“スクエア”往年の人気曲をセルフカバー! キーボーディスト河野啓三が在籍する最後のアルバム『Crème de la Crème』が完成

2020/10/28

近年のT-SQUAREサウンドを支えたキーボーディストの河野啓三さん。46枚目のアルバム『HORIZON』のレコーディング直前の2019年2月に脳出血のため緊急入院するも、年末のライブには大病を乗り越えた勇姿を披露してくれました。しかし今年8月には、さらなるリハビリに励むため、バンドから退くことを公式に発表……。そうした中、往年の“スクエア”を代表する名曲の数々をセルフカバーした最新作『Crème de la Crème』(クレム・デュ・ラ・クレム)が完成。「Takarajima」、「Omens Of Love」、「TRUTH」などの人気曲を含む9曲が、2020年仕様のT-SQUAREサウンドで甦りました。e-onkyo musicは、本作のリアレンジを中心的に担った河野さん、そしてバンドリーダーの安藤正容(まさひろ)さんのお二人にリモートでインタビュー。この度の決断に至る経緯、そしてニューアルバムに込められた想いや聴きどころなどを存分に語っていただきました。

取材・文◎山本 昇

 

Crème de la Crème』/T-SQUARE





■名曲たちに新しい命を吹き込んだ最新のセルフカバー


--昨年2月、河野さんの「脳出血のため緊急入院」の報は非常にショッキングなものでしたが、その後、リハビリを経てライブに出演されるほど回復されたことに多くのファンが安堵しました。現在のご体調はいかがでしょうか。

河野 退院から1年以上が経ち、現状での生活にも慣れつつあります。

--そして、今年8月に発表された「退団」のお知らせはまた、ファンには衝撃的なことでした。そう決断されたときの心境をお聞きしてもよろしいですか。

河野 はい。脳出血の麻痺が残り、左手や左足が動かない状態なのですが、昨年の暮れには神戸と東京のライブに復帰することができました。右手は自由に動くので、キーボードの演奏もある程度はできるのですが、個々の楽器の高い演奏力をステージで見せることがT-SQUAREの売りの一つでもある中で、どうしても演奏力は以前よりも下がってしまいます。また、周りに面倒をかけてしまう懸念もぬぐいきれません。そうしたことから、ここは一旦バンドを退いて、どこまでできるかは分かりませんが、しっかりとリハビリを行ない、より良い状態になることを目指すことにしました。

--安藤さんはそうした河野さんのご決断を、どのように受け止められたのでしょうか。

安藤 今回の決断に至るまでには、さまざまな経緯がありました。いろいろなやり方があると思ったので、僕としてはすごく引き留めたんです。ただ、実際に活動するとなれば、海外でのライブもありますし、いろんなことを考えると体力的につらい部分もあるでしょう。そうした実情を踏まえて、河野君が自ら下した決断は尊重されるべきだと思いました。

--そうした中で届けられた今回のセルフカバーによるニューアルバム『Crème de la Crème』は、ファンにとっては思わぬ贈り物となりました。

安藤 元はプロデューサーから提案された企画でしたが、もちろん、メンバーが賛成したのは自然な流れでした。今年は6月にニューアルバム『AI Factory』が出て、7月には昨年のブルーノート東京でのライブを収めた映像作品も出ました。コロナ禍でコンサートも思うようにできない時期だからこそ、作ったものをファンの方々に聴いたり観たりしてもらうのはありなのかなと。「ちょっとアイテム出し過ぎじゃない?」って感じはあるかもしれませんが(笑)、皆さんに喜んでいただければ本望です。

河野 僕がグループを去ることの区切りとして、こうしたアルバムの制作をプレゼントしてくださったことは本当に嬉しいことで、身に余る想いでした。

--数あるレパートリーの中から、この9曲はどのようにして選ばれたのでしょうか。

河野 選曲は事務所の意見も参考に行なわれました。1曲目の「NEXT2020」は坂東慧さんが選んだものですね。




インタビューに応えてくれた河野啓三さん(上)と安藤正容さん。写真はいずれも本作のレコーディングから



--「Takarajima」、「Omens Of Love」、そして「TRUTH」といった人気曲もありながら、全体としてはアップテンポのものからバラードまで、バランスよく選ばれたラインアップとなっていますね。

安藤 「さすがに、またやるの?」って曲もありますが(笑)。僕が今のベストを編成するとしたら、最近の曲の中から選ぶかなぁと思ったりもしたんですけれど。だからというか、実は今回のレコーディングはけっこう苦労しましたね。アレンジを担当した河野君も大変だったと思います。“スクエア”のコアなファンには原曲のイメージが強すぎるので、これまでも変えすぎて失敗したりしているし……。

河野 ハハハハハ。

安藤 かといってそのままじゃ芸がない。ものすごく微妙なところなんですが、今回は河野君が上手くアレンジしたなと思いますよ。おかげで、やってるほうはちょっと新鮮な気持ちになれました。「昔とは違っていい音で録れているでしょ?」という部分もありますしね。自分としても成長できている部分を確認しながらレコーディングしました。ただ、やはり原曲の持つ強さというのは確固としてあるので、伊東(たけし)さんもそのあたりはかなり苦労していましたね。「これをいまさらどう変えたらいいんだろう?」というところはあったと思います。

--確かに、セルフを含めてカバーにはオリジナルに対してどうなのかと問われるのは宿命かもしれませんが、新しいバージョンを聴きたいというファンもいるはずで。

安藤 そうなんですよ。まさにそのあたりを河野君が上手くアレンジしてくれたんですね。ほかのメンバーも、新しく命を吹き込めたかなと思っています。ファンの皆さんに馴染みの曲も、「おっ、これは新鮮だね」と、いい形で聴いてもらえるような気がしています。

■アレンジのアプローチと方向性

--では河野さんは、各曲のアレンジをどのようなアプローチで進めていったのでしょうか。

河野 選曲された9曲は、どれもTHE SQUARE、そしてT-SQUAREを代表するものだと思います。もちろん、「All About You」や「It's Magic」など、ここにない代表曲もたくさんありますけどね。僕自身、かつてはファンの一人だったのでよく分かるのですが、聴き手からすれば曲を普通に聴ければ十分に満足できるわけです。リアレンジすることに力み過ぎて、奇をてらうようなことをするのはあまり必要ではないのかなと。とにかくこれらの名曲たちの魅力をそのままに、「いいメロディだな」「いいリズムだね」と、聴き手に素直に届くようにしたいと考えました。曲によっては、アレンジ自体をさほど変えなかったものも何曲かあります。そうすることで、サポートの二人を含めた今のメンバーによって展開される楽しいセッションを、それぞれの曲に閉じ込められたと思います。

--音作りや演奏の面でこだわったところ、あるいは特に聴きどころと思うのはどの部分でしょう?

河野 今回のアレンジは僕が一人ですべてを行なったわけではなく、メンバー全員のアイデアも反映されています。例えば、ドラムの坂東さんはいくつかの曲でパーカッションを入れています。それが実に巧みでいいんですよ。パーカッションは僕も打ち込みで入れることはありますが、坂東さんのは実際にドラムパッドを叩いて入力したもの。しかも、彼のドラムとは違ったニュアンスとなっていて、別の人格がそこにいるというか、もう一人の奏者が参加しているようなカラーリングになっているんです。今度は僕がそれに対してどんな楽器の音色を選んでいこうかと、想像力をすごく膨らませてくれました。

--坂東慧さんのパーカッションが聴けるのはどの曲ですか。

河野 「NEXT2020」と「Takarajima」、「Dans Sa Chambre」、「Unexpected Lover」、「Crown And Roses」、「Forgotten Saga」ですね。原曲との違いがいちばん分かるのは「Takarajima」でしょう。異国情緒あふれるパーカッション・アレンジが利いていて、ブラジルのようでもあり、キューバのようでもあり、両方の要素をパーカッションが同時に表現しているという非常に面白いアレンジとなっています。

--河野さんが全体的なアレンジを描いているからか、非常に個性的なラインアップであるのにアルバムとしての統一感もあるようです。

河野 まぁでも、T-SQUAREはレコーディングの過程でもメンバーがそれぞれのアイデアを出し合うことがよくあるバンドなんです。今回もそういう場面がたくさんありました。みんなであれこれ言いながら作るのはすごく楽しいことですね。例えば「Takarajima」では、「メロディの部分をピアノのアレンジにしてみようか」という話になって、サポートで参加してくれた白井アキトさんに弾いてもらったり。結局、それは最終の形にはなりませんでしたが、T-SQUAREのメンバーはそういうトライを時間が許す限りやろうとする人たちなんですよ。

--通常、T-SQUAREでは作曲者がアレンジについても責任を持つと言われていますが、実際にはスタジオでのそうしたヘッドアレンジも生かされているわけですね。

河野 もちろん、アレンジ面の最終的な判断は作曲者に委ねられていますが、途中の過程ではみんなが自由にアイデアを出し合うという作業があります。近年になってその傾向はますます強くなっている気がしますね。それはもういろんなことをみんなで言いながら(笑)、ここ10年くらいはそういうシーンが多かったと思います。

--特徴的なキメの部分をどうするかなど、全体的なアレンジの方向として心がけたことは他にもありましたか。

河野 曲を印象付けているような外せないパーツは基本的に残すようにしました。変えすぎてしまうと、最初に聴いたときには面白いと感じるかもしれませんが、長く聴き続けていくと「原曲のほうがいいかな」と思われる場合が少なくないんです。セルフカバーは特にそうなのかもしれません。仮に、T-SQUARE以外の音楽家であれば、曲の捉え方も変わるからいくらでもリアレンジを利かせることができる。でも、同じミュージシャンが演奏する場合は極端に変えてしまうとしっくりこないこともあるんですね。あまり曲に無理をかけたくないという想いもあって……。取り上げたのはどれも、ライブで演奏する機会も多い曲ですが、今のメンバーが無理なく普通に演奏しているのならそれでいいんだという感覚で作業していました。

--そのようにして行なわれた今回のレコーディング。河野さんはどうお聴きになりましたか。

河野 もちろん演奏自体も素晴らしいのですが、端的に言って、とにかく音がいいんですよね。すごくいいのが録れたなというのがいちばんの感想でした。ドラムもサックスも、ギターやベースもすごくいい。ジャズやフュージョンにとっては演奏自体も大切ですが、それぞれの楽器の音色の良さも重要だということを再確認させられたレコーディングでもありました。

--楽器の出音がそもそも良かったと。

河野 そうなんです。とにかく楽器の音をしっかりと鳴らすテクニックがすごいんです。生楽器を扱う皆さんのスキルの高さをあらためて実感しました。


河野啓三さんを囲んで。後列左から田中晋吾さん、安藤正容さん、白井アキトさん、伊東たけしさん、坂東慧さん



■メンバーそれぞれの演奏を聴いて

--メンバー個々の演奏はいかがでしたか。

河野 白井アキトさんは頭抜けて高い演奏スキルを持つキーボーディストで、また非常にユニークな音楽表現をする人です。そんな白井さんの音楽性をフィーチャーできるようにしたかったので、「Dans Sa Chambre 」ではピアノソロを全面的に弾いてもらいました。また、「Faces」の間奏で、原曲には存在しないシンセソロの掛け合いを僕と白井さんで弾いているのですが、ここでの白井さんのソロはとてもハイパーな感じで(笑)、曲が持つ戦闘的な部分をより強く現しています。「Takarajima」も同じく白井さんと僕のソロが入っています。僕とはタイプの違うキーボーディストですが、鍵盤ファンの一人として、彼の演奏を聴いているだけでも満足できるレコーディングでした。

--河野さんのソロは、その他にはどの曲で聴けますか。

河野 ソロはすべて白井さんに弾いてもらおうかと思ったのですが、現時点では僕がメンバーとして参加する最後のアルバムとなりますので、自分も何か弾かなくてはという使命感のもと(笑)、「Dans Sa Chambre 」以外の曲のピアノソロ、シンセソロはすべて僕が演奏しています。印象的だったのは、「Forgotten Saga」で弾いたアコースティックピアノですね。グランドピアノでの録音は数年ぶりで緊張もしましたが、今の自分らしい演奏はできたかなと思っています。

--伊東たけしさんのサックスやウィンド・シンセはいかがでしたか。

河野 まず、サックスでは音色や細かいピッチ感によるニュアンスなどはそうとう研究されているようで、伊東さんは毎年進化していてびっくりします。そのあたりのこだわりというか、ミュージシャンとしての探求心はものすごく高いものがあると思います。アンサンブルの中で、自分がどういう音色やニュアンスで吹くべきかを、かなりシビアに考えていらっしゃるのでしょう。伊東さんはシャイな方なので、口に出して説明することはありませんが、そのようなちょっとした新しい変化が曲全体に作用して、すごく気持ちよく聴けるんですね。一言で言うと、すごく上品なサックスというか、品のある音楽表現をされる方で、その技術も歳を重ねるごとに磨きがかっていると思います。
 ウィンド・シンセについては、伊東さんは近年、昔のEWI(イーウィ)を使っています。EWI 1000と呼ばれるモデルをいくつか持っていて、それを吹き分けています。音源はアナログシンセなので、デジタルシンセとは違う温かみがありますね。ちょっとしたブレスの使い方でフィルターの開き具合をコントロールしているのですが、その音の変化が本当になめらかで。伊東さんはEWIやLyricon(リリコン)を長く演奏しているので体の一部のようになっていて、そういう細かいコントロールも当たり前のようにこなしています。本当にすごいことだと思いますね。

--坂東慧さんのドラムについてはいかがでしょう?

河野 ずっと一緒に活動してきたので、僕にとっては当たり前のようになってしまっていますが、あらためて聴くと、彼のドラミングのスキルの高さもやはり頭抜けていますね。演奏技術のレベルが高いことはもちろん、フォローする音楽のジャンルも幅広いですし、それぞれの曲に対する理解力や表現力も圧倒的に優れています。バラードならバラードで引き出しがいっぱいあって、アップテンポのナンバーでも曲ごとに世界観を変えて違ったカラーを演出できるんです。そういう表現力の高さが今回もしっかり出ていると思います。

--ベースの田中晋吾さんは?

河野 田中晋吾さんは、一言で言うと外国人ですね(笑)。第一印象はとにかく格好いいベーシストだなというものでした。非常にセンスが良くて要領がいい。「この音いいでしょ?」という感じで実に格好いい音を奏でるんですが、そこに持っていくまでの勘が冴えているというか。研究熱心には見えないんですけど(笑)、いい音に対する感覚が優れているんですよね。

安藤 フフフフ。

河野 演奏も同じで、格好いいプレイの勘どころを本能的に知っている感じなんですよ。練習して磨き上げたとは思えないふしがあって。そこら辺が外国人っぽいというか、勤勉な日本人のようなタイプではないんですね。遊び心もあって、そこがまた彼の魅力です。僕が思うに、T-SQUARE歴代のベーシストの中で、最も手数の多いのが田中さんです。ゴーストノートとか、細かい演奏の処理も多くて非常に面白いですね。まぁ、誤魔化すのもすごく上手ですよ(笑)。間違えても間違えたように聴かせないテクニックが頭抜けている。愛すべき音楽家だと思います。

--せっかくですので、安藤正容さんのギターについてもぜひコメントを。

安藤 それは言いにくいよね(笑)。

河野 やはり僕にとっては安藤さんの音こそ“スクエア”だと捉えています。それほどに、安藤さんのギター表現はブランド化された存在だと思うんです。活動を共にしていると、楽器や機材をよく変える人という印象があるんですが(笑)、しかしその都度、素晴らしい音を出すのはさすがです。とにかく、圧倒的に音がいいんですよ。僕もこれまでにいろんなギタリストとご一緒する機会がありましたが、安藤さんほど音色がしっかりした人はなかなかいませんでした。そして、あの冷静沈着な演奏スタイル(笑)。常に完璧な演奏をするギタリストだなと思っています。ただ、僕がT-SQUAREに入る前、外から見た感じでは完璧主義なのかなという印象があったのですが、実際はそうでもなく、わりと穏やかに音楽をする方で、そこは入ったときに少し驚いた部分でした。でも、安藤さんの音楽に対する誠実な姿勢は見習わなくてはならないところだといつも思っています。

--なるほど。では、今回のレコーディングでのギターの印象は?

河野 もちろん素晴らしかったのですが、今回のレコーディングでいちばん大変だったのは安藤さんだったと思います。これらの曲を誰よりもたくさん演奏してきた安藤さんだからこそ、「今までとは違った何かを表現しなければ」という想いもあったでしょう。その中で、「2020年の今というときに演奏するならこうだ」という確固たる答がどの曲にもしっかりと表れています。
 そして、聴いていて気付いたのは、いい意味で無理をしていないということでしょうか。適度な脱力感というか、力を抜くべきところはちゃんと抜いて、それが聴き手に優しく届く。そこが素晴らしいと思いました。一生懸命すぎる音楽は、聴き手にはちょっと疲れちゃいますよね。それは、音楽に詳しくない人でも、本能的に察知するものです。そのあたりの力の抜き具合がいいバランス感覚に繋がっているんですね。
 また、この感覚は多分、レコーディングセッションでもメンバー間で共有されていたと思うんですよ。がむしゃらに演奏しないところが実は良かったりするという。それは坂東さんのドラムもそうだったと思います。彼の演奏を見ていて、しゃかりきになっている様子は感じられません。もちろん、すごいハイパーなことをやっている瞬間はあるんですが、そんな瞬間でさえ、80%くらいの力の入り具合となっていて、それが最終的に曲の豊かさに繋がっている。僕にはそんなふうに聞こえます。

--「適度な脱力感」というあたり、安藤さんはどう意識されていたのでしょうか。

安藤 いや、今の話は初耳で、本人はわりと必死でやってるんですけどね(笑)。ただ、僕が演奏するソロパートはだいたい曲の真ん中あたりに出てくるんですが、僕のイメージとして「ここが出番だ」というよりは、大切なパートとして「この曲の魅力をさらにキャッチしなきゃいけないぞ」という気持ちが必ず湧いてくるんです。与えられた16小節がすごくチャーミングなポイントになって、その曲をさらに引き立てたいというのはいつも思っています。自分の演奏技術も披露したいけれど、それだけではだめなのであって、曲を引き立たせるパートでありたい。それは間奏でも後奏でも、なんでもそうだと思うんですよ。もちろんスリリングな部分も大事ですけど、僕らはジャズバンドではないので、キャッチーなものがそこに欲しいなといつも思っています。

--ソロパートの中に、曲全体の良さが凝縮されているというような。

安藤 そうですね。例えば、ビリー・ジョエルの「素顔のままで(原題:Just the Way You Are)」でフィル・ウッズがサックスを吹いていますが、あらかじめ譜面を書いてきたのかなと思うくらいメロディックなソロを聴かせていますね。この曲にとって、彼のパートはまさに欠かせないものになっている。なんか、そういう奏者でいられたらいいなと思うんですよね。

■「河野君がいなければ“スクエア”はとっくに終わっていた」

--サポートから始まり、20年に及んだT-SQUAREでの活動は、河野さんにとってどんな歳月でしたか。

河野 2000年にサポートで参加したときは29歳でしたが、今となっては音楽生活の2/3はT-SQUAREと共に過ごしてきたことになります。T-SQUAREに加入する以前、さまざまなコンテストやオーディションを受けてもご縁がなく、仕事にはあまり恵まれてきませんでした。そんな僕が唯一通ったオーディションがT-SQUAREです。本当に嬉しかったですし、そのときは“スクエア”でキーボードを弾くために音楽を続けてきたんだと思ったほどで、それまでの悔しい想いを全部取り返すくらいの喜びがありました。そして、ここ10年くらいは自分のライフワークだと思っていましたし、一生“スクエア”と一緒に音楽をやっていくんだという覚悟もありました。音楽人生のすべてではないかもしれませんが、自分にとっていちばん大きな部分が“スクエア”であることは間違いありません。今回、病気という形でバンドを離れることになってしまい、悔しい気持ちでいっぱいではあるのですが、これまで本当に充実した時間を過ごすことができたと思っています。安藤さんをはじめメンバーの皆さん、スタッフの皆さんには感謝しかありません。

--河野さんのバンドでの役割、パフォーマンスを安藤さんはどう感じていましたか。

安藤 河野君のアレンジは独特で。ギターに対するいじめじゃないかなというのもよくありました(笑)。

河野 ……(笑)。

安藤 振り返ってみると、“スクエア”はメンバーチェンジがいろいろあったバンドで、河野君が入ったのは僕と伊東さんのユニットとしてやっていた時代でした。曲はだいたい僕が書いていたんですけども、アルバム全曲を作るのはなかなかつらいものがあって……。あのままユニットで行ってたら、“スクエア”はとっくに終わっていたと思うんですよ。そこに河野君が入ってきて、坂東君とも出会って、再びバンドスタイルに戻って、二人にも曲を書いてもらうことで続けられたというのはありますね。中でも、ファンの間ですごく人気があったのは河野君の曲でした。河野君が持っているポップな部分は、今までの“スクエア”と通ずるものがあり、それがファンの方たちに受け入れられたということですね。河野君が加入してくれたからここまでやってこられたんだと、僕は今でも思っています。だから、これからも河野君には曲をいっぱい書いてほしいんです。
 ただ、僕がギターのパートについて文句を言うので、最近は河野君も「伴奏はお任せします」というのが増えてきて(笑)。以前は難しいことが譜面にびっしりと書かれていて、なんとか頑張って弾きこなしたかと思ったら「じゃあ、それをもう一度ダビングさせてください」とか言われて「えー!?」っていうのもよくありましたけどね(笑)。

--厳しいですねぇ。

安藤 そうなんですよ。曲やアレンジが本当に独特で、普通の人が思い付かないような譜割りを持って来たりするんです。昨年の『HORIZON』のレコーディングでフィリップ・セスに代役で参加してもらったときも、河野君の曲をフィリップが弾けなくて、「ここはちょっとこういうふうに変えていい?」とか。彼の中にはないリズムのパターンだったりしたようで、てこずっている場面がありましたね。

--ところで、今作のCDには河野さんがT-SQUAREに残した曲とソロアルバム『Dreams』から厳選された『河野啓三WORKS』(*)も収録されていますね。

河野 『河野啓三WORKS』の収録曲はスタッフのアイデアも参考に、半分以上は僕が選曲しました。基本的には近年のT-SQUAREがライブで演奏する機会の多い曲から、人気がある曲もしくは人気があるであろう曲?(笑)を選んでいます。先ほど安藤さんにおっしゃっていただいたような、ポップな要素の多い曲を集めています。ただ、「Future Maze」は僕がメンバーとして初めて曲を書いた2004年の『GROOVE GLOBE』に収録されているものですが、我ながら尖っているというか、攻撃的な要素が強くて、今となっては珍しいタイプの曲調だと思います。

*ハイレゾ版にはこの音源は収録されておりません



--それでは、e-onkyo musicリスナーを含め、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

安藤 冒頭にもお話ししましたように、最初はこれらの曲をまた録るのは厳しいかなとも思ったのですが、実際にやってみたら、結果的に前向きというか、とても楽しくいい演奏ができました。“スクエア”のコアなファンの皆さんにも絶対に楽しんでいただけると思います。そんなリメイクの部分をぜひ聴いてみてください。

河野 このアルバムにはTHE SQUAREとT-SQUAREの名曲中の名曲が9曲揃っています。それぞれの良さが皆さんにしっかり届くといいなと思っています。レコーディングは96kHz/24bitで行なっていますが、ハイレゾの高いスペックは、音としては検知できない高域も含めて自然な音を楽しんでいただくための重要な要素になっています。特に僕らのようなインストゥルメンタルな音楽では、楽器の響きがよりリアルに再現できると思います。そうした特性は意識しなくても、知らず知らずのうちに、心地よさに繋がっているはずですので、この豊かな音楽をどんな形でも楽しんでいただけると嬉しいですね。

--お二人とも、今日はありがとうございました。



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