■デュオ結成からこれまでの歩み
ー今年で結成25周年。これまでの道のりを振り返ると、どんな感慨がありますか。
畠山 知り合ったのは、まだお互いが20代前半でしたが、あれから四半世紀が過ぎたのですね。思えば、大ちゃん(小島大介さん)と二人だけでレコーディングしたのは今回が初めて。
小島 そうだね。
—結成時にはどんなコンセプトを考えていたのですか。
畠山 ソウルっぽい感覚は持っていましたが、特にコンセプトを決めて始めたわけではなかったと思います。当時はアシッド・ジャズが流行っていて、例えばブランニュー・ヘヴィーズみたいな感じでライブをやってみたり。初めはカバー曲も多かった。オリジナルはLITTLE CREATURES(リトル・クリーチャーズ)の鈴木正人さんが作ってくれた曲だったし、大ちゃんと私が作ったオリジナル曲は最初の頃はまだ少なかったんですよね。
小島 鈴木正人さんや中島ノブユキさんなど、いまは大変活躍されているミュージシャンが、僕らの周りにわりと普通に友達としていてくれたのは幸運でした。そうした先輩たちにいろいろアドバイスをもらったし、音楽的な指向や趣味も近かったんです。いわゆるJポップは聴かなかったけど、同じアルバムをみんな聴いていたりして共感できるところが多かった。いま思うと、スペシャルな人たちとの出会いがあったんだなと思いますね。
畠山 正人さんと大ちゃんがバークリー音楽院で学んだジャズの要素や、中島ノブユキさんが持つクラシックやボサノバの要素をオリジナルに組み込んだらどうなるかなという発想はあったよね。
小島 そう。正人さんたちと知り合った頃は、いわゆるジャズを極めようという感覚もあったと思うけど、正人さんはそれを生かしながらもクリーチャーズではまた違ったことをやるという姿勢にすごく共感しました。いい意味での雑食性というか。やはり、必然的に知り合った人たちだったのかもしれません。
畠山 当時は若くて先鋭的なものに対する憧れもあって、聴いたことがないような音楽への探求心も強かったような気がしますね。
小島 確かに。当時、所属していたCrue-L Recordsのオーナーで、DJとしても活動してる瀧見憲司さんも雑食的に何でも聴く人で、僕らと同じくいろんなジャンルの音楽を聴いて探求している印象がありました。同じ眼差しを持っている人たちが集まっていたのかなと思います。
畠山 私が憧れていたカサンドラ・ウィルソンやジョニ・ミッチェルをクロスオーバーっぽくやるというようなことも目指していました。そんなキーワードがあったこともいま思い出しました。
—オリジナリティという意味で、手応えを感じたポイントはどのあたりだったのでしょうか。
小島 僕の中では1998年の『With This Affection』で初めて二人だけで曲を書き、セルフプロデュースで作ったこのミニアルバムはオリジナリティを表現するきっかけとして大きかったと思いますね。最初の『Port of Notes』(1997年)は、僕ら二人と正人さん、中島ノブユキさんの4人が曲を持ち寄って作ったミニアルバムでしたから。実はこの頃、正人さんに「二人がやりたい音楽をちゃんとやったほうがいい。それを僕らに提示してほしい」と、ちょっと距離を置くような感じでアドバイスをもらったんです。
畠山 そうだったの?
小島 うん。いい意味でけっこうきつい言葉ではあったけど、それで一念発起できた。それまではやっぱり、正人さんや中島さんに頼っていた部分もあったしね。
畠山 すごく才能のある人たちだから、こっちが影響を受けちゃうんだよね。
小島 そう。で、そこからはどうやって自分たちのサウンドを作っていこうかと、試行錯誤というかチャレンジをしていきました。
畠山 当時、私は自分で曲を作ることはあまりなかったんです。でも、大ちゃんと一緒に作ると、不思議とアイディアがたくさん浮かんでくるんですよね。それまでにはない音楽体験でした。それこそが、Port of Notesというユニットを組んだゆえんなのかなと感じます。
小島 今回のセルフカバーアルバム『TWO』を作っていて感じたのは、初期の曲には共通したフォーマットのようなものがあるということ。あのときに自分たちがやりたいこと、やれることを形にするとこうなったんだなとあらためて感じました。
■二人だけで制作したセルフカバー
—ここからは、そのニューアルバム『TWO』について伺います。まず、セルフカバーとしたのはどんな心境からだったのでしょうか。
畠山 直接的なきっかけは、現在のマネジメント「bud music」の代表の番下慎一郎さんから「二人だけで、しかも本当にミニマムにギターと歌だけで、楽曲そのものが剥き出しになってくるようなアルバムを作ってみませんか」というお話をいただいたことでした。そんな流れで、今年の1月〜4月にかけて作ったアルバムがこの『TWO』です。外出もはばかられる時期ではありましたが、なんとか二人だけで作る方法を大ちゃんと相談し、互いの自宅で録音するというスタイルを採用することにしました。
小島 二人とも都心からは離れたところに住んでいるのがよかったのかもしれません。僕が伊東(静岡県)で、美由紀ちゃんが鎌倉(神奈川県)。録音機材を積んで、なんとか車で通える距離なんです。実は去年9月にリリースされた美由紀ちゃんのカバーアルバム『Song Book ♯1』も、このスタイルで作ったんですよ。
畠山 『Song Book ♯1』のボーカルも私の自宅でレコーディングしているのですが、このときも大ちゃんにエンジニアリングをお願いしています。
小島 2017年のデジタルシングル「トラヴェシア」からそうですね。ここ数年で、二人だけで自然に音楽を作る環境が整いつつあったんです。
—小島さんは以前からエンジニアリングも手掛けられていたのですか。
小島 Crue-L Records時代のある時期からは僕がエンジニアとして様々な作品に関わることも多くなっていきました。やり始めたのはちょうど1996年くらいでしょうか、いわゆるDTMの走りの頃ですね。Port of Notesでは、2004年のアルバム『Evening Glow』は僕がレコーディングも行っています。
—今作『TWO』は、お二人によるセルフカバーということで楽曲自体の魅力も引き立つ作りとなっていますが、いわゆるアレンジはどのように決めていったのですか。
畠山 今回は基本的にギターと歌だけで成り立つと同時に、いまの自分たちの心にフィットする音楽を作ろうと考えました。それはつまり、“無理をしない”ということでもあります。印象的だったのは、何曲かはオリジナルに比べてBPMがかなりゆっくりだったこと。「昔はあんなに速くやっていたけど、いまは絶対これくらいだよね」って(笑)。そこは臆せず、いまのフィーリングで行こうと。そして、大ちゃんが録ってくれる音には独特の柔らかさやリバーブ感があって、そこに自然とフィットするようなアレンジになっていったような気がします。
小島 うん。音数は少ないんだけど、なんとなく空間が埋まっているという感じかな。そういう空間のリバーブ感や空気感は、音楽の要素としてすごくいいものだなと思っているんです。
—今回は本当にボーカルとギター、曲によって非常に控えめなリズム音源があるくらいですね。エンジニアとして心掛けたポイントはありましたか。
小島 録りの段階ではややデッドな音にすることを心掛けました。マイクの周りには響きを制御するためのリフレクションフィルターを置くことで歌の反響音が抑えられ、スタジオのようにドライな感じで録ることができました。今回は録り音の残響を極力なくして、ミックスでリバーブを付けるなどして空間を作っていったわけですが、それはそれでいい感じになったと思います。
—ギターはどのように?
小島 ギターに関しては、生の音もあれば、音がフワーッと広がるアウトボードのリバーブをかけ録りしたものもあります。やっぱり音数が少ないので空間がすごく出ているし、ボーカルはマイクの質感も表れていると思います。ミックスで使用したリバーブは、プラグインをいくつか試していくうちに「ああ、この響きは僕らの音楽に合っているな」と、なんとなく決まっていった感じです。そのあたりはわりと時間をかけて進めていきました。
畠山 ミックスのほうは、けっこう試行錯誤してたよね。
小島 うん。出来上がったものは、自分なりにまとまって聞こえるんですけどね。で、レコーディングでは、最初はクリックを入れて別々に録っていたんですが、最後のほうには二人で一発録りも行っています。そういう空気感もほしいなと。そこまでを含めて、一つの大きな流れというか、チャレンジだったという気がしています。
—使用されたギターは?
小島 基本はガットギターですが、曲によってスチール弦だったり、ギターシンセを弾いていたりしています。例えば「Duet With Birds」のアコースティックギターに被せてダビングしているフワーッとした音はギターシンセです。
畠山 「Duet With Birds」は音程がすごく微妙で、「もう少し音程感をはっきりさせてもいいんじゃない?」って話していたらギターシンセを弾いてくれたんだよね。フワッとはしているんだけど、音と音の構築が見えてきて、オリジナルとは違ったテイストになりました。
小島 うん、骨格はあまり変わらないんだけど、空気感が今っぽくなっているのかな。
畠山 いろいろ試しているうちに、どの曲も必然的にオリジナルとは色が変わったものができてよかったなと思っています。
■宅録で目指した「2021年バージョン」
—セルフカバーしたことで、楽曲の持つ強さなど、あらためて気付いたことはありましたか。
畠山 私が感じたのは、歌が難しいということ(笑)。メロディも自分で作っているのに、すごく難しいんです。
小島 「クセができちゃっている」って言ってたね。
畠山 そうそう。それもあったんですよね。そもそもメロディが複雑ではあるんだけど、何十年も歌って染み着いちゃっているから、これまでとは違う表現ができなくなってしまって。今回はそこをバラして構築し直して乗り越えてみなきゃいけないところもありました。
—その方法の一つがテンポを少し落とすことだったと。
畠山 そうですね。あと、自宅で録音できたことも大きかったです。スタジオでの録音は、どうしても時間に制限がありますが、今回は余裕をもって進められたので、これまではあまり詰められなかった表現にも十分にトライすることができました。
—小島さんは何か気付いたことはありましたか。
小島 僕はある意味、予想していたものができてよかったなと思いました。録ったものを聴き返して、「ああよかった」と毎回思う。そういう感想だけが残るという感じでした。セルフカバーということである程度イメージできるものがあって、美由紀ちゃんと意思疎通する中でうまく落とし込むことができました。
畠山 これらの楽曲に対する私たちの親しみのようなものは壊さないけども、「2021年バージョン」にはなっているというのを目指していましたよね。
小島 そうそう。そこには、ある意味で宅録が再び注目されているいまの環境が反映されているとも思います。
畠山 ビリー・アイリッシュの曲作りが、マインド的にもサウンド的にも参考になるんじゃないかと話していて。それこそ、使っているプラグインとかDAWの設定を確認したりしてね(笑)。
小島 うん。いろいろ調べてみると、意外にお金もかかっていなかったりして(笑)。とはいえ、彼女のあのリラックスした姿勢や空気感は参考にしたいと思ったんですよ。
畠山 私たちがレコーディングし始めた90年代は、「豪華なスタジオで高価な機材を使って録ることでしか、いい音楽は作れない」とマインドセットされていた面がありましたよね(笑)。でも、ビリー・アイリッシュをはじめ、若いアーティストの作り方を知ると、本当はそういうことではなくてもいいんだということが身に染みて分かりました。
小島 まさにいま、DTMがまた流行っていて、みんなが参加できる空気感があるよね。
畠山 うん。本当にマインドが変わったなという感じで、音楽を作るための選択肢は一つではなく、いろいろあるということを実感しました。
小島 極端な話、楽器が弾けなくても音楽を作ることはできるわけで、全部が自由ですよね。
—今回のそうした録音スタイルは、お二人にとっても新鮮なものがあったと。
畠山 ただ、実際にやってみると犬が鳴いたり、宅配便の方が来たり(笑)。
小島 美由紀ちゃんのお母さんが来たり(笑)。
畠山 そうそう、ピンポーン!って。「いま録音してるから」って言っても、「あらそうなの?」って普通に入ってくる(笑)。
—ボーカルの録りはもっぱら畠山さんのご自宅で。
畠山 うちのリビングですね。
小島 ギターは主に僕の自宅で、「せーの」で録ったものは美由紀ちゃんの家でした。
—「せーの」で録ったのはどの曲ですか。
小島 「Complaining Too Much」と「水蜜桃」です。
—そうでしたか。「水蜜桃」は、最後の部分でボーカルが降りていくのとギターのアルペジオがばっちり合っているところも印象的でした。
小島 ラインアップの中では最近の曲ではありますが、確かに「水蜜桃」のテイクは良かったですね。
—小島さんのギターは歌の伴奏に徹していらっしゃるように感じました。もっと音を重ねたり、ソロを挿んだりしなかったのは意図的に?
小島 今回はそのあたりも無理なくやりたいなというのがあったんです。音数はあまり増やしたくなかったし、ソロとかも出てきてほしくない。美由紀ちゃんのボーカル以外に自己主張するものを入れたくなかったんです。
畠山 でも、私は常々思っているんですが、大ちゃんが弾くギターはすごく簡単なコードでも何かが違うんですよね。「あんなふうには弾けないんだよね」って言うギタリストの方は多いんですよ。
小島 リフばっかりだからかな。
畠山 うん、いいリフなんだよね。すごく個性があって。大ちゃんにしか出せない音の滲みみたいなものがある。ハイレゾではそんな部分も聴いていただけたら嬉しいなと思っています。
小島 元々リフがすごく好きなんですよ。その意味ではレッド・ツェッペリンだと思っていますから。
畠山 えー、じゃあ私はロバート・プラント?(笑)
小島 オレはジミー・ペイジだよ(笑)。
畠山 うわーっ! それはちょっと新鮮(笑)。でも、確かに大ちゃんはリフの人だよね。
小島 ループさせるのも好きだから、そういう特徴はあるかもしれないね。
慣れ親しんだ自らの楽曲を再構築。“2021年バージョン”に臨んだボーカリストの畠山美由紀さん
■Port of Notesの音楽の作り方
畠山 いま思い出したけど、あるとき、中島ノブユキさんが大ちゃんのコードを聴いて「メロディが内包されている」と言っていたんです。その感じはすごく分かるの。大ちゃんが奏でる音には不思議な力があるのかな。そういうのは私が自分で弾くピアノとかからは浮かんでこないんですよ。
小島 うん、不思議だよね。
—そうしたギターのうえに、今回も縦横無尽で自由なボーカルが乗っています。
畠山 荒ぶる魂(笑)。
小島 僕のリフと美由紀ちゃんのメロディラインの組み合わせに特徴があるんでしょうね。だから、テンポを落としてもオリジナル感は残るというか、共通項が見いだせるんです。
畠山 私はいつも、大ちゃんの“コードの森”と言っています。私が作るメロディは、その森の中を通る道というイメージがあるんです。そして、森はときに紅葉したり、いろんな表情を見せてくれます。
小島 “森”は優柔不断だからね。
畠山 でも、大ちゃんのコードを聴いていると不思議と進むべき道が分かる。これが先ほどもお話ししたユニットたる由縁であり、オリジナル曲を作る理由につながる大きな部分だと思っています。
小島 ありがとうございます(笑)。
畠山 その意味では、今回のセルフカバーではさらにもう一歩、森の深いところに分け入ることができたのではないでしょうか。
小島 そういう気持ちって、空気感として残るじゃないですか。だからこそ、今回はお互いにリラックスした状態で作りたかったんです。
畠山 「心はときめくけど、静かに聴ける」というのは目指していましたね。
小島 そう、まさにそれ。
畠山 みんなコロナ禍で精神的にまいってる部分もあるでしょう? 耳も疲れちゃうので、優しい音楽にしたいというのは強く思ったんですよね。優しくも、深まっていくような感じにはできたんじゃないかなと感じています。
—小島さんから見た、畠山さんのボーカルの魅力とは何でしょう。
小島 それはもちろん、声質にも絶対的なものがありますから。そこが好きですね。そして、感じ方がすごく繊細なのに、表現するときはぶっといものになっている。僕には真似できないけど、そういうところが面白いなと思っています。
畠山 フフフフ。
小島 だから、ボーカルについては任せていますね。美由紀ちゃんがやりたいようにやってほしい。そこの感覚は自然と分かり合っているんだろうと思います。いつも、道筋を立ててくれるのは美由紀ちゃん。僕は優柔不断にループで浮遊しているだけだけど、美由紀ちゃんはくっきりしている。ドキッとすることもありますけど(笑)、そんな対比があるんですよね。それぞれ違うのは当然なんですけど、僕には考えつかないようなアイディアも出てくるし、そういう作業は面白いですね。
—例えば、お二人の共作曲はどのように作ることが多いのですか。
畠山 まず、大ちゃんがリフやコードを作ってくれて、そこに私がメロディを付けて行くというのがほとんどですね。
小島 そう。だから、僕はどちらかというとバックグラウンドなんですよね。そこに美由紀ちゃんがはっきりした印象を付けてくれる。
畠山 本当に不思議なんですけど、大ちゃんが作ってくれるリフやコードには、感情を呼び起こすものがあるんですよね。それを自分の記憶の中からメロディとして形作ることが多いですね。
小島 美由紀ちゃんが作るメロディラインがすごくいいんですよ。いいメロディラインをいっぱい知っているんだろうなと思います。
畠山 自然と浮かんでくるだけなんだけどね(笑)。
小島 それに僕も助けられています。本当にいつも、いいメロディを作ってくれるから。
畠山 嬉しい!
—聞けば聞くほど、素敵な出会いと感じます。
畠山 奇跡的な出会いだったと思いたい(笑)。
—一方、歌詞のほうは主に畠山さんが手掛けています。あの独特の世界観はどこからきたものなのでしょうか。
畠山 けっこう幼少期や少女時代の心風景というか、記憶から紡ぎ出すことが多いですね。そして、好きなジャズのスタンダードナンバーの歌詞から想起したものを自分の記憶に結びつけたりすることもあります。
—歌詞の元となるような言葉やフレーズは、どんなときに思い浮かぶことが多いですか。
畠山 うーん、家にいるときが多いですかね。なるべくフィルターにかけず、そのまま書くことは意識しています。でも、歌詞よりメロディを作るほうが好きですね。歌詞は自分自身とすごく対峙しなければならないから……苦手。フッフッフ。
■エンジニアリングも自ら行うことの意味
—アーティストでもあり、エンジニアでもある小島さんが、レコーディングで目指したのはどんな音だったのでしょうか。
小島 専門のエンジニアの方はどちらかというと、はっきりした音を目指すことが多いと思うんですが、僕の場合は必ずしもそうじゃなくてもいいというか……。そもそもレコーディングも自分でやろうと思った動機は、悪い意味で緊張したくないから。リラックスした状態でありたいから、必然的に自分で録り始めたんです。そうすれば、心持ちの部分も含めてすべてコントロールできますからね。“いい音”で録れているかは分かりませんが、演奏に関しては納得できるものが残せているという気がします。
—なるほど。どんな心境でプレイできるかは、演奏に作用する要素として大きいと。
小島 そうですね。自由に時間を使ってレコーディングできる環境というのは、かつてはハードルが高かったんですよね。いまは機材の進化によって、やろうと思えば自分たちでもできるようになりました。昔に比べると、作り方は本当に自由ですよ。
—畠山さんのボーカル用のマイクは何をお使いですか。
小島 美由紀ちゃんの歌は初期の頃からずっとAKGのC12VRで録るのが定番となっています。
畠山 あのマイクには私も馴染みがありますね。
—ヘッドアンプは?
小島 最近、モバイルミキサーとして重宝しているのがSSL Sixなんですが、録りのヘッドアンプもこれを使っています。これとC12VRと例のフィルターがあれば、スタジオでの録音に近い音で録ることができます。ただ、もしかしたら、外から聞こえる鳥の鳴き声なども録音されているかもしれません。音楽を邪魔しなければ、別に入っていてもいいかなと思いましたので。
レコーディングからマスタリングまで、エンジニアとしても腕を振るったギタリストの小島大介さん
■音としての心地よさを感じるのはアナログとハイレゾ
—送り手にとって、作品がハイレゾで届けられることの良さはどうお感じですか。
小島 例えば、今回のアルバムは24bit/48kHzで録っていますが、CDになると16bit/44.1kHzにダウンコンバートされてしまうのはもったいないですよね。かといって、どこまでもスペックを上げればいいというものでもないとは思いますけれど。ただ、聴きやすい音ってレンジが広いですよね。アナログを聴いてもそう思うんですが、無理なレンジ感がない。その意味でも、ハイレゾは素直にありのままの音に近づいて行くような気がしていて。ストリーミングの狭いレンジも、ある意味では聴きやすいのかもしれないけれど、音としての心地よさ、肌触りの良さはアナログレコードやハイレゾのほうがあるんじゃないでしょうか。
畠山 私たちがスタジオで感じてる音そのものを共有できるのは、究極の夢だよね。同じものを感じ取っていただけるのは私たちも嬉しいですからね。
—では最後に、e-onkyo musicのリスナーへ向けて、メッセージをお願いします。
小島 今回、先ほどご紹介した美由紀ちゃんのマイクの真空管をヴィンテージものに替えてみたんです。するとやっぱり音がまた少しいい感じになりました。その質感もハイレゾでは十分に伝わると思います。ヒスノイズすら気持ちがいい! そんな空気感もあると思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいですね。
畠山 確かにハイレゾは音楽の繊細な部分もお届けできるので、安心感がありますね。私はラジオの番組でいろんな曲をオンエアしているのですが、今回のPortのアルバムをかけると、音の柔らかさに驚きます。かなり異色というか個性的なサウンドになっているのですが、それをハイレゾで聴くとどう感じるのか、私も楽しみです。
小島 ちなみにマスタリングでは音圧をあまり掛けませんでした。音圧を上げると音が固くなってしまうので、あえて抑えています。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテも、繊細な部分が飛んでしまうからと、マスタリングで音圧を上げることを嫌うアーティストの一人ですが、その気持ちは分かりますね。まぁ、そのあたりのこだわりも、もぜひ聴いてみてください。
●
実は2019年の暮れ、Port of Notesは新しいオリジナルアルバムの制作に向けてミーティングをスタートさせていた。曲も作り始め、参加ミュージシャンの顔ぶれなども見えてきた頃に押し寄せてきたのが新型コロナウイルスだった。スタッフを含め関係者の安全を考慮すると、アルバムの制作は一旦ストップせざるをえないと判断したという。
今回のセルフカバーが作られた背景には、そうした経緯もあったようだが、思わぬ形で過去の作品と向き合うことになったお二人のコメントに、妙な重苦しさはなく、むしろ清々しささえ感じられた。コロナ禍という特殊な状況で、あえて無理をせず、時間に追われることもない環境で甦った2021年バージョンは、ギターと歌(曲によって極めてシンプルなリズムのループも)、そして透明感のある残響音で構成され、曲自体が持つ魅力をストレートに伝えている。どこか静と動を思わせる小島大介、畠山美由紀というアーティストの微笑ましい対比を感じさせながら、ハイレゾの器いっぱいに広がる音楽の自由さが、この時期の耳に心地いい。
◎ライブ情報
“Port of Notes 『TWO』Release One Man Live”が開催!
日程:2021年7月30日(金)
会場:Billboard Live YOKOHAMA(横浜)
開場/開演時間:1st stage : open 14:30 / start 15:30,2nd stage : open 17:30 / start 18:30
出演:Port of Notes (畠山美由紀 Vo, 小島大介 Gt)、小池龍平 Gt / Cho
*ライブの詳細はこちらをご確認ください。
*その他のライブなど最新情報は、アルバムオフィシャルHPまで!
■関連作品
【News】
◆Onkyo Classic Series × Port of Notes
ダブルネームコラボレーショングッズが伊勢丹新宿店メンズ館ポップアップショップにて7/7から展示販売開始!
オンキヨーブランドの新しい商品シリーズ「Onkyo Classic Series」 第一弾となるBluetoothスピーカー内蔵ポータブルターンテーブル「OCP-01」が、本日7月7日から伊勢丹新宿店メンズ館1階のポップアップショップ、及び三越伊勢丹オンラインストアにて展示販売!
これを記念して、Onkyo Classic Series × Port of Notesのダブルネーム・コラボレーションが実現!オンキヨーのクラッシックロゴとPort of Notesのロゴがあしらわれた、レザーとビニール仕様の2種類のレコードバッグを展開!
<Onkyo /オンキヨー> MUSIC POP UP 開催概要
開催期間:2021年7月7日(水)〜7月20日(火)
開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 レザーグッズ(東京都新宿区新宿3-14-1)
<Onkyo/オンキヨー>が提案する新しい音楽との付き合い方。Port of NotesとBegin光木編集長と語る、ポータブルレコードプレーヤーのある生活とは