【第4弾】民族音楽シリーズ「THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY」 ナビゲーター:サラーム海上

2021/10/27

キングレコードが誇る、伝説のワールド・ミュージック・コンピレーションシリーズ「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」。アジアの各地域をはじめ、中南米、アフリカ、ヨーロッパなど世界中のあらゆる国や地域の音楽を網羅、学術的観点からも非常に貴重な音源も数多く収録した同シリーズを一挙ハイレゾ配信。全150タイトルを5か月に渡り順次配信してまいります。e-onkyo musicでは、このカタログ一挙配信を記念して、音楽評論家、そして中東料理研究家としても知られるサラーム海上氏をナビゲーターに迎え、5か月の連載形式で「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」をご紹介。その国や地域の音楽についてのお話や、特におすすめのアルバムをピックアップしてご紹介いたします。

第4弾となる今回は、日本や中国、モンゴル、チベットなど東アジアの音楽から31作品が配信されます。


【バックナンバー】
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ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー
 第4弾 31タイトル 日本、中国、韓国モンゴル、チベット他、東アジア 一覧ページ⇒



キングレコードの民族音楽コレクション高浪:ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー。全150タイトルのハイレゾ化五ヶ月連続リリースを記念した短期連載、第四回は前回からの続きで、1980年から96年までシリーズの大半の作品の録音を手掛けた元キングレコードのレコーディングエンジニア高浪初郎氏のインタビューをお届けしよう!




高浪氏の自宅オーディオルームのCD棚には、氏が手掛けた作品が並べられていた。
中には「西スマトラの音楽」や「魔弓旋回 L・スブラマニアム」など、今回の150タイトルから外されたレアなものも



――高浪さんが当時の「世界の民族音楽」シリーズを手掛けるようになったきっかけを教えて下さい。

高浪初郎(以下、高浪):さて、どういうわけだか、僕のところに話が回ってきたんです(笑)。最初は1980年頃かな?キングレコードのディレクターだった西田克彦(故人)さんが民族音楽に詳しい人で、彼から一緒にやろうよと誘われたのがきっかけです。当時はディレクターとレコーディングエンジニアはたいていペアを組んで仕事をしていたんです。それまでのキングの民族音楽のレコードは、小泉文夫さんや芸大の先生たちがカセットテープで録音したものを元にしていました。僕は演歌からロック、クラシック、ジャズ、純邦楽と、なんでも録音していましたし、旅行は大好き、山も写真も絵画も大好きで、いろんなことに興味があってね。色んな国や場所に行けるし、これは良いわい!と引き受けたんです。

――高浪さんがずっと一人で担当されたんですか?

高浪:そうですね。現地に行って、停電や、湿度による機材の故障などを乗り越えてでも、良い録音を録りたい!と思ったのは僕くらいしかいなかったんだねえ。だいたい出張に行くことをみんな嫌がってね、面倒くさいって。それに五線譜がないから仕事の先が読めない分、通常の仕事より大変だし。


1992年、「中部ジャワの室内楽ガドン」録音時。古都ソロの宮殿内にて、本番中のガムランの演奏家たち


同じくソロの宮殿内にて、本番中の高浪氏。右はプロデューサーの故・星川京児氏



――ご著書の『ミキシング入門』を拝読しました。民族音楽の録音にあたって、通常の西洋楽器の録音との違いについての部分が興味深かったです。

高浪:え、どんなことを書いていましたっけ? 随分昔の話だからねえ、忘れてしまいました。

――では読みあげますね。「民族音楽は異文化の音楽である。日本や西洋の音楽的サウンドの概念で安易に音作りしない。民族楽器は見かけの形状や大きさだけでは出る音が予測できないものが多い。思いがけない低音が出たり、笛類など、歪やビリツキと誤って判断されるような音を出す楽器も多い。しかし、その音の世界の広がりには、ほかの何ものにもかえがたい魅力がある」と書かれています。

高浪:そうそう。聞いたことのない音、金属、竹、木、風から聞いたことのない音が出るんですよ。これは宝物だなあ。地球上に存在する音の宝だなあ、と思いました。予測もつかないものがある。でも、良いものに当たったときは本当に素晴らしい。それを更に自分の感性で磨く。宝物は磨くと良くなるものもあるし、磨いても良くならないものもある。

――なるほど、そうした世界の民族音楽を高浪さんが長年培ってきたレコーディング技術で更に磨かれたのですね。

高浪:基本的に2トラックのレコーディングなので、これぞ!という一発勝負です。ちょうど料理と同じように勢いが重要。そこに私は魂を奪われるんです。これはジャズもクラシックも同じです。録音をやり直すと、ミスはなくなっても、なんとなく生煮えになり、香りが飛んでしまう。汗の匂い、そういうものまで感じ取るには、自分自身を研ぎ澄ませていないといけない。料理で言えば、研がないと刃物が切れなくなるのと同じです。


1990年、「チベット仏教音楽」の録音時、キングレコード屋上にて、仏教僧たちと高浪氏


1994年、「中国/雲南の洞経音楽」録音時、昆明のスタジオにて、雲南省南澗県胴経古楽隊のメンバー



――高浪さんにとっては大昔のことでしょうが、それでも今も心に残る作品があったら教えて下さい。

高浪:最初にお渡しした資料(連載第三回参照)に全部書いておきましたが、そのほかでしたら、中国の琵琶、中国ではビワではなく、ピパと呼ぶんだけど、何樹鳳(カジュホー)さん。日本の琵琶と違って、しびれるような演奏なんです。彼女には録音が素晴らしいと気に入ってもらえました。あとはやっぱりインドネシア・バリ島とジャワ島の諸作品でしょうか。

――バリとジャワは現地に出張して、短い期間に20を超える作品を録音されたのですね。すごい過密スケジュールだったはずですが、その分、充実されていたのでしょうね。僕もその場に居たかったと羨ましく思います。

高浪:これはちょっとしたオカルト的な話なので、話すべきか、ちょっと迷ったのですが……ジャワのソロに行き、王宮ガムランを録音した時のことです。お寺の本堂みたいなところでガムランを録音しました。演奏が始まって30分ほどして、何か気配を感じて、ふっと上を見ると、ガリガリに痩せたお婆さんがすーっと音もなく天井から降りてきて、あぐらをかいて、私のほうを見たんです。「一緒に聴かせて下さい」と言っているようでした。私は「どうぞ」と心の中で答えて、本番中だったので仕事に集中して、何十秒か経ってからお婆さんのほうをちらっと見ると、姿が消えていたんです。唖然としましたよ。録音終了後に楽団のリーダーのサプトノさんにこの話をすると、びっくりして、「貴方も見ましたか。この曲を演奏すると、誰かがお婆さんを目撃するんですよ。でも外国人では高浪さんが初めてです」と言われました。それからは「この外国人はお婆さんに会ったよ」とガムラン演奏家のみんなから急に信頼されるようになりました。お婆さんからパワーをもらったのか、私は元気になって、その後は万事スムースに行ったんです。

――いかにも今も魔術や精霊が人々の間で信じられているインドネシアらしい話だと思います。さもありなんですよ! さて、このシリーズは高浪さんが定年退職なされた後も、キングレコードの井上毅プロデューサーによって続けられ、中南米や中央アジア、宮古島などの作品を加えながら、2008年にはついに150タイトルまで至りました。しかし、井上さんが2011年に急逝されたことで、残念ながらそこで企画が止まってしまいました。でも、僕の周りにはこのシリーズを聴いて音楽業界に入った人や、タブラを始めたプロのタブラ奏者がいます。現在のキングレコードにもこのシリーズを聴いて入社した若い社員がいらっしゃるそうです。高浪さんが手掛けた作品は今も多くの人たちの人生に大きな影響を与えているんです。

高浪:止まってしまったのは残念です。民族音楽の作品を売るのはいつの時代も難しいけれど、止めないでなんとか続けて欲しいところです。

――ええ、僕たちも今回のハイレゾ化で新しいリスナーに民族音楽の魅力が伝わることを願って、こうして高浪さんに登場いただいたのですから!


1997年、「中国の古琴~姚公白」録音時、上海のスタジオにて、古琴のマエストロ、姚公白を迎えて



インタビュー終了後、オーディオルームの壁一面を埋めた完全自作のオーディオセットや鉄道模型Nゲージのジオラマ、マンションのベランダの一角に設置した小さなししおどし、そして古い中国の書体で書かれた書道の掛け軸など、現在の高浪氏による新たな作品をいくつか見せていただいた。

「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」の大半の作品を手掛けた伝説のレコーディングエンジニア高浪初郎氏は、何歳になっても今を生きる、なんとも風雅な人だった。




賞を獲ったという鉄道模型Nゲージのジオラマ。細部まで凝ってます!


高浪氏の現在の趣味である書道の掛け軸


2021年8月の高浪氏、ご自宅のオーディオルームにて




第4弾リリースから、高浪氏のおすすめ作品(当時の資料から)



THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:チベット仏教の声明
~ナムギェル学堂僧侶』/ナムギェル学堂の僧侶たち

「仏教音楽がこれほどまでにオーディオ志向に録れてしまったことに責任を感じている。こういう結果になることは、サントリー小ホールのコンサートで、あの会場をゆるがした、もの凄いラッパ、エドィンの重低音を聴いたときから、予測された。その夜からレコーディングの当日まで、フォルテッシモのエドィンの音と、僧侶たちのピアニッシモで発声する艷やかな低音が耳について、離れなくなってしまっていた。声明から静かにスタートするこの作品を聴くとき、あまり再生装置のヴォリュームを上げ過ぎると、スピーカーと耳が壊れてしまうことを警告しておこう」


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:中国/何樹鳳の琵琶
何 樹鳳(琵琶)

「何樹鳳の琵琶(ピパ)は日本の琵琶とはまったく趣きが異なったサウンド。流れるようなトレモロの艶やかさと、強烈な撥き音との超ダイナミックレンジ。空間に広がり、消えていく、繊細なハーモニクスが魅力」。インタビュー中にも登場する高浪氏お気に入りの中国の女性奏者による1981年日本録音。




THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:韓国のパンソリと散調
V.A.


「6弦の琴、コムンゴ。弦の響きが太く柔らか。独特の発声により、全身から絞り出すような声のパンソリは圧巻」。人間国宝の姜貞淑によるパンソリや仏教歌、俗謡ほか、棒で弾く琴のコムンゴ独奏など、韓国伝統音楽の美味しいところをたっぷり収録。超絶な発声や弦の響きがハイレゾで更にリアルに。1984年日本録音。


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
モンゴル/チ・ボラグの馬頭琴

チ・ボラグ(馬頭琴)

「馬頭琴の音は朴訥で力強いが、高音は実に繊細。収録曲「万馬のとどろき」は楽器自身がモンゴルの馬になったように生々しい」。内モンゴルの人間国宝奏者による1985年日本録音作。




第4弾リリースから、サラームのおすすめ作品



THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
アルタイのカイ~ボロット・バイルシェフ

Bolot Bairyshev


モンゴルとカザフスタンの北に位置する内陸国アルタイ共和国を代表する演奏家による、モンゴルのホーミーとよく似た喉歌「カイ」の作品。弦楽器トプショールや口琴ホムスを弾きながら、アルタイに古代から伝わる英雄叙事詩を歌う。とても人間技とは思えない超自然的な歌声の連続で、ハイレゾによる超低音の表現を楽しみたい。巻上公一による2000年日本録音。


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
トゥバのホーメイ~ユジュム

Ozum

アルタイの東に位置する内陸国トゥバ共和国に伝わる喉歌「ホーメイ」をフィーチャーしたトリオ楽団の1998年日本録音。口笛のような鋭い高音や地鳴りのような重低音を響かせる歌唱から、馬が駆ける様子や風にはためく様子を模した歌唱まで、3人の若手名人がそれぞれの超人的な技を競い合う。モンゴルのホーミーよりも遥かにワイルドで、頭蓋骨に直接響いてくる。




THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:
モンゴルの歌~ナムジリーン・ノロブバンザド

V.A.


長い歌を意味するオルティンドーは、モンゴルの遊牧民の生活から生まれた民謡。晩年にNHK大河ドラマ『北条時宗』のテーマ曲を歌ったことで注目されたモンゴルの人間国宝女性歌手、1992年の日本録音。パワフルな声量と荘厳な響きを併せ持つ声で、日本の長唄にも似たこぶしを回し続ける。人声の極限表現は聞き手の身体や精神まで揺さぶるほど!


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:中国の古琴~姚公白
姚 公白(古琴)

古代中国の儒教音楽において人間の精神や感情を鍛える楽器とされ、孔子や李白にも愛されてきた古琴。現在も第一線で活躍する姚公白による1997年上海録音。日本の琴(箏)と異なり、指で弦を押さえて、様々なハーモニクスを操りながら演奏される。24bit化でダイナミックレンジが広大に。




THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:中国/雲南の洞経音楽
雲南省南澗県洞経古楽隊


洞経音楽は儒教や道教に基づく宗教音楽。明の時代に中央の宮廷で愛されながらも今では雲南省にしか残っておらず、「中国音楽の生きた化石」とも呼ばれている。15人編成の古楽楽団による1994年の昆明録音。様々な大きさの胡弓や三弦、横笛や鳴り物、歌によるユニゾン演奏が古の中国文化を浮かび上がらせる。ハイレゾ化により各楽器がクリアに分離された。


THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY:沖縄・宮古の神歌
高良 マツ長崎 トヨ村山 キヨ

古代中国の儒教音楽において人間の精神や感情を鍛える楽器とされ、孔子や李白にも愛されてきた古琴。現在も第一線で活躍する姚公白による1997年上海録音。日本の琴(箏)と異なり、指で弦を押さえて、様々なハーモニクスを操りながら演奏される。24bit化でダイナミックレンジが広大に。




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■サラーム海上 プロフィール

 

 

サラーム海上 Salam Unagami

音楽評論家/DJ/中東料理研究家/朝日カルチャーセンター講師
中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。
10冊の著書、雑誌やWEBでの原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、料理教室講師等、活動は多岐にわたる。
選曲出演するJ-WAVE の中東音楽専門番組「Oriental Music Show」が2017年日本民間放送連盟賞ラジオエンターテインメント番組部門最優秀賞を受賞。
コミュニケーション言語は英語、フランス語、ヒンディー語、日本語。
群馬県高崎市出身、明治大学政経学部卒。

オフィシャルサイト

 

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