連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第90回

2021/09/03

『ハバナ・キャンディ』  パティ・オースティン

~ボーカルのチェックに必須なハイレゾ音源はこれだ!~


■ 今月は音源選出に大苦戦


ハイレゾに限らず、ここ最近に制作された音源には、どれも同じような音質傾向があるように感じます。具体的には、解像度が高く音の見通しは良いものの、何だか音割れしているようなガサガサしたサウンド。最初は 「このところ、コンプのかけすぎ音源が続くな~」 と思っていただけだったのですが、あまりに同じ傾向の音源が続くものですから不思議に思い始めました。困ったのは、イヤホンやヘッドホンで聴くと、ソコソコの音質に聞こえてしまうところ。いや、解像度が高いだけに、パキッとして良い音の作品ように感じるところもあります。ですが、スピーカーで試聴してみると、「あー、あの音だ・・・」とガサガサする音質に落胆するのでした。

日本のみならず、ここ1年くらい世界的に見られる傾向ですので、もしかすると音楽制作に使われるDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション = 録音やミックスなど音源制作が一括して行えるシステム)の大規模バージョン変更といったような出来事があったのかもしれません。今度、エンジニアさんと話す機会があるときに、探ってみたいと思います。

イヤホン/ヘッドホンで聴くと良い音に感じるのだから、それで良いではないかとも思うこともあります。ですが、音楽の記録というものは、文化の記憶として未来へ送る手紙という一面もあると、私は考えています。例えば、未来のオーディオは、このガサガサした音を克明に再現できるシステムが一般化しているとしたらどうでしょう。「2021年の音楽好きは、こんな残念な音で聴いていたのか~」と未来人に思われるのは、この仕事に携わっている私としては大いに不本意です。

実は今月は心に決めたアルバムがありました。名録音続きのアーティストさんの新譜ですから、まず間違いなかろうと。内容的には素晴らしく太鼓判ハイレゾとしてお届けしたかったのですが、実際に発売されたハイレゾ音源を試聴してみると、音質にどうしても納得できませんでした。位相がひっくり返っているような音像でしたので、何らかのミニター環境の不調でもあったのでしょうか? 本連載は、未来の音楽好きをも納得させられるハイレゾ音源の選出をポリシーとしていますので、ここは勇気を持ってその新譜は落選とし、新たに太鼓判が押せるハイレゾ音源を探しはじめました。

これまた大苦戦。そんな中、オーディオ評論家の小原由夫先生がCTIレーベルのセレクトを行っているというe-onkyo特集記事を発見しました。小原由夫先生とはお会いしたことはありませんが、今回は大いにカンニングさせていただこうと思います。2021年9月19日(日)まで通常価格より20%オフというのも素晴らしいです。

いくつかCTI選出アルバムからピックアップさせていただき、その中で試聴結果が最高峰だった1枚に巡り会えました!

■ パワフルな歌声がガツンとセンター定位する位相の良さ!

 

昨今のDAW制作音源とは一線を画す広大なサウンドステージで、柔らかな音の手触りは何時間でもリスニングできそう。そう、私が聴きたかったのは、こういう音のアルバムです!


GRPレーベル前のデイブ・グルーシン氏とラリー・ローゼン氏がプロデュースで参加。ミュージシャンも豪華で、 デイブ・グルーシン氏(key)はもちろん、エリック・ゲイル氏 (g)、ウィル・リー氏(b)などなど。そしてベーシストとしてアンソニー・ジャクソン氏のクレジットも!

アンソニー氏は、今では私がベース・ケーブルをプロデュースしているというご縁。こんな夢のアルバムで演奏していた大御所ミュージシャンのケーブルを製作しているなんて、改めて身の引き締まる思いです。同じベースの音でも、ファンクっぽくグルーヴするウィル・リー氏と、大いなる海のようにどっしりとしたアンソニー氏と、全く個性の異なる低音の聴き比べが楽しめます。

1977年の録音ですから、当然ながらアナログテープ録音でしょう。当時はヒスノイズや音揺れなどの悩みはあったでしょうが、現代のような音が硬くて長時間聴いていられないといった問題は皆無。果たしてどちらが幸せなのでしょうか。

パティ・オースティンさんといえば、クインシー・ジョーンズ氏のお抱え歌手といったイメジが私にはありました。映像化されていたクインシー・ジョーンズ氏の日本武道館公演が私は大好きで、レコードに例えるなら擦り切れるほど見ました。超豪華ビッグバンドを従えパワフルに歌うパティ・オースティンさんを見たときは、「やはり世界ランカーの歌手は別格だな~」と驚いたことを覚えています。そのコンサートが1981年ですから、本作はその4年前。すでにボーカリストとして完成されたパティ・オースティンさんの歌声が堪能できます。

オーディオ的な音質チェックアルバムとして見ても、必聴アルバムであると推させてください。現代録音だけでセッティングやアクセサリー選別を進めていくと、どうしても壁にぶち当たると思います。私も、システムが壊れているのかと疑ったり、自分の耳の調子を疑問視したりと、硬い音色の音源を聴き続けると変なループに迷い込むときがあります。ある種の答え合わせ的に本作を聴くと、「な~んだ大丈夫じゃないか。我が家のシステムは、こんな朗々と鳴っているんだ」と、オーディオのリスニングをリセットしてくれることでしょう。

広いサウンドステージ、生々しい各楽器たちの輝き、そしてガツンとセンターに定位する位相感の良い歌声。どれも現代の音楽制作現場が忘れかけているサウンドです。

今月は、音源選出が難航するという大ピンチから、思わぬ良質アルバムと出会うことができました。これからオーディオ・チェックのリファレンス盤として、そして素敵な音楽の記憶として、長く聴き続けたい高音質&濃い内容の名盤です!






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<第88回>JIMSAKU スペシャル・インタヴュー!


 

筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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