【6/11更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2021/06/11
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
チャック・マンジョーネ『Feels So Good』
高校時代、オーディオ・マニアだったクラスメイトのレコード所有数に驚いた話

チャック・マンジョーネの1977年作『Feels So Good』を聴くと、中学3年のときの吉祥寺を思い出します。たぶん、当時はあの街でもこのアルバムがよくかかっていたからなのでしょう。

受験間近なのにたいして勉強もせず、暇があれば吉祥寺を自転車で走りまわっていました。で、よさそうな喫茶店を見つけたら入ってみたりしていて、そんなお店で新しい音楽に触れたりもしていたわけ。

おそらく『Feels So Good』も、そんな折によく耳にしていたアルバムだったのだと思います。

チャック・マンジョーネは、フリューゲル・ホーンという(少なくとも当時は)あまり知られていなかった管楽器の奏者。ソロ・パートからスタートするこのタイトル・トラックがきっかけで、その柔らかな音色を知ったという方も多かったのではないでしょうか? 僕もそのひとりでした。

単発のフリューゲル・ホーンに、ギター、パーカッション、ベース、ドラムが次々と加わって心地よいグルーヴ感を生み出していくこの曲は、聴き手をまったく制限しない間口の広さが魅力。

ちょうど盛り上がりを見せていたクロスオーヴァー/フュージョン・シーンの勢いを象徴する作品であるだけに、大ヒットしたことにも充分納得できます。全米ポップ・アルバム・チャートで2位まで上がったので、さすがにすごいことだなぁと驚いたものですが。

そんな『Feels So Good』を、先日ずいぶんひさしぶりに聴いてみました。

なにしろタイトル曲のインパクトが強すぎたので、「他の楽曲はあまり印象にないんじゃないかな?」と思ったりもしながら。

でも結果的には、メロウネスが心地よい2曲目の「Maui-Waui」、2分ちょっとしかないのに圧倒的なインパクトを投げかける「The from “Side Street”」などもしっかり記憶に残っていたのでした。

ちなみにLPではここまでがA面だったのですけれど、B面1曲目の「Hide & Seek(Ready for Not Here I Here)の安定感や、「Last Dance」の哀愁、最終曲「The XIth Commandment」の印象的なメロディーラインと、後半も印象的。

総じて非常にクオリティーの高い作品であり、あれだけ売れた理由は、リリースから45年くらい経ったいまでも明確に理解できます。

しかも、ハイレゾで聴きなおすと各楽器の位置がはっきりわかり、立体感が際立つんですよね。

当時から音のいいアルバムだというイメージがあったんですけど、その持ち味がさらに引き立つような感じ。つまりは、オーディオ特性がいいということです。

で、そんなことを考えていたら数十年ぶりに思い出したのが、高校3年のとき後ろの席にいたW林という男のことでした。

銀縁メガネをかけた、三多摩のバカ学校には似つかわしくないほどインテリ風のルックスをしていた男。実際にはインテリっぽく見えるだけでなかなかバカであり、そこが魅力でもあったのですが、ともあれ気が合ったのでよく話をしていたわけです。

W林はオーディオ・マニアで、アルバイトで得たお金の大半を機材につぎ込んでいました。僕もオーディオは好きでしたが、高い機材など買えるはずもなかったので、ちょっとうらやましく感じていたものです。

でも、やつの興味は僕と少し違っていました。スピーカー出力をマイク測定したりとか、そういうことを熱心にやっていたのです。大ざっぱな僕に、あれはちょっとわからなかったなー。

そんなW林は、よく『Feels So Good』のことを話していました。もしかしたら、このアルバムをオーディオ・チェックに使っていたのかもしれません。知らんけど。

いずれにしても、音楽の趣味は合いそうなので、あるとき聞いてみたのでした。

「で、レコード何枚ぐらい持ってんの」
「5枚かな」
「……え、5枚?」

チャック・マンジョーネが好きだというくらいですからフュージョンのレコードをたくさん持っているのかもしれないと思い、そんな答えに期待していたのです。が、まさかの5枚とは。

つまり彼にとってはいちばん重要なのがオーディオで、音楽はその次だったわけです。

音楽を聴くためにオーディオはあるのですから、なんとなく矛盾している気もします。けれど、そういうところも憎めないなぁと感じたのは、純粋にあいつが“いいやつ”だったからなのでしょう。

いまごろ、どうしてるんだろう?

ハイレゾにハマっている可能性も低くないと思うのだけど、この連載を見ていてくれたりしないかなぁ。



『Feels So Good』
Chuck Mangione



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【6/8更新】デレク・アンド・ザ・ドミノス『いとしのレイラ』
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【6/1更新】クイーン『Sheer Heart Attack』
大ヒット「キラー・クイーン」を生み、世界的な成功へのきっかけともなったサード・アルバム。

【5/25更新】ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『Live!』
「レゲエ」という音楽を世界的に知らしめることになった、鮮度抜群のライヴ・アルバム

【5/18更新】イーグルス『One of These Nights』
名曲「Take It To The Limit」を収録した、『Hotel California』前年発表の名作

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【5/6更新】スティーヴィー・ワンダー『トーキング・ブック』
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印南敦史 プロフィール

 

印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)ほか著書多数。12月14日発売の最新刊は『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)。6月8日「書評執筆本数日本一」に認定。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。


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