【11/4更新】 音楽ライター原典子の“だけじゃない”クラシック

2021/11/04

e-onkyo musicにてクラシック音楽を紹介する連載がスタート!その名も“だけじゃない“クラシック。本連載は、クラシック関連の執筆を中心に幅広く活躍する音楽ライターの原典子が、クラシック音楽に関する深い知識と審美眼で、毎月異なるテーマに沿った作品をご紹介するコーナー。注目の新譜や海外の動きなど最新のクラシック事情から、いま知っておきたいクラシックに関する注目キーワード、いま改めて聴きなおしたい過去の音源などを独自の観点でセレクト&ご紹介します。過去の定番作品“だけじゃない“クラシック音楽を是非お楽しみください。


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24bit衛星デジタル音楽放送MUSIC BIRD

【新番組】「ハイレゾ・クラシック」

■出演:原典子  ■初回放送:2021年4月2日(金) 
■放送時間:(金)14:00~16:00  再放送=(日)8:00~10:00
毎月ひとつのテーマをもとに、おすすめの高音質アルバムをお届け。
クラシック界の新しいムーヴメントや、音楽以外のカルチャーとのつながりなど、いつもとはちょっと違った角度からクラシックの楽しみ方をご提案していきます。出演は音楽ライターの原典子。
■番組HP→

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■❝だけじゃない❞ クラシック 11月のテーマ


ストラヴィンスキー没後50周年



2021年はイーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971年)の没後50年のアニヴァーサリー。中学生の頃はじめて《春の祭典》を聴いてクラシックに目覚めた私にとってストラヴィンスキーは特別な作曲家ということもあり、アニヴァーサリー・イヤーならではのコンサートや新譜リリースを楽しみにしていたのだが、コロナ禍に加え権利の関係もあるのか、期待していたほど盛り上がらなかったな……というのが正直な感想である。というわけで今月は、ささやかながらアニヴァーサリー特集を。

20世紀最大の作曲家のひとりに数えられるストラヴィンスキーは、生涯に約110曲の作品と、15曲の編曲を残した。そのときどきでカメレオンのごとくスタイルを変え、多彩な作風を見せたストラヴィンスキーだが、どの時代の作品もスタイリッシュで、クラシックを聴かない人の耳をも惹きつける魅力がある。

故郷ロシアからパリへ渡り、ディアギレフの主宰するロシア・バレエ団(バレエ・リュス)のために《火の鳥》《ペトルーシュカ》《春の祭典》といったバレエ音楽の傑作を書いた時代。スイスやフランスを転々としながら、ヨーロッパ音楽の古典に回帰することによって新たな普遍性、創造性を模索する作品を多く書いた「新古典主義」の時代。アメリカに渡り、敵対していたシェーンベルクの創案した12音技法を採用し、独自の工夫を加えて宗教的な主題を用いた作品に取り組んだ時代――。

《春の祭典》だけではない、ストラヴィンスキーのさまざまな顔を知っていただけるアルバムを、今年リリースされた新譜を中心にご紹介していきたい。


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ロシアン・アルバム
ルーカスアルトゥール・ユッセン(p)


オランダのピアノ・デュオ、ユッセン兄弟によるロシア音楽集で、ショスタコーヴィチ、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー、アレンスキーによる2台ピアノのための作品が収録されている。ストラヴィンスキーの《2台のピアノのための協奏曲》は、フランスの市民権を得た翌年の1935年に完成した。協奏曲といいながらも実際はピアノ二重奏曲で、プロのピアニストとして活動する息子のスーリマとのデュオを演奏旅行先で披露していたという。18世紀の音楽のような構成感を強く意識した新古典主義的な作品だが、熱気を孕んだリズムが鍵盤の上を駆け回るさまはモダンで痛快。



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20世紀傑作選4 ストラヴィンスキー:春の祭典
パーヴォ・ヤルヴィ指揮、NHK交響楽団


N響と首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィによるストラヴィンスキー・アルバム第2弾。《春の祭典》のほかに、師であるリムスキー=コルサコフの影響を受けながらも独自の個性を開花させたロシア時代の幻想曲《花火》、《幻想的スケルツォ》、《葬送の歌》、アメリカ時代にジャズ・バンド版を経てオーケストラ用に編曲された《ロシア風スケルツォ》が収録されている。これまでストラヴィンスキーに熱心に取り組んできたヤルヴィだけに、《春の祭典》ではN響からソリッドな響きとうねりを生み出している。



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ストラヴィンスキー:組曲《兵士の物語》、八重奏曲、結婚
ジョアン・ファレッタ指揮
ヴァージニア・アーツ・フェスティヴァル・チェンバー・プレイヤーズ ほか


《兵士の物語》が初演されたのは1918年。第一次世界大戦後で経済的に困窮していたストラヴィンスキーは、7人の小編成のアンサンブルで各地を巡業するためにこの作品を書いた。しかし、当時ヨーロッパで猛威を振るっていたスペイン風邪の影響で、その計画は頓挫する。ローザンヌで初演された直後、ストラヴィンスキー本人と家族、巡業を企画するエージェントまでスペイン風邪に感染してしまったのだ。コロナ禍と重なる状況だけに、当時を想像しながら聴くのもいいだろう。本来は小アンサンブルと朗読、ダンサーによって上演される舞台作品だが、このアルバムには音楽の部分だけを抜粋した組曲版が収録されている。



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【もっと聴きたい ストラヴィンスキー】




シルヴァー・エイジ
ダニール・トリフォノフ(p)
ワレリー・ゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団

ロシア文化において、19世紀末から1920年前後にかけての時期を「シルヴァー・エイジ(銀の時代)」と呼ぶことがあるが、その時代に頭角を現した3人の作曲家、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、スクリャービンの作品を収録したアルバム。難曲として知られるストラヴィンスキーの《ペトルーシュカから3楽章》、《火の鳥》からのピアノ編曲などでトリフォノフのピアニズムを堪能できる。


ストラヴィンスキー:交響曲ハ調、カンタータ
イーゴリ・ストラヴィンスキー指揮
クリーヴランド管弦楽団 ほか

ストラヴィンスキーみずからが指揮した自作自演の録音は、今もその価値を失っていない。《交響曲ハ調》はクリーヴランド管弦楽団を振った1952年12月の録音。カンタータの数々はニューヨーク・フィルハーモニック室内アンサンブルなどを振った1945年12月の録音。




ストラヴィンスキー:ヴァイオリンのための作品集
トーマス・アルベルトゥス・イルンベルガー(vn)ほか

ストラヴィンスキーがヴァイオリニストのサミュエル・ドゥシュキンのために書いたヴァイオリン協奏曲をはじめ、《プルチネッラ》の曲をヴァイオリンとピアノ用に編纂した《イタリア組曲》、ドゥシュキンが編曲した2作品などを収録。


ストラヴィンスキー:メロドラマ《ペルセフォーヌ》
エサ=ペッカ・サロネン指揮
フィンランド国立歌劇場管弦楽団 ほか

「もうひとつの《春の祭典》」と呼ばれるストラヴィンスキーの隠れた名作《ペルセフォーヌ》は、テノール独唱、女性の語り、混声合唱、児童合唱、そしてオーケストラのために書かれたフランス語のメロドラマ。ギリシャ神話にもとづく美しくも悲しい物語が胸を打つ。




筆者プロフィール



原 典子(はら のりこ)
音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在フリーランス。音楽雑誌・Webサイトへの執筆のほか、演奏会プログラムやチラシの編集、プレイリスト制作、コンサートの企画運営などを行う。鎌倉で子育て中。脱ジャンル型雑食性リスナー。

2021年4月より音楽Webメディア「FREUDE(フロイデ)」をスタート。



 

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