日本人アーティストの作品をこだわりの高音質でお届けする人気レーベル、アールアンフィニの第3弾アルバム(10タイトル)が本日配信開始となりました。ピアニスト・實川風、ヴァイオリニスト石田泰尚が率いる「石田組」など、演奏会場でもCDが飛ぶように売れる人気アーティストのアルバムが並ぶ今回の第3弾。なかでも今回、注目したいのは、結成12年目にして1stアルバム『メンデルスゾーン&ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番』をリリースした実力派ピアノ・トリオ、椿三重奏団です。

『メンデルスゾーン&ブラームス: ピアノ三重奏曲第1番』
/椿三重奏団, 高橋多佳子, 礒絵里子, 新倉瞳
ピアノ、高橋多佳子。ヴァイオリン、礒絵里子。チェロ、新倉瞳。いずれも名手である3人によるメンデルスゾーンやブラームスは、緻密な音づくりと流麗でドラマティックな雰囲気を兼ね備え、思わず息をのんで聴き入ってしまう引力を宿しています。その一方、舞台を降りれば、シリアスな演奏とはうってかわって、おしゃべりと笑いの絶えない和やかな3人組。まるで正反対のように見えますが、メンバーは「この人間関係こそが音楽を作っている」と口をそろえます。トリオ結成秘話から1stアルバムのリリースに至るまで、たっぷりとお話を伺いました。
■椿三重奏団 メンバーからのメッセージ
2020年7月9日 アールアンフィニ・ラウンジ(東京、四ツ谷)
聞き手:ナクソス・ジャパン 協力:アールアンフィニ・レーベル
※インタビューは感染対策に配慮した上で実施いたしました。
●はじめての音出しで、「いける」と直感した
──(ナクソス)みなさまがはじめて一緒に演奏をされたのは、12年前。とあるピアノ三重奏の演奏会でチェロの方が休演になり、当時大学生だった新倉瞳さんがピンチヒッターでいらしたときだと聞いています。そのとき、礒絵里子さん、高橋多佳子さんはどのような印象をもたれましたか?
礒絵里子:私はそれ以前から瞳ちゃんのことを知っていましたが、ピアノ三重奏でご一緒するのは初めてだったので、本番の日を楽しみにしていました。
高橋多佳子:私は現地に向かう新幹線のなかではじめて挨拶しました。そのときから何となくいい雰囲気を感じていたのですが、そのあとホールに着いて3人で音出しをした瞬間に「あっ……!」と、ピンとくるものがありました。これからの長い付き合いを予感しましたね。
礒:どのアンサンブルでも、相性が良いと、最初の音出しのときに「これはいける」とわかりますよね。
高橋:ひとりの音楽家としてしっかりと主張をするチェリストであることが演奏から伝わってきたので、年の差も感じませんでした。
新倉瞳:私自身は、やはり最初は心臓バクバクでした。先輩と後輩というより「先生と生徒」くらい立場の違いがあったので……。でも気さくに迎えてくださったのですぐに馴染めましたし、音楽だけではなく、ファンの方とのコミュニケーションの方法など、いまでも学ぶことがたくさんあります。

「最初は心臓バクバクでした」「えっ、そうだったの?」
左から礒絵里子さん(ヴァイオリン)、高橋多佳子さん(ピアノ)、新倉瞳さん(チェロ)。
●気づけば親戚のような関係になっていた
──その最初の演奏会で意気投合され、アンサンブルを組まれたわけですが、本当に和気あいあいとしたお三方ですね。
高橋:いつも笑いが絶えない3人です。私たちは年に1、2回のペースで演奏会を行っていたのですが、会うと「ひさしぶり~!」と挨拶して、まずはブレイクタイムから入るような感じです。
礒:関係性でいうと、私がツッコミ、瞳ちゃんがボケ、多佳子さんが……大ボケ?(一同笑)
新倉:私はいつも他の場にいると大ボケ担当なんですが、たしかにこのトリオだとボケくらいかも……(笑)
礒:笑いは絶えませんが、12年の間には変化もありました。特に驚いたのは、瞳ちゃんがスイスに留学したあとの演奏です。表現のスケールが段違いに広がっていて、圧倒されました。
──ピアノ三重奏というジャンルは、互いに刺激や影響を受け合う面が大きいですか?
高橋:オーケストラは指揮者が大勢の演奏者をまとめていくスタイルですが、ピアノ三重奏団は、誰かひとりがリードするのではなく、三人が対等に音楽性やノウハウやアイデアを結集して音楽を作っていきます。その意味ではソロよりもいろいろな可能性を秘めていると思います。
礒:弦楽四重奏団のようにシビアに音を突き詰めていくスタイルも可能ですし、2台の弦楽器に対してピアノという系統の違う楽器が入って支えてくれることによって、演奏の自由度を広げることもできます。
新倉:いろいろなタイプの三重奏があると思いますが、私たちは、こうあるべきという決め事をつくらずにやってきました。それがなくても自然と一緒にいられる3人でしたし、そんな自由な人間関係が、奏でる音楽にも反映されていると思います。
礒:なんだか、親戚みたいだよね。
高橋・新倉:親戚!! それだ!!!(笑)
高橋:な~んにも気をつかわなくていいや~、という間柄。
新倉:でも、おふたりがちゃんと遠くから私を見てくださっているのも感じます。「瞳ちゃん、がんばってるねぇ」みたいな。そんなところも親戚っぽいですね。

「親戚みたいだよね」「それだ!」この日いちばんの大盛り上がり。
●1stアルバムはあえてロマン派の王道を
──そして2020年に1stアルバムをリリースされましたが、このタイミングで録音を世に出そうと決めた理由を教えてください。
高橋:私たちのピアノ三重奏団はずっと名前がありませんでしたが、2年前の愛知県での演奏会のときに「名前を決めたい」と「アルバムを出したい」というふたつの夢が一緒に出てきました。
礒:そのあとは、不思議とどちらもトントン拍子に進みましたね。名前は、そのときの演奏会場である「つばきホール」から決めました。
高橋:日本らしさを出したかったので、「カメリア」や「トリオ」ではなくあえて漢字で「椿三重奏団」としました。とても気に入っています。


「白い椿には“完璧な美しさ”という花言葉があるそうです」「フフフ(照れ笑い)」
ファッションもこの日はホワイトで統一。
高橋:アルバムに関しては、最初に収録を決めた曲は、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番でした。これは、私たちが12年前にはじめて一緒に演奏した作品でもあります。
礒:そしてメンデルスゾーンに合うカップリングをということで、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番を選びました。この2つはまさにロマン派の王道ですね。
高橋:すでにたくさんの素晴らしい演奏があるこの2曲を、デビュー・アルバムに入れるのは度胸がいりましたが、自分たちらしくやりきった感はあります。
──今回は、アールアンフィニ・レーベルならではの高音質録音はもちろんですが、位置にも工夫をこらし、3人で三角形に向かい合う形で演奏されたと聞いています。録音を聴いてみて、どのような印象を持たれましたか?
新倉:弦がこすれる音など、ライブでは聴けないさまざまな響きも楽しめるところに魅力を感じました。演奏者の頭の上あたりの特等席で聴いているのではないかと思うような録音です。
礒:私がいちばん印象的だったのは、チェロのピチカート(弦をはじく技法)の「ボン」という音の豊かさでした。
高橋:演奏者は意外とほかの楽器の音が聴こえない瞬間があるので、私たち自身もいろいろな発見がありました。リスナーの方にも、ライブにはない魅力をお楽しみいただけると思います。
礒:アルバムをきっかけに、じゃあ生演奏はどんな感じだろう?と興味を持っていただけたらそれもうれしいですね。演奏はそのときどきによって変わっていくので、ライブとアルバムと聴き比べていただけたらと思います。
●リスナーの方へ、コロナ禍からのメッセージ
──2月にCDがリリースされ、そして8月7日に配信が始まりますが、この間に世の中が大きく変わってしまいました。
礒:気持ちも新型コロナ前とはかなり変わりましたね。
高橋:本来ならばいまごろ(7月)はツアーの佳境だったのですが、幸いどの演奏会も中止ではなく延期という形になったので、これから演奏のチャンスが待っています。先日、別の場所で、久々にお客さまの前で演奏する機会があったのですが、喜びが身体から湧きあがってくるのを感じました。
新倉:音は空気を振動させて伝えるもので、その場にいるお客さまも空気の一部です。新型コロナ以降、本当にさまざまなことに気付かされました。私は「人生みんなアンサンブル」と思っています。音楽も音楽でないことも、いま生きているほかの誰かと共有していくこと。その大切さを強く感じます。

「人生みんなアンサンブル」と語る新倉さん
高橋:配信を通して私たちの音楽を知ってもらえるチャンスをいただけたことを、とてもうれしく思っています。ぜひお聴きください。
──ありがとうございました。

アールアンフィニのその他の新規配信アルバム一覧
礒絵里子さん、新倉瞳さんのアルバム一覧
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