麻倉怜士の「e-onkyo musicベストテン」 2021年版

2021/12/28

ASCII.jpに掲載中の人気連載「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」と、ミュージック・バードにて放送中の同名番組は、オーディオ&ヴィジュアル評論家、麻倉怜士氏がe-onkyo musicにて配信中のハイレゾ音源の中より、ぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”をおすすめ度に応じて「特薦」「推薦」として紹介するコーナー。優秀録音をまとめていますので、ハイレゾ初心者から上級者まで幅広くお楽しみいただけるコーナーです。こちらでは、2021年の締めくくりとして「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」にて今年一年間に紹介された作品の中より、年間ベストを選出。


 アスキー.JPとミュージック・バードの「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」では、毎月たくさんのe-onkyo music新譜から10タイトルを選び、その月の特撰タイトルと推薦タイトルを選定している。そこで選定した120タイトルの中から、年末企画として、さらに年間ベストテンを選んだ。今年の最高のハイレゾをぜひ、聴いてみよう。ここでのベストテン音源はミュージックバードの「麻倉怜士の今月の感動ソフト」の1月度放送(2日、9日、16日、23日、30日)で、聴くことができる。


麻倉怜士




★第10位★

The Nightfly: Live』/Donald Fagen


 スティーリー・ダン(Steely Dan)の『Northeast Corridor: Steely Dan Live!』と同時発表の傑作ハイレゾ。「1.I.G.Y.[Live From The Beacon Theatre]」は、天下のリファレンス音源としてまさにミミタコになるまで聴き込んだ楽曲。それがライブで聴けるなんて。あの超オーディオ的なハイフィディリティはライブでは不可能と事前に思っていたが、びっくり。楽器編成もコーラス編成も編曲もレコードとまったく同じではないか。
 音楽的な同一性だけでなく、音質も格段によい。ブラスの質感、オルガンの音色、ドラムのキレ、そしてドナルド・フェイゲンの渋い歌声……が、レコードと同じく、実にクリヤーで抜けよく聴けるのである。びっくり。「6.The Nightfly[Live From The Beacon Theatre]」は、ねちっこいヴォーカルと、対照的なドラムスのキレ味が同時に楽しめる。




★第9位★

Chopin: Complete Nocturnes
Jan Lisiecki


 ヤン・リシエツキ(JAN LISIECKI)は1995年、カナダのカルガリーでポーランド人の両親のもとに誕生、わずか9歳でオーケストラ・デビューしたという逸話の持ち主。以後、世界各地の有名オーケストラとの共演、室内楽、リサイタル活動にて、主要なコンクール入賞履歴なしに、いまや世界的なスターピアニストになった。本欄でも多くのハイレゾ作品を紹介している。そのひとつ、アントニオ・パッパーノ指揮のサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団と協演したシューマン:ピアノ協奏曲イ短調は軽妙、明瞭、歯切れが鮮鋭だった。感情と元気が横溢した若若しい表現であった。

 本ショパンも「あふれるリリシズム。 ショパンの孤高の魂を奏でる、リシエツキのノクターン!」とメーカー資料にあるように、刮目だ。これほど感情豊かで、ニュアンス豊か、心に突き刺さるようなノクターンが聴けるとは。悠然としたテンポにて、音符のひとつひとつ、些細なアーティキュレーションに魂が籠もり、ロマンの香りがリスニングルーム全体に拡散する。それは、ヤン・リシエツキのピアニズムに加え、響きの美しさを持つピアノ音も大きく効いている。かなりホールトーンを潤沢に取り込んでいる。直接音に比べると明らかに間接音が多いが、でも、トータルの美しさは格別だ。ショパンの世界観にふさわしい美的な響きといえよう。2020年10月、ベルリン、マイスターザールでセッション録音。




★第8位★

ファースト・フライト・トゥ・トーキョー~ザ・ロスト1961レコーディングス
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ


 第一級の音源が発掘された。アート・ブレイキーとザ・ジャズ・メッセンジャーズが1961年、初来日した時のステージの模様を収録したテープだ。来日ツアーを記録したドキュメンタリー映画『黒いさくれつ』用に記録されたもの。権利の問題で映画がお蔵入りになり、フィルムは破棄され、マスターテープの所在も長らく不明だった。2017年、映画スタッフの遺品からそのテープが発見され、Blue Note Recordsの手によって、リマスター&ハイレゾ化された。この1961年1月の日比谷公会堂でのライブは日本にジャズブームを巻き起こした歴史的公演だった。当時、蕎麦屋の出前持ちが「モーニン」を口笛で吹きながら自転車を漕いでいたという、仰天エピソードが語られている。

 ボビー・ティモンズ(p) のピアノから入り、リー・モーガン(tp) ウェイン・ショーター(ts) の合奏とソロが続く「2.モーニン」は、もの凄い迫力。音がぶっとい。 計り知れないエネルギーを持ち、文字通り、炸裂(爆裂か)する。レコード、CD、ハイレゾで長く馴染み、NHK教育テレビ「美の壺」のテーマとしても有名な曲だが、ライブは、整ったスタジオ収録とはまるで違う、野性的、原色的、そしてハイコントラストだ。発掘音源には、ライブはこんなに凄い演奏、録音だったのだと、初めて堪能する楽しみがある。
 ボビー・ティモンズのピアノソロは一音一音の造形が明瞭で、その内実も音の粒子がぎっしりと詰まっている緻密なタッチだ。ジミー・メリット(b)もスケールの大きな、ど迫力の低音だ。 日比谷公会堂の聴衆も名演奏に大喜びの様子が、拍手と歓声でリアルに伝わってくる。会場のドライなソノリティも、音源の明瞭度に貢献している。1961年1月14日、東京・日比谷公会堂で録音。




★第7位★

Listen to Me -1991.7.27-28 幕張メッセ Live
<2021 Lacquer Master Sound>
中森明菜


 画期的な手法で、リマスタリングされたハイレゾだ。CD音源からアップコンバートする場合の帯域拡張には、これまでさまざまな手法が開発されたが、その手があったか!と、驚いたのが、ミキサーズ・ラボが開発した「ラッカー・マスター・サウンド」だ。CD音源をD/1してラッカー盤を切り、それをカートリッジで再生、A/Dしてハイレゾファイルを作るというもの。44.1kHz/16bitからA/Dしてレコードをつくるという手法はごく当たり前だが、その先に、再生してハイレゾにするというアイデアはなかなか思いつかない。

 デジタル音源をオープンリールテープレコーダーでアナログ録音、再生しADするという手法は業界では知られているが、まさかラッカー盤(レコード制作での原盤)でそれをやるとはとの驚きだ。テープの場合は同一機器での録音ヘットと再生ヘッドだから、音質的な同一性は保たれているが、「ラッカー・マスター・サウンド」の場合は、カッターヘッドとは別のカートリッジで再生するので、その点はどうかと思われるが、e-onkyo musicの特設ページでのインタビューでは、複数のカートリッジで再生して、もっともふさわしいものを選んだということだ。
 それにしても、なぜラッカー盤に目をつけたか。特設ページによると、①ラッカー盤は飛び抜けてS/Nが良く、位相もいい、②新マスターとしての意義---が、その理由だ。この手法でDXDやDSDD11.2MHzにてデジタルアーカイブを作っておけば、後に多彩に活用できる。「ラッカー・マスター・サウンド」の音はインプレッションで述べるように、まことに刮目なのだが、その理由のひとつに「倍音が増える」ことが、インタビューで述べられている。
 「マスターがCDスペックのものも、ラッカー盤にカットすると、40kHzくらいまで帯域が伸びるんです。元は20kHzで切れているのに、スーッと伸びてくる。『96kHzで録ったの?』」って思うくらいの波形になるんです。これもラッカーマスターサウンドをやりたいと思った理由の一つでした。ミックスを変えたわけでもないのに、非常に深みのある音に生まれ変わる」(ミキサーズラボ副会長・菊地功氏)。なぜという理由は、正確にはわからないようだ。

 ラッカーマスターサウンドの第1弾は中森明菜の「isten to Me -1991.7.27-28 幕張メッセ Live<2021年30周年リマスター>」。44.1kHz/16bitのCD音源と、ラッカーマスターサウンドでアップコンバートされた96kHz/24bitを比較した。「スローモーション」のCDははっきり、くっきりで、音像が大きい。ヴォーカル、ベース、ドラムス、キーボードの全部が主張するよう。すべての音が前に出てくる。高域が硬く、音の粒が粗い。その分、迫力がある。
 ラッカーマスターサウンドの96kHz/24bitはまったく違う。質感が圧倒的に良い。ヴォーカルが丁寧で、粒子が細かくなつた。ヴォーカルや楽器のバランスが整い、前にせり出すことがなく、舞台にフラットに横に並ぶ。音色も端正でアナログ的なすべらかさも感じられる。

  「セカンド・ラブ」はどうか。CDは派手で前にどんどん出てくる。ヴォーカル音像がきわめて大きいし、ベースも大きく、粒子が粗い。迫力は充分すぎるほと。シンセ、ドラムス、ベースの楽器がせり出す。バランス的には、要素が全員自己主張しているようで、まとまりがいまひとつ。96kHz/24bitは楽器とヴォーカルのバランスが格段によく、ヴォーカルにもしっとりした歌心が強く感じられる。ヴォーカルをバンドが支える構図になった。
 音色も滑らかさ、すべらかさ、粒子の細かさ……など、まったく違う。ステージからの距離も感じられる。ヒューマンな人肌感覚が耳に心地よい。「ラッカーマスターサウンド」は実に効果的なデジタル/アナログ手法といえよう。




★第6位★

Bruckner: Symphony No. 7
Sergiu CelibidacheMünchner Philharmoniker


 セルジュ・チェリビダッケとその手兵、ミュンヘン・フィルによる巨大なブルックナー。はじめて東京で演奏したのが86年、以降93年までに4度の来日。本作はその90年の2度目の来日ツアーの際に、東京・サントリーホールで行われた演奏会のライヴ録音である。

 冒頭のヴァイオリンのトレモロ、次のチェロの悠然たるホ長調の上昇旋律を一聴するだけで、チェリビダッケ/ミュンヘンフィルの世界遺産的演奏の凄さがすぐに識れる。かつて追われたベルリン・フィルを94年に再度、指揮したブルックナー7番の映像を観たが、このトレモロだけで長時間、繰り返して練習するので、楽団員がげんなりしていた。チェリビダッケの理想を体現したミュンヘンフィルだから、この雄暉なブルックナーが実現した。トレモロ演奏に関して、その本質を活写したのが、「評伝 チェリビダッケ」。クラウス ヴァイラー著、相沢啓一翻訳)」だ。引用させてもらおう。 「ブルックナーの第7番という作品は、ホ長調という調性にも関わらず、暗影な音の集積に貫かれており、ブルックナーは静かに、とても厳かに、またとてもゆっくりと音楽しつくすよう指示しているが、この指示をチェリビダッケのように真摯に守った指揮者はこれまで他にはいない。そして、そのような音楽的耐久試練は、チェリビダッケの天国的長さに一糸乱れず、つき従うミュンヘンフィルだけがなし得るものであり、それは決して曲の構成を解体することなく、まさに肉体的に経験し得る音楽的緊張をこそ生み出すのである」。そうなのである。悠々たるテンポこそ、チェリビダッケの本質であり、このテンポにして、この内実の緻密さ、偉容さこそ、感動の源だ。

 演奏ばかりか、音も実に素晴らしい。とても40年前のライブ録音とは思えない、高音質。ホールトーンは少なく、オーケストラの音がダイレクトに収録され、各楽器パートの質感がとてもよい。金管の鋭い音の新鮮さにも驚く。奥行きも深い。ソノリティ表現に優れるDSDでリマスターされたのも、本公演のライブ感をさらに昂揚させている要因だろう。1990年10月18日、サントリーホールで録音。




★第5位★

ティル・ウィー・ミート・アゲイン ~ベスト・ライヴ・ヒット[Live]
ノラ・ジョーンズ


 ノラ・ジョーンズの初のライヴ盤、そしてベスト盤だ。2017年から2019年の間、アメリカ、フランス、イタリア、ブラジル、アルゼンチンなどの各地のライブ録音から、特に「お気に入り」を集めたアルバム。日本での配信では2017年に行った来日ツアーで披露された「サンライズ」がボーナス・トラックに入っている。「1.コールド・コールド・ハート」はハンク・ウィリアムズの有名なカントリー曲。ノラ・ジョーンズは、ソウルフルな歌唱にて、心の底からの叫びを発する。ライブだが、ヴォーカルもバックのバンドも音が太く、剛性が高い。「2.イット・ワズ・ユー」は低音感が強く、ピラミッド的な安定的な音調だ。ノラのドスの効いたパワフルなヴォーカルが、スピーカーから飛び出す。「13. ドント・ノー・ホワイ」は、溜をたっぷり効かせた名唱。レコードとは違うソウルフルで粘っこい歌唱が心に染みる。ノラ・ジョーンズのピアノが、厚いバンドサウンドの中で、ブリリアントに輝く。世界各地でのライブを収録しているが、総じて録音のクオリティは高く、低音からしっかりと支えるピラミッド的な音調だ。




★第4位★

Schubert: Symphony No. 7 "Unfinished"
& Franz Schuberts Begräbniß-Feyer, Roland Moser: Echoraum
Kammerorchester BaselHeinz Holliger


 オーボエの巨匠ハインツ・ホリガーとバーゼル室内管による「シューベルト:交響曲全集」の完結編。 バーゼル室内管弦楽団の演奏だが音楽的には、これはもはや「室内」という範疇のものではなく、ひじょうにスケールが大きく、歌いのダイナミックレンジも大きい。「未完成」という人口に膾炙し、クラシック入門的なピースから、これまで聴いたことのないような峻厳さ、精神性の高さが聴けるのは、まさに「ハインツ・ホリガー体験」」というより他に言葉はない。
 ホリガーは、シューベルトの交響曲の特質について「マーラーと同じで、可愛らしい響きや、ウィーンの酒場でワインを飲み明かすような世俗性が、一瞬にして恐ろしい死の淵をのぞかせる音楽。明るい色彩感は常に暗闇や深淵と隣り合っている」と指摘し、本演奏の方向性を述べている。。第1楽章の7分からの展開部はテンポの遅さ、抑揚の大きさ、ティンパニの豪打、トランペットの咆吼……はまさにデモニッシュとも形容できる。実に厳しい「未完成」だ。
 音質も素晴らしい。オーケストラのすみずみまで、音楽的なカクテル光線が照射され、音の立ちが新鮮で、各プルト、楽器の解像度が格段に高い2020年8月21~28日、スイス、バーゼル、ドン・ボスコ教会で録音。




★第3位★

Headphone Concert 2021』/藤田恵美


 「コンサートをスタジオ録音と同等の音質で録音したい」という、レコーディング・エンジニア、阿部哲也氏の長年の思いから生まれた「ヘッドフォンコンサート」のライブ収録だ。2021年2月18日、19日横浜市サンハートホールにて、4公演各40名を招待して行われた。通常のPAを使わず、スタジオ用のレコーディング機材で録音。リスナーにはヘッドホンで、2ミックスを(モニター用の2チャンネル音声)届ける。スタジオ録音の完成度と、ライブのエモーションのどちらも狙う、スペシャルなレコーディングだ。参加したアコーディオン奏者の宇戸俊秀氏は、e-onkyo musicの特設ページでこう述べている。

 「僕も途中経過を聴かせてもらって、スタジオで録ったような音だと感じました。アンビエンスの部分には“ライブ”の感じもあるんだけど、全体的なクオリティはスタジオの音になっているので、これはすごいなと思いました。聴いていて心地よくて、楽器同士のバランスや恵美ちゃんの歌とのバランスとかも含めて、すごくいいなぁと思いました」
 「1.パレード」は実に生々しく、ヴォーカルが立つ、コーラスとの合唱感もいい。音像的にはヴォーカルだけでなく、バックのピアノ、トロンボーン、ドラムス、ベースも明瞭に収録されているが、特にヴォーカル音調の緻密さ、粒子の細かさ、カラフルさは刮目だ。TELEFUNKEN U47 Tubeのビンテージマイクの味もいい。オリジナルの「13.ひだまりの詩」も、新鮮に聴けた。新しい制作手法は藤田恵美の新境地を拓いた。




★第2位★

11月の夜想曲』/新倉瞳


 チェリスト新倉瞳の委嘱により作曲されたファジル・サイ、藤倉 大、挾間美帆、佐藤芳明、和田 薫のチェロ作品の初演ライブ。チェロには、これほどの音の可能性があったのかが、DSD11.2MHzのPYRAMIX録音で識れる。
 「11月の夜想曲 ~ チェロと管弦楽のための」はファジル・サイによると、「11月のトルコはイスタンブールの印象であり、秋の夜を想起させるものだ。霧が深く雨の降りしきるイスタンブールの暗い11月の夜道」という。まるでもののけが都会の街角に突然現れるような、エスニックな不気味さが。いわゆるチェロ協奏曲ではなく、チェロとオケが対等な立場でインターアクションする、自由なラプソディだ。それはまるでタペストリーのような有機的な対話だ。「3.第3楽章 夜歩きの夜想曲」は複雑な思いが重畳するような彷徨の記。「4.第4楽章 心象の夜想曲」では、離散的な木管、金管と断片的なチェロの対話の絡み合いが感興的。

 録音は極上。チェロも背後のオーケストラ(東京交響楽団)も、ひじょうに細部まで解像し、オペラシティの豊かなソノリティも加わり、ゴージャスな臨場感だ。オーケストラの奥行きが見事に描かれ、遠方の楽器であっても、透明感な空気を突き抜け、明瞭に聴ける。チェロはセンターに大きく立体的な音像を持ち、ボディから、さまざまな音色と質感が飛び出てくる。ストレートな音の鳴りに加え、音のデフォルメもあり、叩きもある。それら多数の要素が混ざり合って「チェロの音」を形成していることが、こと細かに聴き取れる。

 「6.藤倉 大:スパークラー ~ チェロのための」は独奏作品。「不良っぽいイメージ」と作曲者の藤倉 大は説明しているが、打楽器のような、撥音楽器のような硬質な音色のディテールが生々しい。冒頭の低音から高音までの周波数レンジの広大さの体感は、まさにDSD11.2MHz録音の威力だ。フィナーレでは倍音を生かした、雅楽の管楽器、笙(しょう)のような音色がチェロで奏されるのも面白い。「13.和田 薫:巫 ~ チェロと和太鼓のための」。林 英哲の太鼓は、地を這い、その低周波の振動がリスニングルームで体感できる。
 作曲者、演奏家、そして録音技師のこだわりが集積された傑作だ。2020年3月東京オペラシティ、2021年1月ハクジュホールでライブレコーディング。




★第1位★

Let It Be[Super Deluxe]
The Beatles


 ビートルズ作品のリミックスとハイレゾ化のプロジェクト、「50周年記念エディション・アニバーサリーシリーズ」は2017年の 「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」から始まり、2018年は「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」、2019年は「アビイ・ロード」、2020年がなく、2021年にはいよいよ「Let It Be」に来た。
 2022年10月はビートルズ・デビュー60周年。そこで、期待したいのが「60周年記念エディション」。初LPの「プリーズ・プリーズ・ミー」 (1963年)、「ウィズ・ザ・ビートルズ 」(1963年)、「ハード・デイズ・ナイト」 (1964年)、「ビートルズ・フォー・セール」 (1964年)……と続く怒濤の初期60年代の名盤のリマスター、ハイレゾ、イマーシブサラウンド、リハーサル音源……を、ぜひ新規に制作して欲しいものだ。

 これまでの「50周年記念エディション」はジョージ・マーティンの子息のジャイルズ・マーティンとアビー・ロード・スタジオのエンジニアのサム・オケルのコンビで、「ニュー・ステレオ・ミックス」されている。本アルバムも同様だ。ここには57曲もの、オリジナル、アウトテイク、シングル版、ミックス違いの楽曲が収録されているが、ここではタイトルチューンの「Let It Be」を比較してみよう。
 本アルバムには①フィル・スペクターがミックスを行った公式リリース版『レット・イット・ビー』(1970)をリミックス、②同、シングルバージョン、③1969年にエンジニアのグリン・ジョンズによって制作された未発表の「ゲット・バックLP」ミックス が収録されている。

①「6.Let It Be[2021 Mix]」。
 2009年に発表された44.1kHz/24bitのリマスター版と比較すると、ピアノのアクセントが強調され、倍音的に急に盛りあがる。ヴォーカルも伸びがクリヤーで、ボディ感が太い。輪郭もくっきりする。中音に艶が加わり、コーラスは距離感が感じる。ベースが雄大に、オルガンの存在感が増し、ギターのファズがより強調される。フィナーレの盛り上がりは、ブラスとバンドの相乗効果でたいへん煌びやかで、華やか。

②「57.Let It Be[Single Version / 2021 Mix]」
 アルバムに比べピアノは太く、よりくっきりし、ヴォーカルのボディも太く、輪郭も太い。強調感がとても強い。コーラスもたいへん明瞭、ドラムも明瞭……すべてを強調している。典型的なシングル用の音作りだ。ソロのギターはもちろん、ビリープレストンのオルガンの刻みもよりはっきりと。ジョージのソロの旋律は、ペンタトーン音階(ヨナ抜き)は同じだが、旋律は違う。ヴォーカルは最初は明瞭で、最後にはリバーブがものすごく深い。

③「51.Let It Be[1969 Glyn Johns Mix]」
 1969年にエンジニアのグリン・ジョンズによって制作された未発表の「ゲット・バックLP」ミックス 。ビートルズのメンバーからこれはダメだとNGを出されたもの。強調感がなく、細身のピアノ。ヴォーカルはものすごくリバーブが多い。でもサウンド自体は素直。音像は細く、バンドに溶け込んでいる。コーラスがオンマイクで、ベースがひじょうに弱い。オルガンが左チャンネルで目立つ。ソロはシングルバージョンと同じ旋律。




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