連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第91回

2021/10/01

『Silver Lining Suite』  上原ひろみ

~逆境が生んだオーディオ必聴盤!~

■ 音質的な豊作ぞろいの新譜群でも圧倒的だったサウンド

上原ひろみさんハイレゾ作品は、本連載で何度も太鼓判に選んでいる常連です。期待の新譜も超極上サウンド。今回の太鼓判ハイレゾの選定では他にも高音質音源が豊作で悩みに悩みましたが、やはり音質的が圧倒的だった上原ひろみさん新譜を太鼓判ハイレゾ音源に選出することにしました。

前作のピアノソロアルバム 『Spectrum』 のレビューでも書きましたが、上原ひろみさんとは不思議なご縁があります。上原ひろみさんバンドのベーシスト、アンソニー・ジャクソン氏が私の製作するケーブル愛用者であること。そのご縁で 『VOICE』、『MOVE』、『ALIVE』、『SPARK』 のジャケットにはケーブル・ブランド名の “REQST” がクレジットされていること。また 『ライヴ・イン・モントリオール』 では、上原ひろみさんにインタビューできたという幸運。さらには、ハープ奏者のエドマール・カスタネーダ氏が来日時にREQSTケーブルを導入し、上原ひろみさんとの共演ライブで演奏されたことなどなど。

そんな関係性から、上原ひろみさんのサウンドはハイレゾ音源を聴くだけでなく、ライブの本編はもちろん、リハーサルでも体験しているという経験値があります。その体験を活かし、今回の新譜のサウンドもブレなくチェックしていきたいと思います。

■ 広い音像と抑揚、そしてワイドレンジのオーディオ的な魅力爆発ハイレゾ!

 

海外ミュージシャンが主力バンドメンバーである上原ひろみさんにとって、渡航制限のある昨今は新譜制作にとっても大きなハードルがあったと思います。その逆境を跳ね除けるパワーが感じられる、優しくも力強い楽曲の数々を届けてくれました。

 

 


本作を聴く前にスタッフ・クレジットをチェックすると、Executive Producerに巨匠マイケル・ビショップ氏の名前を発見。「これで安定の高音質が約束されたも同然。しかし、海外録音ができないので、録音データをマイケル氏に送ってミックスとマスタリングをしたのかな?」 と事前に想像していました。

しかし、私は知らなかったのです。まさか2021年3月にマイケル・ビショップ氏は亡くなられていたとは・・・。海外録音もできない状況に加え、上原ひろみさん作品の音質の要だったマイケルさんを失い、新譜制作はかなりの逆境だったことが想像できます。

マイケル・ビショップ氏の訃報を知ったのが本作の音を聴いたあとだったので、変な先入観を持たずにサウンドをチェックすることができたのは幸いでした。日本録音ということで、録音はMick沢口氏が担当。ミックスとマスタリングはグラミー賞受賞エンジニアである名匠Robert Friedrich氏を起用しています。

弦楽四重奏との共演ということで、上原ひろみさんの演奏は大きく変化しました。アンソニー・ジャクソン氏とサイモン・フィリップス氏とのトリオ・プロジェクト的な音楽を期待していると、少しイメージが異なるかもしれません。クラシックとジャズとの中間的というか、従来の上原ひろみさん作品に無かったサウンドであることは間違いなさそうです。

ポイントは弦の持続音だと感じました。従来の共演者は、どちらかというとパーカッシブでスピード感あるサウンドが特徴的な演奏が多かったですが、今回は弦楽四重奏ということでストリングスの持続音が魅力的な楽曲が主力となっています。とはいえ、そこは上原ひろみさん作品ですから、それはもうサウンドは弾けに弾けていますが。

弦奏者はクラシック系の方たちなので、アドリブ演奏はなく、全てアレンジ通りの譜面からのパフォーマンスだと思います。これも従来のアドリブ主体な共演ミュージシャンとは異なるところ。しかし、それも全て魅力のベクトルへと変換されているが本作です。演奏者としての上原ひろみさんに加え、サウンドプロデューサー的な側面の魅力を発見できたような気がします。

オーディオ的なチェックポイントとしては、まず美しい音像を堪能していただきたい。弦楽四重奏の真ん中でピアノを演奏しているような配置がとっても美しいです。綿密なアレンジによる、音の定位がキラキラと散りばめられたような音像たち。オーディオ装置の、特にスピーカーセッティングによる立体再現力が試される難題でしょう。まずヘッドホンやイヤホンで音像のイメージをチェックしてから、スピーカー再生で同等のサウンドステージに再現できているか確認してみると良いでしょう。

チェロがジャズのウッドベース並にパートが割り当てられている部分もあり、ピアノと弦楽四重奏ながら低音の響きもたっぷりとあります。ピアノやバイオリンの輝きを同時に再現するとなると、かなりのワイドレンジ・パフォーマンスがシステムに求められることになるでしょう。

本作をサブスクで聴くなんてシーンは私にはありません。では何で聴くのかと考えると、この広いサウンドステージとダイナミクス、そしてワイドレンジですから、迷わずハイレゾ音源の一択です。ピアノ×弦楽四重奏を侮ることなかれ!




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筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。



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