連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第83回

2020/11/06
『On Vacation』 Till Brönner, BOB JAMES
~名プレイヤーたちによる名演は、もちろんハイレゾで聴きたい!~
■ハイレゾで聴く理由

最近は、定額音楽配信サービス(以下、サブスク)とイヤホンで音楽を聴いているだけで、かなり高い満足度を得ている自分に驚かされます。つい数年前までは、月に3万円くらいはCD盤購入費用に使っていたのに・・・今では年間でも数枚しかCDを買わなくなりました。音楽リスニング欲を満たしてくれるサブスクのパワーには、改めて感動です。

では全てがサブスクで満足できるかというと、100%入れ替わることは絶対にありません。ポイントは音質です。仕事でもプライベートでも、私の環境では音質重視で聴くシーンが存在します。そういった場合のサブスク音源は、圧倒的に信頼度に欠けるためです。例えば音質で気になるところに気付いたとき、それが機器によるものか、アクセサリーによるものか、セッティングの不備なのか。原因がサブスク圧縮による音楽情報の欠落であったのなら、原因を導き出す道のりに迷いが生じてしまうでしょう。

ハイレゾ配信サブスクになったとしても、私の不安は拭えません。デジタルではハイレゾ・データが流れてくるものの、DAコンバーターでデジタルをアナログに変換するまでに、音質劣化の原因と成り得る要因が山のように存在するためです。ダウンロードしたハイレゾ音源。異常なまでに細かく気にする私にとって、これがギリギリの妥協点です。

つまり、音と対峙して聴くときの音源は、どうしてもハイレゾ音源が必要。ハイレゾの魅力を20kHz以上の超高域データに求める説が一般的ですが、個人的にはどうでも良い話なのです。私にとってのハイレゾ音源の魅力は、音楽制作現場そのままのデータで音楽を楽しめるところ。それに尽きます。

このところ 「ハイレゾは音質的に意味がない」 的な発言を目にする機会が多くありました。厳しい言い方をすれば、CD規格までの魅力しか引き出せないシステム (機器だけでなくセッティング技術を含む) では、ハイレゾを聴いてもCDと音質が変わらないのは当然です。ハイレゾの上位の音質が存在するか否かという質問なら、間違いなくハイレゾ優位のサウンドは存在すると断言できます。実際、私が過去に開催してきたハイレゾ・イベントでは、参加者の皆さん全てにハイレゾ音源とCDの音質差を確認していただきました。ご自身の実験でハイレゾの音の良さが分からなかったなら、それは耳の良し悪しではなく、原因は別に存在するということです。もちろん、ハイレゾ音源という大きなククリでは音質がピンきりですので、比較試聴するなら本連載のバックナンバーをご参照ください。

私がハイレゾで音楽を聴く理由。それは音楽を記録したデータだけでも、100%の信頼が欲しいためなのかもしれません。音楽を自分のハートでキャッチするまで、なんと様々なハードルがあることか。ほんの些細なことでも、音楽の魅力が欠落して伝達されていきます。せめてオーディオのスタート地点である音源だけでも、アーティストの想い100%の記録からスタートしたいというのは、無類の音楽好きとして当然の欲求なのです。


■美しい演奏を美しい録音で聴けるハイレゾの幸せ! 
 
オーディオ製品開発時の全神経を集中したリスニングにも、プライベートで音楽を真剣に聴きたいときにも、必要不可欠なハイレゾ音源。その中でも太鼓判を押せるハイレゾ作品に出会うのは困難を極めます。ですが、音楽との出会いは、なぜか運命的。今回ご紹介するハイレゾ音源は、e-onkyoのS氏からの情報でした。「今日から配信がスタートしましたTill Bronner&Bob Jamesのアルバムが素晴らしいです。」とのメールがあったので、すぐさまチェック。いやはや、間違いなしの素敵なメロディーが、最高の音質で楽しめる超上物ハイレゾ音源ではないですか、これ!



それにしても、素敵なジャケット・デザイン。魚屋さんには目利きが存在するらしいですが、名盤もジャケットから発する不思議なオーラを感じるものです。ボブ・ジェームス氏の名がクレジットされていることからも、この魅力的なジャケットからも、聴く前から太鼓判ハイレゾ音源になりそうな予感が。

ボブ・ジェームス氏の名前をチェックしただけで、前情報を入れずに試聴開始。1曲目が鳴り出すと同時に完全にノックアウト。それにしても凄いドラムだなと思い、急ぎミュージシャン・クレジットを確認すると、納得のハーヴィー・メイソン氏の名前を発見。ハーヴィー・メイソン氏のグルーヴが素晴らしいのはもちろん、シンバル系の音色にカーンではなくクァ~ン♪という真鍮の鈍い金色の光沢を感じるのに加え、スティックの木質感まであるのはハイレゾならではないでしょうか。サブスクや従来のCD規格では、ここまで深い音色再現は困難でした。嬉しいことに、本作の半分以上のドラムがハーヴィー・メイソン氏のプレイです。

オーディオ的な聴き方をするなら、5曲目「September Morn」がお薦め。効果音っぽく雨の音から始まるのですが、これが平面的に聴こえるようではセッティングの追い込みがまだまだな証拠でしょう。音の位置情報として前後感をチェックしてみてください。雨の音は音楽よりもはるか後方に定位し、ピアノやフリューゲルホルンはリスニング席側に飛び出して感じるのが正解です。

ティル・ブレナー氏のトランペットが良い音で記録されているのにもハイレゾの恩恵を感じます。トランペットは位相再現が難しく、他の楽器は立体的に聴こえるのにトランペットだけ逆相とまではいかないにしても、薄味に感じる録音が多数あるものです。本作が瑞々しいトランペットやフリューゲルホルンの音色が堪能できます。ティル・ブレナー氏の歌が2曲くらい収録されていますが、こちらは好みが分かれるところ。私は歌よりもトランペットとフリューゲルホルンにティル・ブレナー氏の魅力を感じました。

なんといっても、大好きなボブ・ジェームス氏のピアノが本作の大収穫。キラキラと輝くピアノの美しさは、ボブ・ジェームス氏の独壇場。陰か陽かといえば、間違いなく陽のサウンドのピアノです。ピアノのサウンドステージも広大で、部屋いっぱいに美音の余韻が響き渡ります。

ボトムがしっかりしており、美しいピラミッドバランスの録音。分厚い低域がどっしりと支えているからこそ、ピアノやトランペットが輝くというもの。エンジニア・クレジットをチェックしましたが、どうもヨーロッパ系のお名前でしたので、アメリカ系録音ではないのでしょうか? 日本の緻密な音作りとはまた一味違う、優秀録音作品だと思います。

なぜ自分で新譜チェックをしたときは見逃してしまったのか、不思議なくらいにハートを鷲掴みされた太鼓判ハイレゾ音源でした。e-onkyoのS氏に感謝です!





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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
<第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~
<第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~
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<第50回>マイケル聴くなら、これだ!~ 圧倒的なグルーヴ、疾走感、そして驚くほど広大なサウンドステージ。
<第51回>ハイレゾとCD規格を比較するなら、これだ!~ ダイレクト2ch同時録音が生んだ、世界に誇れるハイレゾ音源
<第52回>ピアノのライブを聴くなら、これだ!~ 強烈なグルーブと音楽エネルギーで、目の前にピアノが出現する ~
<第53回>『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』~ 試聴テストに最適なハイレゾ音源は、これだ! ~
<番外編>『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』を、イベントで実際に聴いてみた!
<第54回>最新ロサンゼルス録音ハイレゾを聴くなら、これだ! ~『22 South Bound』『23 West Bound』~
<第55回>『Franck, Poulenc & Strohl: Cello Sonatas』Edgar Moreau~ エドガー・モローのチェロに酔うなら、これだ! ~
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<第60回>『Laidback2018』、『Call me』~ OTOTEN 2018トークイベントは満員御礼! ~ たくさんのご来場、ありがとうございました!
<第61回>『B'Ridge』B'Ridge~佐山雅弘氏のピアノと、新リズム隊の強烈グルーヴ!
<第62回>『音楽境地 ~奇跡のJAZZ FUSION NIGHT~ Vol.2』 村上“ポンタ”秀一~限りなくライブそのままのハイレゾ音源! ~
<第63回>『la RiSCOPERTA』 KAN~補正に頼らぬ精密なパフォーマンスが素晴らしい、歌とピアノと弦楽四重奏!~~
<第64回>~イベントで聴いた、今一番熱い高音質ハイレゾ音源はこれだ!!~
<第65回>~二人の巨匠が強烈グルーヴする、NY録音の低音ハイレゾ決定版!~
<第66回>~音楽愛あふれる丁寧な仕事で蘇る、奇跡の歌声! ~
<第67回>『SLIT』 安部恭弘~80年代シティポップの名盤が、まさかのハイレゾ化! ~
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<第70回>『Don't Smoke In Bed』 ホリー・コール・トリオ~オーディオ御用達盤のDSDハイレゾ化は買いだ! ~
<第71回>『Double Vision (2019 Remastered)』 Bob James, David Sanborn~あの音ヌケの良い高音質アルバムの音を、ハイレゾで更に超える! ~
<第72回>『Across The Stars』アンネ=ゾフィー・ムター, ロサンゼルス・レコーディング・アーツ・オーケストラ, ジョン・ウィリアムズ ~個人的ベスト・ハイレゾ2019の最有力候補はこれだ!~
<第73回>『Spectrum』 上原ひろみ~このピアノ、あなたのシステムは鳴らしきれるか!~
<第74回>『COMPLETE SOLO PIANO WORKS I』 和泉宏隆~素敵なメロディーたちを、美音のピアノで聴くハイレゾ!~
<第75回>拡大版!神保 彰『26th Street NY Duo』&『27th Avenue LA Trio』インタヴュー
<第76回>『Time Remembered』 須川崇志バンクシアトリオ~ハイレゾのデモに最適なピアノトリオはこれだ!~
<第77回>『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』 MISIA~七色の声とゴージャス・バンドをハイレゾで!~
<第78回>『From This Place』 Pat Metheny~巨匠テッド・ジェンセン氏のマスタリングが冴える!~
<第79回>『Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio』 井筒香奈江~超特殊な録音による、現時点での音質の最高到達点!~
<第80回>『ゴールデンマスク』 広瀬未来 ~ジャケット良し、サウンド良しのオススメ日本ジャズ盤!~
<第81回>『FRONTIERS』 葉加瀬太郎~ クラシックをポップスのように聴けるハイレゾ音源はこれだ!~


 

筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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