セレクターズ・チョイス--ロック/ポップス10月新譜 by 片寄明人(GREAT3)

2020/11/02

音楽のプロによるセレクトで、新譜を中心にご紹介するコーナー「セレクターズ・チョイス」。それぞれのジャンルに精通したセレクターの審美眼にかなった作品をご紹介いたします。ここでは、GREAT3のヴォーカル&ギターを担当し、70’s 80’s洋楽の専門番組、NHK-FM「洋楽グロリアスデイズ」のDJを担当する片寄明人氏がロック/ポップ、ソウル/R&Bをメインにご紹介いたします。



e-onkyo musicのニューリリースを聴きまくり、半年の間、おすすめ作品を紹介してきたこのコーナー、いよいよ最終回です。


まず紹介するのは、カナダのシンガーソングライター、アフィー・ジャーヴァネンのソロ・プロジェクト、バハマスの新作「Sad Hunk」です。ジャック・ジョンソンのレーベル、Brushfire Recordsからのリリースで、欧米ではその名も引き合いに出されることがあるようですが、それよりも同郷で交流があるという、ファイスト、ブロークン・ソーシャルシーン、オールウェイズ、らに近い資質があるミュージシャンです。あたたかくファットなリズムに、センス抜群な彼のギターが絡み、オーセンティックで気の効いた歌メロを彩る、実にシンプルなサウンド。60’s~70’sの音楽が持っていたメロディーやサウンドをモダンに聴かせる才能に長けています。ソウル、カントリー、スワンプにルーツを持った小気味よいプレイを洒脱に聴かせるギター・センスは、日本だとペトロールズの長岡亮介氏にも通ずる素晴らしい才能です。


Sad Hunk』/Bahamas



アメリカ・インディアナ出身、メキシコ人の両親を持つシンガーソングライター/ プロデューサー、オマー・アポロの新作「Apolonio」もよく聴いている1枚。カリ・ウチスやルエルも参加して、チカーノ・スウィート・ソウルなマナーがサイケデリックに歪んで生まれたR&Bとでも呼びたくなる、摩訶不思議な魅力をもった音楽です。スライ・ストーン・チックなM9「The Two of Us」のサウンド・デザインが斬新です。

Apolonio』/Omar Apollo



イギリスのシンガーソングライター、ケイティ・メルアの新作「Album No.8」も、ミニー・リパートン「Les Fleurs」を彷彿とさせるブルージーでフォーキーな幕開けから心惹かれます。結婚生活にピリオドを打ったばかりだという彼女が綴ったこのアルバムは、なんともいえない曇り空のようなムードが全篇に漂い、翳りと憂いに満ちたメロディー、美しく深みのある歌声に引き込まれます。その静謐な世界により深く浸るためにも、ハイレゾで聴くのがふさわしいアルバムです。


Album No. 8』/Katie Melua



イギリスからは今年の頭に出した新作も全英No.1を記録したマンチェスターのバンド、ブロッサムズがロックダウン中に隔離セッションでレコーディングした、テーム・インパラ「The Less I Know The Bette」、ザ・ビートルズ「Paperback Writer」、ザ・コーラル「Dreaming of You」などのカバー集「In Isolation」と、ライブ・アルバム「Live from the Plaza Theatre, Stockport」のカップリングも好盤でした。イアン・ブラウンが惚れ込んで、ザ・ストーン・ローゼズ再結成ライブのサポートを依頼したのも納得のポップネスが堪能できます。



キャリア・ミュージシャンの新作では、ブルース・スプリングスティーン「Letter To You」がダントツの傑作です。久々に長年の相棒、Eストリート・バンドを迎えてライブ・レコーディングした感動のニュー・アルバム。「明日なき暴走」「ザ・リバー」といった初期の名盤に劣らぬソングライティング、まったく衰えを感じさせない71歳の歌声に胸が熱くなりました。名匠ボブ・クリアマウンテンのミックスも素晴らしく、混迷の季節に戸惑う多くの人に力を与えてくれる、本物のロック・アルバムです。


Letter To You』/Bruce Springsteen



ネオアコ〜ブリット・ポップを思わせるデンマークのミュージシャン、ジェプセンのアルバム「En Helt Almindelig Da」も気になりました。まったく情報がなかったので調べてみたところ、キム・ラーセンのマネージャーをはじめ、長年裏方として、音楽業界で働いてきた後に、なんと52歳でデビューしたシンガーソングライターでした。哀愁を帯びたアコギのアルペジオと、素朴なメロディーに心打たれる冒頭のナンバーをぜひ聴いてみてください。

En Helt Almindelig Dag』/JEPPESEN



誕生日が5月23日の自分は「23」という数字に愛着を持っているんですが、何か数秘術的な意味が「23」にはあるのでしょうか、たまにアルバム・タイトルや曲名で見かけることがあります。メキシコ系アメリカ人でネイティヴ・アメリカンの血も引くラッパー、リルブーティコールの新作タイトルも「23」。いじめられっ子だった自分を「永遠の部外者」だったと形容する彼のセンチメンタルでメロウなトラックがたまりません。


23』/Lilbootycall



アメリカ、シカゴからは、二十歳の注目プロデューサー、ウィーサンが初のアルバム「Fantasy」をリリース。テーム・インパラやマック・デマルコが好きだという彼のセンスが炸裂した、さすがの仕上がりです。カリフォルニアの鬼才、オリバー・ツリーをフィーチャーしたM2、ドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンドの名曲「Sunshower」をザ・ノックスとダンサブルに仕上げたM6が出色の出来です。


Fantasy』/Whethan



アメリカ、ナッシュビルのバンド、ベッチャの新EP「FEELS LIKE WE'VE BEEN HERE BEFORE」は、メランコリックでスケールの大きなグッド・メロディーの宝庫。圧の強さを感じるサウンド・プロダクションは、あまり好みでないのですが、メロの良さには抗えません。


Feels Like We've Been Here Before
Betcha



その他、シングルで大好きだったナンバーも挙げておきましょう。

英国を代表するシンガーソングライターのひとり、クリス・レアは1978年から1984年までのシングルA面、B面、さらにレア曲を集めたコンピレーションを11月に発表予定ですが、そこから先行リリースされた「Urban Samurai」が最高です。「サムライ〜♬」と歌うサビ、グニャっと感覚が曲がるようなコード進行、バレアリックなムードにとろけそうになる1983年の知られざる名曲です。

インドネシアのインディー・ポップ・ミュージシャン、マニー・ルーンの新曲「Jubilee」も極上のメロウ・チューン。本日(2020年10月29日)の段階でYouTubeのMV再生回数はわずか719回ですが、実にいい曲です。カップリングのインスト・ヴァージョンもずっと聴いていたくなる心地良さ。

イギリス、サウス・ロンドンの若きラッパー、マスター・ピースの新曲「Eyes On You」もヘビー・ローテーションしています。ネットで検索するとアーハの「Take On Me」にラップを載せていたり、この曲や既発シングルのギターに妙にザ・スミス感があったりと、なんとも気になるニューカマーです。



旧譜関係のニューリリースでは、自分がDJを担当するNHK-FM「洋楽グロリアスデイズ」によくゲストで登場してくれる音楽評論家、伊藤政則さんに影響され、ここ数年聴きはじめたAC/DCの名盤群がハイレゾで登場。一から勉強させて頂いております。



グレイトフル・デッドの名盤「American Beauty」のデモ音源、残された別テイクを満載した「American Beauty: The Angels Share 」も、ファン驚愕の代物です。あれは1993年頃でしたでしょうか、髙嶋政宏さんに「TV番組でグレイトフル・デッドをカバーしたいから、一緒に演奏してくれないか」と声をかけられ、彼のご自宅で、このアルバムの「Box Of Rain」を練習し、TVで披露したことを急に思い出しました。あれは楽しかったな。



「残された別テイク」といえば、ジム・モリソン晩年の輝きを堪能できるドアーズの「Morrison Hotel」50周年アニバーサリー・デラックス・エディションにも満載です。まるでレコーディング・スタジオに立ち会って、曲が完成する過程を垣間見ているかのような興奮を味わえます。


Morrison Hotel (50th Anniversary Deluxe Edition)
The Doors



秋の夜長に最高の音質で素敵な音楽を楽しみましょう!







片寄明人(かたよせ あきと)

GREAT3のボーカル&ギター。妻のショコラとのデュオ、Chocolat & Akitoとしても活動中。最新作はGREAT3「愛の関係」、Chocolat & Akito「Chocolat & Akito meets The Mattson 2」。

また音楽プロデューサーとして、DAOKO、TENDOUJI、SHE IS SUMMER、The Wisely Brothers、フジファブリック、など多くのアーティストの作品に参加している。

NHK-FM、毎週日曜16時の70’s 80’s洋楽専門番組「洋楽グロリアスデイズ」DJも担当中。

オフィシャルサイト

 

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