【連載】agehasprings ハイレゾ Open Lab. 第11回

2020/09/11
音楽プロデューサー・玉井健二が代表を務め、 蔦谷好位置、田中ユウスケ、田中隼人、百田留衣、 飛内将大、釣俊輔など今や日本を代表するヒットメーカーが多数在籍する クリエイティブカンパニー・agehaspringsがプロデュースを手掛ける、 音楽の奥行き・音楽に詳しくなっていく楽しさを体感できるプロジェクト agehasprings Open Lab.発の新連載『agehasprings ハイレゾ Open Lab.』
agehaspringsの気鋭のレコーディングエンジニア・森真樹が独自の視点でハイレゾ音源の魅力を探求していきます。

記事一覧


第01回
第02回 先ずは知ってほしい“レコーディング・エンジニア”の仕事
第03回 先ずは知ってほしい“レコーディング・エンジニア”の仕事 その2
第04回 先ずは知ってほしい“レコーディング・エンジニア”の仕事 その3
第05回  レコーディング・エンジニアの仕事~ボーカルレコーディング編 その1~
第06回  ボーカルレコ―ディング(ボーカルダビング)の進め方
第07回 ボーカルにまつわるエンジニアリング
第08回 テクノロジーの進化に伴う修正技術の変遷
第09回 テクノロジーの進化に伴う修正技術の変遷 その2
第10回 レコーディングにおけるAI技術の活用
第11回 AI時代を生きるこれからのクリエイターに求められる資質




皆様ご無沙汰しております森真樹です。レコーディングスケジュールの関係で2ヶ月以上空いてしまいました。

 

前回の記事を見返したら「都心の緊急事態宣言が解除」なんて書いてありますね。そこからまた状況が色々と変動しておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?コロナ禍が続き、対策もしなければいけない中で、熱中症も気をつけなければいけない…しかも例年より明らかに暑い気がしますし…。

 

自分は趣味で空手をやっておりまして、マスクをしながらトレーニングもしています。そこで、より飛沫防止と快適性を両立しているマスクを求め、お店やネットで良さげなものを見つけては買って試して、を繰り返していたら、だいぶコレクションが増えてしまいました。使い捨てじゃないものも多いので処分するのも気が引けてしまい、なんだか最近は服を替える感覚でマスクを選ぶようになっています。

 

また、最近我が家のインターネット環境をグレードアップしたのですが、その業者さん曰く、工事の受注が最近凄く増えているそうです。やはりコロナ禍の影響でテレワーク環境を充実させるために申し込む方が増えている、と。やはりこれを機に、人が直接対面・介在しない形での様々なやりとりが更に普及・進歩していくのでしょうね。


Aimer「SPARK-AGAIN」リリース

ここでひとつ参加作品の紹介をさせてください。

9月9日にリリースされたAimerのニューシングル「SPARK-AGAIN」にレコーディング&Mixで参加致しました。全曲ボーカルダビング、M3「Ash flame」はギターダビングとMixもやらせていただいております。


 

Aimerはデビュー当初からずっと関わらせていただいていて、レコーディング一発目にスピーカーから出てきた声を聞いた時の衝撃は今でもハッキリと憶えています。そこから彼女も自分も色々と身につけ、変化し、ステップアップした、最新の歌を堪能していただけたら幸いです。「Ash flame」ではMixはもちろん、久しぶりにここまでパンチのあるギターをダビングさせていただきました。ギタリスト名越由貴夫さんのプレイとサウンドにニヤニヤしながらレコーディングをしたので(笑)、その「ニヤニヤしてしまう程のギターサウンド」を是非感じてみていただきたきたいです。e-ONKYOではこれまでにリリースされたAimer作品のいくつかが配信されていますね。合わせてぜひチェックしていただけると嬉しいです。


Sleepless Nights

Aimer


Midnight Sun

Aimer


DAWN

Aimer

 


音楽制作におけるAI技術の活用に関して

さて、前回途中までお話した「AI」について。

楽曲制作に於いて、あくまで近い未来… ”将来” といえる程度の先では、「AIのみでの成立は難しい」「人間の仕事がAIに取って代わられるのは難しい」というのをお話ししたと思います。また、「ここで言う ”成立” とは、”理屈や理論として正しいものを作る” という事ではない」というのも併せてお伝えしました。

 

「音楽には正解がない。」この言葉を耳にすることは多いですね。ただ、よく耳にするこの言葉、ひとことで言ってもその真意や意味するところは非常に多岐にわたり、かつ相当に広い。メロディーやコード進行・アレンジなどの音楽理論的な部分なのか、それを演奏するミュージシャン・アーティストのパフォーマンスの事なのか、それとも我々エンジニアが手を下す音響処理に関わる話なのか。

 

また「正解とは?」という、定義の話にもなってきます。極端な例になりますが、ただただ不協な音になっていないもの(曲)が、リズムや音程などが機械で測ったように演奏されていて、周波数分布の偏りや歪みがなく音が出ていれば「正解」なのか。それとも、先人がやってきたもの、過去にヒットしたものをトレースすることが正解なのか…。もし、そういった項目をクリアさえすれば「正解」「成立している」とするならば、既に音楽においてもAIだけで ”正解” を造り、成立させられ、”人間の代わりとなれる” レベルと言えるのかもしれません。

ただ、自分は当然上記の例が正解とは思っていませんし、正解の定義などというものは無いに等しいと考えます。となると「正しいか正しくないか」ではなく、人が「良い(と思う)か悪い(と思う)か」という基準こそが重要になってきます。

 

その「良い・悪い」にも色々ありますよね。時代を超えた普遍的・定番的な良さもあれば、流行り・トレンドといった時代の影響を受けた良さ(悪さ)もあったり。言語(言葉)の分野でも、かつては誤用だった言い回しが時代とともに受け入れられたり、意味や使うシーンが少しずつ変化していくことがありますが、それと似た現象は音楽でも起きています。特に録音や音響に関しては、技術の進化の過程で意図して出来たものももちろんありますが、本来意図していなかった副産物のようなものも数多くあります。「歪み」などは正にこれに当てはまるのではないでしょうか。


サウンドメイキングにおける「歪み」のコントロール

分かりやすくエレキギターの歪み(ディストーションサウンド)を例に出します。本来歪みというのは音響的には「正常でない音」「排除すべきもの」でした。ところが1950年代、リンク・レイが、スピーカーに穴を開けることによって積極的にディストーションサウンドを生成させたのが始まりで、今ではギターサウンドにとって当たり前のものとなりました。今回紹介させていただいたAimerの「Ash flame」のギターも思いっきり歪んでいます。それが無くてはあのアレンジが成立しない程に。

また、エレキギターほど過激で分かりやすくはありませんが、我々エンジニアにとっても「歪みのコントロール」というのはサウンドメイキングにおいて非常に重要なファクターとなっています。実際に自分も、いわゆる「歪み系」と言われるエフェクターを全く使わないMixは非常に少ない。エレキギターのように過激なサウンドメイキングをする時もあれば、何かにうっすら掛けることによってそのトラックの音像や存在感を際立たせるような使い方もします。歪みを付加すると「倍音」が強調されるので、我々エンジニアはその目的で使うことも多いですね。(倍音についてはまたの機会に。)それくらい、本来「良いものではない」はずの歪みが、現代のポップミュージックにおいては必要不可欠な存在になっているのです。

 

今は自分が説明しやすい音響的な例を出しましたが、このような「変化」は楽曲の制作やパフォーマンスにおいても存在します。ご法度やタブー・邪道とされていたものが、時代の流れやふとしたきっかけで受け入れられ、いつの間にか無くてはならない存在となっていく。その一方で「流行り」としてごくごく一時的に使われるに過ぎなかったものもあれば、どの時代においても受け入れられ続けている「王道」のようなものもあり…。このように、音楽、特にポップミュージックは、「正解がない」と言えるほどの大小様々な要素が絡み合って、時代とともに変化を続け、楽曲が出来ています。


AI時代を生きるこれからのクリエイターに求められる資質

AIに話を戻しますが、ポップミュージックの作品作りにおいては「どの要素を使って最終的な作品として完成させていくのか?」という “引き出しの選択” が最も重要な作業の一つで、じゃあ「その選択を全てAIのみで適切に出来るのか?」「人間の代わりに担っていけるのか?」という問いがあるとするならば、自分の答えは「近い将来では難しいだろう」ということです。

 

これから先、指令をくだす人間の要望をAIが適切に分析し「良いメロディー」や「ヒットしそうな旋律」「雰囲気に即したコード進行」辺りを生成する事は恐らく可能になるでしょう。もしかしたら自分が知らないだけで、既にその域に届いているAIがどこかで生まれているかも知れません。

でも、作品として世に出すには、それを「人の心を惹きつける楽曲」にまで押し上げなければいけません。しかもクライアントの様々な要求に柔軟に反応しつつ、トレンドや使用されるシーンなども汲み取り、組み上げていく。優等生でハイスペックな作品でなく、敢えて「何かが足りない」「粗い」ものにする必要があるのかも知れない。全てが整った完成品よりもアーティストが適当にマイクを立てて弾き語った「作品」の方が人の心を掴むことがあるように。そういった千差万別の引き出しをTPOなどで適切に選んで駆使する仕事は、まだまだ「人の手」や「生身の音楽家の力」が必要な時代が続くのでは…と自分は考えています。

ただ、現在のようにAIを単なる「ツール」「機械」として使う時代は間もなく終わりを迎えるのではないでしょうか。そして、「共同作業者」と呼べるくらい ”彼ら” が柔軟な仕事をこなしていく時代がもう目の前に来ていると思っていますし、エンジニアという職業柄、そんなテクノロジーの将来をワクワクしながら待っている自分もいます。



◀森真樹 Profile▶ 

レコーディングエンジニア。agehasprings所属。

特注フェーダーをリアルタイム・ムーヴで操る独自のVo.レコーディング技術が並み居るアーティスト、プロデューサー陣から絶賛され、センスのみならず確かなノウハウに裏打ちされた極めて良質なサウンドメイキングに定評がある。

 

2001年3月Sony Music Studios Tokyoにてキャリアをスタート。

“緻密、且つスピーディ”をモットーとするそのスタイルで、久保田利伸、鈴木雅之、ケツメイシ、伊藤由奈、CNBLUE、flumpool、元気ロケッツ、Aimer等、多くのヒット作に携わり、スタジオ監修までも手掛ける若き職人。

 

2013年agehaspringsに加入。以降もYUKI、ゆず、JUJU、安田レイ、SHE'S、井上苑子やアニメ音楽(CX系『サムライフラメンコ』(~2014年OA)主題歌・挿入歌・劇伴)に参加するなど、精力的に活動中。

 

■agehasprings Official Web Site

http://www.ageha.net/archives/ageha_creator/mori_masaki

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