【第5弾】民族音楽シリーズ「THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY」 ナビゲーター:サラーム海上

2021/11/24

キングレコードが誇る、伝説のワールド・ミュージック・コンピレーションシリーズ「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」。アジアの各地域をはじめ、中南米、アフリカ、ヨーロッパなど世界中のあらゆる国や地域の音楽を網羅、学術的観点からも非常に貴重な音源も数多く収録した同シリーズを一挙ハイレゾ配信。全150タイトルを5か月に渡り順次配信してまいります。e-onkyo musicでは、このカタログ一挙配信を記念して、音楽評論家、そして中東料理研究家としても知られるサラーム海上氏をナビゲーターに迎え、5か月の連載形式で「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」をご紹介。その国や地域の音楽についてのお話や、特におすすめのアルバムをピックアップしてご紹介いたします。

第5弾となる今回は、北米、メキシコ、キューバ、ボリビアなどアメリカ大陸の音楽から12作品をご紹介。


【バックナンバー】
第1弾(7/28更新):ヨーロッパ、アフリカ、西アジア、中央アジア一覧ページ
第2弾(8/25更新):インド、パキスタン一覧ページ
第3弾(9/29更新):タイ、ジャワ、ベトナム、バリ他、東南アジア一覧ページ
第4弾(10/27更新):日本、中国、韓国、モンゴル、チベット一覧ページ
第5弾(11/24更新):アメリカ大陸一覧ページ



ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー
 第5弾 13タイトル アメリカ大陸 一覧ページ⇒



5ヶ月にわたって連載してきたキングレコード「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」全150タイトル、ハイレゾ配信記念特集も今回が最後。
ヨーロッパ、アフリカ、西アジアから始まった音の世界旅行は、中央アジア、南アジア、東南アジア、東アジアを経て、第5弾配信のアメリカ大陸で終わりを迎える。ここで改めてシリーズを振り返ろう。

まず1960~70年代に民族音楽学者の小泉文夫氏が現地に赴き、カセットテープでフィールド録音した音源を元にした最初期の作品群は「日本には全く知られてない民族音楽、この先失われてしまうだろう伝統音楽を少しでも多く収集し、記録しよう」という民族音楽学者らしい意図が働いている。
例えば「北米イヌイットの歌」には非プロフェッショナルの歌い手によるわらべうたや無伴奏のワーク・ソングなどが全42曲も収録されている。また「エチオピアの音楽」には、前半は一曲2~3分ほどの吟遊詩人の歌が並び、後半は25分を超える宗教儀式の実況録音が収録されている。資料としては価値が高いが、音楽としてはあまり楽しめないものも多少は含まれている。


1995年9月キングレコード第一スタジオにて、ボリビアのグルーポ・アイマラの録音風景。
極端に長いサンポーニャが特徴的


その後、1980年代に高浪初郎氏(前回記事参照)がレコーディングエンジニアを務めるようになると、「音楽的、芸術的に美しく優れた民族音楽を日本のレコード会社の意地をかけて最新最良のレコーディングテクニックを用いて録音する」という方向にシフトした。全150タイトル中、110タイトル以上はこのコンセプトの元に作られている。この時期の作品の多くは古くなることなく、今なお音楽的な発見がある。それは不思議なことに、日本経済が最高潮だった時代と偶然にも重なっている。キングレコードのプロデューサー松下久昭氏に当時のことを尋ねたところ、「レコードからCDに変わった時代で、何を出しても売れまくった時代だったんです」とのことだった。


1994年8月キングレコード第一スタジオにて、ブルンジのザ・ルキンゾ・レガシーによる録音風景


高浪氏が定年退職された後、1997年以降の作品は、音楽プロデューサーの巻上公一氏や久保田麻琴氏による持ち込み企画、またベトナムや中国研究の民俗学者によるフィールド録音音源、更にアリオン財団が毎年夏に開催していた「東京の夏音楽祭」でのライブ録音など、一貫性はないものの「多様性の21世紀」に目を向けた幅広さが加わった。
そして前回も記したが、このシリーズはキングレコードの担当プロデューサーだった井上剛氏の早逝により、その後、引き継がれることなく2011年に止まってしまった。ご存知のとおり、2010年代は定額配信サービスやYouTubeなどの台頭により、CDの売上が激減した時代である。現状を鑑みると、この先シリーズが再開し、新たな作品が次々と発表されることは期待できないだろう。

そして、多くの作品が1980~90年代の録音のため、演奏家の多くも既に亡くなってしまい、一部の音楽はこの世界から失われた。また新たな世代の演奏家たちにより音楽自体が変容してしまったものも少なくない。
だからと言って、このシリーズの価値が下がることは一切ない。


1996年6月ベトナム現地録音旅行の食事の席。右のサングラスをかけているのが高浪初郎氏。
左隣はキングレコードのプロデューサー故・井上剛氏。左で背を向けているのは外部プロデューサーの故・星川京児氏


僕は今回のハイレゾ化配信がコロナ禍に重なったのも何かの意味があると思っている。海外旅行に出られないだけでなく、親しい友人や家族に会うことすら制限されたこの一年半。僕はハイレゾ対応に買い直した自宅オーディオで、このシリーズのインド古典音楽作品を聴き、悠久の時に何度も思いを馳せた。また東京五輪とともにコロナ第5波が来襲したこの夏には、ハイレゾ化されたジャワのガムランやバリのジェゴッグを聴いて、蒸し暑く、息の詰まる日常から何度も逃避した。コロナ禍によって、世界的にアナログ盤の売上が急増したことが度々ニュースとなっているが、このシリーズもアナログ盤と同様に、見えないところで人の心を癒やしているのだろう。


今回のハイレゾ化作業を行ったキングレコード関口台スタジオにて
サウンドエンジニアの矢内康公氏、プロデューサーの松下久昭氏、筆者


そして、そのコロナもついに終わりが見えてきた。僕は10月下旬、実に1年7ヶ月ぶりに海外出張を敢行した。ポルトガルの古都ポルトで二年ぶりに開催された(昨年はオンライン開催のみ)ワールドミュージックの国際見本市WOMEXを訪れたのだ。ワクチンパスポートやPCR検査に基づく厳密な管理を行った上で、5日間で世界百数カ国から約2,600人の音楽関係者が集まった。僕は昼間はトレードフェアで業界の古い友人知人たちと再会を祝い、夜はポルト市内の歴史ある劇場をハシゴして、最新のワールドミュージックのアーティスト30組以上のライブを堪能した。ガーナ北部の少数民族フラフラ人のキリスト教ゴスペルやポルトガル各地の伝統音楽、ウガンダの巨大木琴など、このシリーズが今も続いていたなら、ぜひ収録して欲しいような音にも多く出会った。


2021年10月にポルトガルのポルトで開催されたワールドミュージックのエキスポ「WOMEX」にて。
本年のWOMEXアーティスト賞はトルコのクルド人歌手アイヌールが受賞した


トルコ・イスタンブル新市街の裏通りには民謡酒場にあたるTurk Eviが点在し、吟遊詩人アーシュクたちの歌が聴ける。
沖縄の民謡酒場とそっくり


トルコ・イスタンブルの新市街ガラタ地区にある古楽器博物館では観光客向けに
メヴレヴィー教団の旋回舞踊セマーの公演が行われ、観光の目玉となっている


11月中旬現在、ヨーロッパはコロナの新たな波に襲われている。オランダは再びロックダウンを行うことを発表した。しかし、EU内のワクチン接種率は日本と同等、もしくはそれ以上に高く、一方ではこの一年半に培われたコロナ対策を徹底しながら、国際的な観光が既に再開している。そして、ワールドミュージックのライブ・サーキットも既に動き出している。来年以降、日本でも世界各地のアーティストたちの来日公演が再開することは間違いない。


インド・グジャラート州のアーメダバードにある音楽大学で毎年1月上旬に開催されるSaptak Festivalにて。
右はサントゥール奏者シブクマール・シャルマー、左はタブラ奏者ザキール・フセイン(ザーキル・フサイン)


インド・ラージャスターン州の砂漠の城塞都市ジャイサルメールで開催されるDesert Festivalでは、
風光明媚な城下町でラージャスターン州の道の楽師たちランガやマンガニヤールの演奏がたっぷり聴ける


最後にアフターコロナの時代に向けて、このシリーズで取り上げた音楽の演奏を生で体験するために、僕がこれまでに訪れた国々の中から、気軽に訪れられる世界各国の音楽フェスティバルや音楽が聞ける場所を紹介しよう。本年はコロナ禍により休止しているところが多いが、来年以降再開したら、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう? このシリーズで聴き馴染んだ音楽を、より一層親しみをもって聴くことが出来るようになるだろう。 


*モロッコ・フェズ The Festival of World Sacred Music 毎年6月中旬
モロッコ/アラブアンダルスの歌
エジプトの古典音楽と近代歌謡
その他、世界各国のスーフィー系宗教音楽

*インドネシア・バリ島 通年
スアール・アグンのジェゴッグ
バリ/グヌン・サリのゴン・クビャール
バリ/グヌン・ジャティのスマル・プグリンガン
バリ/ボナのケチャ
その他、バリ島の音楽

*インド・チェンナイ Chennai December Season 毎年12月下旬
南インドのヴィーナ~チッティ・バーブ
南インドのチトラヴィーナ
南インドのクラル/シャシャーンク
インドの古典パーカッション
南インドの法螺貝と寺院音楽
その他、南インド古典音楽

*インド・アーメダバード Saptak Festival 毎年1月上旬
インド/ハリプラサード・チャウラースィアーのバーンスリー
インド/シャヒード・パルヴェーズのシタール
インド古典パーカッション~ザキール・フセイン
その他、北インド古典音楽

*インド・デリー・ニザームウッディーン廟 毎週金曜
インドのカッワーリー

*インド・ジャイサルメール Jaisalmer Desert Festival 毎年2月中旬
ラージャスターンの放浪芸~ランガ&マンガニヤール

*中国雲南省麗江 雲南省大研納西古楽会 通年
中国/雲南の洞経音楽

*トルコ・イスタンブル古楽器博物館 通年
コーラン朗唱とスーフィーの音楽

*トルコ・イスタンブル軍事博物館 通年
トルコの軍楽

*トルコ・イスタンブル新市街ベイオウル地区 Turk Evi(民謡酒場)通年
トルコの民謡

*ポルトガル・リスボン WOMEX 2022 10月下旬
ありとあらゆるワールドミュージックが聴ける




レコーディング・エンジニア高浪初郎氏が手掛けたおすすめ作品(当時の資料から)



THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
パラグアイのアルパ~ロス・ドゥアルテ
』/Los Duarte

パラグアイのアルパ(ハープ)がギター、クアトロ(小型のギター)と演奏している。クラシックのハープよりやや小型でシンプル。中低域の弦の音は太く力強い。弾力性のある高音弦のハイエンドに注目。


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
ボリビア/アイマラのフォルクローレ~グルーポ・アイマラ

Grupo Aymara

ケーナや太鼓と合奏する長短10本の葦の筒と束ねた楽器、サンポーニャ。なかでもハチャ・ラキータはアイマラ族独特の太い筒で作られている。ハスキーで、腹の底から響く哀愁を帯びた低音が聴きどころ。1996年日本録音。




THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:ナイジェリアのトーキング・ドラム~ツインズ・セブン・セブン
ツインズ・セブン・セブン


なんといってもノリがごきげんだ。スピード感あふれるトーキングドラムの歯切れ良い立ち上がり。可憐な女声コーラスとパワフルな男性ソロヴォーカルとのリズミカルなかけ合い。お耳のストレス解消に。1989年日本録音。


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
ブルンジの太鼓~ザ・ルキンゾ・レガシー

ザ・ルキンゾ・レガシー

コンガのような縦長の太鼓を十数人の打ち手(ムティンボ)が踊り跳ねながら打つ。なかでも低音の太鼓はローエンドの限界だ。1994年日本録音。




THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:カザフの音楽
V.A.


スリムな形をした弦楽器ドンブラ。音はまろやかで温かい。レンジはさほど広くないが、聴き込むとハマリそうなサウンド。1991年日本録音。


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
インド/アーシシュ・カーンのサロード

Aashish KhanPranesh Khan松本 泉美寺原 太郎

サロードは硬い木をくり抜いて作った胴にスチール弦が張ってある。音は太く、打音はややシタールに似ているが、弦の余韻はまったく異なる。音程を微妙にグリッサンドするニュアンスの魅力と輝きを楽しみたい。1995年日本録音。




THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:韓国のパンソリと散調
V.A.


6弦の琴コムンゴ。弦の響きが太く柔らか。独特の発声により、全身から絞り出すような声のパンソリは圧巻。1995年日本録音。

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サラーム海上のおすすめ



THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
キューバのリズム=ソン~パンチョ・アマート

PANCHO AMAT Y SU CABILDO DEL SON


キューバ特有の複弦3コースのギター、トレスのベテラン奏者と彼の楽団による2008年キューバ録音。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブで有名になった古いキューバの流行歌「ソン」を12曲収録。ギターよりもギラギラしたトレスの音色がハイレゾ化でさらに艷やかに。


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
メキシコのマリンバ~マリンバ・ナンダヤパ

Marimba Nandayapa

アフリカ起源の木琴マリンバ。メキシコでは一台のマリンバを2人から4人が並んで演奏するのが特徴。鍵盤を5オクターブに増やし、大きな共鳴管を設けるなど、この楽器の現代化を進めたナンダヤパ一家の楽団。クリアな音像は演奏者の手の動きが見えるよう。1996年日本録音。




THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
アフロ・ブラジルの宗教儀礼カンドンブレ

Grupo Ase do Brasil


カンドンブレとはブラジルに奴隷として連れて来られた西アフリカ系黒人が自らの土着信仰をカトリックと混淆した新しい宗教。複数の太鼓と金属の鳴り物による強靱なリズムにのせて神々の名が唱えられ、参加者の精神を浄化する。目の前で打ち鳴らされているような太鼓の音像が見事。2003年日本ライブ録音。

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ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー
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■サラーム海上 プロフィール

 

 

サラーム海上 Salam Unagami

音楽評論家/DJ/中東料理研究家/朝日カルチャーセンター講師
中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。
10冊の著書、雑誌やWEBでの原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、料理教室講師等、活動は多岐にわたる。
選曲出演するJ-WAVE の中東音楽専門番組「Oriental Music Show」が2017年日本民間放送連盟賞ラジオエンターテインメント番組部門最優秀賞を受賞。
コミュニケーション言語は英語、フランス語、ヒンディー語、日本語。
群馬県高崎市出身、明治大学政経学部卒。

オフィシャルサイト

 

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