【第2弾】ワーナーミュージック音源から麻倉怜士が厳選した「スーパースターの名演奏・名録音」

2021/02/19

オーディオファンから絶対的な支持を得るオーディオ評論家、麻倉怜士のセレクト企画。今回は、ワーナークラシックスが世界に誇る豊富なカタログから「スーパースターの名演奏・名録音」と題して珠玉の作品をセレクト。「躍動と豊潤のヘルベルト・フォン・カラヤン」、「伝説の巨魁指揮者、オットー・クレンペラー」、「夭折の天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ」、「偉大なヴァイオリニスト、イツァーク・パールマン」、「躍進のルノー・カピュソン」の5つのテーマに沿ってピックアップ。是非この機会に、オーディオファン必聴のハイクオリティな音と超一流の演奏をご堪能ください。


 ワーナー・クラシックスには、イギリスのEMI(1931年~2012年)、ドイツのTeldec(1950年~2001年)、フランスのErato Disque(1953年~、休眠を挟んで現在は活動中という)20世紀のヨーロッパの名門レーベルが蝟集している。さらに「ライジングスター」という新人発掘、プロモーション活動も積極的に行っているのも注目だ。

 e-onkyo musicには、ワーナー・クラシックスの無数のハイレゾアルバムが上がっているが、あまりに数が多すぎ、何から聴けばよいかが、なかなか分からないだろう。そこで、これから私がセレクトした名アルバムを、①永遠の名演奏・名録音、②スーパースターの名演奏・名録音、③生誕250周年ベートーヴェン名演奏・名録音、④躍進のライジングスターの名演奏・名録音---と、4回に渡ってご紹介しよう。

麻倉怜士

期間:2021年2月19日~3月18日

対象:本ページで掲載のアルバム



■躍動と豊潤のヘルベルト・フォン・カラヤン


 カラヤンの5種類あるベルリン・フィルとの「新世界」のうち、1957年11月録音版。2度目の録音だ。ひじょうにしっかりと方向感。明晰な音色感、こってりとした弦の表情……まさにカラヤン流の大向こうを張った十八番のドボルザークだ。音場の透明感が高く、ベルリン・フィル的な高密度感、音の塊感と同時に解像感も高い。55年にベルリン・フィルの芸術監督に就任し、いよいよ世界制覇に立ち上がった躍進カラヤンを象徴する熱いドボルザークだ。

 この演奏は冒頭からオーケストレーション的な、そしてオーディオ的な聴きどころ満載だ。始まりのチェロが歌いかけるレガートな旋律はビオラとコントラバスを伴い、右側から発せられる。第3小節でクラリネットとファゴットがPPで静かなファンファーレを中央奥で奏す。第4小節はホルンのヴィブラートが空気に波を立たせる。その余韻がどのように音場に広がるか(左奥から発せられ、響きとして手前中央に向かう)。
  このように弱音にて低弦と木管、金管の対比を鮮やかに演出したドボルザークのオーケストレーションが、カラヤンの演奏では、貴重なオーディオ試聴音源となる。第3楽章が始まって1:40の中間部のペンタトーン旋律のフルートの美しさ、第4楽章冒頭のホルンの堂々たる倍音感も、まさにハイレゾの醍醐味だ。1957年11月、ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音。オーケストラはベルリン・フィル。



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 カラヤンの「展覧会の絵」には56年のフィルハーモニア管と66年のベルリンフィルと、2種のセッション録音がある。これは56年版だ。華麗でゴージャス、ラベルの色彩的なオーケストレーションの狙い通りの満艦飾のキラキラ輝く「展覧会」。美の演出家たるカラヤンのまさに面目躍如。各テーマでの語り口の旨さ、美麗な演出が楽しめる。音の美が塊になって迫ってくる感覚が快感的だ。解像度的にはすべてが見えるのでなく、音を凝縮したようなマッシブ感が、時代を反映している。「ヴィドロ」のチューバの音程がわずかに低い。1956年6月、ロンドンのキングズウェイ・ホールで録音。オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団。



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 最近の筋肉質のピリオド的なモーツァルトとは、まったく違う、ゴージャスで大編成、美麗なモーツァルトだ。輪郭感と緊張感のピリオド奏法もよいが、そればかり聴いていると、何か精神的に圧迫感を感じることも。たまには、シット・バック・リラックスにてゆったりとした気分で、豊潤で艶々としたサウンドの古典派を聴きたくなる。
  それならカラヤン/ベルリン・フィルの「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」で決まりだ。大編成で、響きの倍音感も豊かだ。内声部もしっかりと再現され、厚い絹の感覚。ここでも色濃くカラヤンの美学が味わえる。グロッシーな音色のカラヤン・ビューティが横溢するロマンティックなモーツァルトだ。オーケストラはベルリン・フィル(1958年1月、1959年7月、1960年6月、ベルリン・グリューネヴァルト教会で録音)。フィルハーモニア管弦楽団(1955年7月,ウィーンのムジークフェライン・ザールで録音)



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 華麗でゴージャス、まさに天馬、宙を駆けるがごときの、爆発的にブリリアントなレスピーギ「ローマの松」。1958年の録音だから、カラヤン50歳。まさに油の乗りきった壮年指揮者ならではの躍動と生命力だ。フィルハーモニア管弦楽団の鳴りっぷりは堂々とし、快速、鮮明さはまさに快刀乱麻。ドラマティックで大向こうを意識した見栄こそ、まさにカラヤン節だ。アッピア街道の金管の進軍の大迫力には驚嘆。ベルリオーズ「ローマの謝肉祭」も躍動感に満つる。冒頭の重いがキレが鮮鋭な表現はさすがはカラヤン。アンサンブルの中での主旋律のフューチャー感も、演出性に満つ。
  音質もたいへん良い。古い録音であることを完全に忘れさせてくれる鮮明な音。音場の見通しがクリヤーで、一音一音に力が籠もっている。アナログ的なグロッシーな質感は当時の貴重な音質遺産だ。オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団。1958年1月、ロンドン・キングズウェイ・ホールで録音。



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 このLPはかつての私の愛聴盤だった。新宿の中古レコードで求めて、当時(今でもそうだが)、オペラのバレエ音楽が大好きな私は、すぐに家に帰って、貪るように聴いた記憶がある。当時の、ビクターのアンサンブルステレオというレコードプレーヤー、アンプ、スピーカーまで一体になった手軽な装置で聴いても、素晴らしい音だった。
  今回、アビイ・ロード・スタジオにてオリジナルマスター・テープから24bit/96khzへリマスタリングを施した音で聴いて、かつての感動が倍旧で甦った。颯爽としてエモーショナル、歌いが濃く、推進力が強く、躍動的……と、まさにカラヤンの十八番だ。ボキャブラリーの多さ、語り口の巧さには感動すら覚える。後年にベルリン・フィルとのシンフォニックな再録もあるが、フィルハーモニア管弦楽団とのみずみずしさと、溌剌な音楽づくりは、永遠に賞される。1960年4月、ロンドン・キングズウェイ・ホールで録音。



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■伝説の巨魁指揮者、オットー・クレンペラー


 モノラル録音。本「ジュピター」はあまりに演奏的な凝縮感が凄まじく、2本のステレオスピーカーの中央のセンターファントムであっても、まるで、1本のモノラルスピーカーの実物音を聴いているような錯覚にとらわれる。モーツァルトの築いた大音楽を大スケールで雄渾に描く、まさにクレンペラーならではのワン・アンド・オンリーの大伽藍だ。骨格感がひじょうに重厚で構成も明確、推進力が強靭。
  音の輪郭がくっきりと刻まれるので、モノラルのセンター音場ながら、各パート、各楽器の描写は、鮮鋭感が高い。主役の弦ばかりか、その旋律に和声とオブリガードを与える木管も明瞭だ。オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団。1954年10、11月、ロンドン・キングズウェイ・ホールで録音。



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 悠々たるテンポで、一歩一歩、固い道を踏みしめ、さらに踏み固めていくとような、巨魁なベートーヴェンだ。音も刮目。1957年の録音が信じられないほど、リマスタリングによって、新鮮にヴィヴットに甦った。音場がクリヤーに見渡せ、手前に弦、その後ろに木管、さらに後ろに金管、次ぎに合唱……という奥行き配置も明確だ。弦は倍音まできれいに再現されている。個個のパート、楽器の解像度が高い。
 こうした音のクリヤーさは、特にベートーヴェン作品のように、ハーモニーが強固に構築された音楽を分析的に聴くのに好都合だ。バスとチェロを左側に配し、ヴァイオリンを左右に振り分けた対向配置のなかで、内声部の絡み合い、第1、第2ヴァイオリンの掛け合い、対旋律のスリリングを堪能。第4楽章、チェロとコントラバスの否定旋律が、左から出るのも音場の昂奮。
  「喜びの歌」は、いかに本録音が優れているかのショールームだ。静かに奏でられる部分では左の低弦、中央のビオラ、その奥のファゴットの対旋律がクリヤーに分離して聴け、ひとつひとつ音が刻明な全合奏では、クレンペラーの崇高な芸術の細部までスポットライトを当てて鑑賞できる。オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団。1957年10月、11月 ロンドンはキングズウェイ・ホールで録音。



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 20世紀の大巨匠、クレンペラーはマーラーを特別に尊敬していた。22歳の時、マーラーは自作の交響曲第2番『復活』をクレンペラーがピアノ版に編曲した楽譜を見て、感心。プラハのドイツ歌劇場への推薦状を書き、クレンペラーは見事、その地位を獲得したというエピソードがある。そんなクレンペラーが振るマーラーは遅いテンポにて、表現と表情が緻密で濃密だ。今の時代では考えられない、音符を一つ一つ噛みしめた深みと暖かみを持った演奏だ。
 第1楽章冒頭の鈴のゆったりとしたテンポ、フルートの美しくも、深い響き、第1ヴァイオリンが一音一音を表情づけ、ホルンが悠然と始まる……。ソロヴァイオリンやソロホルン、ソロフルートの夢見るような濃い表情、第2楽章の弦のポルタメントの色気も絶品だ。 ハイレゾへのリマスタリングも演奏の深い意味合いを活かしたもの。明瞭度が高く、空気感も濃い、手前の弦だけでなく、奥に居る木管、金管が距離感を持ちながら、でもひじょうに透明度が高い。音の重なりもクリヤーだ。第2楽章のソロヴァイオリンの浮かび上がり方も華麗だ。第4楽章、エリーザベト・シュヴァルツコップのソプラノはまことに神々しい。
キングズウェイ・ホールの響きは暖かい。オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団。1961年10月6-8, 10&25日、録音。



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 古典の中核レパートリーだけでなく、現代作曲家も積極的に紹介したクレンペラー。その代表作だ。「小さな三文音楽」(「三文オペラ」からの管楽オーケストラのための組曲)はクレンペラーから委嘱されたクルト・ヴァイルが劇音楽から抜粋してピアノ、打楽器と吹奏楽用の組曲として編曲したもの。広く、深い音場に、木管、金管が散在して展開、サクソフォン、ミュート付きトランペットが、モダーンな音色を華麗に聴かせる。クレンペラーがこうした小品に愛着を持っていたことが、愉しく聴き取れる。
  録音も優れ、ピアノを含む多彩な楽器の音色をクリヤーに聴ける。5曲目「Tango-Ballade」の右側のサクソフォーンは、セクシーだ。左のパーカッションと右のサクソフォーン、そしてミュート付きトランペットが、佳い味を醸し出している。自作「メリー・ワルツ」のラブリーなウィーン小節も素敵。オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団。1961年10月31日、12月2日、ロンドンのキングズウェイ・ホールで録音、


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 1964年の録音だが、今なお新鮮で、みずみずしい音調に驚かされた。弦は濡れ、柔らかな色気を発し、木管は心地好く上質に奏される。高域が伸びやかで、倍音が音場に舞うのが見えるようだ。歌手たちの声もしっとりとし、艶艶している。クレンペラーは、堂々とした地歩の上に、しっかりとした構築性を聴かせる。大衆演劇の愉しさと、音楽的な水準の高さが同居するプロダクションだ。ニコライ・ゲッダのタミーノ、グンドゥラ・ヤノヴィッツのパミーナ、ルチア・ポップの夜の女王、ヴァルター・ベリーのパパゲーノと、演者は超一流。末端でも第1侍女にエリザベート・シュワルツコップ、第2侍女にクリスタ・ルートヴィッヒと、豪華すぎるキャスティングだ。
 なかでも当時、24歳のデビュー間もないルチア・ポップの「夜の女王のアリア」は圧倒的に素晴らしい。第1幕「ああ、恐れおののかなくてもよいのです、わが子よ!」の麗しさ、気品とグロッシーさ。第2幕の「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」の艶と潤い、若きアイドル的な清涼な色気も感じられた。高音のつきぬけ感がクリヤーにして、音程は完璧だ。安定し、まったく危なげがない。神々しいオーラが音像の背後から発せられる、史上最高の夜の女王ではないか。オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団。1961年3月、4月、ロンドンのキングズウェイ・ホールで録音。



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■夭折の天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ


 23歳のジャクリーヌ・デュ・プレ、26歳のバレンボイムの若きコンビによる歴史的な超名演。濃厚なロマンの香りを振りまくシューマンの名コンチェルトを、触ると火傷しそうな熱量でエモーショナルに聴かせる。明るさの中に暗さを持ち、暗さの中に希望を湛える、不思議な魅力のこの曲をジャクリーヌ・デュ・プレは、繊細で、かつ剛毅な複線的表現で見事に描く。ロマン的な抒情表現も麗しい。ダニエル・バレンボイム/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の緻密な"伴走"も聴きどころだ。音はアナログ的に中域のエネルギー感が濃く、骨格がしっかり締まったなかにも、しなやかな輝きがある。チェロの音像も明確だ。1968年4月、5月、9月、ロンドンのアビー・ロードスタジオの第1スタジオで録音。


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  ダニエル・バレンボイム&シカゴ交響楽団が、ヴィヴットで溌剌としたシンフォニックなサウンドを聴かせるなかで、3:40から衝撃的に入るジャクリーヌ・デュ・プレの堂々たる、剛毅で大器量のチェロ。一音一音に深い感情が籠もり、フレーズの表情の濃さは比類ない。大胆なヴィブラートが空気を激しく震わす。壮大なスケール感、繊細な情感、そして劇的な歌いが融合した、世紀の名演奏だ。
  センターに大きな音像でチェロが位置し、深い奥行き感を持ったオーケストラが背後を固める。どちらも主張が強靱なので音楽的な張り合いが面白い。音調はアナログ的な剛性感が強い、凝縮感の強いリジッドなサウンドだ。アナログ時代の名演奏がハイレゾで甦った典型だ。1970年11月、シカゴ、メディナ・テンプルで録音。



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 エルガーのチェロ協奏曲といえば、このジャクリーヌ・デュ・プレのアルバムが歴史的な定番だ。この曲が持っている悲劇的で、メランコックな激しい感情をジャクリーヌほど、ストレートに表現した演奏は他にない。彼女の悲劇的な生涯と二重写しだ。どこまでも深く沈殿する、悠然たる哀しみの大河を漕ぎ渡るような慟哭の響きだ。しかもこの演奏は彼女が20歳の時のもの。いかに早熟の天才であったが分かる。ジョン・バルビローリ/ロンドン交響楽団もジャクリーヌの音楽の方向性を理解し、暖かく包容する。
  このハイレゾは、彼女の熱き感情がそのまま音となってダイレクトに届く。S/Nがよく、オーケストラの音場の見通しもクリヤーだ。チェロはセンターにしっかりとした音像を持ち安定的に定位している。1965年8月、ロンドン キングウェーホールで録音。


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■偉大なヴァイオリニスト、イツァーク・パールマン


 メンデルスゾーンもブルッフも、永遠の定番的演奏だ。悠々としたテンポで堂々と、そして優美に始まるメンデルスゾーン。情緒てんめんたる、余りの美音に酔いしれ、ホ短調の典雅なロマンにたっぷり浸る。ブルッフも第2楽章の2:30からの美旋律に深く耽溺する。 パールマンの美はハイレゾでさらに磨かれた。どこまでも艶やかで、音の表面がキラキラ輝いている。オーケストラはピラミッド的なスケール感で、安定した豊かな低音楽器の上に、中高音楽器が乗る。音場は左右スピーカー一杯に広く、奥行き感も豊か。パールマンの協奏曲録音でも特に優れた音。まるで現代録音のようなヌケのよさだ。伴奏のアンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団プロパーではホルスト「惑星」が抜群に高音質だが、それと同じ70年代前半の録音であることも、優秀さの秘密だろう。1972年11月録音。


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 シベリウスはパールマン二度目の録音。冒頭のかそけき弱音の調べを聴くだけで一挙に、北欧の凍れる大地の冷たい景色が目に浮かぶ。イマジネーション豊かな音だ。音場に広く展開するオーケストラを背景にして、適切な音像サイズのヴァイオリンが浮かぶ。音色は透明度が高く、清涼なフィール。まさに北欧のクールビューティを体感。ハイレゾは音楽を皮膚感覚で聴けるという好例だ。1979年の録音。



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 サラサーテ、ハイフェッツ、フランチェスカッティ……のヴィルトゥオーゾ達がヴァイオリン用に編曲したスパニッシュピース集。パールマンはこってりと、粘っこく、情熱的に、朗々としたハイテンションな響きで奏する。サミュエル・サンダースのピアノはパールマンを立てるが、自らの存在感も十分に聴かせる。
  透明感が高く、ワイドレンジな現代的な音だ。ヴァイオリンもビアノも音場の中央に大きな音像で定位。ヴァイオリンは立体的にボディ感を持つ音像として描かれ、鮮明な音色と会わせて、まるで眼前にパールマンが居るような錯覚を受けるほどだ。ヴァイオリンが主役だが、ピアノも明確な音像を持つ。1978年、録音。



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 イツァーク・パールマンによるアンコール集。すべらかで耳に優しい名技。大曲ばかりか、小曲でも決して手を抜かない、誠実で真摯なピース演奏は贅沢な贈りものだ。クライスラー:『プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロ』の堂々たる威風、ハイム:『ユダヤの子守歌』の優しい目配り、ヴィエニアフスキ:『華麗なるポロネーズ第1番ニ長調Op.4』の絢爛さ、ドビュッシー(ハルトマン編):『亜麻色の髪の乙女』の夢見るようなファンタジー、タルティーニ(クライスラー編):『コレルリの主題による変奏曲』の構造的な様式の美……。
  70年代の録音であり、レンジ感は時代的だが、響きの質はとてもよい。特に『ヴァルレ(ハイフェッツ編):『たき火のそばで』は、音像が明確で、細部の表情まで的確に捉えられている。1972&1978年録音。



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■躍進のルノー・カピュソン


 バッハとラトビアの現代作曲家ペトリス・ヴァスクスの二人を収載した、コンセプチュアルなアルバム。ルノー・カプソンが初めてヴァイオリンソロと指揮を受け持ったレコーディングだ。
 躍動感と生命力に溢れた喜悦的なバッハだ。ホ長調コンチェルトでは音が弾み、明確なコントラストと輪郭感が際立つ。爽快、快速の進行感で、バッハってこんなにヴィヴットだったのかと再発見する。音調は実に細やかで軽やか。音が発せられたとたんに細かな音粒子が乱舞する。しっかりと安定した低域の上に、稠密な名人芸が展開される。気心の識れたヨーロッパ室内管弦楽団も、ソロヴァイオリンに寄り添った爽快な前進力を聴かせる。ピリオド的な過度な神経質さはまったくなく、音楽の節回しに沿ったナチュラルな喜びがある。イ短調コンチェルトも悲愴感というより、短調ならではのロマンティシズムが感じられる。
  音質は最近の録音らしく解像度が高く、音像も音場も見通しがクリヤーだ。精細さから、剛毅なフォルテまでワイドレンジなバッハだ。



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 堂々と量感たっぷりに、しかもカラフルに奏される「スペイン交響曲」。ルノー・カピュソンのヴァイオリンは繊細にして明晰、そして歌心が深い。ヤルヴィも「交響曲」という標題をしっかりと受け止め、強固にして細部まで目の行き届いた構築力を聴かせる。アンサンブルも濃密だ。「チゴイネルワイゼン」は土着的ではなく、スマートにハイセンスに歌い上げる。中間部のポルタメントもさわやかだ。ロマンの香りが濃厚なブルッフのヴァイオリン協奏曲も、感情を耽溺するほど露わにせず、美しく端正に聴かせる。
  ピラミッド的な雄大な低域にして音調もクリヤーだ。当時、新設になったフィルハーモニー・ド・パリでの録音だが、響きが上質で、量も多すぎない。ホールの録音なので、細部まで徹底的に細かく描写するという方向ではなく、マッシブな響きを主体に、繊細な音色が加わる。2015年5月27,28日(ブルッフ)、9月1,2日(ラロ、サラサーテ)、フィルハーモニー・ド・パリで録音。

 

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 馴染んだ映画音楽もルノー・カピュソンの手に掛かると、上質なクラシックピースになる。 「ニュー・シネマ・パラダイス」では情感豊かなシーンの数々が思わず目に浮かんでくる。ルノー・カピュソンは、エンリオ・モリコーネのこの名曲に深く共感して演奏しているに違いないと思わせられる、慈しみながら紡がれる旋律の美しいこと。レガートな運指が本曲の世界観を表しているようだ。
  「ザ・ミッション」からのエンリオ・モリコーネ作の「ガブリエルのオーボエ」も、麗しさとロマンティックさと豊かな情感が心に染みいる。センターにヴァイオリンが適切な音像で位置し、奥まったところにオーケストラが居る。空間感が暖かい、豊かなハイレゾだ。2018年6月11-15日、ブリュッセルのフラジェホールで録音。



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 ヴァイオリニストの兄、ルノーと弟でチェリストのゴーティエ・カピュソンが、ウィーン・フィルの第2ヴァイオリンのクリストフ・コンツ、ヴィオラのジェラール・コセ、カヴァティーヌ四重奏団のマリー・シレム、そして、ハーゲン弦楽四重奏団の創立者のチェロのクレメンス・ハーゲンと合奏した、2016年エクサンプロヴァンス音楽祭でのライヴ録音。室内楽の名手たちのブラームスだ。
 「みずみずしい!」の一言。第2楽章ニ短調の憂いのバリューションは厳しくも、慈愛に満ちた調べが、心に染み入る。第3楽章の弾み感に満ちたヴィヴットさ、第4楽章の暖かさ、優しげな表情も素敵だ。
  音は目が覚めるような鮮明さ。透明感が高く、些細な表情変化も的確に捉えている。ライブ収録だが、オンマイクで明瞭だ。冒頭、演奏が始まる直前の息を吸い込むようなノイズまで、刻明に捉えられている。拍手も入っているが、これはあまり鮮明ではない。舞台の上の演奏に意識を集中して録音したことがわかる。2016年3月、エクサンプロヴァンス音楽祭、ダリウス・ミヨー音楽院で録音。


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