越境するヴァイオリニスト、石川綾子が最新作『AYAKO TIMES』をリリース

2020/09/30

「いい音楽に“壁”なんてない!」との強い信念によるジャンルレスな活動で、多様なファンを獲得している石川綾子さんのCDデビュー10周年を飾る最新作『AYAKO TIMES』が発売されました。「e-onkyo musicはいつも楽しくチェックしています」と話す石川さん。「今作もぜひハイレゾで聴いていただきたい楽曲がたくさん詰まっています」というニューアルバムの聴きどころについて語っていただきました。インタビュアーは、当サイト「セレクターズ・チョイス」のクラシック担当としてもお馴染みの原典子さんです。

 

取材・文◎原 典子

AYAKO TIMES』/石川綾子



 アニメやボカロ(ボーカロイド)のファンから熱い支持を得て、動画投稿サイトでも圧倒的な人気を誇るヴァイオリニスト、石川綾子。クラシックの世界で着実にキャリアを積みながらも、ジャンルレスな活動で幅広い層にヴァイオリンの魅力を伝えてきた。そしてこのたび、CDデビュー10周年を記念するアルバム『AYAKO TIMES』をリリース。クラシックの名曲とJ-POPを意外な組み合わせでマッシュアップしたり、これまでにないテイストのオリジナル曲を書き下ろしたりと、新たな一歩を感じさせる一枚となっている。アレンジをギタリスト・プロデューサーの鳥山雄司、チェリストの伊藤修平が手がけ、ポップオペラ歌手の藤澤ノリマサ、声優の鈴木みのりがゲスト・ヴォーカリストとして参加。豪華な布陣でのコラボレーションも話題を呼びそうだ。リリースを前に、これまでの歩みを振り返りつつ、アルバムについてお話を伺った。

■かけがいのない出会いを与えてくれた「ニコ動」

――2010年にデビューアルバム『AYAKO』をリリースしたとき、10年後にクラシックの枠を超えて、こんなにもヴァラエティ豊かな活動をしているご自分を想像していましたか?

 ここまでジャンルレスなヴァイオリニストになるとは予想していませんでしたが(笑)、当時からいろいろなジャンルの楽曲を弾いていきたいとは思っていました。オーストラリアのシドニーに長い間住んでいまして、学生時代にリサイタルを開催すると、主催の方やお客さまに「アヤコ、ジャパニーズだったらアニメの曲とかも演奏してほしいな」とリクエストをいただくことが多かったのです。それがとても嬉しくて、クラシックだけでなくジブリの音楽や映画音楽などを取り入れ、いかにしてお客さまに楽しんでいただけるプログラムを組むかを考えるようになりました。

――「あなたを眠らせないヴァイオリン・コンサート」という目標も、そういったところから?

 そうですね。ただ、きっかけ自体はもっと小さい頃にあって、ロンドンでクラシック・コンサートを両親と聴きに行ったとき、観客の方々がちらほら居眠りをしている姿を目の当たりにしたんです。子どもながらに「大きくなったら、眠くならないような楽しいコンサートを開けるヴァイオリニストになりたい…!」と思い、それを今でも生涯の目標にしています。

――2013年にニコニコ動画に投稿した「初音ミクの消失」のカヴァーが、ボカロやアニメ界隈で大きな話題を呼んだのが、現在の活動につながるターニングポイントでしょうか?

 日本に帰ってきてニコニコ動画と出会ったことが、本当に大きな変化をもたらしてくれました。じつは、それ以前もYouTubeでは発信していたのですが、当時は顔を出すのが苦手で、音だけをアップしていたんです。けれどニコニコ動画をきっかけに、顔を出して演奏動画というものを作るようになって。まずは毎週、クラシック以外のジャンルの曲をアップしていくという企画をはじめてみました。今週はポップス、今週はアニメの曲、今週はアイドルの曲といったように、自分がこれまで弾いたことのない曲を1週間で練習して動画をアップするという。そのテーマのひとつがボカロで、「初音ミクさんの曲を弾いてみたい!」と思って「初音ミクの消失」を弾いてみたのがはじまりです。

――なるほど、いろいろやってみた中のひとつがボカロだったと。ニコニコ動画というメディアとの相性も良かったのかもしれませんね。

 ニコニコ動画のリスナーの方から、「こういう曲も弾いてみてほしい」「ボカロってほかにもこういう曲があるんだよ」と教えていただいたことで、どんどん新しい音楽を聴いて、吸収していくことができました。かけがえのない出会いを与えてくれたニコニコ動画に感謝です。

――ちょうどボカロがものすごく盛り上がっていた時期でもありますね。

 本当に楽しい時期でした。ボカロって、人間では不可能と言われていることを可能にするところがカッコイイですよね。それと同様に、速すぎて人間だと歌うのが困難と言われるメロディを、もしヴァイオリンで弾いてみたら一体どうなるのか、私も聴いてみたくて。300年以上前から弾き継がれている伝統的な楽器を、生身で弾くことでボカロに近づくという挑戦に、ものすごくワクワクしました。

■新しいチャレンジに満ちたニューアルバム

――では、ニューアルバムについてお聞かせください。今作で石川さんにとって新しい挑戦となったのは、どんなことですか?

 これまではアルバムを録音するときも、演奏動画をアップするときも、コンサートで演奏するときも、すべての曲のヴァイオリン・アレンジを自分でやってきたのですが、今作はギタリストの鳥山雄司さんにアレンジをしていただきました。これは私にとってすごく大きな違いで、石川綾子の作品を自分以外の方にアレンジしていただくのははじめての体験で新鮮でしたし、自分自身でアレンジしていたら出なかったアイデアがたくさんあって、大変勉強になりました。「どうやったら鳥山さんのイメージしたヴァイオリンに近づけるか」というところに注力して演奏したので、弾き方や音の出し方もこれまでとは変わっていると思います。

――RADWIMPSの「グランドエスケープ」とベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」(第2楽章)、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」とSuchmosの「STAY TUNE」など、クラシックとポップスのマッシュアップも、これまでになく大胆ですよね。曲の組み合わせは、石川さんと鳥山さんで考えたのですか?

 まずは私自身が毎日膨大な数の曲を聴き、その中から「弾いてみたいな」と思う曲をどんどん絞っていきました。それをジャンル別にPCのフォルダに入れて、鳥山さんと共有させていただき、「この曲とこの曲がマッチするのでは?」などとご提案させていただいたり、逆に鳥山さんの方から「これはどうかな」とアイデアをいただいたりして、一緒にアイデアを出し合っていきました。藤澤ノリマサさんにご参加いただいたシューベルトの「魔王」とラヴェルの「ボレロ」の組み合わせは私がアイデアを出させていただき、Suchmosさんの「STAY TUNE」とラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」の組み合わせは鳥山さんがアイデアを出してくださいました。

――ショパンの練習曲 作品10-3「別れの曲」とシューマンの「トロイメライ」は、2つの曲が同時進行で重なっていて、とても面白かったです。

 ありがとうございます! まさにそうで、弾いていても「あれ、今、どっちの曲だったかな?」って、たまに分からなくなってしまうんです(笑)。この曲と「Swan Lakin'」のアレンジは伊藤修平さんが手がけてくださいました。伊藤さんはチェリストなので、ヴァイオリンのすぐ下でチェロが支えてくれているようなアレンジにしてくださって。デュオみたいで嬉しいです。

■ヴァイオリンらしい動きと歌い回し

――石川さん書き下ろしのオリジナル曲は「A Mother's Song -無償の愛-」「Crying Violin」「Liar」の3曲ですね。

 「A Mother's Song -無償の愛-」は聖母マリア様をイメージして作曲したので、途中のバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」のメロディが少し入ることによって、教会のような雰囲気を感じていただけたらと思います。「Crying Violin」は、鳥山さんから「ヴァイオリンらしい曲を作ってみたら?」とご提案いただいて作った曲です。「ヴァイオリンが泣くとしたら、どんなメロディで泣くだろう?」と想像し、「メロディが泣いている」と感じていただけるような曲にしたいと思いながら書きました。ヴァイオリンらしい動き、歌い回しがたくさん入っています。

――今、歌い回しという言葉が出ましたが、石川さんの音楽の魅力は、なんといっても深い音色と、クラシックに裏打ちされた叙情的で表情豊かな歌い回しだと思います。ジャンルによって、「歌い方」に違いはあるのでしょうか?

 そのように感じていただけて嬉しいです。私が長年弾いている楽器は、1763年製のイタリアのヴァイオリンなのですが、オールド・ヴァイオリンならではの深い音色が私も大好きです。このヴァイオリンを見つけてきてくださったのが、シドニー時代の師であるルーマニア人の先生で、彼に出会ったことで私の音楽人生もガラリと変わりました。「アヤコはなんでヴァイオリンを弾いているの? 表現したいからでしょ?」と、いつも音楽の根源的な部分を説いてくださって。表現することの意義や楽しさを教えていただきました。ですから、クラシックを演奏するときも、ポップスを演奏するときも、やはり芯の部分は同じだなって思います。

――ハイレゾによる配信で、石川さんならではの音色や表現も細部まで伝わるのではないかと思います。

 ハイレゾだと息遣いやわずかな音も、全部がよく聞こえますよね。それどころか、レコーディングしているときの現場の空気感までもがそのまま音に乗るので、ごく基本的なことではありますが、楽器も人もコンディションを整えてレコーディングに臨むことがいちばん大切だなと思っています。これまでのアルバムとは制作過程もレコーディング環境も異なるので、それによる音色や「歌い方」の違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。

――今日は楽しいお話をありがとうございました!



◎Information

CDデビュー10周年を記念したコンサートの開催が決定!
「石川綾子 10周年記念コンサート "AYAKO TIMES" 」
日程:2020年11月14日(土) 開場17:30 / 開演18:30 
会場:紀尾井ホール
*詳細はこちらをご覧ください。




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