オーケストラ曲「葉の調べ」、バイノーラル立体音響作品「森の詩」やNHKテーマ曲集など、数多くのハイレゾ作品をリリースしている作曲家、五木田岳彦の2021年の新作は、箏とヴァイオリンのために書き下ろしたアコースティック作品。
和楽器と洋楽器のデュエットが織りなすサウンドは、両者が主役となって双方の魅力を引き出し合い、たった二人のみの演奏とは思えないほどの迫力を響かせる。
■スペシャル・インタヴュー with 五木田岳彦
作品の制作やレコーディングについて、五木田岳彦さんにお話をお伺いしました。
――今回の作品は、どのような作品なのでしょうか?
五木田 今回は箏とヴァイオリンの2つの楽器だけの音色を使った作品を作ってみました。どちらがメロディでどちらが伴奏、となってしまわないように、2つの主役が駆け引きし絡み合うようなイメージで作曲をしました。
「冬美瑛」は、まさに北海道の美瑛町の雪景色をイメージしながら作った曲。あたり一面真っ白に染まった白銀の大地。箏が醸し出す反復音が冬の厳しさを表現し、風が吹くようなヴァイオリンの音色は張りつめた緊張感とともに凛とした美しさを感じさせます。
「雪と兎」は、これも雪で覆われた北の大地の情景ですが、真っ白な雪の中に足跡を残しながら遊んでいるかのように駆けてゆく白兎の様子をイメージしました。可愛らしく、少しコミカルにも見えるその姿の中に、小さな体で大自然の中で生き抜いていく緊張感や厳しさ、またその孤独感も表現しています。
演奏は「ことより」(箏:伊藤江里菜、ヴァイオリン:大岩沙彩)というユニットです。正確かつ色彩豊かな、とてもレベルの高い演奏をしてくれました。ヴァイオリンと箏のサウンドは普段あまり聴くチャンスのない組み合わせだと思いますが、2人の息のあった演奏によって、とても自然にその音色が調和しています。
――作曲からレコーディングまでの制作について教えてください。
五木田 作曲に関しては、西洋の楽器のみに作曲するのと比べて、今回は箏のために書くことによって使える音階が限られています。限られた音しか使えないことが、曲のユニークさにもつながっていると思います。
この作品は2人の呼吸を合わせるのがとても重要なため、実際のレコーディングの前に度重なるリハーサルを重ねて、練習を積んだ上でレコーディングに挑んでもらいました。
マイクは、ヴァイオリンはNeumannのヴィンテージ・チューブ・マイクを数本使用しています(M269他)。それに対して、箏はリボン・マイクをメイン・マイクとし、他にB&K4003(STEREO)も使用しています。
マスター音源は、KORG NU-1及び、RME ADI-2 Pro等を使用し、DSD11.2 MHz、また24bit352.8Kで制作されています。
――今後のリリースについて教えてください。
五木田 まず今回、冬をイメージした作品ということで「冬美瑛」、「雪と兎」の2作品をリリースしましたが、引き続き箏とヴァイオリンの曲を何作かリリースする予定です。
また、レコーディングを控えた曲もありますので、今後のリリースにも注目していていただけたらと思います。
――本日はありがとうございました。
■五木田岳彦 プロフィール
アメリカのニューイングランド音楽院作曲科卒業。ハーバード大学大学院作曲科を優待奨学生(全授業料免除)として卒業、博士号取得。ハーバード大学で教鞭をとる。数多くの作品がカーネギー・ホール、ボストン・シンフォニー・ホール、リンカーン・センター、アスペン音楽祭、イースタン音楽祭など全米各地で初演される。ボストン公共ラジオ局に作曲家として出演多数。読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、またアメリカのPro Arte室内管弦楽団などのオーケストラや室内楽団が作品を演奏。またウォルト・ディズニー、映画音楽制作、またミュージカル、ダンスパフォーマンスの作曲など、アメリカと日本を拠点にジャンルを超えて活動。?ボストンにて行われた皇太子御成婚の祝賀コンサートで作品が演奏され、その模様がNHKニュース7で放送される。?日本では、NHK「クローズアップ現代」、「時論公論」、NHK国際放送「NEWSLINE」、NHKスペシャル「映像の戦後60年」、「赤い翼」他、多くのNHK番組の音楽や「デジタルモンスター」、「妖怪人間ベム」等のアニメの音楽を作曲。音楽を担当したNHKスペシャル「激流中国」は、イタリア賞をはじめ世界各国の国際コンクールで最優秀賞を受賞。?NHK音楽集「地空風人」(キングレコード)、現代フルート曲集「Incantation」(VAI)をはじめ、多くのCD、DVDがメジャーレーベルより発売。
◎五木田岳彦 オフィシャルHP
■ことより (箏:伊藤江里菜、ヴァイオリン:大岩沙彩) プロフィール
伊藤江里菜 Erina Ito (KOTO)
東京都大田区出身
東京藝術大学音楽学部邦楽科生田流箏曲専攻卒業。
箏三絃教室「江里菜会」主宰。
10歳より箏・三絃・十七絃を大師範深海さとみに師事。
独奏からアンサンブルまで幅広く箏の魅力を伝えるため国内外で活動。これまで、韓国・中国・ジョージアなど海外での文化交流事業にも積極的に参加している。近年では、和楽器だけでなく、落語、洋楽器など表現のフィールドをまたいで共演することで箏の可能性を広げる活動を行なっている。
大岩沙彩 Saya Oiwa(violin)
愛知県豊橋市出身
桐朋学園大学音楽学部弦楽器専攻卒業。 和波孝禧氏に師事し、室内楽を学ぶ。
クラシックの学びを軸に、舞台音楽や劇伴、ジャズグループへの加入などジャンルを超えた演奏活動を重ねる。
現在、演奏家の枠を超えて楽曲アレンジ、作曲を行う。海外文化交流事業での邦楽器の音色に魅了され、以後、和洋の伝統楽器を合わせた音色の魅力を届ける活動に注力している。
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