「ジャズ喫茶ベイシー」にてマスター・菅原正二がかけたアナログLPのプレイバックを真空パック

2020/09/02

至高のアナログ・サウンドを聴かせる聖地として、世界中のジャズ・ファンやオーディオ・ファンが集う岩手県一関市の「ジャズ喫茶ベイシー」。その店内で、マスターの菅原正二がかけたアナログ・レコードのプレイバックを、アナログ録音の名器「ナグラ」ラインアンプを使用して収録したという、オーディオファン感涙の作品がリリース。e-onkyo musicでは、DSD11.2MHzとPCM96kHz/24bitの2種類のフォーマットにてハイレゾ配信。


『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』サウンドトラックに思うこと

作家・書評家 印南敦史

東北新幹線の一関駅前は、思っていた以上に静かでした。簡単にいえば、どこにでもありそうな、特徴があるわけでもなさそうな地方の街。ところがそこは、とんでもない“特徴”を持った街でもあったのです。

なにしろ、世界的にも知られる「ベイシー」という名のジャズ喫茶があるのですから。

「ここか……」

土蔵を改装してつくられたという山小屋風のその建物を見上げたとき、なんだか感慨深く思えたことを記憶しています。いまから15年ほど前のこと。それが、ある雑誌の取材のために訪れた、たった一度だけの僕のベイシー体験でした。

レンガの壁、深い茶色に染まった柱、黒いソファ、そして正面に鎮座するJBLのスピーカー。視界に入ってくるすべてのものが、長い時間の経過を物語っているように感じました。

それもそのはず。カウント・ベイシーからその名を拝借し、ベイシー本人も幾度となく訪れたというこの店は、大阪で日本万国博覧会が開催されていた1970年の6月以来、日本を代表するジャズ喫茶として歴史を刻み続けてきたのですから。

オーナーである菅原正二さんの、ジャズにかける思いが凝縮された店、というより、思いそのもの。そのせいでしょうか、アナログ・レコードによる圧倒的なサウンドがスピーカーから流れ出た瞬間、鳥肌が立つのを感じました。

決して大げさな表現ではなく、それまでに聴いたことがないほど、重厚で力強い音だったからです。

印象的だったことがあります。真ん中あたりの席に、70代くらいの女性がひとり、屈めた背中を激しく揺らしながらその音に聴き入っていたのです。完全に音と自分だけの世界に入り込んでいる感じでした。つまり、それだけの説得力が「ベイシー」のサウンドにはあるということです。

もう昔のことだとはいえ、そんな体験をしたからこそ、菅原さんの生き様とベイシーの功績を映し出したドキュメンタリー映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』が公開されると聞き、非常に興味を持ちました。

この原稿を書いている時点では予告編しかチェックできていないのですが、わずか1分半のその映像を見ただけでもゾクゾクしてきました。

ただ正直なところ、この映画の公式サウンドトラックがリリースされるという情報を入手した時点では、いまひとつピンとこなかったのも事実。

映画のなかで使われた楽曲が収録されているのでしょうが、あの場でないと聴くことのできない、感じることのできないサウンドを、コンピレーション・アルバムで再現できるはずがないと思ったからです、

ところが実際に聴いてみた結果、自分の考えが間違っていたことをはっきりと自覚しました。そして聞きながら、「なるほど、こういうことか」とうれしくなってきました。

なぜなら、少なくともハイレゾ体験してみた限りにおいては、自室のスピーカー前に「ベイシー」の空気が流れたからです。

なぜなら、これはただのコンピレーション・アルバムではなかったからです。映画撮影時に菅原さんが実際にかけたアナログLPレコードの音を、「ナグラ」のラインアンプを使用して収録したもの。

「ナグラ」といえば、アナログ録音の名機として有名ですが、つまりは「ベイシー」の店内でレコードによって「演奏」された音源をそのまま収めているわけです。

だから、音の響き方なども独特で、あたかもベイシーの店内で聴いているかのような錯覚を覚えてしまうのです。

ところで15年前の取材時、菅原さんの口からとても貴重なことばを聞きました。

「徹夜で(JBLのスピーカーを)いじったりして、何度も試行錯誤して音をつくってきたんだけど、『これ以上いい音にするためには、俺自身が人間的に成長しなきゃダメだ』と思ったことが何度かあったよ」

短いそのことばに、強く共感し、感動しました。いい音って、オーディオって、そしてジャズって、きっとそういうものなのだろうなと。

このサントラを聴いていたら、ひさしぶりにそんなことを思い出したりもしました。






ドキュメンタリー映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩 (Ballad)』公式アルバム



至高のアナログ・サウンドを聴かせる聖地として、世界中のジャズ・ファンやオーディオ・ファンが集う岩手県一関市の「ジャズ喫茶ベイシー」。そのマスターの菅原正二が50年にわたってこだわり抜いた唯一無二の音と“ジャズな生き様”を炙り出したドキュメンタリー映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩 (Ballad)』監督:星野哲也 が、9月18日(金)より全国順次公開されます。

本作の音源は、映画撮影時に菅原が店内でかけたアナログLPレコードのプレイバックを、アナログ録音の伝説的名器「ナグラ」のラインアンプを使用し収録したもの。ベイシーの空気感までもダイレクトに伝える、いまだかつてないサウンドトラックです。(一部、 映画本編では未使用の音源を含む)。

ボーナス・トラックとして、サックス奏者、坂田 明のベイシーにおけるライヴ音源(岩 手県内最古のジャズ喫茶「クイン」の店主で2018年8月に亡くなった佐々木賢一氏に捧げた独奏)と、レコードがかかっていない時の店内のルームトーンを収録 。


■ジャズ喫茶ベイシー オーディオシステム
Turntable:LINN Sondek LP12
Tonearm:SME 3009 Series II improved
Phono Cartridge:SHURE V15 Type III
Preamplifier:JBL SG520
Electronic Crossover Network:JBL 5232
Power Amplifier:JBL SE400S
Loudspeaker:JBL 2220B(Woofer)
JBL 375+537-512(Midrange)
JBL 075(Tweeter)

■録音機材
Microphone:NEUMANN U87 x 3
NEUMANN KM185 x 3
HOLOPHONE H2PRO
Ramsa x 2
Recorder:NAGRA 4S x 2
Sound Devices 664 x 1

映画『ジャズ喫茶ベイシー Swifty の譚詩( Ballad )』 録音スタッフ
志満順一(サウンド・デザイン ユルタ)、大竹修二、庄司寿之
前田一穂、高木 創(デジタルサーカス)、藤林 繁(アオイスタジオ)


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