファレンス音源として活用しています。平面的な音が360度方向へ解き放たれる音像へと向上する瞬間は、まさにオーディオの快感。本作にそういった音が記録されているからこそ引き出せるサウンドなのです。応えてくれる音源は稀有な存在であり、今後のオーディオ製品開発に大いに活躍してくれそうです。

以前のように、皆さんと一緒の会場でスピーカーで聴くようなオーディオ・イベントが開催できたら、一番に本作を鳴らして驚かせたい。音楽的な魅力はもちろんのこと、音質的にも最高峰な本作。オーディオのリファレンス音源として、この 『sinfonia』 を自慢のシステムで鳴らしてみてください。 




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筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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