【8/27更新】 印南敦史の「クラシック音楽の穴」

2021/08/27

印南敦史のクラシック・コラム「クラシック音楽の穴」。ここで明らかにしようとしているのは、文字どおりクラシック音楽の「知られざる穴」。クラシックにはなにかと高尚なイメージがあって、それが「とっつきにくさ」につながっていたりもします。しかし実際には、そんなクラシック音楽にも“穴”というべきズッコケポイントがあるもの。そこでここでは、クラシック音楽の「笑える話」「信じられないエピソード」をご紹介することによって、ハードルを下げてしまおうと考えているわけです。そうすれば、好奇心も高まるかもしれませんからね。だからこそ肩の力を抜き、リラックスしてお読みいただければと思います。

猫の鳴き真似だけの曲がある

猫の二重唱



気になり続けて早くも数十年。決してウケ狙いではなく、本気で不思議に思っていることがあるのです。

けれど、口に出したら「くっだらねー!」と笑われそうだから、というよりも「コイツ大丈夫か?」と疑われそうだから、誰にも話すことができなかったんですよねー。

なんのことかって、犬と猫の呼び名について。

ほら、一般的に犬は「ワンちゃん」と呼ばれますけど、猫の場合は「ネコちゃん」じゃないですか。そこがどうにも納得いかないんですよ。

もし犬がその鳴き声から「ワンちゃん」と呼ばれるのであれば、猫は「ニャアちゃん」であるべきではないかと。

あるいは猫が「ネコちゃん」ならば、犬も「イヌちゃん」と呼ぶべきなのではないかと。

おそらく「ニャアちゃん」や「イヌちゃん」ではいかにも語感がよくないので、自然と「ワンちゃん」「ネコちゃん」になっていったのでしょう。それだけの話なのでしょう。

ということはなんとなく理解できるのですけれど、でも、やっぱり気になって気になってたまらなかったのです。

バカですね。

バカといえば、クラシックの世界にも“おバカ楽曲”はあるものです。たとえば、以前ご紹介したカーゲルの「ティンパニとオーケストラのための協奏曲」とか。

でも、その最たるものといえば「猫の二重唱(Duetto buffo di due gatti (The Cats' Duet))」に尽きるのではないかと思います。

なぜってこの曲、ピアノの伴奏に合わせて最初から最後まで“ニャ〜ア〜オ〜”と猫の鳴き声だけで構成されているから。だいたい3分くらいの楽曲なんですけど、よくもまぁこんなくだらない、いや、楽しい曲をつくろうと発想できたものだなぁと感心してしまいます。

ちなみに作曲者はロッシーニだといわれていましたが、これは誤った説であるということが明らかになっています。

本当の作曲者は、ロバート・ルーカス・ピアサル(Robert Lucas Pearsall)というイギリスの作曲家。“Lay a Garland”などのパート・ソング(合唱曲の一形態)を残している彼が、ハンブルク=アルトナ(現ハンブルク市)の作曲家であるクリストフ・エルンスト・フリードリヒ・ヴァイゼの“Katte-Cavatine(猫のカヴァティーナ)”という曲をアレンジしたものなのだそうです。

いろんな人名と曲名が出てきて、頭が混乱しちゃいますね。

でも調べていくと、とんでもない誤解が生じてしまったのも仕方がないなあという気がします。

というのも、そもそもこれは寄せ集めのような曲だから。原曲(といえるのかな?)の“猫のカヴァティーナ”は中間部分がピアサルによる楽曲で、後半部分のメロディがロッシーニ『オテロ』第2幕の「ロドリーゴのアリア」から引用されたものなのです。

『オテロ』といえば、ヴェルディの作品のほうが有名かもしれませんけれどね。

しかしいずれにしても、複数の曲をつぎはぎにしているということ。だから、「あれ、ロッシーニの曲じゃね?」と誤解されたとしても無理はないわけです。

なお、残念なことにこの曲はハイレゾ化されていないようですね。ただ、わざわざダウンロードしてハイレゾで拝聴するほどの曲でもないという気はします。あくまで個人的な見解ですけど。



『ロッシーニ: 序曲全集 第1集』
プラハ・フィルハーモニー合唱団, プラハ・シンフォニア管弦楽団, クリスティアン・ベンダ




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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

◆ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」
◆連載「印南敦史の 名盤はハイレゾで聴く」
 

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